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【書籍化】捨てられ令嬢は錬金術師になりました。稼いだお金で元敵国の将を購入します。  作者: 束原ミヤコ
天才美少女錬金術師はお金では買えないものを手に入れます。

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アンリ君の特技



 帰還の鍵によって開いた扉を抜けて、クロエ錬金術一号店(ちなみに郊外にある住居兼お店は本店)にずかずかと入っていく、ヴァイラスさんを乗せた担架を抱えたロジュさんとシリル様に、エライザさんは怯えたようにアンリ君の後ろに隠れている。

 エライザさんは今日はお祭りなので、クロエ錬金術店の外にテーブルを出して、商品を売っていたはずだ。

 子供たちに人気がある光って飛び跳ねるカエルとか。

 ふわふわ浮かんでぼんやり光る、まんまるい羊とか。

 ひたすら真っ直ぐ歩く、光るカルガモとか。

 全部光るのは、光る方が子供に人気があるからだ。

 子供だけじゃなくて、若いお嬢さん方にも人気がある。

 光る動物を腕に抱えているだけで、普段の二倍ぐらい可愛く見えるのだとか。自分が。

 お祭りは稼ぎ時だと、エライザさんは気合を入れていた。

 クロエ錬金術店の稼ぎがエライザさんやアンリ君のお給金と、ナタリアさんを養うお金に直結しているので、「クロエ、できるだけたくさん、安価で売れそうなお祭り向きの商品を作って頂戴!」と直談判しに来た時は、真剣そのものだった。

 それとやっぱり、商人の家に生まれたエライザさんなので、商人の血が騒ぐのかもしれない。


「クロエ、どういうこと、どういうことなの? け、怪我人、っていうか、死んでるわよ……! ナタリアさんが何かしたの!?」


 扉の向こう側から私の姿を見つけたらしいエライザさんが、私に向かって声を張り上げた。

 担架に横たわっているヴァイラスさんの姿を見て、「うぁぁぁ死んでる……!」と情けない声をあげている。


「何もしてないわよ、人聞きの悪い。エラちゃん、騒いでないで病人用のベッドの準備をなさい。アンリ。どう。手におえそう?」


 ロジュさんたちに続いて扉の中へと入ったナタリアさんが、てきぱきと指示をした。

 アンリ君は表情一つ変えずにヴァイラスさんを見下ろして、それから小さく頷いた。


「傷は塞いだわ。血が足りないのよね」


「了解しました。一階は……ナタリア様のせいで寝かせる場所はありませんから、申し訳ありませんが、二階へ。エライザ様、私のベッドに怪我人を案内してください」


「わ、わかったわ……!」


「私は、急ぎ人工輸液を確保してきます。極度の血液不足で低体温になっていると、輸液が困難になります。体を温めておいてください」


 エライザさんはロジュさんたちを二階へと案内して、アンリ君はすぐにお店から出て行った。

 ナタリアさんは「あー、やれやれ、疲れたわ」と言いながら、二階へは向かわずに、お店の奥にある散らかり放題の部屋のソファの上にその身を沈めた。

 皆が錬金術店に移動したのを確認してから、私はヘリオス君に「もし白い子が動けるようなら、一緒にお家に帰って待っていて」と伝えた。

 ヘリオス君は自信たっぷりと言った感じで「キュイ!」と返事をしてくれる。

 任せて! といった感じかしら。

 私は動かないジュリアスさんを引っ張ってクロエ錬金術店の中に入ると、帰還の鍵で出現した扉を閉める。

 扉は閉まると同時に消えて無くなって、帰還の鍵も消えてしまった。


 少し遅れて皆の後を追いかけると、二階の一室にある質素なベッドに、ヴァイラスさんは寝かされていた。

 エライザさんがありったけの毛布を上からかけている。

 ヴァイラスさんの眉間に深く皺が寄っている。死にかけてぐったり、とはまた違いそうな、眉間の皺の寄り方だ。

 もしかして、重いのではないのかしら。

 うん。重そう。


「エライザさん、少し毛布をかけすぎじゃないでしょうか……」


 さらに毛布を持ってきて重ねようとするエライザさんを、私は慌てて止めた。

 すでに、雪でできたカマクラみたいになりつつあるので、これ以上かけたら死んでしまう気がする。物理的に。


「で、でも、アンリがあたためておいてって言ったのよ」


「すごく、悪夢を見てそうな顔をしてるな」


 怪我人慣れしているロジュさんが、ヴァイラスさんの表情を観察しながら言った。

 のんびりしているわね。むしろちょっと、楽しんでいそうなのよね。

 ロジュさん、良い人なんだけど、怪我をしている男性に厳しい。部下の皆さんを筆頭に。

 ジュリアスさんは壁に背をつけて腕を組んで目を閉じていて、俺は関係ない、みたいな顔をしている。

 私がエライザさんを止めている間に、シリル様が毛布をどかしてくれた。 

 そうこうしているうちに、アンリ君が戻ってきた。

 どこまで行っていたかはわからないけれど、とても早い。

 これは多分、アンリ君がエライザさんの従者であり、コールドマン商会の私兵だったことにも関係しているのだろう。

 どういった仕事を請け負っていたかはわからないけれど、多分、暗殺者に近いのだろうとジュリアスさんが教えてくれた。

 私がシェシフ様と二人きりの部屋で押し問答していた時に、私を助けにこようとしてくれていたジュリアスさんは、王宮の中でアンリ君と一度戦ったのだそうだ。

 戦い方や魔法が、暗部のそれだと言っていた。

 そんなアンリ君も、エライザさんと一緒にクロエ錬金術店の店員さんとして頑張ってくれている。 


「みなさん、ありがとうございます。あとは、私に任せてください」


 大きな黒い鞄を持って帰ってきたアンリ君は、てきぱきと瓶に入った透明な液体に、長い管を突き刺した。

 管の先端には小さな針がついている。

 アンリ君は天井の木枠の出っ張りの部分にフックをかけると、瓶の外側についている鉄製の持ち手を引っ掛けた。

 宙吊りになった瓶が僅かに揺れて、中の透明な液体がタプタプと波打った。

 それからヴァイラス様の残っている片方の腕の、上の方を紐できつく結いて、前腕のあたりをアルコールで湿らせたガーゼで拭く。

 白い肌に青く浮き出ている血管に、慎重に針を刺すと、針からつながった透明な管に血液が昇ってくる。

 アンリ君は腕を結いていた紐を器用に外して、抜けないように針をテープと包帯で固定した。

 それから、管の上の方にある滑車のような部分を、押し上げるようにして開く。

 液溜まりに、ぽつぽつと雫が落ちはじめて、ヴァイラスさんの体の中に人工輸液が入っていっているようだった。


「アンリは、医術の心得もあるのよ。すごいでしょう」


 エライザさんが自分のことのように自慢してくるので、私は微笑ましく思って頷いた。


「すごいですね。なかなかできることじゃありません。治療院では、人の体を針で刺したり、魔法以外に薬を使ったり、切ったり、縫ったりもするって聞いたことがありますけれど、今まで無縁でしたので、はじめて見ました」


「……誇るべきことでもありません。マイケル様はかつて、あまり綺麗ではない商売もしていました。私はコールドマン商会の、私を拾ってくださったエライザ様の役に立つため、暗殺者としての訓練を受けました。暗殺者とは、不測の事態に備えて自分自身の治療も自分で行わないといけませんので」


 一通りの処置を終えたアンリ君が、ヴァイラスさんの手首や首筋などに指を当てながら、静かな声で言う。


「治療が施せる……つまり、医術に詳しいってことは、どこをどう刺したら人間が死ぬのか分かるってことだからな。暗殺者は、医術の知識がある者が多いんだよ」


 ロジュさんがなんでもないことのように、あっさりと怖いことを言った。

 ロジュさんも傭兵団の団長だものね。色々よく知っている。

 ヴァイラスさんが目を覚ますまでの治療はアンリ君と、その補助をかって出てくれたエライザさんにお願いすることにして、私たちは一階に向かった。

 あまり大勢で眺めていても、することはないし、邪魔になってしまうだけだものね。

 ヴァイラスさんが目覚める前に――ジュリアスさんから、話を聞いておかないといけない。

 みんなと別れて家に戻ってしまったら、秘密主義者のジュリアスさんは口を塞いでしまうかもしれないから。

 今のうちに、できるだけ。

 私は、私たちは、ディスティアナ皇国について知っておく必要がある。

 何故、皇太子であるヴァイラスさんが、ジュリアスさんに助けを求めにきたのかについても。


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― 新着の感想 ―
[良い点] しばらく、ほっこり路線(笑)でいくのかな?と思ったら!もう来たよディスティアナ皇国!
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