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ゴンベエ ―勇者の居場所―  作者: 日本酒亭
13/13

閑話:その2「夢か現か」


 ひろしは絶望していた。

 自分の生涯を賭けた努力の結晶が、目の前で無残な残骸となり果てて…広がっていた。


「なぜだ…」

 

 何故、こんなことになったのか?

 自分はただ、大勢の人間を救いたかっただけだ。

 やり方が強引だった? 確かにそうかもしれない。

 法や秩序を無視した手段だった? それも確かにそうかもしれない。

 だがしかし、それ以外に一体どんな手段があったというのだ?

 人の世を…救いようのない世界を救うのに、このやり方以外にどんな道があったのだ‼


 心の中でそう叫ぶひろしの前方から、小さな影が近づいて来る。

 この惨状をもたらした破壊の化身…自分の生涯かけた計画を全てぶち壊した悪魔…それがゆっくりとこちらに向かって来るのだ。

 逃げよう…逃げなくては自分の命が危ない…

 しかしひろしの足は動かなかった。

 そしてその小さな影がひろしの目の前まで来て『処刑宣告』を口にする。


「…かくごはいい?」


「いやああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」


 その絶叫とともに   ひろしは目を覚ました。




『起きたかひろし?』

「…ん? あー、何じゃルンバか」

『何じゃじゃねえだろ、何じゃじゃ…酷くうなされてた上に悲鳴と共にお目覚めとか、一体どんな素敵な悪夢を見たんだお前?』

「なに、昔の夢を少しな」


 そう言いながらひろしはベッドの上に起き上がる。

 もう自分も高齢者なのだから、朝の目覚めはもう少し穏やかであって欲しいと思うのだが。


『あー、お前の野望がマコトによって叩き潰された時のか』

「やかましい!」


 言わんでいい一言をあっさり口にする不良猫ロボットのせいで、ひろしの血圧はプチ切れた。





 老人の名は『壁ひろし』という。 

 かつてはニッポンとかいう、何処にあるのかも分からない国の国民だったそうだ。

『企業』という、とてつもなく大きな商家の主だった彼は、同時に優れた学者でもあった。

 彼の仕事の種だった建築材料だけでなく、畑作や畜産、漁業といった分野への造詣も深く、企業人(商人の別名だそうだ)としてだけでなく、食糧生産や加工分野の碩学として名を馳せていた…とは、王都の酒場に居を構える勇者の言葉である。


(もっとも酒場の客たちにとっては、百姓や漁師の仕事の何処が『学問』なのか?と首をひねる以前に、一体何を言ってるのか全く理解出来ない話であったが)


 あるいは彼は、その企業人(商人)としての自分に満足していれば、一生安泰だったかも知れない。

 しかし、彼には『夢』があった。

 

『現代における世界の農業技術と品種改良技術、あるいは漁業における養殖、畜産における食肉の品質向上……これら優れた技術を持ちながら、何故か世界には食糧が行き渡らず飢えに苦しむ人間が絶えず、その結果として愚かな戦争に至るケースも尽きない…ならば世界の全てを食糧生産地帯とすればいいではないか! この世界全ての農地で足りないのであれば、砂漠だろうが海だろうが、食糧生産が可能になる環境を整えればいいのだ!! ナニ? そんなことをしても穀物メジャーや食肉生産国を敵に回すだけだと…? それがどうした? 自分の儲けにならないという理由だけで飢えた者たちに食糧を渡さない連中が悪いのだ! 全ての人類に食糧が行き渡れば、少なくとも飢えを理由に紛争や戦争は起きなくなるだろう? だったら誰もが飢えない世界を作ればいいではないか? なに、誰がそんなものを作るのだと? 決まってるだろうが! 私が創る!!』


 夢というよりは還暦過ぎた老人が厨二病にとり憑かれただけかもしれない。

 だが困ったことに彼は、ひろしは『本気』だった。

 そしてなお悪いことに、彼にはそれを実行してしまうだけの頭脳と資金と人脈があったのだ。


『…調子に乗って世界征服を企む悪の組織なんて作っちまうんだもんなー』

「誰もそんなもん作っとらんぞ? ワシが作ったのはただの農業NPOじゃ」

『何でその農業NPOが全員軍事訓練受けて武装までしてたんだよ?』

「決まっとるじゃろが? 我々の耕作活動を邪魔する不届き者共と戦うためじゃよ」

『…立派なゲリラじゃねーか、それ?』

「馬鹿を言うな。 我々の目的はあくまでも世界の平和、人類の繁栄だったのじゃ。 だがそれを理解せず、権力や武力でワシの仕事を妨害する連中には思い知らせる必用があったのじゃ!!」

『結果として政府を敵に回しちまったんだよなお前?』

「腐敗した与党と官僚共が悪いんじゃ!!」


 …単なる一NPOが、国土の全てを耕作地として使わせろなどと申請すればキ〇〇イ扱いされて当然だと思うのだが、ひろしにとっては権力による弾圧としか思えなかったようだ。

 さらにとんでもないことに、この男は日本中に『種蒔きテロ』を行った……なに? たねまきてろって一体何だと?

 簡単に言えば、日本中のありとあらゆる場所に大根やゴボウ、蕎麦などの種子を散布しまくったのだ。

 植物の生命力は強い。 根菜や蕎麦の生命力は特に強い。

 およそ水と土のある場所ならどこだろうと芽吹き、葉を茂らせ大きく育つ野菜と穀物たち…

 全国的に話題となり、同時に迷惑行為として訴えられ、そして犯人探しが行われた。

 

『最初はそう簡単には見つからなかったようだがな』

「当たり前じゃ。 そんなヘマはせん♪」

『それで調子に乗ったのが悪かったんだよな?』

「そうだったかのー」(棒)


 そう、調子に乗ったひろしは『色々と』やり過ぎた。

 彼が設立した農業NPO 『全地全農』 は、合法・非合法の枠を無視して活動を始めたのだ。

 私有地公有地を問わず土があれば耕して種を撒き、それどころかアスファルトやセメントの隙間にまで大根の種を仕込んでSNSで発育の様子を発信、行政が雑草として刈ろうとすれば批判の目が向くように世論操作までやる始末……そしてついには国定自然公園にまで手を出し、自分で開発した『巨大耕作ロボット』で密林を開墾し始めたのだ。


『そのせいで本格的に政府とK察を敵に回しちまったんだよな?』

「奴らとんでもない言いがかりをつけおって…何が森林破壊じゃ! ろくに整備する予算も出さずにほっぽッておいただけの癖に!!」

『どっちにしたってお前が手を入れていい場所じゃなかっただろ?』

「あれだけの場所を整備もせずに放置しておく方が悪いわ!!」


(国有地の多くは様々な事情や予算不足から、荒地や自然林として放置されているケースが多い)


『どっち道、人手も予算もない以上は有効活用たってしたくても出来ないしなあ』

「だから私が耕そうと言うのだ!!!」

『いい歳こいて無理すんなよジジイ』

「やかましいわ!!」

 

 ネコ型ロボットにからかわれて血圧を上げまくりのひろしだが、深呼吸で自分を落ち着かせる。


「まあ政府と対立したせいで逃げ回ることになって…あの時、飯田線の向こうにあった廃村地帯へ入ったのがマズかったのお」

『廃村じゃなかったんだもんなー』

「トンでもない連中が棲んでおったしなあ…」 


 ひろしたちが迷い込んだ地域は多くの廃村が存在する無人地帯…だと思われた。

 とりあえずここに腰を落ち着け、辺りの開拓でもしながら今後の方針を考えよう…そう思っていたひろしたちは、そこでとんでもない 魔獣 に遭遇した。

 大型のチベタンマスチフよりも大きなネコ科(推測)の獣だった。


「…食べたら美味いかのお?」


 ちょうど空腹を覚えていたひろしの一言が 惨劇 の原因となった。

 食えるかどうか確かめるのだ! のかけ声と共にひろしと愉快な阿呆どもは、一斉に謎の哺乳類捕獲作戦を開始した。

 だが相手は手強かった。 人間はもちろん、開墾用PSパワードスーツや大型作業ロボの手すらかいくぐり、逆に反撃してくる野生の強さを前にひろしは秘密兵器の使用を許可する。


「喰らえ! 鳥もちバスター!!」

「うにゃっ! うにゃあ~~~!!!!!」


 …何のことはないただの鳥もちだが、そのサイズが尋常ではない。

 本来は機動隊や自衛隊から身を守る(!)ための秘密兵器で、十人単位を一度にもちまみれに出来る代物だ。

 さしもの巨大猫種もこれにはたまらず、動きが封じられる…『勝った!』とひろしたちが確信したまさにその時…



「おっかさんをイジメるなー!!!」



 明らかに子供の声だった。

 可愛らしい女の子の声だった。

 それでも なぜか ひろしたちの背中に 鳥肌が立っていた。




 そこから先はよく覚えていない。

 我に返ったその時には、ひろしの部下たちは装備もろとも壊滅状態だった。

 そして目の前に来た小さな子供に 『ボクの友達をイジメた罰だよ!』 と、言われると同時に側頭部を ポン という音とともに叩かれた後、ひろしは意識を失い 目覚めた時は警察病院のベッドだった。


「そしてワシの夢は潰えたんじゃ…」(泣)

『K札にコッテリ絞られた挙句、不起訴処分で済んだから良かったじゃねーか』

「…その後、株主総会で会長職を解任され、息子や嫁に禁治産者にされてしもうたわ」

『とーぜんだろ? てかさっさと身代譲って置けば良かっただろ?』

「アイツらに任せておけば即座に外資に乗っ取られるのが分かってたから、仕方なくワシが頑張っておったんじゃ!!……まあ、結局は乗っ取られてしもうたがな」

『諸行無常って奴だな』

「そうだのお」


 僅か数年で会社を乗っ取られ、一族離散という悲惨な結末にひろしは打ちひしがれ、厭世観に囚われた。

 世捨て人になることを決意したひろしは、自分に与えられた資金の全てをその費用に充てた。

 誰も知らない山の中で田畑を耕しながら余生を送るために、最低限の農機具と作物の種子や苗をハイ〇ースに搭載し、さあ出発しようとしたその時だった。


「ボクも連れてってよ、はかせ」

 

 あの事件の時に自分たちを打ち倒した少女…まことが、そう申し出たのだ。


「何でまたお前さんまで世捨て人なんぞしようと思った?」


 事件の後で面会に訪れ、お互いにやり過ぎたと謝罪し合った後で歳の離れた友人同士となった関係だが、なにもこんなことに付き合う理由はないだろうにと尋ねると、答えは意外なものだった。


「修行のためだよ」

「修行だあ? お前さん、これ以上まだ強くなりたいのかね?」


 ひろしが呆れたのも無理はない。 ハッキリ言ってまことは強い。 いや、強すぎると言っていいだろう。

 あの時まだ十歳を過ぎたばかりだった子供が、自分と配下の機械化部隊(割とシャレにならないレベルの戦力)を、いともあっさりとひねり潰したのだから。


(ちなみに世間では誰もその話を信じようとはせず、公式記録では酔っ払ったひろしたち一党が内ゲバの果てに自滅したことになっている)


 ひろしたちとの一件があった後もこの少女は鍛錬に励み、更なる強さを手にしていた。

 竹刀で猪を昏倒させ、ひのきぼうで熊を悶絶させ、剣(刃引きの古刀)を振るえば岩が真っ二つ……もしかしたら地上最強ではなかろうかとすら思えたほどだ。


 だが少女の答えは、ひろしの予想をナナメ上に裏切った。


「えーとね…強くなるんじゃなくて、弱くなるために修行するんだよ?」


「…………………はい?」


 頼むから人類の概念を基準に話してくれ…と、せがむひろしにまことは語る。


「ボクのお師匠様がね、お前は強くなり過ぎたから、もっと弱くなるための修行をしろ…って言ってね、おっかさんと一緒に修行の旅に出ろって」

「ははあ、弱くなるための修行か…」


 それは禅問答に等しい謎かけだし、間違っても十代の小娘にかけるリドルではなかろうにと思ったが、あえて何も言わなかった。

 確かにこの娘は強すぎる。 そして少々危うすぎるだろう。

 強さとは、あるいは弱さとは何かなどと、自分に問いかけさせるにはまだ早すぎる年齢だが、それでもまことの持つ『強さ』は少々危険過ぎるのも確かだ。


「放っておいたらその内、うっかり海と大地を貫いたりしかねないからのお」

「へ? 何のはなし?」

「いや何でもない、それならしばらく一緒に行ってみるかの?」





「…そう言って、あの娘とおっかさんとお前を乗せてハ〇エースで出発したんだった…な」


 どこか遠くを見る目でひろしは呟いた。

 

『随分と意味深な口ぶりだなひろし? まだあの頃の夢が忘れられないのか?』

「悪いか? ワシの人生かけた夢だったんじゃ。 多少の未練があっても仕方なかろうが?」

『終わった夢にいつまでもしがみついても仕方ねーだろ? 過去の夢より今日の現実が大事だってオメーも言ってたじゃねーかよ?』


「…するとこれがその、『今日の現実』という訳か」


 そう言ってひろしが窓を開けると、そこには広大な自然が広がっていた。

 視界の範囲に人工物の欠片も存在しない自然の世界…あるとすれば舗装すらされない砂利道と、まこととひろしが自分たちの手で開墾した農地だけだ。


「王都に行くまで街道以外の人工物がない、自然に満ちた中世世界…か。 冗談にしても出来過ぎじゃのお」

『オメーにとっては理想の環境ってか?』

「馬鹿をぬかせ! 他国との戦争が政治に優先しかねんような、蛮族二歩手前の発想で国が動くような世界のどこが理想じゃ! これなら本物の原始人を相手にする方がよっぽどマシだわい!!」

『なーんでこんな世界に来ちまったんだろうなー?』

「なーんでって…分かる訳なかろうが?」


 あの日、マコトとおっかさんをハイエー〇に(おっかさんは車の屋根に)同乗させ、まだ見ぬ安住の地を求めて走り出して僅か半日…富士近くの国道を走っていると、突然大地震に見舞われた。

 バランスを崩したひろしのバンはそのまま道の下に転落、なんとか無事だった彼らが車の外に出てみると   そこはどう見ても国道沿いでもなければ   日本ですらなかった。


「…異世界転移とか、ネット小説でも使い古しのネタじゃろうになあ」

『実際来ちまったもんは仕方ねえよなあ』

「どーせここから元の世界に戻る方法なんぞなかろうし、ここでやって行くしかないだろうの」

『…てかお前、仮に戻れたとして無事で済むと思ってるのか?』

「あ?」

『今頃向こうじゃお前は、幼女を誘拐して行方をくらませたロ〇コンジジイとして、指名手配されとるに決まっとるだろうが?』

「じゃかましいわ!!!」


 ひろしにすれば、思い出したくもない現実であった。


「…まあこうなったら、ここに腰を据えてやっていくしかなかろうな」


 不幸な現実から目を逸らし、この『夢のような』世界で生きていくしかなかろうとひろしは自分を納得させる。


『とはいえ、酷い世界だよなあ? どう見ても十六世紀にも届いていない、ほとんど原始に近い有様だぞ?』

「王侯貴族共の教養水準から推し量っても精々がその辺だし、農業に至っては未だまともな転作手法すら確立されておらんという有様だしな」

『農作業教える前に食糧事情からしてヤバ過ぎるだろ? まことのいる王都なんぞまだマシな方で、諸侯とやらが治める地域では餓死者も出るくらい作物の収穫が乏しいらしいぞ?』

「だから私が耕そうと言うのだ!」(二回目)

『あんま調子こくなよ? やり過ぎるとまたまことの奴に大目玉喰らうぞ?』

「わかっとるわい!」


 口うるさいネコ型ロボットの小言を聞きつつ、ひろしはこれからの農作業計画を練り始めた。

 もうすぐ収穫期だ。 

 この分なら今年の冬は、多少美味い物が食べられそうだと思いながら。






 閑話その2 終わり



今回は大賢者様の過去のお話でしたw


人格者に見えて実はかなーりアブナイ思考の持ち主だったというお話ww

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