アストリア王都復興祭り
ところどころ、まだ壊れた建物が残る街には、花飾りや布飾りがたくさん飾られている。
錬金術師がデザインを競い合うようにして日々錬金に励んでいる錬金ランプがそこここに飾られて、夕暮れの街を赤や黄色や青色に美しく輝かせている。
「やっぱり私の錬金ランプが一番可愛いですね、ジュリアスさん」
吊り下げ式の水晶や、水滴や、ダイヤやハート型のランプが多い中、街角の至る所に置かれた私のキノコ型ランプの可愛さといったら。
復興祭りを主催する団体の方々から依頼されて、大きめのランプも作ったので、椅子の代わりに子供たちが座っている姿が、妖精さんみたいでとっても可愛い。
「喋るか食うか、どちらかにしろ」
屋台で買ったパチパチ綿菓子を食べている私に、ジュリアスさんが呆れたような視線を向ける。
「美味しいですよ、パチパチ綿菓子。口の中がパチパチします。食べますか?」
「見るからに甘そうだな」
「カラフルレインボー味ですね。ちなみに弾ける綿菓子メーカーも私が錬金術で作りました。筒状の錬金物の真ん中に、精製砂糖と星屑の粉を入れるんです。星屑の粉は、発泡性の飲み物を作るために必要な錬金物なんですけど、これが弾ける綿菓子メーカーに入れると、パチパチ綿菓子が完成するんです。子供たちに大人気」
私の顔より大きな綿菓子は、その味の通りに、七色が複雑に混じり合った綺麗な色合いをしている。
星屑の粉が綿菓子に纏わりついて、天の川のようにキラキラ輝いている。
口の中に入れると、ちょっと痛いぐらいにパチパチ弾けて、シュワシュワするのがとても楽しいお菓子なのよね。
パチパチ綿菓子屋さんは王都に数軒あるけれど、お祭りの時は屋台を出してくれる。とっても人気だ。
「食べますか?」
「いや」
「遠慮しなくて良いですよ、中々体験できませんよ、パチパチ。一口食べると口の中が大騒ぎになります」
私は綿菓子を一口齧った。
ナタリアさんやロバートさんから復興祭りの話を聞いてからおよそ一週間。
私にも街を飾り付けるためや祭りを盛り上げるための仕事の依頼が沢山入って、結構忙しかった。
エライザさんが一生懸命クロエ錬金術店一号店のお掃除をしてくれて、錬金ランプや光って飛び跳ねるカエルの玩具、消えたり現れたりする幽霊風船などがかなり売れたみたいだ。
クロエちゃんのお店が開いていないと生活に困ると言ってくださる方々も多かったようで、エライザさんにお店を任せることができて良かったと思う。
復興祭りはお昼過ぎから、夜半前まで。
本来は夜に街を歩くというのは誉められた行動ではないのだけれど、そんな時間なのは夜も安心なほどに街が復興を果たしたということを住人たちに示して安心させるためと、もう一つ理由がある。
復興祭りの一大イベントである闘技大会は、奴隷闘技場で行われるのだそうだ。
そこでは強さを誇る傭兵の方々や、冒険者の方々、騎士の方々なども参加する。それから、奴隷剣士の方々も。
昼間から行うにはやや不適切なイベントのため、子供たちが家に帰った夕方から夜にかけて、闘技大会が行われるのだそうだ。
街には警備兵の方々が数多くいて、夜も昼のように明るく照らすために、そこここに錬金ランプが設置されているというわけである。
「わ、パチパチしますね。これは味とかじゃなくて、パチパチを楽しむものなんです。中々ないですよ、この食感」
「痛いのか」
「ちょっと痛いですね」
それに口の周りがベタベタする。
パチパチ綿菓子の悪いところは、口の周りがどれほど頑張っても汚れるところにある。
「それにしても、ジュリアスさん。本当に参加するんですか、闘技大会。奴隷闘技場とか、二度と行きたくない場所だと思っていましたけれど……」
「お前なら、賞金を欲しがるものと思っていたが」
「ジュリアスさんが優勝して勝ち取った賞金はジュリアスさんのものですよ。いくら私でも、奪い取ったりしませんって」
「お前の金は俺の金だがな」
「横暴!」
私はくすくす笑った。
ラシード神聖国で見聞きしたことなんて夢だったんじゃないかというほど、アストリアの王都は平和と活気に満ちている。
きのこ型の錬金ランプに座っている子供たちが、「クロエちゃん、綿菓子美味しそう!」と声をかけてくれるので、大きすぎる綿菓子を私はちぎっては子供たちに分けてあげた。
口に入れるたびに、「きゃー! パチパチするー!」と喜んでくれるのが可愛らしい。
だいぶ小さくなった綿菓子を私はひとちぎり口に放り込んだあと、ジュリアスさんをもう一度見上げる。
「本当に食べないんですか?」
「いらない」
「あ、ジュリアスさん! 空から大きな飛竜が!」
ヘリオス君とリュメネちゃんは、今日はお留守番をしている。
王都の街を二人を連れて練り歩くことはできないので、待っていてというと、二人とも賢そうな瞳を瞬いて、「キュウ」と一言鳴いて返事をしてくれた。
王都に戻ってきた後は、広いお庭で羽を休めているヘリオス君とリュメネちゃんを見にくる人たちが多くいたけれど、今はだいぶ落ち着いている。
だから、空から大きな飛竜というのは、ヘリオス君たちのことじゃない。
というか、飛竜なんていない。
「…………クロエ」
ジュリアスさんは一瞬空を見た。
そのすきに私はジュリアスさんの口にパチパチ綿菓子の最後のかけらを突っ込もうとしたのだけれど、その前に手首を掴まれて阻まれてしまった。
「そうまでして食わせたいのか」
「せっかく、お祭りですし。これから闘技大会ですし、景気付けに」
「酒ならまだしも」
「闘技大会で戦う前に飲酒とか駄目ですよ。ジュリアスさんが酔拳の達人とかだったら別ですけど」
「俺は酔わない。……まぁ、良い」
ジュリアスさんは少し考えたあと、口を開けてくれた。
これはパチパチ綿菓子を放り込んで良いということよね。
私はジュリアスさんの口に、最後の綿菓子を放り込んだ。
ジュリアスさんは素直に綿菓子のかけらを口に含んで、ついでのように私の指をぱくりと食べた。
「わ、わぁ……!」
焦る私の指を食べ物のように舐めたあと、ジュリアスさんは口を開いて解放してくれる。
私は食べられた方の指を片手で隠した。
「色気がないな、クロエ」
「なにするんですか、なにするんですか……! 吃驚した!」
「景気付けに」
「どんな景気ですか……!」
私の指を食べると景気が良くなるのかしら。
ちょっと意味がわからないわね。
ジュリアスさんは何事もなかったように口元をおさえると「痛いな。何のために食うんだ、これは」と眉を寄せていた。
ジュリアスさんでも口の中は痛いのね。
いつも耳を引っ張られている仕返しができた気はしたものの、指を食べられたので、仕返しする前にされたような感じになってしまったのは否めない。
「…………なんて羨ましいんだ。絶対お前には勝つからな、ジュリアス!」
奴隷闘技場の前で、競技参加の登録のために並んでいたらしいロジュさんの、恨みがましい声が聞こえた。
見られていたのね。
ロジュさんの隣でシリル様が、何も見ていなかったというように視線を逸らしている。
見物客のために屋台を出しているロキシーさんが手を振りながら、「良いわね、デート!」とにこにこしている。
傭兵や冒険者のおじさまたちが、何故か大喜びしながら口笛を吹いている。
どうして知り合いがたくさんいる場所で、こういうことをするのかしら、ジュリアスさん。
私は恥ずかしさといたたまれなさを感じて、両手で顔を覆った。
綿菓子のせいでべとべとしていた手が髪に触れてしまい、べとべとがくっついて悲惨なことになった。




