変形する義肢とヴァイラスさん
うずくまるヴァイラスさんの片腕が、大きく膨らんで、人の腕の形となっていく。
「すまな、い、クロエ……足も、頼む、一思いに……っ」
「えっ、ええ、でも、痛いですよ……!?」
「問題ない……!」
ヴァイラスさんがうめきながらも付け根の少し下あたりの足の切断面を私の前に差し出してくるので、私はジュリアスさんから義足を受け取ると、えいや、と、その切断面に押し付けた。
手と同じように、丸いぷにぷにしたものから細い神経のようなものが多量に伸びて、ヴァイラスさんの肉の中へと潜り込んでいく。
足の丸いものも大きく膨れて、足の形になっていく。
付け根から切断された足には、骨と、神経、筋肉と、関節。様々なもので形成されている。
ある程度の硬度も必要だし、柔軟性も必要。
それらを全てカバーしてくれるのが私の作った──。
「ちゃんと定着してくれましたね、スライム型変形義肢、青。うん、格好良いです」
「……ぐ、……っ」
ベッドの上では、ヴァイラスさんが脂汗を額に浮かべながら、体を震わせている。
欠損の範囲が大きかったから、痛いわよね。
神経が密集している場所ほど、錬金義肢は体と一体化するときに痛いのだけれど。
そう思うと、ジュリアスさんの目も、義眼をはめたときにかなり痛かったはずだ。
ジュリアスさんはあまり痛がっていなかった気がするけれど。
それにしても、新しい義肢を作るたびに義肢自体が強力になっていくので、ジュリアスさんの義眼にはあまり細工を施さなかったのが申し訳ないわね。
そんな気持ちを込めて、ジュリアスさんを見上げる。
「どうした?」
「……ジュリアスさんの義眼には、遊び心が足りなかったと思って。目から、赤い光線とか出せるようにしたらよかったな、と思いまして」
「赤い、光線」
「今からでも、作り直しましょうか。多分、格好良いです」
「このままで良い」
ジュリアスさんが呆れたように嘆息する。
格好良いと思うのだけれど。ちょっと残念。
「……すごいな。本当に、体が動く」
痛みが引いたのか、ヴァイラスさんがベッドから起き上がって床の上に立った。
動くことを確かめるようにして、光沢となんとなく透け感のある青い腕を伸ばしたり、手を握ったり、足で床を踏みしめたりしている。
「違和感もない。自分の足や手のように、感覚もあるのだな」
「ええ。感覚がないと、動かせませんからね。でも、痛みとかそういう刺激には鈍いです。スライム義肢というのは見た目がそれっぽいからスライム義肢と名付けただけて、別にスライムではありません」
「スライムではないのか」
ヴァイラスさんは自分の手をまじまじと見つめながら言った。
「はい。スライムではないですが、再生力と変化性の高い素材を使用していますので、根元から切断されない限りは再生してまたはえてきますし、たとえば、翼状にして、羽を刃物のように尖らせて、矢のように攻撃したりもできますし、足や手を、刃物のように変化させることもできます」
「変化……どうやって、変化させる?」
「基本的には、錬金物の力の発動は、言霊です。スライム義肢の場合は」
真剣な表情で私を見つめるヴァイラスさんを見上げて、私も真剣な表情で口を開いた。
「我が呼びかけにて変形せよ、魔力を帯びし左腕よ、その力を示せ! です。足の場合は、左足と言ってくださいね。あとは、変化させたい形を思い浮かべるだけで大丈夫です」
「……それは、必ず言わないといけないのか」
「はい。大きな声で格好良く言ってください」
「クロエ、街で流行っている、子供向けの勇者の話を読んだわね。エラちゃんが、なけなしのお給料で嬉しそうに本を買ってきたから知ってるんだけど、あの勇者は、お供の聖獣と合体して変身するのよね、確か」
ナタリアさんがくすくす笑いながら言った。
「その決め台詞に、似ているわね」
「ばれましたか。格好良いと思って」
笑いながら言うナタリアさんに、私は苦笑した。
最近街で子供たちが良く、変身勇者ごっこをしているのよね。
決め台詞を良く聞くから、つい、参考にしてしまった。
「……毎回、言わなければいけないのか、必ず」
「ヴァイラスさん、男の子は変身する勇者が好きなのです。大体好きです。だからきっと、アズール君も喜んでくれると思いますよ」
「そうか、そうだな。……ありがとう、クロエ。何から、何まで。……これで俺も、戦うことができる」
「まだ体、慣れないと思いますから。シリル様がお城に戻って、ファイサル様と連絡をとってくれていると思うので、私たちがどうしたら良いのか指示があるまで、ゆっくり体を慣らしておいてくださいね。クロエ錬金術店のお庭は広いですし、アリオン君もいますから、体を動かす練習をしに来ても良いですよ」
「一時間、五千万ゴールドだな。無事国を取り戻せたら、義肢の代金と共に、ディスティアナの国庫から払え、ヴァイラス。義肢は、一億だ。お前を助けることを含めると、ざっと、二億で良い」
「それは、もちろんかまわないが……」
「ジュリアスさん……どういう計算したら、その代金になるんですか」
いつも通りの表情でジュリアスさんが言う。
冗談なのか本気なのか、よくわからないわね。
二億ゴールドとか本気かしら。そんなにお金が手に入ったら、もう一生働かなくて良くなってしまうのではないかしら。
「土地を買って、飛竜が入ることができる温泉宿を作るとお前は言った。これからのことを考えれば、金は多い方が良い。飛竜も増やす必要があるからな」
「ヘリオス君とリュメネちゃんと、その子供の飛竜だけじゃなくて?」
「あぁ」
「どうしてそんなに……アストリアに飛竜の軍でも作るんですか?」
「いや。竜騎士は、生まれた子供を飛竜に乗せたいと思うのが普通だ。俺も、そうだからな」
ジュリアスさんは腕を組みながら、さらっと、当たり前みたいに言った。
私はその意味を理解して、顔を真っ赤に染めて、わたわたしながら両手を無意味にふった。
「……あ、……ええと、あ、あの、……っ、それじゃあ、ヴァイラスさんに義手も作りましたし、私は、今後に備えてナタリアさんにもらった素材で錬金物を作っておく必要がありますので、そろそろ……」
「クロエ、慣れろ」
「慣れません……!」
「仲良しねぇ」
「……ずっと、気持ちが張り詰めていたが、クロエを見ていると、なんだか力が抜けるようだな。良い意味で」
にやにや笑うナタリアさんの後に、ヴァイラスさんも少しだけ表情を和らげた。
「私はいつも、結構、真面目ですけれど……」
「帰るぞ、クロエ。……休息は、後、数日だろう。休めるときに休んだ方が良い」
ジュリアスさんが私の手をひくので、私は素直にそれに従った。
もう耳を引っ張られたり、無理やり抱えられたりしないのかと思うと、なんだか不思議な感じがした。
繋がれた手があたたかくて、無性に恥ずかしかった。




