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冬眠装置

作者: キシアヤト

 熊が冬眠する事は有名です。他にも多種多様な動物が寒い冬の間冬眠します。

 ある日、二人の科学者が雑談していました。

「熊やリスはいいなぁ」

「なぜだい?」

「寒い冬にあくせく働かず、寝て過ごしているじゃないか。うらやましい」

「そういわれればそうだ。何も辛く厳しい季節に起きている必要はないぞ」

「そうだ! 我々人間も熊やリスを見習って冬眠しよう

「ならば人工的に冬眠できる装置を作ろう」

 という事で二人の科学者はへんてこな研究を始めました。

「しかし冬が苦手な人ばかりではなく、暑いのが苦手な人だっているぜ」

「夏は夏眠というのかな。僕も暑いのが苦手なほうだからなぁ。夏は暑苦しくて寝られやしない」

「冬に寝ようが、夏に寝ようが、冬眠という事で良いではないか」

「そうだな、じゃあ夏用と冬用の二通りの冬眠マシーンを完成させよう。」

 そう言って二人の科学者は2種類のマシーンを完成させました。

やがてその機械は発売される事になりましたが、お金持ちは2台購入し夏も冬も両方寝るようになってしまいました。更に大量生産され、価格が安くなると殆どの国民が購入して夏と冬に寝てしまいました。


 世の中の現状を深刻に受け止めたこの国の政財界の大物達は、一堂に会して話し合いをしました。座長は意見を促しました。

「今の現状を皆さんはどうお考えですか?」

 すると多くの意見が次から次へと出て来ました。

「私の家族も使用したは良いが、ねてばかりで全くの怠け者になってしまった……」

「『寝るより楽は無かりけり』というが、これほど皆が寝てしまっては経済活動も教育も成り立たなくなり、この国はやがて滅ぶぞ」

「第一、夏に働きもしないで、刈り取りの秋が来るわけが無い」

「もともとは動物達が食物の少ない厳しい冬をやり過ごすための摂理なのに」

「一度楽な事が身にしみてしまっては、元に戻すのは容易ではないぞ」

 みな、切迫した表情で発言しています。仲でも次の発言は、皆に衝撃を与えました。

「いつか外国の軍隊が攻めてきて、この国を占領してしまうかもしれない。みんな寝ているのだからたやすい事だぞ」

 みな言葉に詰まりました。しばらくの沈黙ののち、一つのアイデアが出ました。

「そうだ、いっその事海外にも輸出して他の国の国民も眠らせてしまおう。我が国に都合の良い様に改良して!」

「それは良い! 外貨も稼げるし一石二鳥だ!」

 そうして政府が特許権を買い上げ、研究を進め冬眠装置に改良が加えられ、一台の装置で春夏秋冬一年中寝られる様になりました。

 冬眠させないようにするにはどうするかという本来の趣旨から外れ、冬眠装置は全世界に輸出されました。やがて世界最大のヒット商品として物凄い勢いで世界中に普及しました。

 いくら大金持ちで金銀財宝を蓄えても、この装置に興味を示して使ってしまったら最期です。もう眠気には適いません。それまで人類が蓄えてきた金銀財宝などはもう何の価値も有りません。

 中にはみんなが寝ている隙につけこんで、世界を我が物にしようとする輩も出ては来ましたが、なかなか上手く行きません。攻め入って占領したところで、支配地の人民は皆寝ているので誰も言う事を聞かないからです。

 むりやり叩き起こしたところで、装置の効き目は絶大で、直ぐに眠ってしまいます。

 そうして全世界の人々は寝てしまいました。そして二度と起き上がる事はありませんでした。


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