壁一枚の恋
お題:イラストから連想した物語を書く。
イラストは著作権に接触するので載せられません。
いつからだろう、彼女の事が気になり始めたのは。
高校に入学して少し経った頃か。
俺の席は一番後ろなので、教室に二つ有る出入口の後ろ側を良く使う。
朝のチャイムと共に教室へ入ろうとした時、隣のクラスへ駆け込んで行くのをたまたま見掛けたんだ。
赤みがかった頬、うっすら額に汗を滲ませ、肩に届かない程度の短い髪を振り乱しながら、教室に駆け込む様を見て、賑やかな子が居るなーと思ったのが最初。
それ以来、気が付けば彼女を目で追うようになっていた。
隣のクラスを横切る際に、開いた扉からチラッと見えた彼女は、一番前の俺と同じ列に座っていた。
そうか、壁一枚挟んで俺の真後ろに座っているのか……
別に好きとか、そう言うんじゃ無い。
何と無く気になる。ただそれだけだ。
✳︎
いつからだったかな? 彼の事が気になり始めたのはのは。
最初は……そうだ!
高校に入ってすぐ位、たまたま寝坊して大慌てで学校に行った時だ。
私の席は一番前、だから教室の前側から良く出入りする。
チャイムが鳴るギリギリで教室に駆け込もうとした時、彼の事を見掛けたんだっけ。
私が、大汗垂らして、折角セットした髪も乱れて、何とか間に合ったってのに、彼は涼しい顔して教室に入る所だった。
あんにゃろ! きっちり時間計算してわざとギリギリに来てるんだな! やなヤツ!
と、今考えれば、我ながら理不尽な怒りを覚えたんだっけ。
でも、それ以来、何と無く彼を意識する様になってた。
隣のクラスに居る親しい子に彼の事をそれと無く聞いてみた。
一番後ろの席、私と同じ列が彼の席だって。
そうか〜あの壁の向こうに彼の背中が有るのか……
別に好きとかそんなんじゃ無い。
何と無く気になる。ただそれだけ。
✳︎
クラス合同、学年単位で行われる、球技大会。
後ろの彼女はテニスに出るらしい。
応援位してやるか。
テニスコートで自分の番を待つ彼女を見つけ、視線を送ると、目が合った途端そっぽを向かれた。
まあ向こうにしてみれば、俺は隣のクラスに居る『良く知らない男子』だ。
そんなのと目が合えばそうなるか。
少し寂しいが仕方が無いよな。
試合の結果は、彼女の惨敗に終わった。
✳︎
何で来てんのよ!
あっ、クラス合同なんだから、応援位来るか。
テニスの順番待ちでボーッと前の試合を眺めてたら、いつの間にか彼が居て、私の方を見ていた。
一瞬目が合った気がして、咄嗟にそっぽを向いちゃったけど、印象悪かったかな……
いや、何心配してんのよ!
私は別に、彼の事なんか何とも思って無い。
ただ隣のクラスに居る『良く知らない男子』ってだけ。
でも、何故だか彼が見ていると思っただけで緊張して来る。
おかげで試合は散々。
元から得意競技って訳じゃ無かったけど、少しは良いとこ見せたかったな……
✳︎
球技大会が終わって落ち着いた頃、突然の席替えイベント。
随分、中途半端な時期にやるんだな、等と呑気に構えていたが、ふと気付く。
そうか、席が変われば彼女との接点が無くなるのか……
今まで意識した事も無かった事なのに、突然そんな考えが頭をよぎる。
接点とは言ったけど、たかが席の並びが同じなだけ、壁を挟んで前と後ろ。たったそれだけ。
なのに、そうで無くなるのがたまらなく嫌に思える。
みんなが席替えの準備をしている中、俺は廊下に飛び出した。
すぐ隣で、全く同じタイミングで扉が開き、飛び出して来る影。
お互い顔を見合わせて、そう言う事かと気付く。
きっと彼女も同じ気持ち。
彼女の手を取り走り出す。
「行くぞ!」
「行くって何処に!」
「何処でも良いさ!」