序章 動乱の終わり
動乱が鎮まった日の夕方…『勇者』は一人、沈む夕日に映し出された王都の景色を眺めていた。
「こうして見ると案外こぢんまりとしてるんだな、この都は」
「ほう、其方はもっと大きな都を知っているのか?」
背後からかけられた言葉に『勇者』は振り向く。
「うん、ボクがいた国の首都…都はもっとすごく大きな所だったからね、騎士団長」
「ふむ…では其方はいずれはその国に戻るのか?」
「さあ? そもそも戻れるかどうか分からないから」
「ではどうだ、この国と王都を護る騎士となって生きて行くというのは?」
呑気に肩を竦める『勇者』に対して、騎士団長と呼ばれた男は自分の期待を込めてそう問いかける。
だが『勇者』はその期待に応じる意思はなかった。
「ボクの役割…と言ってよければ、それはもうここで終わりだよ。 少なくともこれから先の問題にボクは何の役にも立たないだろうし、関わるつもりもないよ」
あっさりと申し出を断られた『騎士団長』だが、それでも目の前の『勇者』を諦め切れない…諦める訳にはいかないという思いが彼にはあった。
「其方は少し自分の価値を安く見過ぎているな。今度の動乱を収めるにあたって其方がどれほど重要な役割を果たしたか…城の主だった人間なら誰もが認めるところだぞ?」
二つに割れ、内乱一歩手前まで追い詰められたこの国を救ったのは、紛れもなく自分の目の前にいる『勇者』なのだ。
それを何の報いも地位も与えずにという訳にはいかない。
それが騎士団長の信念であり、常識でもあった。
だがそれは『勇者』にとっての常識ではなかった。
自分はたまたま通りがかった場所で騒動に巻き込まれ、そこで知り合った人や自分自身の身を護るために戦ったに過ぎない。
別段王国の未来にも、栄誉ある地位や報酬にも興味はないのだ。
自分がこれ以上この場所にいても余計な問題を増やすだけなら、さっさとこの場所から立ち去るだけだ。
「まあ…しばらくあちこち見て歩きたいから、報酬代わりに当座の路銀くらいは貰っていこうかな?」
悪戯っぽい表情でそう言った勇者に騎士団長は苦笑して応える。
「国を救った報酬が路銀か、全くその方は…だが『あの方』には何と告げるつもりだ?」
その言葉を聞いた勇者の顔に初めて困ったような表情が浮かぶ。
「…ボクは傍にいない方がいいんだよ。 どの道ずっと一緒にいられる訳じゃないんだし」
そう言った勇者の顔はそれ以上の説得を拒んでいた。
「…それで、この先何処に行くつもりなのだ?」
「そうだね…まずは自分に何か出来る場所でも探そうかな?」
そう言って勇者は、初めて楽しそうな笑顔を浮かべた。
序章 終わり




