椿と山茶花
お題:椿と山茶花
僕には椿希という名の姉がいる。
姉と言っても、一卵性双生児なので歳は一緒だ。
姉が椿希だと、僕の名前は大体想像が着くだろう?
そう山茶花で有る。
姉の椿希はまだ良い、女性名として成り立っているし、文字も増えている。
それに比べて、僕の山茶花はどうだ?
植物の山茶花と全く同じで、何の捻りもない。
それに名前として見ても、珍しい部類だろう。
寧ろ名前として、特に男の名前として成り立っているのかも怪しい。
両親がその場の思い付きで付けたとしか思えない。
そうそう、一卵性双生児で、男女の双子は珍しいらしい。
普通の一卵性双生児は、全く同じ遺伝子を持って産まれる事から、血液型は勿論、性別も同じになるのが普通なのだそうだ。
だから、僕と姉は良く似ている。
第二成長期を過ぎた頃からは、お互いの性別に沿った成長を見せ、見分けが付くようになったが、小さかった頃は良く姉妹と間違われたものだ。
ただ、僕の身長は同年代の男性に比べ、小さい方なので、姉との身長差は無かった。
姉は名前に負けない程、美しく成長した。
特に、腰の辺りまで伸ばした、黒く艶の有る髪は姉の自慢でもあった。
そんな姉が、ある日居なくなった。
通学中の事故で、あっさりと、この世を去ってしまった。
僕のショックは両親以上で、自分の半身が死んだように思え。
姉の葬儀が終わったその日を境に、僕は部屋から出れなくなった。
数日、数週間、数ヶ月、もしかして数年?
僕は膝を抱え何をするでも無く、死んだ様に生きてきた。
そんなある日、視界の隅に姉の姿が写り込んだ気がした。
とうとう狂ったかな?
それとも姉さんが迎えに来た?
どちらでも良い、もう一度姉に会えるなら。
姉の姿を探し、部屋を見渡すと、鏡に写った自分の姿が目に入る。
しかしそこに写っていたのは、紛れも無く姉の姿だった。
元々顔立ちが似ているのも有り、伸びた髪の毛が生前の姉と同じ長さになると、それは姉そのものだった。
そうか……姉さん、そこに居たんだね。
姉さんはずっと一緒に居たんだ。
情け無い僕を、ずっと見守っていてくれたんだね。
その日僕は、姉が死んでから初めての涙を流した。
僕は部屋から出た。
先ず両親に謝ろう。
これからどうすべきか相談しよう。
僕は生きて行こう。
今日から僕は、姉と共に生きる。