104.二人のデート日、ゆらゆらと
第104話
「その...輝心くんは私なんかがデートの相手で良かったんですか?」
「えぇ、他の見知らぬ女の子よりは家族も同然だった玲奈様に相手になって頂いた方が僕としては本当にありがたかったんです。」
デート開始から数時間が経ち、最初はお互いに緊張していた私達だったが少しずつ慣れてきたのか、時間が経つにつれ会話が弾むようになっていた。
「玲奈様!次はあの店に行きませんか⁉」
「ちょっと遠いですが構いませんよ。」
また、先程までは私の意見を聞いてばかりだった耀心くんも自身の希望の店を言ってくれるようになった。こうなれば周りからみれば私達は仲の良い恋人同士だと思ってくれるはず。もう誰も私達の事を偽装デートをしているとは疑わないだろう。
だが油断は禁物だ。ふとした拍子にボロを出さないように気をつけねば...
・・・・・
「玲奈様!このパフェとケーキ美味しいです‼」
「あらあら、スイーツを美味しそうに食べる耀心くんは可愛いですよ。」
「いや、そんな...」
私にニッコリとそう言うと耀心くんは顔を真っ赤にしながら首を振っていた。その様子を見た私は以前、莱們ちゃんが私に言っていた事を思い出した。
『玲奈お姉様、やはり耀心が惚れるわけですね‼』
その時は耀心くんは私を家族同然のお姉さんとして尊敬はしても恋愛の相手とは見なしていないだろうという事ではぐらかしてしまったが、今考えればこれはあくまでミラピュアでの話だ。
今世では私は破滅回避のためにいろいろと歴史を変えるような行動をしている。そのためそれが意図せぬ形で耀心くんにも影響を及ぼしているとしたら?
「あの...気になっていたのですが、耀心くんは私を恋愛対象として見てますか?」
「......」
「あっ‼ごめんなさい!変な事聞い...」
「はい、玲奈様をお慕いしてます。だから今日、貴女とデートできた事が本当に嬉しくて緊張してたんです...」
思いきって聞いてみたところ、耀心くんは突然黙りこんで下を向いてしまった。だが、すぐに顔を上げると返事を返してくれた。
しかし妙だ。いろいろ行動してきたとはいえ、私は耀心くんを惚れさせるような直接的な行動はしていないはずだ。となると私のどこに惚れる要素があるんだろう?
「ちなみになぜ私なんですか?」
「それはですね...玲奈様は僕と初めて会った時の事を覚えていますか?」
耀心くんと最初に会ったのは三条家と岩倉家の公爵家同士の交流会のはずだ。そこで...
「お馬さんでしたっけ?」
「ちょっと‼その言い方はやめてくださいよ‼黒歴史なんですから!」
どうやらあの日の出来事に関しては思い出したくもないようなので私からはこれ以上触れないでおこう。
「あの時はまだ僕を助けてくれたけどちょっと怖そうな人という認識でした。」
「そこは私も黒歴史なので忘れてくださいね。」
「すみません...ですが姉も性格が丸くなったのでとても感謝したんですよ。」
そう言いながら耀心くんは話を続ける。
「決定的なきっかけは脅迫状の件です。」
「...!!」
脅迫状...確か莱們ちゃんや耀心くん達が明成学園に入学した直後に莱們ちゃんの机の引き出しの中に入れられていたものだ。
「実は姉は私にも脅迫状の件に相談したのですが、その時の姉は僕を心配させまいと必死に笑顔を作っている様子でした。僕には負い目があるせいなのか素を見せてくれなかったんです...」
「莱們ちゃんが...」
莱們ちゃんきっと怖かっただろうな...しっかりしてるとはいっても6歳の女の子であることには変わりないのだから。
「その後に姉が玲奈様と人気のない場所に向かった時、心配でこっそりついてきたんです。そしたらそこにいたのは泣きじゃくって玲奈様に甘える姉でした。そして...」
『......それ以上言わないで‼』
「「えっ⁉」」
突如として耀心くんの話を遮るかのような怒鳴り声が響いた。驚いた私達が声がした方を見るとそこには...
よ~~く見知った女子の集団が私達に見つかるまいと必死に隠れようと悪戦苦闘していた。
「はぁ...後で問いたださないとですね。」
「ははは...」
その正体を知る私達はただ苦笑いするしかなかった。
「...それで話を戻すとあそこまで姉の素を引き出し、さらに姉や僕の力になってくれた玲奈様にいつしか尊敬とは別の感情を抱くようになったんです。」
「なるほど...」
あの後、私は莱們ちゃんを安心させようと父や叔父に頼んで徹底的に脅迫状の出処を探ってみた。しかし、岩倉家の力を持ってしても手がかりは掴めなかった。それほどまでに背後関係が分からないのだ。だけど私にはある理由であの脅迫状を書いた犯人はほぼ分かっている。
(あの時は莱們ちゃんを慰めるのに精一杯だった...でも脅迫状をよくよく見返してみると筆跡があの子とそっくりだったんだよね...)
どうしてだろう?友達だと思っていたのに...
あまりにショックで私は莱們ちゃんに事実を打ち明けることはできなかった。いや、友達として自分から打ち明けてくれる日が来るんじゃないかという情けが残っているのも確かだろう。
「玲奈様、お腹もいっぱいになったのでそろそろ次の店に行きませんか?」
「あっ‼はい、そうですね!次はどちらへ?」
「だったら次は...」
脅迫状の話が出たせいでほんとに嫌な事を思い出してしまった。せめてこの後は楽しいデートになるといいなぁ...




