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ゴンベエ ―勇者の居場所―  作者: 日本酒亭
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第8話:居酒屋の英雄譚

今回の話は少々お下品(笑)な表現が含まれますので、悪しからず。


「英雄なんてものは酒場に行けばいくらでもいるが、歯医者に行けば一人もいない」


 なんでもそれは楊・なんたらという、自身も無数の敵を屠った英雄が言った言葉らしい。

 他ならぬ英雄様ご自身がそう言ったのは自戒を込めたのか、あるいは単なる自虐だったのか?

 それはどっちでもいいが、自分の仕事場は飲み屋であり歯医者ではない以上、英雄の話はあって当然…いやむしろないと困るのだとマコトは思う。

 居酒屋を始めてしみじみ思い知ったのは、酒場の雰囲気を陽気に保つ工夫の必要性だった。


 店主である自分の希望としては、みんな穏やかに酒と食事を楽しんでもらいたいのだが、酒の入った男どもにそんな公徳心に満ちた行状を望む方が無理だとは分かっていた。

 人間、とくに成人過ぎた男という生き物は、一旦酒が入れば騒ぐ喚くは当たり前で、そのまま暴れ出すことも珍しくはないのが通例だ。

 そうでなくとも酔った男というのは自分が如何に男らしいか、あるいは強いかということを誇示したがるものであり、当然ながらその相手は同じ野郎共よりも女性の方がいいに決まっている。

 そしてこの店には店主のマコトとライザという非常に見目麗しい看板娘たちがいる。

 

 もちろん看板娘はライザの方で、マコトの方は看板娘ではなくてまな板……すみません何でもないですお願いだから腕をねじら(絶叫)




 《自動著述機関に異常が発生したので、少々お待ちください。》




 …酔った男がライザを押し倒そうとするのをマコトが逆に押し倒したり、腕を捩じ上げたりする度に常連客が減って行くのは非常に困る。

(年端もいかぬ少女に素手でねじられたら、男の威厳なんぞ一発で蒸発してしまうのだ)


 だからこそほとんど日替わりで客として入ってくれた上に、喧嘩が起きそうになるとその場を収めてくれるハルツやその部下たちには感謝してもし切れないし、酒場の雰囲気を英雄譚でも唄って明るくしてくれる吟遊詩人などには、ぜひ店に入り浸って欲しいと思っている。


 その『英雄譚』の主人公が自分でさえなければ…であるが。





「…かくて王都に平和は戻り、戦いを終えた若き流浪の英雄は惜しむ人々の言葉を背に、何処へともなく去っていくのであった~~♪」


(何処へともじゃなくて、ここで酒場の主人やってるんだけどね)


 朗々とした口調で語り終える吟遊詩人の台詞を聞きながら、心の中でマコトはツッこんだ。

 もちろん他の客たちは大喜びで拍手喝采、なんとハルツまでもが横目でマコトの方を見ながら手を叩いている。

(口元が爆笑寸前に緩んでいるのを見て、ジロリと睨んでしまったのは仕方ないだろう)


 マコトは自分を、勇者や英雄だなどと思ったことは一度もない。

 単に人より剣と体術に秀でただけの凡人に過ぎない……それが彼女の自己評価だ。

 二年前の動乱で偶々剣を振るったことで、自分を英雄視する人間は大勢いるがしかし、それが自分にとっては何とも居心地が悪いのだ。


(ガラじゃないんだよね…英雄とか勇者様とか)


 マコトにとってはその一言で済む話だが、他の人間にもそうだという訳ではなかった。


「何だい? 酒場の主殿には俺の演目が御不満かい?」

「…へ?」


 言われて驚いたマコトが振り向けば、言った相手は今しがたまで弾き語りをしていた吟遊詩人だった。


「う、ううん? 別に嫌いじゃないよ嫌いじゃ…たださ、その話ってそこにいるハルツたちから散々聞かされて飽きちゃっててさ、あはははは………」

「おいおい、俺ってそんなに話したっけか?」


 少しばかり不満そうな声でハルツが(目は笑ったままで)言ってくる。


「そりゃーもう、いーかげん耳にタコが出来るくらいには」(棒)

「そーだったっけかなー?」(棒)

 

 お互いに素っとぼけた口調で言い合うハルツとマコトに、店の客たちは笑いながらも首を傾げ、給仕のライザは苦笑しながらも何処か気遣わしい表情をしていた。 


「ははあなるほど、この国の一番新しいサーガともなれば誰もが知ってて当然だなあ……よし!そういうことなら、この俺のとっておきを披露しようか‼」

 

 そう言って吟遊詩人はギタラ(弦楽器)を爪弾きながら、弾き語りと呼ぶには随分とくだけた口調で語り出した。





 …言っても信じねえだろうが、この俺は元は遠い国で王様やってたんだぜ? ナニ? お前みてえなゴロツキが王様とか、一体どんな蛮族の国だったかって?

 そりゃあもう、ヒャッハーでハッピーな武断国家だったともさ!(大笑)

 周りの国もそんなだったから、武力で相手を従えるのが当たり前どころか、それ以外の方法を知らなかったね…というか、この辺の国だってそんなに変わらねえだろそれは?


 要するに思いっきり相手の国に攻め込んで、思う存分殺しまくって、そんで相手の王か将軍の首を刎ねてハイオシマイ…一丁あがりって感じかね?

 だが俺様にとっての醍醐味はその後から始まるんだよ♪


 …え? どんな醍醐味かって? 決まってるだろそんなの! 勝利の宴での『女体盛り』だよ! 女体盛り‼

 

ナニ知らない? 誰も? え?店主のお嬢ちゃんだけ知ってる? …そうそう、負けた側のお姫様とか女騎士とかを『皿』にして、その上に新鮮な獣や魚の刺身を……ナニ悪趣味? そんなこと言ってもコレをやらずに何の征服かってよお…え? そもそもその風習って何処から来たかって? そんなこたあ知らねえなあ、少なくとも俺の親のそのまた親の代からあったくらいしか…


(…なあオイそこの騎士様よお? 何であのお嬢はあんな難しい顔して考え込んでるんだ? 普通若い娘ってのはもっとこう…そっちのべっぴんさんみたいな顔で、恥ずかしさと嫌悪感ってやつを示すもんじゃ……あ? アイツの頭の中は普通じゃない?? そりゃまあなんとも…)


 …そして当然! 宴の後はキレイになった『皿』を美味しく頂くまでが宴の流れって奴よ♪

 あ? そこまでやるかだと? そりゃオメエ昔から言うだろが?『飯を喰らわば皿まで』ってよ。

 なにそれメシじゃなくて毒だって? …俺の田舎じゃ飯なんだがなあ?



 …まあそんなこんなでだ、とにかく周辺の国や蛮族共を片っ端から征伐して国をデカくしてた俺様だったんだが、ある日突然その快進撃が止まっちまったんだ。

 何でかって? ぶつかっちまったんだよ あの恐ろしい女 の部族とな。

 

(おう店主! エールもう一杯くれ! ここからが本番なんだ!!)


 あらかた周辺の国やら豪族やらをぶっ潰して、ようやく国もデカくなって来た時だ…俺はかねてから目ざわりだった、北の方にある蛮族の国を攻めることにした。

 なに? 何で目ざわりだったのかって? いやそれがだな、その国ってのがとんでもなく強い兵士をあちこちに貸し出して、そのアガリで民を養うっていう傭兵の国だったのさ。

 …いや俺の国も時々は借りたりしてたんだが、俺ぁ基本的に自前で兵を育てて戦わせるってのが方針だったから、あんまりアイツらの力は借りないようにしてたのさ。

 だが他の国や豪族やらは連中を積極的に雇ったし、おまけに一旦敵として向かい合うと恐ろしく強くて手ごわい相手になったんだ…あの女の手下共は。


 そう、女だったんだよ、連中の 王様 はな。


 その部族ってのがなんと俺様の国以上に武断主義の実力主義でよ、数年に一度の武術試合で部族の長を決めていたんだと。

 でまあその王座決定戦であの女が勝ち残ったのが、なんと十二だか十三歳の時だってんだから驚きじゃねえか!

 それ以降あの女は二十年以上、一度も敗けずに王の座を守り続けていたそうだ。

 それだけじゃあねえ、アイツは為政者としても有能でな、単なる部族に過ぎなかったモノをかりそめにも「国」と呼べるような代物にまで育て上げやがったんだ。


 だがそうなると、俺ら他の国々としても放っておく訳にはいかなくなる。

 あ? 何でかだと?? そりゃ決まってるだろうがよ、そんな有能な女王様に支配された傭兵専業の国なんざ、たとえそれがどんなに小さくても周りにとって脅威以外の何もんでもねえ。

 …もちろん俺の国にとってもだ。

 いずれはあの女と本気の戦争をしなきゃいけなくなるのは確実…となればだ、相手が今以上に大きくなる前に、そして俺の国が十分な兵力を蓄えた時点で、一気に攻め滅ぼすのが最善策だ……と思ってたんだよな、あの時は。

 

 ああん? つまりお前は負けたのかって…そりゃオメエ、この姿を見りゃ分かるだろうがよ?(大笑)

 いやもう本当にボロ負けだよボロ負け!

 相手が少数だからって油断する気なんざ毛頭ねえ、本気の数と戦力を揃えた大軍勢が…あっさり敗北しちまったのさ。

 俺だって自分の側が少数の相手がまともに正面からぶつかる訳はねえ、必ず奇襲なり夜討ちなり仕掛けて来るとは思ってたんだがね? なんと連中、想像のナナメ上を行きやがった!


 …なに? もしかして崖か何かの上から駆け下って来たのかって……オイお嬢ちゃん、何でそれを知ってるんだ……ナニ大軍を撃つには一番効果的だ? そりゃ確かにそうだがよ、ああいうのは反則って言うんじゃねえかなあ?

 

 …店主のお嬢が言う通り、奴らは進軍中の山道で崖の上から駆け下って来やがったのさ。

 別に俺らも山の上の方を警戒していなかった訳じゃねえ。

 だがいくら上から襲うといっても、それが出来る場所と出来ない場所ってもんがあってだな…まさかあんなとんでもなく急な斜面を、それも矢を射かけながら駆け下りて来るなんざ、ハッキリ言って正気の沙汰じゃなかった。

 おまけに駆け下りて来た敵の先頭にいたのが、よりにもよってあの女…そう、敵の女王様だと知った時は思わずアゴが外れそうになったね俺は。


 あっという間に軍勢は瓦解、敵が一気に斬り込んで散々暴れ回られてる間に、行軍方向から敵の増援まで来やがった。

 止むを得ず撤退…したかったんだが、完全に混乱した戦場からは撤退したくても出来ない有様でな、俺様も奮戦したんだが結局はあの女に…そう、敵の女王様にぶっ飛ばされて捕虜になっちまったんだ。

 そこからはもうなし崩しの展開だったな。 あの女は俺を捕虜にしたままで一気に俺の国まで攻め込みやがった。

 王である俺がいない上に大半の兵士が王都を離れていたせいで、俺の王都はあっさりとあっけなく陥落しちまった。

 そしてその後、王城を占領したあの女王は俺たちを前に要求しやがった。


「この国は今日から我々のものだ。 ついては王権の速やかな移譲のために正式書類に署名してもらいたい」


 …いやちょっと驚いたね俺は。

 てっきりこの場で首を刎ねられるかと思ってたのに、まさか傭兵やってる蛮族国家側からそんな『文明国』みたいな要求されるとは思ってなかったからな。

 けどそれならそれで、こっちにも『逆転』の目が残ってると思ったんだ。

 …え? 何故かって? そりゃつまり文明国のルールでやるってんなら、こっちにもまだ打つ手が残ってるってことだからさ。


 だから俺は堂々と言ってやったよ「ならばその内容を詰めるための交渉をさせて欲しい」ってな。


 …正直言って賭けだった。

 こっちは敗戦国でしかも囚われの身、なのに図々しくも『交渉』だなんて自分の方から口にしたんだからな。

 だが俺は、相手がこの要求に応じると確信していた。

 何故かって? そりゃ奴らが『まともな文明的手続き』なんぞ持ち出して来たからさ。

 要するに国家として依って立つ『正統性』ってのを欲していたからだな。

 何で蛮族国家がと思うだろうが、その辺は向こうの女王様のお考えだったそうだ。

 要するにあの女にとっては俺の国の併吞なんざただの一里塚で、今後自分たちの国をもっと強く大きくするために、そういったややこしい手続きなんぞも身につけておく必要があると判断してたんだそうだ……後から聞いた話だがな。

 そしてもう一つ、あの女がこっちの話に応じると判断した理由があった。

 

 …何だと思う? あの女の目だよ目!

 たとえ俺が、俺たちが何を企もうが何を仕掛けようが、絶対にそれを叩き伏せて見せるという意思と自信を込めた目だった。

 正直ゾクゾクしたね俺は♪ ああいう目で見られると背筋に走るモンがあるんだよな…ナニ変態? ほっとけ‼

 とにかく俺は向こうが作ってくれた機会を最大限利用して、こっちの要求を並べ立てた。

 まず国が向こうに併呑されるのは受け入れる…これはもう仕方ないし、それすら拒絶すればこっちは命がないだろう。

 その代わり、こちら側の重臣や将軍、指揮官たちの命も保証する事…これはあっさり受け入れられた。

 要するに『人的資源』て奴を必用としてるからだと、あの女自身がそう言いやがった。


 そしてその次が問題だった。

 え? 一体どんな要求をしたかって?

 いやなにね、俺を国王のままでいさせさせてくれって要求したのさ♪

 ……なに、いくら何でも図々しいだ? まあ普通に考えればそうだろうな(爆笑)

 けどな、決してそれほど虫のいい提案でもなかったんだぜ?

 何故なら俺が王様のままで、その上にあの女が王の上の王、つまり『皇帝』として君臨してもらいたい…そう提案したのさ。

 なに? 皇帝ってなんだって…? え? 知らない? あ、店主のお嬢は知ってるのか、そうそう、王が複数いて、更にその上に君臨する王様のこったよな?


(…なあおい騎士団長さんよお? 一体あのお嬢は何者なんだ?? 絶対普通の酒場の主とかじゃ…へ? 自分にもよく分からん? …さいですか)


 つまりはあの女が俺の国や征服した周辺国全ての上に立つ王の上の王になり、俺はその王配…つまりは新たな女帝様の婿となることを提案したのさ。

 …なにそんな虫のいい話を受ける訳ないだろう?

 ところがどっこい、なんとあの女はその申し出を二つ返事で受けやがったのさ。

 ああ、誰もが驚いていたさ。

 俺の家臣たちも女王の家臣たちも、目ん玉が飛び出しそうな顔だった。

 顔色一つ変えていなかったのはたぶん、あの女と俺の二人だけだっただろうな。


 要するにだ、あの女も俺様も勝負の落としどころで同じ意見に達したんだよ。

 あの女は新しい国を作りたい。 だから無駄な争いは極力抑えて事を収めたい。

 この俺様は命も惜しいがそれ以上に国が惜しい。 せっかくここまで大きくした国なんだぜ? 無条件で持って行かれるのはちょっと勘弁して欲しかったのさ。

 じゃあどうするか? その解決方法が俺とあの女との 結婚 だった。

 早い話、俺とあの女が結婚すれば国と国とが一つになるのも当たり前だし、今まで俺たちが征服して来た国も同じことだ。

 その上であくまでも一番上に立つのはあの女で、俺はその下って形を作れば勝った方のあの女の家臣たちも文句はねえし、俺の家臣たちだって命が助かるなら不満はあっても異論は出ないだろう。

 

 お互いの家臣たちはな。


 だが俺とあの女の腹の中はそうじゃなかった。

 俺は命がある以上、黙ってあの女の下僕になるつもりはなかったし、あの女はあの女で俺の腹の内なんざ最初からお見通しというか、どうやって自分に牙を剥くつもりなのかと楽しみにしてやがったのさ……いやまったくたまらねえ女だよな、ああいいうのってよお♪

 なに? それでお前は一体どんな風に牙を剥いたのかって…?


 決まってるだろ? 初夜の床だよ、初夜の床!

 結婚する以上は夫婦の契りを交わすのは当たり前だろ?

 そこでお互いの 優劣 をキッチリつければ互いに文句はないだろうってことさ。

 …ナニ、男がそれやるのは卑怯だ?

 いやそうは言ってもよ、俺様だって命ギリギリの崖っぷち勝負だったんだぜ?

 何せ自分の国と命を賭け金にした大博打だ、やれることは何だってやる気だったさ。

 そして俺とあの女は目出度く初夜の床に入った…は? ああ、結婚式とか披露宴とかは後回しでな、話が決まったらさっそく夫婦の営みをしようじゃないかと…なんとあの女の方から言い出したんだよ。

 

 …で? どうなったかだって?

 そりゃもう見事なまでに俺様の完敗さ(笑) いやもうほんとに、見事なまでにしてやられたよ(大笑)

 相手を寝床の中でひいひい言わせてやろう思ってた俺の方が、見事なまでに相手に弄ばれてひいひい喘ぐ破目になったんだからよ。

 

 夜が明ける頃には、俺は尻の毛どころか魂まで抜かれちまってた……


 …で、それからどうしたかって?

 負け犬が意地汚く元の椅子にしがみつくってのは、俺様の主義に反するからな…国を出ることにしたよ。

 一応諸国の視察って名目だけもらって、足の向くまま気の向くままの気儘な物見遊山をさせてもらってるって訳さ♪

 なに? 仮にも王配の立場でそんなのアリかだって?

 まあその辺はあの女帝様の懐の深さというか、大ざっぱなところというか……いい女だよなあホントに。

 …なに惚気? いいじゃねえかよそれくらい♪

 おかげ様で今の俺は、自由気儘な吟遊詩人のホラフキンさまってな♪


 

 



「中々面白えホラ話だったじゃねえか、なあマコトよ?」


 吟遊詩人のホラフキンが語り終え、その謝礼にとマコトが振舞ったエールや秘蔵の肴まで散々飲み食いし、店を出ていった後だった。

 ハルツの感想を聞き流しながら、マコトは何か考え込んでいるように見えた。


「…何か気になるのかあの男が?」

「まあ…ね。 でもたぶんボクが考えても意味がないし、はかせだって分かるかどうか…」

「はあ? 何だそりゃ??」

「大したことじゃないよ。 それよりあの人の話って、もしかしたら作り話じゃないかもね」

「はあ? …おいおい、さっきの奴の『身の上話』が本当だってのかよ?」

「ちょっと気になる部分があったし、それに…気付いてたハルツ? あの人、最初からボクのことを女の子だって気付いてたよ?」

「ああ、確かにただもんじゃねえのは身のこなしから分かってはいたけどよ」

「それにまさか『酒盗』を美味しそうにつまむなんて、ホントただ者じゃないでしょ?」

「あー、あのジャンの親父の網元のジジイしか口に入れねえってゲテモノだろ? まさか他にもそれを好むモノ好きがいるとはねえ…」

「あれを好むなんて、よっぽど海産物が獲れる処に国がないとおかしいんだけどねえ…女体盛りまであったそうだし」

「…俺にはオメエの言ってることも、さっぱり分からねえよ」





「…いやいやいや、何とも凄げえ小娘がいたもんだぜ…なあ、ヌケにヤネよ?」


 ゴンベエを出た後、少し歩いてからそう呟いたホラフキンの独り言に、物陰の闇から返事が返って来る。


「何でそんな危険な相手の棲家に入るーんーでーすーかー、この廃王陛下はー? 見た目はただの小僧だったけど、全く隙が見えなかったじゃないですか、あーのーばーけーもーのーはー」

「怖いですねー、あんな危険な小娘のいる国からはさっさと立ち去るべきですねー」


「まー、そう言うなって♪ ところで本当なのか? 隣の公国の連中が、もうすぐこの国に攻め込むってのは?」


「まず確実かーとー。 公国側の前準備は明らかに、この国の全土を制圧しようという前提のものでーすーしー、あの『聖剣将軍』までもが、動く準備をしているとのこーとーでーすー」

「普通に攻めても千日手になる地形条件なのに、一体どうする気なのかは分かりませんけど、本気なのは確かみたいですねー?」


「へええええ…一体どうする気なのかねえ?」


「さーあー? 一体どうやってこの国を攻め落すつもりなーのーやーらー? あの大公国の兵力から見て、正面からは絶対に不可能なはーずーでーすーがー?」

「どっちにせよ、この国にとどまるのは危険じゃないですかねー?」


「どうかな? いざとなればあの小娘…いや勇者サマが立ち上がるだろうし、どんな結末になるか見物じゃねえかオイ?」


「確かにあの娘は噂通り只者ではないと見ーまーしーたーがー?」

「もしや廃王様は我らが女帝陛下とこの国…いや、あの『勇者』がぶつかる可能性があるとー?」


「…出来れば見たくねえなあ、そんなモンはよ」


「はーいー?」

「そりゃまた何でー?」


「もし仮にアレとウチの女帝様がぶつかったりして見ろ? 一体どうなるのか分からねえのかお前たちは?」


「はーてー???」

「どうなるんでしょー????」


「決まってんだろ? 男なんぞこの世に必用ねえってことが、世間にバレちまうんだよ」




 第8話 終わり



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