97.おみやげ配り③
第97話
「嘉孝さん、遊園地のおみやげを受け取って下さい。」
「おぉ‼玲奈ちゃん、わざわざ済まないね。」
授業を終え、帰宅した私は嘉孝さんの家を訪ねていた。理由はもちろん、遊園地のおみやげを渡すためだ。
「気にしないでください!嘉孝さんには小さい頃から可愛がってもらいましたし、何より陽菜を助けてくれたんですから!」
「ふむ...妻も今の玲奈ちゃんに会えたら大喜びだろうな...」
「そうですかね...」
謎の失踪を遂げた嘉孝さんの奥さん...果たして何故いなくなったのか、今どこで暮らしているのか、元気にしているのか、もしまた会える日が来たら聞きたいものだ。そして心を入れ替えた私を見てほしい。
「もちろんじゃ...って誰か来たようだな。」
玄関の方からチャイムが鳴る音がした。そういえばここを昭三との待ち合わせ場所に指定した事を嘉孝さんには伝えてなかったっけ...
「私が出ます!嘉孝さんは待っていて下さいね‼」
私はそう告げるとおみやげを持って玄関に向かった。扉を開けるとそこには叔父の昭三...ではなく、20代ぐらいの若い男の人が立っていた。私は一瞬、相手が何者なのか分からず戸惑ったがすぐに理解した。
「失礼します、玲奈お嬢様。旦那様の代理として私が参りました。」
「あっ...わざわざありがとうございます。」
やはり、この人は叔父に仕える人間らしい。彼の話によると昭三は急遽外せない用件ができたため、自分に代理としておみやげを受け取ってくるよう指示したという。
「では、おみやげを叔父様に渡しておいて下さいね。」
「かしこまりました。」
おみやげを受け取った男の人が帰ろうとすると、
「待て!お前は昭三の従者で間違いないんだな?」
嘉孝さんが怒ったような顔をして男の人を引き止めていた。
「はい、私は岩倉昭三様にお仕えしております、椎名夛廼と申します。」
「なら伝えておけ!2度とあんな真似はするなとな‼」
烈火の如く怒鳴り付ける嘉孝さんを見て私は話が理解できなかった。いったい、昭三は何をやらかしたんだ?そしてそれは嘉孝さん怒る程のものなのだろうか。
「私は何の事か存じ上げません。では、失礼します。」
椎名さんは嘉孝さんにすんなりそう言うと家を出ていってしまった。後にはいまだ怒りが収まらない嘉孝さんと唖然とするしかない私が残されたわけで...正直めっちゃ気まずい...
「あの嘉孝さん...」
「何も言うな...今日はもう帰りなさい。はやく!!」
「でも...」
「いいから帰れ!」
「あっ...はい...」
何とか空気を良くしようと話しかけた私に嘉孝さんからは聞いた事ないくらいの冷たい声と怒鳴り声が返ってきた。
結局、私はそれ以上、嘉孝さんを問いただす事はできずそのまま帰る事にしたのだった。
・・・・・
(ふぅ...玲奈ちゃんには申し訳ない事をしたかもしれん...)
玲奈を乗せた車が自分の家から遠ざかるのを確認した嘉孝は一人家の中で座り込んでいた。何しろ本当の孫同然に可愛がってきた彼女を怒鳴り付けてしまったのだから...
「それにしても昭三のやつ...まさか自分の姪を利用してよくもあんな事を‼」
嘉孝が昭三への怒りを露にしているとまたしても玄関のチャイムが鳴った。
「はぁ、今日はほんとに来客が多いものだ...」
昭三がドアを開けると...
「お恵みを~‼お腹がすいて力が出ませ~ん...」
今にも倒れそうな烏丸七蝶の姿があった。
・・・・・
数分後、
「満腹満腹~‼おかげで助かりました!」
「お礼なら玲奈ちゃんに言うんだな。この菓子は彼女からのおみやげなんでね。」
七蝶と嘉孝は二人して玲奈からのおみやげのお菓子を食べながら談話していた。
「えっ⁉あの子はどこに?」
「ついさっき帰った...いや、追い返したというのが正しいかもしれん。」
「何してくれてるんですかー‼」
玲奈を追い返した事を知るや否や七蝶は嘉孝に突っかかってきた。
「私...毎回毎回あの子と接触しようとした時に限って何かと邪魔が入るんですよ!これじゃお礼が言えるのもいつになる事やら...」
「ハハハ!それは儂の妻と一緒じゃな‼
...まぁ、生きていたらの話だが...」
「それにこのお菓子もっとほしいです!なので貴方からあの子に...」
(この食いしん坊女め...)
この女は玲奈のおみやげを何だと思ってるのやら...これでは毎回毎回玲奈はお前のためにわざわざおみやげを買う羽目になるぞ...少しは自重しろとまで思ってしまう。
「ちょっと聞いてます⁉」
「はぁ、聞いとるぞ...」
「ちゃんと聞いて下さいよ!あとですね。私の所属する組織が...」
結局、嘉孝はこの後3時間近く七蝶の愚痴話に付き合わされる羽目になったとか...
七蝶と玲奈が出会う日はいつになるのやら...




