侯爵令嬢の婚約
シリアスで書き始めたはずが、何故かコメディになりました。あれ~?
初投稿です。お豆腐メンタルなのでお手柔らかにお願いします。
あぁ、そうか。そうだったのか…。
いつもどこかで心に引っ掛かっていた。
あれだけ優しく私を扱い、綺麗だと囁きながらも、彼の瞳の奥に宿る冷たさに…。
『アーネスト様、愛していますわ』
『メリッサ、私もだ。君だけを愛している。僕が結婚をしても側に居てくれ』
今、レストランの扉が少し開いている個室から漏れ聞こえて来る声は、私の婚約者のものだ。
私は侯爵家の一人娘。彼は伯爵家の次男。領地経営で多額の借金を背負った伯爵家を支援しているのは我が侯爵家だ。
我が家の支援がなければ、彼の家は立ちゆかない。
私との婚約解消など言い出せるわけもないだろう。
だからこそ秘密の逢瀬なのは分かる。でも、私も連れて来たことのあるレストランではしないで欲しかった。知りたくなかった。
私は何も言わず、その場を立ち去った。
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「お父様、私がアーネスト様との婚約を解消したら、伯爵家への支援は取り消されますか?」
「何を言っている。何故解消などと言う話が出る?お前達は嫌いあってるわけでは無いだろう?」
『好きあってる』と言わないところが貴族ね。
「はい、嫌いなわけではありません。信じることが出来ないだけです」
お父様は眉間に皺を寄せ、私を見つめる。
「あそこの領地は優良な場所だ。3年前の災害が無ければ黒字経営だったろう。今、手を引けば援助した分は回収出来ずじまいだ。継続して援助をし、黒字になってから利息を付けて返済をしてもらう予定だ。」
「では、私の婚約を解消してもあちらの領地経営に障りは出ませんね」
「まぁな、それでなぜ解消したい?」
ふぅ、とため息をつき今日あったことを父に話す。
「…それだけか?愛人など珍しいことではあるまいに」
「はい、それは分かります。でも、私達はまだ結婚前の婚約の状態です。結婚してから愛人をつくるのはまだ我慢出来ます。しかし、婚約の間は結婚してからの円滑な生活や領地経営のための信頼関係を築くべき期間だと私は思っています。そこに愛情がなくとも…」
紅茶を一口飲み、喉を潤す。
「でも彼はその信頼関係を築く前に私を裏切りました。正直に言えば愛していたわけではありません。少しだけいいかしら、くらいの気持ちしかありませんでしたわ」
お父様がテーブルの上の茶器をメイドに片付けさせる。
「……本音は?」
「ムカつくんじゃ!!」
テーブルに拳を叩き込む。バキィ!と音を立ててテーブルが割れた。あーあ、またかと言う顔をしてメイドが遠い目をしている。
「あんの男!私も連れて行ったことのあるレストランで逢引きですのよ!ありえないでしょ?もしかして私にみせつけたかったんじゃないの?向こうの領民のことさえ無ければ、本当は解消なんて生ぬるいわ!破棄したいわ!後、ぶちのめしたいわ!蹴り入れたいわ!」
こめかみを揉みながら、お父様が深いため息をつく。
「やめろ、ぶちのめすのは。逆にこちらが慰謝料を請求されそうだわ。結婚は無理か?なかなかお買い得物件だったんだぞ、奴は。顔もそこそこ。能力もそこそこ。性格もそんなに癖があるというほどでもない。家柄も良かったし年齢も釣り合っていたからな。女付きだったが…」
「んまっ!お父様は恋人がいるのをご存じだったのですね!」
「はぁ、仕方ないだろう。お前みたいなじゃじゃ馬娘、政略結婚でもドン引かれるんだ」
「私のどこがじゃじゃ馬ですの?」
きょとんとした顔で問う。
「一番初めの5歳の時の婚約者を池に叩き落としたのは誰だ!次の10歳の時の婚約者は金○を蹴りあげたろうが!」
「オホホ、嫌ですわ、お父様。5歳の時のあのアホ餓鬼は私の顔面に蛙を投げつけて来ましたのよ?10歳の時は私の髪をイタズラで切り落とされましたの。ヤられたら倍返し。基本でございましょう?」
はぁぁぁぁ~、うちの本家筋の血筋が絶えてしまう、養子か?養子を取るしかないのか?と呟く父を視界に入れつつ叫ぶ。
「次よ!次!絶対にスパダリをゲットして幸せになってみせるわ!!!」
これは血筋はピカ一で容姿端麗なのに、かなり残念な侯爵令嬢が、結婚に辿り着くまでの険しい道のりの1ページである。
拙い文章を読んでいただき、ありがとうございました。感謝です。