111.陽菜と憩美『序』②
憩美目線です。(短め)
第111話
陽菜の部屋に連れられた憩美は困惑を隠せなかった。
(玲奈さんに妹さんだなんて...聞いてない...)
3年前に兄に他の公爵家の話を聞いた時、岩倉家の娘は一人と言われた筈だ。幼い頃の話なので記憶違いの可能性もあるが、それを差し引いても玲奈が自分と会った時に全くと言っていいほど陽菜の存在に触れなかったのは不自然だ。
岩倉家に泊まり込み始めて分かってきたが、玲奈の性格なら自分と仲良くなってほしいと真っ先に陽菜の事を紹介するだろうとばかり思っていた。
「ねぇ、憩美ちゃん?さっそく聞きたいんだけど~貴女は何の目的で私の玲奈お姉ちゃんに近づいたのかな?」
「えっ⁉私は単に玲奈さんからの教えを受けて立派な公爵令嬢になれるようになるためですが?」
ニコニコしながら質問する陽菜は目が明らかに笑っていない...ここで返答を間違えたら何されるか分からない。憩美は何も織り混ぜず正直に自分の考えを話した。
「ふ~ん、そうなんだね。」
返答はどうやら正解だったようで憩美はホッとした。だが、そのせいで気が緩んでしまったのか、陽菜に向かっては言ってはいけないらしい事を言ってしまった。
「そういえば、玲奈さんと陽菜さんって姉妹の割にあんまり似てないんですね?」
憩美から見ると些細な一言且つ、こちらも正直な疑問だったが結果的に陽菜を怒らせる形となった。
「はぁっ!?うるさい‼そんなの貴女に関係ないよね⁉公爵令嬢だからって私をバカにしてるの⁉」
「ひっ‼ごっ...ごめんなさい‼」
同じ公爵家の人間と喧嘩にでもなれば家を巻き込んだ揉め事に繋がるかもしれない。そう思った憩美は必死で陽菜に謝って何とか怒りを収めてもらったはいいが、部屋からは追い出されたのだった。
(私...明らかに軽率な発言すぎたかもね...)
冷静になってよく考えれば憩美の発言は陽菜は玲奈に似てない、ようするに陽菜は玲奈の妹として相応しくないという意味に受け止められてしまいかねないものだった。そりゃ、怒られても仕方がない。
(陽菜さんは玲奈さんの大切な妹...だからね...)
その事を理解したはずなのに憩美の心は晴れなかった。陽菜と話していた時から感じていたが、彼女が玲奈の事を聞かされてる間、何故かずっと胸がチクチクして仕方がなかったのだ。
いったい、この気持ちは...
(もしかして...私は陽菜さんに嫉妬してるのかな...)
憩美は岩倉家で泊まり込み始めてから玲奈の優しさに触れてきて居心地の良さを感じていた。玲奈はまるで自分を本当の妹のように可愛がってくれたのだ。いつの間にか憩美自身も玲奈を本当の姉のように尊敬していた。
(陽菜さんが羨ましいなぁ...血の繋がってる正真正銘の玲奈さんの妹なんだよね...)
それに比べて憩美は公爵家の娘と聞けば聞こえはいいが、実際には兄である玉里鳳凰とは血の繋がりのない養女に過ぎないのだ。
恐らく陽菜さんと自分、どっちが大切かと言われたら当然実の妹である陽菜が選ばれるだろう。自分が陽菜に勝てる要素は見当たらない。
「ひょっとすると...さっきのあの発言も陽菜さんに対する嫉妬で無意識に言葉に出てしまったのかもね...私もまだまだ未熟だな...というか、なんなんだろう?この気持ち...」
などと思いながら憩美は玲奈の部屋に戻るのだった。
...岩倉陽菜と島津憩美、この二人がお互いの本当の素性を知るのはまだまだ先の話である。