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ゴンベエ ―勇者の居場所―  作者: 日本酒亭
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第3話:剣を振う者たち(前編)


 騎士ヒースは剣を持って静止していた。

 虚空を凝視するように剣を構えた彼は、じっとそのまま動かない。

 彼の心に浮かぶのは、二年前の光景だった…



 二年前、この国は二つの勢力に分裂しようとしていた。

 国王が病に倒れ、後継者であった王太子までもが、同じ病で急死してしまったのだ。

 しかしヒースにとって、それは所詮他人事でしかなかった。

 彼は政治に関わりたいとは思わないし、高い地位にも関心はなかった。


 ヒースは自分を、ある種の求道者だと思っている。

 剣の技を極めることが自分の道だと、栄誉も名声もそれを成して初めて得られるべきものなのだと、そう考えていた…いや、今でもそうだ。

 だから国内で起きた混乱も、彼にとってはどうでもよかった。

 他の騎士たちはこれで名を上げたり、自分の仕える上司や主君を勝たせることで、自分たちにも出世の道が開かれると思っていたが彼にとっては違った。


 王国の趨勢を決める内乱ともなれば、各陣営が切り札とする騎士を動かすのは間違いない。

 場合によっては、そういった騎士たちと剣を向け合う状況も生まれるかもしれない。

…それこそが、ヒースの望んだ事態だったのだ。


 彼の求めるものは、ただひたすら剣の勝負…命をかけて剣の技を交わす戦いだった。




 ヒースの主家であるレイス公爵家は、王国の中でも最大規模の領地と一族を抱える大貴族であり、王座を巡って争う二つの勢力の片側の筆頭だった。

 先代レイス公は現国王の兄にあたるが既に故人であり、現在はその息子がレイス公爵である。

 彼は信望に厚く、第五騎士団長ノルマンを筆頭に多数の支持者がいた。


 そして現国王には、急死した王太子の他にもう一人の息子がいる。

 それがヴォルフ王子…第二王位継承権を持つ少年であり、そしてヒースの主君である現レイス公爵は、第三王位継承権の保持者だった。


 当然のごとく、この二人の周囲にはそれぞれの支持者が群がり、彼らを次期国王にしようと動き出す。

 ヒースの見るところ彼の主君であるレイス公も、そして競争相手となったヴォルフ王子も、王座に対して何の欲望も持ってはいないようであったが。

 だがそんな当人たちの思惑などとは関係なく、彼らの『支持者』たちはそれぞれ勝手に争いを始めてしまった。


 相次ぐ裏取引や密告、そしてそれに伴う諍いや、裏での殺し合いにまで事態が発展した時…突然、第二王子のヴォルフが姿を消した。

 暗殺が怖くて身を隠したのだろうと、ヒースたちレイス公の一派はそう考えていたが、やがてとんでもないことが分かる。

 ヴォルフ王子は暗殺を恐れて身を隠したのではなく、実際に刺客に襲われて生死不明になったというのだ。

 しかもその刺客たちの一人が、レイス公爵家の一門に連なっていると知らされて全員蒼白になる。

 自分たちには全く身に覚えのない話であっても、今の状況でそれを信じてくれる者はほとんどいないだろう。


 何とか疑いを晴らすべく、公正・中立で知られる王国第一騎士団長・アルスター候爵に相談しようとしたが、今度はそのアルスター候までもが何者かに襲われたのだ。

 重傷を負ったアルスター候は屋敷で床に臥せり、侯爵家は両派閥の双方を疑って会おうともしなかった。

 その結果、両派は今まで以上に疑心暗鬼に囚われ、相手を討たねば自分たちの方が亡ぼされると思い込むまでになっていく。


「これはいかん、本当に内乱になるぞ…」


 主君を玉座に就ける好機と考えていたノルマンたちですら、国が滅びかねないと苦悩することとなる。

 だが、だからといって何をどうすればいいというのか?

 対立する両派の相手に対する不信は底なしにまで強まり、アルスター候のような見識を持った者たちは、どちらの派閥も危険とみなして距離を置いていた。


 このままでは本当に二つに分かれた派閥とその一門、さらにはそれぞれを支持する騎士団までもが戦いを始めかねない…

 そうなればもう王国の分裂、さらには崩壊にまで発展するかもしれないと、誰もが頭を抱えていたその時だった。 ヒースがあの『勇者』と剣を交えたのは。



 もはや避けられないと思われる王子派と公爵派の戦いに備えて、今後の方針を固めるべくレイス公支持派の主だった面々が、公爵家の館に集まった夜…そこにいきなり、行方不明だったヴォルフ王子が少数の部下と共に訪ねて来たのだ。


「レイス公に会って話がしたい」


 王子の申し出に対して不審と困惑の空気が流れる中、ノルマンが出て申し出を突っぱねた。


「申し訳ありませんが、昨今の情勢がいささか不穏でござる故、今あなた様を主の許にお連れする訳にはまいりませんな」


 仮にも王子に対して無礼千万な言い草ではあったが、何が起きるか分からない状況で主君を護るには、こうするしかないと判断してのことだった。


 だがそこに、思いもよらぬ言葉がかけられる。


「ふーん、ここの御主人てのはそんなに臆病な人なのかな?」

「…なんだと? 今、何と言った!?」


 怒りに震えて声がした方を見たノルマンの目に入ったのは、ヴォルフ王子と同じくらいか、あるいは少し年下に見える子供だった。


「小僧…今なんと言ったか、もう一度言ってみろ!!」


 大の男でも震え上がるような怒気と殺気を込めたノルマンの言葉だったが、その『小僧』は全く気にした風もなく答える。


「だからここの御主人は、そんなに臆病なのかって聞いたんだけど? 耳が悪いのかな?」

「我が主を侮辱するか貴様! 子供といえど許さんぞ!!」

「そんなこと言ってもさー、これだけ大きなお屋敷とこんなに大勢の人に守ってもらってるのに、たかが数人を相手に身の安全がどうこうなんてさ……そんな人が王様になったら、国中のみんなが困るんじゃないかなあ?」


 それを聞いたノルマンは己の失策を悟った。

 高々十人にも満たない少数を相手に用心が過ぎたせいで、自分の主君に臆病者の名を着せる結果になりかねない…いや、このまま彼らを帰したら本当にそうなってしまうだろう。

 何とかうまく言い繕わなくてはと思ったその時、破局が起きた。


「ふざけるなこの小僧が!!!」


 怒りに我を忘れた部下の一人が、その子供に切りかかったのだ。


「馬鹿者!よさんか『がっ!』……なんだと?」


 慌てて制止しようとしたノルマンが見たのは、子供に斬りかかった自分の部下がいきなり剣を落としたかと思うと、その場に倒れた姿だった。


(なんだ⁉ 一体何がおこった?)


 混乱するノルマンだが、目の前の子供が『何か』をしたことは分かった。

 一方その子供の方は、何処か呆れたような顔で背後にいる王子に声をかける。


「あのさヴォルフ? 君は本当に王子様で、ここの連中は公爵家の家臣たちなの?」

「…いや確かにそうだけど? 何でそんなことを聞くんだよマコト?」


ヴォルフ王子にマコトと呼ばれた子供は、苦笑しながらさらにとんでもないことを口にする。


「だってねえ? 君みたいに愚連隊を率いた王子様とか、大勢の部下に守られてるのに奥に籠って出てこない公爵様とか、剣を振り回すどころか振り回されてる素人以下の騎士団とか…何か出来の悪い芝居でも見てる気分になるんだよね?」


 その言葉を聞いたノルマンたちは怒髪天を突くような顔になり、一方のヴォルフ王子とその護衛たちは一斉に吹き出していた。


「おいおいマコトよ、そりゃあいくら何でも気の毒だろ? 大体オメエに比べたら、世の中のほとんどの騎士の腕前なんざ半人前以下なんだからよ」


 王子の右に立っていたハルツという男が、笑いの発作をこらえながらそう言うが、マコトは特に嬉しそうな様子もない。


「まあいいか。 どっちにせよこの程度の腕なら、全員叩きのめせば問題ないよね? そうすれば公爵との話し合いを邪魔する人はいなくなるんだし」

「…させると思うか、小僧‼」


 言葉の内容に鳥肌を立てながらも、必死の覚悟で主君の元には行かせまいと、ノルマンは剣を抜いた。


「やめておかれよノルマン卿、貴殿らの剣ではその小僧には勝てないでしょう」


 その時初めて、ヒースは声を出してノルマンを制した。


「ヒース卿…」

「ふうん…」


ノルマンが自分を呼ぶ声と、マコトが漏らす声の双方を聞きながら、ヒースはゆっくりと両者の間に入っていった。


「…面白い。 まさかこんな子供が、今の技を使うとは」


 ヒースは、自分の声が喜びに震えているのを自覚していた。

 一方のマコトも、相手を観察すると感心したような声を上げる。


「いるんだねえ…ちゃんと剣をつかえそうな人がこの国にも」

「当たり前だ。 ヒース卿は我が国でも5本の指に入るほどの剣の名手だぞ?」

「それはそれは…って、それじゃこの人と同じ程度な人があとたった4人しかいないの?」

「いや…まあ、そうだけど?」

「…他には?」

「そりゃまあ…他の国に行けば色々いるかもしれないけど…」

「…面倒ごとが終わったらそっちに行こうかな?」

「そりゃないだろマコト!」


 何やら痴話喧嘩にも見えるやり取りを始めた王子と子供に、周囲が呆れた視線を送る。

 だがヒースはますます楽しそうな顔になり、マコトに向かって問いかけた。


「未熟者の相手はつまらんか、小僧?」

「まあね、弱すぎる相手をケガさせたりうっかり死なせたりって、嫌なものでしょ?」

「確かにな。 だがそれはまともに剣を振うことも出来んくせに、剣を持っただけで騎士だ剣士だと浮かれる者の自業自得なのだ」

「そりゃ確かにそうだけどね…」

「その手に持った木の棒で二度突いたか…一度目は相手の剣を持った手を、二度目は相手の喉元を」

「すごいすごい! よく見えたねえ」


 二人の会話を聞いたノルマンは背中に冷や汗をかいていた。

 ヒースが言ったその二度とも、彼は気づかなかった…いや、見えなかったのだ。


(これはいかん! 目の前にいるのは子供の皮を被った化け物だ…もしもヒース卿ですら勝てないとしたら…)


「つまらねえこと考えるんじゃねえよ、第五騎士団長様よ?」

「…く!」


 ハルツの言葉にノルマンは思わず息を呑む。

 その言葉と共に放たれた殺気も、その隙のない所作も、彼が単なる無法者の類ではないと分からせる物だったのだ。


「よされよ、ノルマン卿」

「ヒース卿、しかし…」

「どの道、私の剣が及ばぬのであれば、この小僧を止められる者などここにはおらんでしょう」

「う…」

「だったらボクがあなたに勝てば、公爵さんに会わせてもらえるよね?」

「勝てれば…な」


 ふいに、その場の空気が固まったようだった。

 マコトもヒースも構えてすらいない…それでも周囲の人間たちはハッキリと感じ取った。


 これはもう止めようがない…いや、入り込むことが出来ない。


「剣を抜け小僧、いくら貴様でもそんな木の棒で私と斬り合えると思うな」

「そうだね、これだと確かに『加減して勝つ』のは無理だな…」


 ヒースの言葉に、マコトは手に持った木の棒を背後にいたヴォルフに手渡し、背中にしょった剣を抜くと、それを見た全員がどよめいた。


「ほう…なんと異形な…そしてなんと美しい剣か」


 ヒースの言葉通りその剣は異形であり、同時に美しかった。

 まるで三日月か弓のように反った形の片刃の剣…刃幅は大剣のようだが、刃渡りは中剣のそれ。

 だが何より目を引くのは、その刀身の色だっただろう。


(なんという鋼の色だ、一体どれほどの錬成が込められたというのか…?)


 剣を知らない素人が見たのでは分からない、しかしそれを知る者には一目で判る鋼の色…


「小太刀を使わなきゃいけない戦いがあるなんて、思わなかったよ…」

「コダチ…それがその業物の銘か?」

「ううん、こういう長さの刀をボクの国では小太刀って呼ぶのさ」

「ほう…そなたの国にはそのような刀が多いのか?」

「う~ん、これより長い刀や短い刀が主流かなあ? これくらいのはあまりないんだよね」

「ふむ、ならば剣士はどうだ? 貴様のような腕のある剣の使い手は多いのか?」

「多い…とまでは言わないけど、ボクと同じくらいの剣士は何人もいるね」


 互いに、まるで日向ぼっこでもするかのように呑気な会話を交わしながら、お互いの距離を測るようにゆっくりと詰めていくマコトとヒース…

 周囲の人間たちは、ただ息を詰めて見守るしかなかった。

 やがて互いの距離が、ある場所まできたその瞬間…


「ふっ!」

「せっ!」


 同時に二つの気合が発すると共に、互いの剣が光の鞭となってしなり、鉄の響きが交差した。

 そこから続けざまに走る剣の光と、打ち合う剣戟の音…


(…なんという応酬か! だが僅かにヒース卿が押しているか?)


 ノルマンが思ったように激しい剣の応酬も、僅かながらヒースがマコトの剣を圧しているように見える。

 勝てる…! そうノルマンと周囲の者が確信したその瞬間、彼らは信じ難い光景を見た。


 キン! という澄んだ音と共に、ヒースの手から剣が消えていた。


(馬鹿な! あのヒース卿が剣を落とされ…いや!違う!!)


 ヒースは剣を落とされたのではない、彼の剣は鍔元近くから切り落とされていたのだ。


「ボクの勝ちだね」


 信じがたいものを見る目で、ヒースは自分の剣の切り落とされた場所を見る。

 マコト以外の誰もが絶句して固まったその時、階上から声がかけられた。


「見事な立ち合いであった。両名とも、実に見事だったぞ!」

「公!なぜ出てこられたのですか!?」


 ノルマンが叫んだ通り、その場に現れたのはレイス公爵本人だった。


「ノルマン卿、見た通り勝負はあったのだ。 ここはヴォルフ殿下の申し出に応じる以外あるまい?」

「で、ですが…」

「ここで無駄な血を流してどうする? その娘が手加減してくれねば、今頃は我ら全員が死んでいたのだぞ?」

「な…! 娘!?」

「あ、気づいてたのか…割と目がいい人なんだね」


 主君と、そしてあっけらかんという調子で言うマコトの言葉に、ノルマンは再び絶句した。

 まさか目の前でヒースを打ち破った『小僧』が、実は『小娘』だなどと…そう思ってヒースを見れば、彼も呆然とした顔だった。

 

「では、話を聞いてもらえるか公爵?」

「ええ、これ以上国内で愚かな争いを増やす訳にはいかないですからな」


 このヴォルフ王子とレイス公爵の言葉こそが、暗雲が立ち込めていた王国の行く手に差し込む、最初の光となったのだった。








「あれから二年か…」


 ゆっくりと構えを解いたヒースは、虚空に向かって呟いた。

 あの対決の後、王子と公爵は互いに協力して中立派と連絡を取り、彼らの後ろ盾を得て内乱を回避することに成功した。

 誰もが驚いたのは、中立派のまとめ役となったのが、刺客に襲われて重傷を負ったと思われていたアルスター侯爵であったことだ。

 実は彼も襲われたところをマコトに救われ、軽傷で済んだらしい。


 その後彼が屋敷に籠ったのは、重傷によって動けないということにして、その裏で中立派の取りまとめと、陰から内乱を煽っている何者かを探し出すためだったのだ。

 それが効を奏し、ヴォルフ王子やアルスター候を襲った刺客の正体も割れた。

 その黒幕は隣国と裏取引をして国を割り、自分たちが権力を握る代わりに、国の一部を売り渡そうとした貴族の一派だった。

 その黒幕たちのほとんどもヴォルフ王子とハルツたち、そしてあのマコトという少女によって追い詰められ、ある者は捕らえられ、またある者は自ら命を絶ち…動乱の幕は閉じる。



 その後、病気が快復した国王の判断によってヴォルフ王子を第一王位継承者、レイス公爵を第二王位継承者と定め、王太子は定めないということになった。

 それに関しては王子も公爵も互いに相手を王太子に推薦して譲らず、また彼らを支持する貴族たちが再び不満を膨らませて、混乱の元となることを避けたという理由もある。


 いずれにせよ、その時点でヒースが望むような、剣の立ち合いが出来るような理由は消えてしまったのだ。

 だがヒースは、それに不満を言う気はなかった。

 もとより剣を振うのは非常の時であり、その非常時が過ぎた以上は剣を鞘に納めるのが騎士であり、そのことに不満を漏らすようではそもそも騎士の資格はない。


 彼の『不満』は別のところにあった。


 事態が収束した後、功労のあった者たち全てに、褒賞や地位が与えられた。

 最も高く評価されたのはアルスター侯爵であり、国王より感謝の言葉と多数の褒美が贈られた。

 またヴォルフ王子を護って戦い、売国奴たちを討ち取るのに功績のあったハルツとその部下たちには正式な騎士の身分と、新設の第十三騎士団という役職が与えられたのだった。


 彼らの活躍がどれほどの物だったかを知らない人間からは不満も出たが、アルスター侯爵やレイス公の推薦もあり、彼らは新たなる騎士団の地位を得たのであった。

 ヒースはそれも当然の事だろうと思っている。

 あの状況で、先の見えない国の中を王子を護りながら戦った者たちなのだから。


 しかしそれならば何故、最も高く評価されねばならない『あの少女』には、何も与えられないのか?

 聞けば彼女は動乱が終わった直後、アルスター侯爵に話だけして、城から立ち去ったというのだ。

 褒美も地位も、自分には必要ないと言ったそうだ。

 さすがにそれでは申し訳が立たないと、アルスター候が金貨の山を押しつけるようにして与えたそうだが、そんな物で足りていいはずがないと、ヒースは心の中で断言する。

 あの混乱を収めるにあたって、最も貢献したのは誰か?

 王子を護り、アルスター候を救った真の功労者は誰か?

 あの『立ち合い』で誰も殺さず、自分の命までも見逃したのは誰か?


 誰よりも剣を交えたヒース自身が分かっていた、あの勝負で自分は『助けられた』のだと。

 もしもあの場の状況を有利にするなら、自分やノルマンを殺しておくという方法もあった。

 後に残る恨みさえ無視すれば、その方が安全に話を進められただろう。

 だがおそらくは、ヴォルフ王子の判断でその場の誰も殺すことなく、王国の将来に余計な恨みを遺さないような手段が選ばれたのだろう。


(…だからこそだ!)


 その『恨みを遺さない』手段と結果をもたらしたのはあの少女ではないか。

 あそこまで剣を極め、それをもって国を救った『勇者』が何故、金貨を入れた皮袋一つで城を出るのか?

 たとえそれが本人の願ったことだとしても、ヒースはそれがどうしても納得いかなかった。


 自分が負けた悔しさよりも、彼女が受けた『評価』の方があまりにも不当に思えたほどだった。







「ヒース卿…」


 背後からかけられた声の主は、見知った第五騎士団の者だった。


「どうした、何か私に用か?」

「は、実は聞き捨てならぬ噂を耳にしました」


 話を聞いたヒースはしばらくの間思案していたが、やがてぼそりと呟いた。


「…久々に会ってみるか」







第3話 終わり



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