銀婚式
お題: クリストフルのフォーク&フォーチュンケーキ
今日は25回目の結婚記念日。
主人は覚えているだろうか?
真面目だけが取り柄みたいな人で、仕事人間。
子供も出来なかったから余計、仕事一辺倒になってしまったみたい。
私がお嫁に行く時、母から譲り受けた銀のフォークを食卓に並べる。
この天秤のマークが入ったフォークは1930年代の物で、母も特別な日に使うフォークと言っていたっけ。
主人には仕事帰りに、ケーキを買って来てと頼んだけど、一体どんなケーキを買って来るかしら。
食卓の準備が整った頃、丁度主人が帰って来る。
手には、大き目のケーキが入った箱を持っていた。
ショートケーキ……と言う訳では無さそうね。
箱から出して見ると、円形のアップルパイがお目見えする。
あら、普通のホールケーキじゃ無かったのね。
そう言えば余り生クリームは得意じゃ無かったわね。
私もアップルパイは好きだけど、記念日に食べるのはどうかしら?
やっぱり忘れてるのね……
夕食の後、私がケーキを切り分けようとしたら、珍しく主人が切り分けると言い出した。
本当に珍しい、こんな事この25年で一度も無かったのに。
でも過去に一度だけ有ったわね、あれは確か一緒になる前だったかしら。
そう、あれは主人が私にプロポーズした時だったような……
そんな事を考えている内に、私の前に差し出される、三角に切られたアップルパイ。
さあ、食べようと言いながらも、主人は口を付けず私を見つめている。
おかしな人。
銀のフォークでケーキを崩すと、中に硬い物が入っている。
中から出て来たのは、銀色に光る小さなリング。
摘み上げ、ナプキンで綺麗に拭き取ると、プラチナのリングに小ぶりなダイヤがあしらわれている指輪だとわかった。
そうそう、主人がプロポーズしてくれた時も、婚約指輪を同じ方法で贈ってくれたんだっけ。
あの時は、食べ物の中に指輪を入れるなんてどうなのかしら? と思ったものだけど、これってつまり……
「銀婚式おめでとう」
笑顔で、そう言う主人は、私の手を取り、そっと指輪をはめてくれた。
はめてくれた指輪に触れると涙が溢れて来る。
忘れていたのは私の方だったのね。
「有難う、あなた」