パティスリー 【月夜譚No.63】
特別なことがあった日は、ここのケーキを食べると決めている。値段は少し高めだが、甘過ぎないクリームは私の舌によく合っていた。
店名が印字されたガラスの戸を潜ると、甘い香りが身を包む。店の端から端まで伸びたガラスケースの中では、様々な種類のケーキ達が出迎えてくれているようだった。
苺のショートケーキにチーズケーキ、ガトーショコラ……ああ、プリンやマカロンも良いかもしれない。
宝石のように艶やかでカラフルなケーキを見ていると、ついつい目移りをしてしまう。どれもこれもが美しく美味しそうで、いっそのこと全種類を一つずつ――などということは到底できないので、熟考してどうにか一つを選び取る。
代金と引き換えに小さな箱を受け取ると、早く帰って食べたい気持ちが高まる。鼻歌でも歌いそうな勢いで、足取りも軽く家路につくこの瞬間が堪らなく幸せだった。