9.攻略対象とは関わりたくない!
第9話
私は今、とてもまずい状況に直面している...
それもそのはず、私が絶対に関わらないと決めていたはずの攻略対象...二条兼光が何と私の真下にいるからである。
(まっ...まさか!?嘘でしょ?)
そして、私は自分がやらかしてしまった事に気づいてしまった。
流石に時期こそは異なるが無くしてしまったハンカチを探してる途中に兼光と出会うという展開は本来ならヒロインのイベントのはず。つまり、私は知らないうちにヒロインのイベントを奪ってしまったのかもしれない...
「その...降りれないようなら人を呼びましょうか?」
「いいえ!大丈夫です!」
心の中の動揺を隠しながらも、私は何とか木から降りた。
「凄いですね...あんな高い木に。貴女はただ者じゃない。」
「いやぁ、その...私はただのか弱い令嬢ですよ...」
「ただのか弱い令嬢にあんな事できますか?」
そりゃ、普通の令嬢ならあんな事しないからね...今の私は兼光から少々不審な目で見られている。
「その...二条様はなぜこちらにいらしたのです?」
「あぁ...いえ、どこかのご令嬢が木に登っているのが見えたので。」
そうか、やはり私の確認不足だったか‼木に登る所を目撃されてしまっていた。恐らく兼光も面白い物見たさに近づいたのだろう。
「そういえば、貴女の名前を聞いていませんでしたね。」
「あっ‼私は岩倉玲奈と申します。」
「何と‼岩倉公爵家のご令嬢でしたか。岩倉さん、貴女はとても美しいですね。まるで天使のようです。」
兼光は私の容姿を褒めてくる。普通の令嬢だったら照れたり、喜んだりするだろう。公爵家の御曹司から褒められるとはそういうことだ。
だが、私には分かっているのだ。それは単なるお世辞だと。本当は亡くなった幼馴染み以外の女の事は何とも思っていない事を。
「ありがとうございます。ですが私よりも美しい令嬢は他にもたくさんいますよ。」
だから、私は取り償った笑顔を浮かべて返事を返した。それを見た兼光は唖然としているようだった。今までの令嬢と異なり、お世辞が通じなかったからだろう。
「では、ハンカチも無事に取れた事ですし私は会場に戻りますのでこれで。」
「あっ‼ちょっ...」
これ以上兼光と一緒にいるとまた何かやらかしてしまうかもしれない。なので私はそそくさと兼光に背を向けその場をを立ち去ろうとした...
その時だった。
「もう逃げんなよ...」
兼光が私の左腕をギュッと掴んで離さない。
「ちょっ...何ですの⁉」
私が顔を真っ赤にして抗議すると、
「頼む‼藍葉!行かないでくれ!」
と言う兼光の腕を掴む力が強まる。
(兼光って素はこれなの⁉っていうか藍葉って誰?情報量多すぎじゃん!)
確かにゲームの兼光は腹に何か黒いものを抱えているとは知っていたが流石にここまで大胆な事をするとは知らなかった。
「落ち着いて下さい!兼光様‼」
「はぁ、はぁ...取り乱してしまったとはいえ、女性の腕を強く掴んでしまい申し訳ありません。昔の事を思い出してしまいました。」
ようやく兼光が落ち着きを取り戻し、掴んでいた私の腕を離してくれた。
「過去に何かあったのですか?」
ゲームでは知り得なかった情報が手に入るかもしれない。聞いておいて損はないだろう。
「話せば長くなりますが最後まで聞いてくれますか?」
「はい。」
私の返事を聞くと兼光は昔の自分の事を語り始めたのだった...
 




