100.好感度上げ上げ作戦?
第100話
「ねぇねぇ!?知ってる?あの話!」
「もちろん知ってるわよ‼本当に憧れますわ~‼」
明成学園初等部女子達の間では、ある話が話題になっていた。
「本当に岩倉様って素敵よね!」
「私もあんな淑女になりたいわ~‼」
何を隠そう、我らが主人公、岩倉玲奈の事であった!
・・・・・
(はぁ...聞こえてるんだよな~。)
私は複雑な気分で自身の事を話していた女子達がその場を去ったのを見届けていた。
自分の事が話題にされるようになったのは学園に入学してすぐの事だ。それまで私は以前、二条家で開かれたパーティーぐらいしか他の貴族令嬢とは接点がなく、ほとんどの者が私の名前は知っていても私自身の人間性については知らなかったはずだ。
「玲~奈!盗み聞きはよくないよ?」
「ひゃい⁉」
後ろからいきなり背中をポンと叩かれ驚いた私が振り向くとそこにはニヤリと悪い笑みを浮かべた蛇茨ちゃんがいた。その様子から恐らく、私はかなり前から蛇茨ちゃんに見られていたらしい。
「はしたない姿を見せてしまい申し訳ありません。」
「まぁ、自分の噂話がされていたら気になるのは分かるけどさ...」
仮にも公爵令嬢ともあろう者が盗み聞きなど上位の貴族の人間にでも知られたら品がないとでも言いがかりをつけられそうだ。
「安心しなよ、噂は噂でもいい噂なんだから。私や姫由良みたいな子を今でも助けてあげてるんでしょ?」
「それはそうなのですが...」
私が明成学園初等部に入学して一番始めに行った事、それは学園における自身の影響力の拡大だ。岩倉家は三聖徳会のメンバーとはいえ、他の公爵家や宮家と比べると下位の家なのだ。さらに門流の家もそこまで多くないし、二条家や三条家以外の公爵家からは快く思われていないという有り様だった。
そのため、まず私は人脈と名声が重要と考えた。偶然とはいえ、平民の姫由良ちゃん、蛇茨ちゃんと仲良くなれたのは大正解だった。さらに私が二人を助ける一部始終を見ていた人間がいたらしく、私が自分よりもはるか下の者でも見下す事のない優しい人間だという噂が流れ、最下位地下家や平民の子達はすっかり私を慕うようになった。逆に三聖徳会に入れないような中堅貴族達は私の怒りを買う事を恐れ、表立って地下家や一般学生の子達をいじめるような事はなかった。
それでも、すぐに全ての嫌がらせがなくなるわけではなかった。私達のグループはその現場を見つけるたびに即座に止めに入る事を繰り返していた。
その一方でいじめている側の子達をほったらかしにするわけではなく、お茶会に招いては『学年の和を乱してはいけない。嫌がらせをする人間こそが本当の弱者。』だの『逆の立場だったらを想像してほしい。好きで今の家に生まれたわけじゃない子だっているんだよ!』だの『上位の貴族だから何でもしていいわけじゃない、このままだと実家の名前目当てでしか仲良くなる子がいなくなるよ!』みたいな事を説いていた。
いじめや嫌がらせが良くないという事は早い頃から理解していた方が絶対に良いだろう。ぶっちゃけ、私の前世のミラピュアのプレイで得た知識とニュースなんかでみたいじめられた人の人生論を混ぜての話だったがまだ幼い子供達には効果があったようだ。
私の話を黙って聞いている子もいれば、途中で泣き出して『あの子に謝りにいきます‼』という子もいたが最後まで私の話に否定的な子は一人もいなかった。最終的には全員が仲直りできたようだ。グループの皆もこうした私の行動に協力的だったのは本当にありがたかった。
そのうちに、最初は私を恐れていた中堅貴族達も徐々に私を尊敬のまなざしで見つめる者が増えていった。
そんなわけで2年生にあがる頃には私達の学年の子達の間では貴族、平民に関係なく、お互いに仲間意識が生まれていた。私が懸念していた貴族と平民の軋轢は起こらなかった。それに比例するように私を慕う子達は増え続け、最近では私のファンクラブまで結成される始末だ。
そして、私が皆に慕われていったのはなにもこれだけではない。どうやら私には作法や運動能力に天性の才能があるらしく、よく先生からも褒められていた。前述の性格の良さに加えておまけに前世の影響で成績も良いとなればそこに生まれるのは誰もが理想とするであろう、完璧な令嬢に他ならない。
そんな私の噂は莱們ちゃんを通じて下級生に、奈乃波さんを通じて上級生にも流れていったらしく、この間なんか6年生の先輩から『岩倉様‼私を貴女のお姉さんにしてください!』とか言われて返事に困った。
こうしてみると人望を集めて順調に破滅フラグ回避の第一歩を踏み出した私なのだが、所詮はこれらの行動は自分が破滅したくないが為の保身に過ぎないのでは?と思ってしまう。そう思うと慕ってくれる皆に多少の罪悪感が生まれてしまうのだ。
「玲奈、もし玲奈に危機が迫ったら私が力になる。私の助け微力だけどあの時の恩を忘れるなんてできないからね!」
「蛇茨ちゃん...ありがとうございます...」
それでも蛇茨ちゃんみたいに私に救われた子がいるのも確かなのかもしれない。ミラピュアとは異なり私の友達になった蛇茨ちゃんの言葉が頼もしくて私はあともう少しで泣きそうだった。
・・・・・
「......大坪さん、玲奈ちゃんともうあそこまで...いつの間に...」
昼休みにて予定よりも派閥の子達との集まりが早く終わり、かなり時間が余ったので軽い暇つぶしと称して校舎内を散策していた事を清芽は早くも後悔した。自分の大好きな玲奈様が蛇茨と二人っきりで楽しそうに話していたのだから...
「前から思ってましたが、玲奈ちゃんは本当に女たらしですよね。ハハハ...」
玲奈様とグループの皆がどんどん仲良くなるのは喜ばしい事のはずだ。だけど最初に玲奈と仲良くなった清芽にとっては玲奈が少し遠くの存在になってしまったように思えてきた。そのたびに胸がチクチクしてしまうのだ。
(私なのに...玲奈ちゃんの最初の友達は私!私のはずなのに...‼何でですか⁉...何でよ⁉...)
この日、清芽の心の中に小さな闇が生まれたのだった...
㊗100話目‼




