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【書籍化】捨てられ令嬢は錬金術師になりました。稼いだお金で元敵国の将を購入します。  作者: 束原ミヤコ
天才美少女錬金術師はお金では買えないものを手に入れます。

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はじめてのプレゼント



 ジュリアスさんは、私の足元に片膝をついた。

 それはまるで、物語に出てくる、騎士みたいな姿だった。

 ジュリアスさんがそんなことをするなんて思っていなくて、私はどうしていいかわからずに、エプロンドレスのスカートを握りしめる。

 片膝をついて座ると、ベッドサイドに座っている私とちょうど視線が同じぐらいになる。

 ジュリアスさんはいつも、真っ直ぐに私を見てくれる。

 私の内面までを見透かすぐらいの、揺らぐことのない視線を向けられて、私の方が動揺してしまうことばかりだ。

 今日は、いつもよりもずっと緊張する。

 私は俯いていた顔を上げて、ジュリアスさんを見返した。

 視線が絡まる。

 ジュリアスさんの瞳に、今にも泣き出しそうな、情けない顔をした私がうつっている。


「……何も言わず、出かけて悪かった。お前が起きるころには、帰ってくるつもりだった。思いのほか、時間がかかった」


 ジュリアスさんが、私に謝った……。

 びっくりしてしまって、それと同時にやっぱり今までと違うことがわかって、ジュリアスさんが帰ってきてくれたことで安堵して、力が抜けていた体に緊張が戻る。


「先に魔法錠を外したのは、覚悟を決めるため。そこまでしなければ、踏み出すことも難しかった。……全てが終わったらと、先送りにしていた一歩だ。この戦いが終わったら……は、今時流行らない。その通りだな」


「ナタリアさんの言葉ですね、それ……」


「あぁ。ディスティアナとの戦いが終わってもし、俺が生きていたら……そう思っていた。生きるか死ぬかもわからないのに、……お前の枷にはなりたくない。お前が笑っていられる未来に、俺は存在しないとしたら。約束などは、無用のものだ」


「……ジュリアスさんらしくないですよ。私がいます。みんなも。だから……!」


「あぁ。その通りだな。俺は長らく、忘れていた。……誰かを愛することや、肩を並べることのできる友人や、導いてくれる、師の存在を」


「今は、たくさんいますよね……! ロジュさんや、シリル様……のことは、ジュリアスさん、嫌いですけど、ファイサル様や、ラシードのみなさん、それから、ナタリアさんやラムダさん。みんな、ジュリアスさんのこと、大切に思ってます。アンリ君だって、弟子にしてほしいって言ってますよ」


 みんなの顔が、浮かんでは消えていく。

 ジュリアスさんと共に暮らすようになってから、信頼できる人たちがたくさん増えていった。

 私一人では、駄目だったと思う。

 王都に捨てられた私は、ずっと一人で。男性を怖がって、他人を怖がって、お金しか、信用できないと思っていて。

 笑顔も、言葉も、全部作り物だったから。

 今は違う。

 いろいろなことがあった。一人ではどうにもならなかったことも、ジュリアスさんが一緒にいてくれたから。

 それから、みんなが、いてくれたから。

 今こうして、私は、生きている。


「あぁ。……クロエ」


「うん。私もいますよ。ずっと、います。ヘリオス君もリュメネちゃんも、ジュリアスさんの、家族、です……」


「……ムジークの元へ、行っていた。有耶無耶になった、闘技大会の賞金を貰いにな」


「ええと……ジュリアスさん、お金、欲しかったんですか? ロジュさんとの決勝戦まだ終わってないですけど」


「どの道、俺が勝つ。落ち着いたら決勝の闘技大会のやり直しをすると言っていたが、俺が勝つんだから、貰っても構わないだろう」


「ロジュさん怒りますよ、それ」


「お前は、ロジュが勝つとでも思うのか?」


「……そ、そういうわけじゃないですけど」


 今一瞬、不機嫌になったわね、ジュリアスさん。

 なんだかいつもと違うけれど、そういうところはいつも通りのジュリアスさんだ。

 

「それで、……金をもらって、ロバートのところに。百万ゴールドで買えるものを頼んだが、……あれは、話が長い。だから、遅くなった」


「買い物してきたんですか、ジュリアスさん。欲しいものがあったら、言ってくれたらよかったのに……」


 ジュリアスさんはローブのポケットから、小さな何かを取り出した。

 それは、指輪の形をしている。

 金色の指輪には、赤い小さな宝石が一つ埋め込まれている。

 それは私がジュリアスさんのために作った、赤い義眼に少し似ていた。


「クロエ、手を」


「は、はい……」


 指輪。

 指輪、よね。

 ジュリアスさんと、指輪。すごく似合わない。

 でも、今のジュリアスさんは、幼い頃の私が夢に見ていた、王子様みたいだ。


「……俺は、お前を愛している。今の俺にはなにもないが、お前と共にこの先も、永遠に、歩む許可を、与えてほしい」


 真摯な言葉が、静かな部屋に響いた。

 いつも不遜で偉そうで、強引で、横暴なジュリアスさんが、今はどこか、請うように、私を見つめている。


「っ、は、はい……の、のぞむところ、です……!」


 緊張しすぎて、なんだか間抜けな返答になってしまった。

 角膜に、涙の膜がはった。


「お前は……こういう時ぐらい、まともな返事ができないのか……」


「わ、私は真面目ですよ……き、緊張してしまって……」


 するりと、私の左手の薬指に、指輪がはめられる。

 ジュリアスさんの指には飛竜の指輪があって、絡めるように手を繋がれると、指輪の金属が触れあった。


「……私、私も、……ジュリアスさんが、好きです。……だから、嬉しくて。ごめんなさい、嬉しい、のに……」


 堪えきれなくて、涙がこぼれた。

 ジュリアスさんが、生きようとしてくれるのが、嬉しい。

 直向きな気持ちが、嬉しい。

 はじめての贈り物が、言葉が、言葉以上に伝わってくる気持ちが、全部。


「俺は、死なない。お前もな。……クロエ。お前が俺を、塵溜めから拾い上げた日から、俺は、お前だけを、……愛している」


 繋がれていない方の手が、私の涙をそっと払う。

 ぱたんと、私の体はベッドの上に倒れた。

 見上げた天井が、窓が、シーツや、壁が、ジュリアスさんの金色の髪で埋め尽くされる。

 当たり前みたいに唇が重なって、繋がれた両手に力が篭った。



決戦前にやっと、やっと素直になりました…長かった…

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― 新着の感想 ―
[一言] エンダァぁぁぁぁ!!!!!!!!!星5じゃ足りない!!!キタコレ!!!!!!!でも、戦いの前のプロポーズはフラグだからぁぁぁぁぁ!!!!!ふ⭐︎き⭐︎つ⭐︎
[良い点] めでたい! 2人の気持ちがハッキリして、読者としても幸せになれました! ジュリアスさん、色々我慢して溜めてただろうけど、クロエちゃん、大丈夫かしら(*´ω`*)大丈夫だろうな。ジュリアスさ…
[良い点] ただでさえない語彙力が、本格的に消えた(笑) なんて言ったらいいのか、とても幸せな話をありがとうございます!
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