旋回橋
お題:旋回橋
夕暮れの中、彼女を送る道。
目の前で巨大な建造物で有る『橋』が、ゆっくり角度を変えてゆく。
旋回橋や可動橋と呼ばれる橋は、船が通る時間になると、その船を通すため道は寸断され、僕達は暫くの間、待ちぼうけを食う。
でも、僕はこの橋が好きだ。
何をするでも無いけど、彼女と一緒に居られる時間を確実に増やしてくれるから。
門限に厳しい彼女を、時間通りに家へ送るのが僕の役目。
でも、旋回橋に捕まってしまったと言えば、多少の遅れは許して貰える。
だから僕は、わざとこの道を使い、彼女を送る。
僕みたいなガキの考える事なんて、彼女の親にはとっくにばれているのかも。
それでも僕は、彼女との時間が少しでも長く続く事を願いながら、橋が架かるのを見守る。
彼女の家に着けば母親が出迎え、門限に遅れた理由を聞かれれば、いつもの様に『旋回橋に捕まって』と答える。
それならば仕方が無い、と彼女の母親も許してくれ、彼女との別れの時間が訪れる。
また明日、学校で。
家の中に消える彼女の背を見送り家路に着くと、例の回転橋に差し掛かる。
もっと大人になれば、この橋に頼らずとも一緒に過ごせる時間が増えるのだろうか……
そんな事を考えながら、僕は橋を渡る。
後、何回この橋を一緒に渡れるかは解らない。
だから、僕はその一回一回を心に刻む。
大好きな彼女と渡る、大好きなこの橋の思い出を。