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【書籍化】捨てられ令嬢は錬金術師になりました。稼いだお金で元敵国の将を購入します。  作者: 束原ミヤコ
天才美少女錬金術師はお金では買えないものを手に入れます。

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国王ディノス・ディクセン




 ファイサル様から連絡が来たのは、ヴァイラスさんに義肢を作ってから数日後のことだった。

 その間、ヴァイラスさんはクロエ錬金術店の広い庭で、アリオン君との再会を喜び合ったり、ジュリアスさんと手合わせをしたり、義肢を変形させる訓練をしたりしていた。

 私はその間、ナタリアさんに貰った素材で錬金物を作っていた。

 ヴァイラスさんと手合わせをするジュリアスさんに「結構面倒見が良いんですね」と私が感心して言うと、ジュリアスさんは「体が鈍るよりは良い」と短く返事をしていた。

 戦いが始まる前の日々はいつだって平穏で、とても静かだ。

 このまま変わらない毎日が続くのかと、思ってしまうほど。

 夜になると、ジュリアスさんは私を抱きしめて眠った。その腕の中にいると、不安も、心配も、全て薄れて、きっと大丈夫だと思うことができた。

 一年後に、ジュリアスさんと髪の毛を一緒に切って、新しい生活に役立つ錬金物を売ってお金をたくさん稼いで、飛竜温泉を作って、それから、ジュリアスさんやヘリオス君と一緒に世界の果てまで旅をする。

 未来の約束を、ジュリアスさんとたくさんした。

 だから、私の、私たちや、私の大切な人たちのささやかな幸せに満ちた生活を、誰にも暴虐に奪われたりはしたくない。

 私は、大丈夫。

 一年後の今頃にはきっと、今のことを、笑って話しているはず。そうだと、良い。


 私とジュリアスさんとヴァイラスさんは、シリル様に呼ばれてアストリアのお城へと向かった。

 ナタリアさんも呼ばれていたけれど、「話はクロエが適当に聞いておいて頂戴。私がやるべきことは、戦うことだけ。そのほかのややこしいことは、クロエに任せるわ」と言って、相変わらずの散らかったお部屋のソファで寝ていた。

 エライザさんはいつも通りお店を開いていて、アンリ君はコールドマン商会の私兵を引き連れて、ロジュさんの傭兵団と共に国境の街へと向かったと教えてくれた。

 アストリアの城は、アリザとメフィストによって崩されてしまい、まだ復旧の手が回っていない。

 瓦礫はどけてあるので、何もない広場と、その奥には、今は主に使用している無事だった二の城が残っている。

 何もない広場には、ラシード神聖国の竜騎兵の方々と、ラムダさん、ファイサル様の姿があった。

 堂々とした佇まいのアレス君の前に、ファイサル様がいる。

 アストリア王国では飛竜の兵団を見ることはないので、ラシード神聖国で見慣れたはずのその姿は、余計に荘厳に感じられた。


「クロエ! ジュリアス、久しいな!」


「ファイサル様!」


 ファイサル様は私たちの姿に気づくと、すぐに嬉しそうに微笑んで名前を呼んでくれた。

 ラシード神聖国でお別れをしてからそこまでの日数は経っていないけれど、なんだかとっても懐かしい。

 ファイサル様に駆け寄ろうとした私の首根っこを、ジュリアスさんが捕まえた。

 首根っこというか、黒いエプロンドレスの襟首、というか。

 首がしまって、うぇっ、っとなる私は、涙目でジュリアスさんを睨んだ。

 私に優しいんじゃなかったのかしら、ジュリアスさん。愛する恋人の襟首を掴むとか、いつもと同じなのではないかしら。


「ファイサル。ラシードに出向くのかと思っていたが、お前たちがアストリアに来たのか」


「ジュリアス、どうしたんだ。お前から俺に話しかけてくれるとは、何か悪いものでも食べたのか……?」


 うめく私を放っておいて、ファイサル様の正面に私よりも先に向かったジュリアスさんがファイサル様に話しかけると、ファイサル様は驚いたように目を見開いた。

 訝しげに眉を寄せるファイサル様の気持ち、良くわかるのよ。

 ファイサル様はジュリアスさんをお友達だと思ってくれているみたいだったけれど、ジュリアスさんはいつものように素っ気なかったものね。


「そんなことはどうでも良いだろう。話すべきことは、ほかに沢山ある」


「……おお、いつもと同じだな。かえって安心する。そう思わないか、ラムダ」


「ジュリアス殿の愛想が良くなるなど、天変地異が起こるのではないかと不安になりますからな」


 腕を組んで面倒臭そうに言うジュリアスさんに、ファイサル様とラムダさんは顔を見合わせて、うんうんと頷き合った。

 ファイサル様たちの前にはすでに、シリル様と、弟君であり国王陛下のジーク様の姿がある。

 ジーク様はシリル様に面差しは似ているけれど、小柄で線の細い印象の方だ。

 シリル様は昔から剣や馬が好きだったけれど、ジーク様は本を読んだり、文字を書くのが好きな方だったと記憶している。

 シリル様の婚約者だった時代に、少しだけ言葉を交わしたことがある。

 ご挨拶程度だけれど。


「ファイサル様、お久しぶりです! レイラさんや、皆さんはお元気ですか?」


 ジュリアスさんから少し遅れて、私もファイサル様のところまで辿り着いて、ペコリと頭を下げた。

 私の少し後ろをヴァイラスさんが静かに歩いてくる。


「あぁ、クロエ。皆、元気だ。レイラもルトも、クロエに会いたがっている」


「私も会いたいです。ジュリアスさんも言っていましたけれど、てっきりラシードに呼ばれるのかと思っていました」


「ラシード神聖国は、砂漠と不毛の大地が続く場所だ。守りには堅いが、他国を攻めるには、適した土地ではない。竜騎兵であれば地形などは些少の問題だが、アストリアや他国は騎馬兵が主流で、竜騎兵を抱えているのはラシードのみだろう。兵を集める場所としては、ふさわしくない」


「ディスティアナ皇国は、全ての小国と隣接している大陸の中央にあります。戦を仕掛けるとしたら、ラシード神聖国に皆で集まり向かう必要はないのです」


 ファイサル様の説明を、ラムダさんが補足してくれる。

 ファイサル様もラムダさんも、立派な鎧に身を包んでいる。いかにも、聖王と騎士という感じがして格好良い。

 私は自分のエプロンドレスにチラリと視線を落とした。

 やっぱりそろそろ、ナタリアさんおすすめのセクシー美魔女服にするべきなのかしら。

 エプロンドレスは、可愛いのだけれど、場違い感がすごい。


「そのような理由で、シリル殿やジーク殿に無理を言って、会談の場をアストリアの城にしてもらった。大切なのは、クロエやジュリアスがいること。それから、ディスティアナの皇太子である、ヴァイラス殿。貴公もだ」


 ファイサル様が言うと、ジーク様は「このような、荒れた城を見せてしまって、お恥ずかしい限りです」と丁寧な謝罪の言葉を口にした。

 それから、飛竜から降りて真っ直ぐ堂々とこちらに歩いてくる、男性二人の姿に視線を送ると、深々と頭を下げる。

 ジーク様とシリル様が礼をするので、私も慌てて頭を下げた。

 ジュリアスさんは腕を組んだままだった。

 良く考えたらこれだけ王族の方々が揃っているのに、いつも通りのジュリアスさん。度胸があるわよね。


「此度のわが国やアストリア王国で起こった動乱ついて、ディスティアナ皇国の異変について、各地の国に協力を求める文を飛ばしていた。志を共にし、協力の手を上げてくれたのは、ディクセン王国。こちらは国王ディノス・ディクセン殿だ」


 ファイサル様が、大柄な男性を紹介してくれる。

 剥き出しの太い腕、首元にふわふわのあるマント。剥き出しの腹筋。

 それはもう皮膚の露出が多めの方だった。

 ファイサル様やジュリアスさんよりも少し年上、ぐらいに見える。

 長い黒髪は獅子のようで、意志の強そうな眉と、高い鼻梁の、男らしい迫力のある方だ。

 ロキシーさんのお店に座っていたら、強面の冒険者の方かしら……と勘違いしてしまいそうな、どことなく野生的な方だった。


「ディノス・ディクセンだ。これは、俺の腹心のランバート。俺は小難しい話は苦手でな。そういったことは、このランバートが聞く」


 ディノス様の隣で、ディノス様よりもやや細身の、片眼鏡をかけた男性が丁寧な所作で礼をした。


「大陸の危機だというのに、イルザリオとマイオスはだんまりか。全く情けのないことだな」


「仕方がない……とは思う。マイオス共和国は、王が倒され、市民から国の代表が選ばれるようになってまだ日が浅い。いまだに、国内は落ち着いていないだろう。イルザリオ王国は、そもそも争いを嫌う。……確か、女王の治める国だったかな。平和主義者だ」


 ファイサル様の言葉に、ディノス様は呆れたように嘆息した。


「自国がどうあれ、主義がどうあれ、大陸そのものがなくなったとしたら、何の意味もないだろう。我がディクセン王国は、ディスティアナと戦うぞ。我らが勇猛な兵の力を見せてやろう。……というか、だ。そこにいるのは、黒い雷鳴ではないか。こんなところで会うとは!」


 黒い雷鳴。

 初めて聞いた名前ね。

 ディノス様の視線は、案の定ジュリアスさんに向いている。ジュリアスさんの嫌そうな舌打ちが聞こえた。


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒い雷鳴(・∀・) ジュリアスさんの二つ名にはもれなくヘリオス君もついてくる。 [気になる点] どーしても他のオトコからクロエちゃんを遠ざけたい、と。 毎日のようにマーキング(笑)して…
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