紛糾する会議
シリル様とジーク様の案内で、私たちはお城の中に通された。
他国の要人の方々が集まっているということで、お城の中は物々しい雰囲気で、警備兵の方々が扉の前などそこここに並んでいる。
アレス君や、ディクセンの方々を連れてきてくれた他の飛竜たちはラムダさんが見ていると言ってくれた。
ファイサル様と一緒にいなくて良いのかと思ったけれど、ファイサル様はもし何かあったとしても私やジュリアスさんがいるから大丈夫だと言って笑っていた。
ラムダさんが久々にリュメネちゃんやヘリオス君に会いたいと言ってくれたので、王都の西の端の広い緑地帯にいるから会ってきても大丈夫だと伝えた。
ラムダさんはアレス君や、他の飛竜のみんな三頭を連れて、ヘリオス君とリュメネちゃんとアリオン君の元へと向かうという。
全員合わせて飛竜が七頭になってしまうけれど、クロエ錬金術店のお庭は広いから、大丈夫よね。多分。多分、だけど。
お庭に七頭の飛竜。すごく圧巻だと思うの。見たい。
会議が終わったら、すぐに見に行きたいわね。
ヘリオス君やリュメネちゃんはもちろん可愛いのだけれど、最近お庭で寝ているアリオン君も可愛いし、なんとなくプライドの高そうなアレス君も可愛いし、他の飛竜のみんなも、よく知らない子たちだけれど可愛い。
ジュリアスさんが飛竜をいっぱい増やしたいという気持ちが、なんとなく理解できてしまう。
通された立派な長テーブルのあるお部屋の椅子に、私とジュリアスさんは並んで座った。ジュリアスさんの隣には、ヴァイラスさん。私の隣には、ファイサル様がいる。
私の前にはディノス様が、その隣にはランバートさん。ディノス様はにこにこしながら私を見つめている。
にこにこしながら私を見つめたり、紅茶やお茶菓子を運んできてくれる侍女の方々を見つめたりしている。
すごく、女性が好きそう。十九人も奥様がいるのに、まだ女性が好きなのね。生粋の女性好きなのね、きっと。
ジーク様とシリル様が並んで座って、それぞれ簡単な挨拶をもう一度行うと、シリル様が口を開いた。
「それでは、……現状を、もう一度説明してくれるか、クロエ。ディノス王に我が国で起こったこと、ラシード神聖国で起こったことを、知ってもらうために」
「わ、私ですか……!?」
私だけなんだか場違いじゃないかなって思っていたのだけれど、まさかお願いされるとは思わなかった。
驚いてシリル様を見ると、ジュリアスさんが私の隣で腕を組んでシリル様を睨んだ。
「……阿呆に、説明ができるとでも思っているのか」
「ジュリアス、前々から思っていたが、クロエは女性だ。そのように罵るのはどうかと」
シリル様の至極真っ当な注意に、ジュリアスさんは舌打ちをした。
い、いつも通りだわ、ジュリアスさん。
今朝とか、昨日の夜とか、最近は夜も朝も、別人みたいに優しいのに。
割と頻繁に言葉や態度で伝えられるようになった愛情が、まるで幻でも見ていたんじゃないかと思えるぐらいにいつも通りのジュリアスさんね。
「おっ、なんだ? どういうことだ? ジュリアスの嫁ではないのか、クロエは。取り合いか?」
「……良い年をして、人の恋愛事情を見てわくわくするのはやめてください、陛下」
「恋愛が一番わくわくするだろう。戦い以外では一番楽しいのが恋愛だろう。お前ももう二、三人ぐらい嫁を娶れ、ランバート。ディクセンでは一夫多妻制だが、最近俺は、一妻多夫も良いのではないかと思っていてな。興奮するだろう?」
「しません」
快活に笑いながら、ディノス様が碌でもないことを言っている。ランバートさんが呆れたように嘆息した。
私の横でファイサル様が「一妻多夫……?」と訝しげに呟いている。
レイラさんが他の男性に奪われるのを常に心配しているファイサル様は、あまり考えない方が良いのではないかしら。
きっと心配しすぎて胃に穴が開いてしまいうと思うもの。
「え、ええと、それじゃあ、説明しますね……!」
私はこほんと咳払いすると、今まであったことをかいつまんでディノス様とランバートさんに伝えた。
私の後に、ヴァイラスさんがディスティアナ皇国で見た光景についても説明する。
ジュリアスさんはいつものように腕を組んで目を閉じていて、ディノス様は静かに頷きながら聞いていてくれた。
時折お茶菓子を摘んだり、紅茶を飲んだりしている。
その態度にはあまり深刻さはなかった。
「なるほど。おおよそのことは理解した。アストリアもラシードも、大変だったのだな。俺はその間ずっと、王宮の妻たちと睦み合っていたわけだが」
「その状況説明、必要ありますか、陛下。ディクセンの恥を晒すようなことをしないでいただきたい」
「ランバート、お前は子孫を残すことの重要性をまるでわかっていないな。俺は、非常に解せない。本当に、あり得ないことだと思っている。今の話に怒りを覚えるばかりだ!」
急にディノス様が怒った。
見た目はすごく強そうな方だけれど、穏やかで快活な方のように見えたのに。
ディノス様は眉間に皺を寄せて、だん、と、テーブルを拳で叩いた。
私はびっくりして、目を見開いてディノス様を見つめる。
「全く、あり得ん! なんなんだ、お前たちは!」
「どうされたのだ、ディクセン王。両国の不幸に憤ってくれているのか?」
生真面目な表情で、ファイサル様が尋ねる。
そんなに驚いてはいないみたいだ。むしろ、ディノス様の態度に感動しているみたいだ。
(でも、今、ディノス様は、お前たちは一体なんだとか、言ったわよね……)
ディノス様、国の不幸に怒っているというか、私たちに怒っているみたいなのだけれど。
「国の不幸などはどうでも良いことだ! 国の不幸を取り除き、民の暮らしを守ことが王の務めなのだからな! そんなものはもう終わったことだろう。お前たちが戦い勝利を得たのだから、それで良い。そんなことよりも、だ!」
「では、なんだというんです……?」
ジーク様が困ったように微笑みながら尋ねる。
シリル様はできるだけ口を出さないようにしているように見えた。今の国王はジーク様なので、一歩引いた態度をとっているみたいだ。
「良い年をした男がこれだけ集まっているのに、その上王族もいるというのに、アストリア王以外は皆、独身だと……!? 何を考えているんだ……! 俺など、十八の時にはすでに息子がいたぞ……!」
「陛下……人には人の事情があるのですよ……」
ランバートさんが困ったように言った。
私は、でもまぁ、確かに……と、思ってしまったので、心の中で反省をした。
いろいろ事情があるのよ、みんな。
「事情など……! シリル・アストリアは女に騙され、クロエを捨てたわけだ。言語道断だな。このように可憐な女性を捨てるとは、俺が拾いたかった……! 非常に残念だ!」
「……ええと、あの、はい……ありがとうございます……」
すごい勢いで残念がられたので、私はお礼を言った。
お礼を言ったら、ジュリアスさんに二の腕をつねられた。痛い。
女性の二の腕をつねるとかどうかと思う。ジュリアスさんは少し反省をした方が良い。
「その上、女に騙されて国を傾けたのはまぁ、良い。そんなこともあるだろう。好きな女になら騙されても良いと思うのが男というものだからな! だが、だからといって王位を弟に譲り、役割から逃げるとは……! 全く情けのない。しかしその義手は良いな、俺も欲しい」
ディノス様に義手を誉められたので、私はちょっと嬉しくなった。
それは私が作ったんですと、大きな声で言いたくなったけれど、我慢した。
ジュリアスさんに後で怒られる気がしたからだ。
「聖王ファイサルは、まぁ、良い。惚れた女がいるのなら早く結婚をしろ。そしてヴァイラス、お主は一体何をしているのだ。その年になって、弟、弟とは……! お主の罪についても、まぁ、良い。それはお主だけのものだ。俺が考えるべきことではない。しかし、愛した女を守りたいなら理解できるが、弟のためにだと……! しかしお主の義肢は良いな! 俺も欲しい」
ディノス様はヴァイラスさんをひとしきり叱りつけた後、義肢を誉めた。
私はにまにました。にまにましていると、ジュリアスさんに太腿をつねられた。痛い。
「そして、ジュリアス。お主だ。こんな可憐な女性と暮らしていて、子供一人いないのか? 嘆かわしいことだ……! まさか、金が足りないのか。子育てには色々と入り用だからな。戦が終わったら、俺が祝い金をやろう。お前のような強い男は、たくさんの子を残すべきだ。俺と同じようにな!」
「陛下……今の話、異界の門の悪魔や天使、そして、天使の子であるクロエさんの話を聞いた感想が、それですか」
ランバートさんが頭を抱えている。
ディノス様は腕を組んで、椅子にふんぞりかえった。
「そんなことはどうでも良い。難しいことを考えるのはお主の役目だ、ランバート。ディスティアナに敵がいる。我らはそれを討つ。単純な話ではないか。アストリア、ラシード、ディクセンの三方向から、ディスティアナに進軍をする。目標は、皇都ハルモニア。やるべきことは、ディスティアナの城の制圧だ」
「脳筋め……」
「何か言ったか」
「いえ、何も」
「それで、出撃はいつだ? ディクセンの騎馬隊は、いつでも準備が整っているぞ。今すぐでも構わない。有事に備えて、常に鍛えているのでな」
ディノス様はまるで明日の予定を話すかのように、そう言った。
ファイサル様が感動したように「なんと力強いことか……」と、呟いた。
ジュリアスさんのご機嫌がとても悪くなっているのを、ひしひしと感じる。
貰えるものは貰いたい私は、お祝い金は欲しいわねと、ちょっと思った。
長らくお付き合いいただいてありがとうございます。
後少し…!といってもまだ長いんですが、お付き合いくださると嬉しいです!




