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【書籍化】捨てられ令嬢は錬金術師になりました。稼いだお金で元敵国の将を購入します。  作者: 束原ミヤコ
天才美少女錬金術師はお金では買えないものを手に入れます。

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ジュリアスさんの本心



 私の腕を握っているジュリアスさんの姿と、その後ろで「キュ!」「クルクル!」と嬉しそうに鳴いているヘリオス君とリュメネちゃんの姿。

 私は唖然としながら、ジュリアスさんを見上げた。

 見開いた目から、ぼろぼろ涙がこぼれ落ちる。


「じゅ、ジュリアスさん、どうして……!」


「どうして……も、なにも。お前が寝ている間に、少し、出かけてきただけだ」


「私、てっきり、ジュリアスさん、居なくなったと思って……」


「何故そう思う」


 ジュリアスさんが呆れたように嘆息する。

 いつものお気に入りのゆるっとした黒いローブに身を包んだジュリアスさんは、帯剣もしていないし、特に何の荷物も持っていない。

 本当に、ちょっとそこまで散歩をしてきた、みたいな感じだ。


「良かったぁ……」


 安堵から、緊張して硬くなっていた体の力が抜ける。

 足がふらついて座り込みそうになった私を、ジュリアスさんは軽々と肩に担ぎ上げた。


「…………お前は、ヘリオスに乗ってディスティアナに行こうとしていたのか?」


「そうですけど……」


「何故」


 お部屋に向かって歩きながら、ジュリアスさんが淡々と尋ねてくる。

 私は肩に担ぎ上げられた状態で抗議した。

 勘違いした私も良くないけれど、ジュリアスさんも良くないのよ。

 ヴァイラスさんが空から落ちてきた翌日に、首輪を外していなくなったりするから――。

 それは、勘違いしちゃうじゃない。

 ジュリアスさんが悲壮な決意の元、ディスティアナに向かったって思うのも、仕方ないと思う。


「なぜって、それは、ジュリアスさんを助けるために」


「お前が一人でディスティアナに向かって、どうにかなると思っているのか、阿呆」


「なります! なるんですよ……! だって私、強いですから、なんたって私は……」


「天才美少女錬金術師だろう。知っている」


 ジュリアスさんは寝室に私を連れて行くと、ベッドに私を放り投げた。


「わぷ」


 奇妙な声をあげて、私はベッドに落ちて、ぼふりと弾んだ。ベッドは柔らかいけどちょっと痛い。

 ジュリアスさんはもう少し私に優しくした方が良いと思う。

 私を泣かせておいて、ベッドに投げるとかどうかと思う。


「……ともかく、ジュリアスさんがいなくならなくて、良かったです。あと少しで、ヘリオス君と一緒にディスティアナに突撃するところでした。危なかった」


「ヘリオスは賢い。お前の勘違いからの命令には従わないだろう」


「……さっきの私、ヘリオス君にとっては、急にどうしたのって感じだったんでしょうね、……困らせてちゃいましたね、すみません」


 私はベッドに転がって、深い溜息をついた。

 それからよいしょ、と体を起こすと、ベッドの端に座った。

 ジュリアスさんは寝室のテーブルの上に置かれているちぎれた首輪に、指先で触れている。


「……クロエ」


 ジュリアスさんが呆れた表情を一転させて、真剣な顔で私を見た。

 夕日みたいな赤い瞳と、青空みたいな青い瞳が私を見つめている。

 今までにない真剣さで私を見つめるジュリアスさんに、私はびくりと震えたあとに居住まいを正した。


「ジュリアスさん、何か、ありましたか……?」


 ジュリアスさんも大人だ。

 一人でお散歩に出かけたいときだって、あるわよね。

 今まで、黙ってどこかに行ってしまうことなんて、よく考えたら一度もなかったけれど。

 だから、余計に混乱してしまったのよね、きっと。


「ヴァイラスが目覚めたら、ディスティアナとの戦争になる。……お前と、話す余裕もないかもしれない」


「ええと……はい」


「首輪を千切ったのは――生きる覚悟を決めるためだ」


「生きる、覚悟……」


 ジュリアスさんは、静かな、けれどどこか熱の籠った声で言った。

 いつもと違う気がする。

 ジュリアスさんと私の間には、いつもどこか、少しだけ――見えない、薄い膜のような距離があったような気がするけれど。

 それは今は、薄紙を燃やしたときのように、穴が開いて、消えて行っているみたいに。


「……あぁ。俺は、お前の奴隷のままで良いと、言った。ディスティアナと戦い、オズワルドや悪魔に打ち勝ちお前の望む平穏を手に入れる。それが、俺の奴隷としての最後の役割だと」


「はい……それ、私、すごく……嫌です。……だって、それじゃまるで」


「あぁ。奴隷として、お前のために、生きる。それは……お前を守るために死ぬということと、同義だ。俺の生きる意味は、お前を守るため。そのためになら死んでも良い。……いや、多分、死にたい。そう思っていた」


「ジュリアスさん……」


 私は膝の上に置い両手をぎゅっと握った。

 それは――なんとなく、薄々気づいていた。

 ジュリアスさんは横暴だし、自分勝手だし、我が儘だし、とても強くて、ちょっとぐらいのことじゃ死にそうにない人だけれど。

 でも、生きることに執着していない。

 自分が傷を負うことに躊躇いが無くて、自分の体を犠牲にしながら、敵を仕留めたりすることを、平然と行うこともある。

 だから、私が傍にいなきゃと思っていた。

 ジュリアスさんは命を大切にしないから、私が、そばにいて見ていなきゃいけないって。


「クロエ。お前が傷つき、失われるぐらいなら、お前を守って俺は、死にたい。お前が、間抜けな顔で笑うことができる世界を守るためなら、死ぬことも厭わない」


 ジュリアスさんの心の内を、はじめてきちんと聞くことができた。

 けれど、私はそれを、多分知っていたんだと思う。

 ジュリアスさんの言葉は、やっぱり――と、心にすとんと落ちてきた。


「いつか、オズワルドと相対しなければいけないと、決着をつける必要があると、分かっていた。だから、確かに俺は、一人でディスティアナに向かおうと思っていた」


「そんなふうに、……その、大切に、思ってくれるの、嬉しいですけど。何度も言いましたよ、私。私も強いって。私もジュリアスさんを守るって、言いました……」


 守るために死ぬって覚悟を決められても、嬉しくなんてない。

 戦うのは、生きるため。

 みんなの、大変だけれどささやかな幸せに満ちた日常を、守るため。

 全部が終わったとして、ジュリアスさんがいなければ――そこに平穏なんて、ない。


「あぁ、そうだな。そう考え続けていたせいで、お前を不安にさせていたことには、気づいていた。……クロエ。だからもう、奴隷でいることを求めるのは、やめる」


 ジュリアスさんがちぎれた首輪を握りしめると、それは青い魔力の炎を立ち上らせて、燃え上がり、消えてしまった。

 私がはずそうと言っても、外してくれなかった、それ。

 私が嫌がることはしないと、制約がかけられている、奴隷の証のような首輪。

 あっけなくその首輪が消えてしまって、私はなんだか安心して、喉の奥につっかえていた空気を吐き出した。




 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] で、どこ行ってたんですか
[良い点] クロエちゃん怒って良いのよ? 考えてはいるみたいだけど、あんまり表に出さないですね、クロエちゃん‥‥良い子や‥‥。 ジュリアスさん怒らせるのは勿論怖いですけど、クロエちゃんを本気で怒らせ…
[良い点] クロエちゃんが言ってたけど、何か、やっと本当の意味で、二人の心が繋がったような気がする。 兵器として扱われてきたジュリアスさんだから、 死ぬのも怪我するのも頓着しないので、 クロエちゃんが…
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