8.ん?何やらまずい状況になってません⁉
第8話
「あれっ?その...姫香?私のハンカチを知りませんか?」
「おや、玲奈お嬢様が先程お手洗いに行かれた際にお忘れになったのかもしれませんね...では、私が今から取りに向かいますので。」
「えぇ、よろしくお願いします。」
私がハンカチがないことに気づいたのは、お手洗いを終えて清芽ちゃんと奏ちゃんのもとへと戻ろうとしてた時だ。
まぁ、そのハンカチ自体は別にそこまで思い入れがあるというわけではないのだが、かなり高級なモノなのでそのまま捨て置くという選択はもったいないと判断したのだ。
(やれやれ、全くハンカチを無くしてしまうなんて...今の私は仮にも公爵令嬢なのにほんとに情けないよ。まぁ、前世の性格は受け継がれているからね...)
・・・・・
姫香がお手洗いに向かうのを見届け、私も個別にハンカチを探し始めた。
だが、会場のあちこちを探しても見つかる気配はない。しばらくすると姫香が戻ってきたがあいにくお手洗いにもハンカチは見当たらなかったそうだ。
(はぁ...もう諦めようかな?)
私が諦めかけようとしたその時だった...
「あっ!玲奈様‼庭です!庭をご覧下さい!」
「どうしたのですか...ってあっ‼」
姫香が会場の庭を指差すのでそちらをみてみると、1羽の鳥がハンカチをくわえて庭にある木でひと休みしているではないか。会場内をあれほど探し回っても見つからない訳だ。
「早く取り戻さないと‼姫香、貴女はそこで待ってなさい!」
「お一人で大丈夫なのですか⁉」
「心配しないで‼ハンカチを取り戻したらすぐに戻るから。貴女は少し休憩してなさい。家族同然の貴女にこれ以上無理させられないわ!」
「あぁ...玲奈様...」
ん?何か姫香が泣きそうな顔をしているがどうしたのかな?そうか!これでようやく過酷なハンカチ探しから解放されると喜んでいるのだろう。私も酷い事をしたものだ...このパーティーが終わったら休暇を与えた方がいいかもしれない。そう思いながら私は庭へと向かうのだった。
・・・・・
結局、鳥は玲奈が近づいてくるのに気づくと身の危険を感じたのか、ハンカチを置いて飛び去ってしまった。しかし、肝心のハンカチは木の上の方の枝に引っかかったままだ。
(うわぁ...よりにもよってあんなところに...)
私は木登りができない訳ではない。むしろ家の屋敷の庭で木登りするのが好きなのだ。でもこの屋敷には私以外にもたくさんの人達が集まっている。もし木登りをその人達に見られたりすれば岩倉家のご令嬢ははしたない等と言う噂が流れてしまうだろう。そうなればゲームの玲奈お嬢様みたいに評判が悪くなる可能性もゼロではない。
(仕方ないね...さっさと終わらせよう。)
私は人がみてないのをしっかり確認すると木に登り始めた。庭の木と比べると少し高いがさほど変わらない。私は楽々とてっぺんまで登り、枝に引っかかったハンカチをとった。
(よし、あとは降りるだけ...)
私が木から降りようとした時だった...
「大丈夫ですか?その木は結構高いようですよ。」
(ん?)
下から誰かが私に呼び掛けている。私は声をかけてきた人物をみて絶句した。
(はぁ!?何で貴方がいるのよ!?)
それもそのはずだ。だって、その人物とはゲームの攻略対象の一人である二条兼光だったからだ。