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悪役ご令嬢とサムライギャルソン

【人物紹介】ヒロインよりも悪役ご令嬢が一途で萌えるんだが【それぞれのゲームルール】

作者: 和田貫玄亭

――――どうして4月1日の魔法が発動したかって?

 それはたぶん厨二を拗らせたからじゃないかな。


 いいか? 強く信じきったやつしか魔法使いにはなれないんだ。サンタがいないと言われようが、おばけがいたと言われようが、信じ続けなきゃいけないのと同じなんだ。



   ◇



■ 人物紹介


 サムライギャルソンが思っているような世界と、実際の世界はずいぶんと違うのかもしれない。




●主人公

――だいぶ拗らせた厨二病ちゅうにびょう患者。しかも本人はその年齢当時に引きこもっていたため、厨二病という言葉すら知らない。攻略サイトは見ないタイプ。無自覚に厨二病を患っているため更生する機会はない。すなわち、四十にして惑わずを体現することを信じるしかない。まあなんとかなるだろ。

思い込みが強く恋愛観に関しては潔癖の気があるのは、家庭環境と早期ドロップアウトのなせるワザ。十数ヶ国語を操り経営修士号を取得し、プログラミングの腕は世界のクルクル社が認めるレベル。地質学にも明るい。緑のカードさえ手に入れられれば、実家の権威を離れても年収数十万ドルオーバーは固い男、しかも取得するための独自のコネクションも島時代に充分築いた。あれもこれもと深く手を出すが、しっかり両立させられるハイスペックの持ち主。容姿端麗で若い女嫌いゆえのサムライギャルソンとは彼のこと。マダムキラーとも呼ばせない。観賞用の婚約は社交界の淑女の間に激震を走らせた。抜け駆け禁止。



●ご令嬢

――主人公をヒーローフィルターを通してみながらも、でも長男じゃないのよねとも思っていた現実主義者。だってほら好きだけでは結婚できないのよ? 社交界の頂点に立つためには、所属する家の権勢も必要不可欠だもの。

たしかに十数ヶ国語を自在に操る姿は途轍もなく格好良いわ。彼自身が築き上げたコネクションも半端ないわね。しかもいくつかの課外プロジェクト(VR関係、詳細は機密事項)に携わって成果を出し、インターンシップ先も世界最高峰企業と、大学でも時の人。レディファーストに慣れていて、若い女性では自分だけを特別にエスコートしてくれる。でも立場が足りないのがものすごく残念なのよね。

だけど、この一年間の自由な時間で一生分の幸せな恋を堪能したわ。それがどんなに恵まれていて幸せなことかお分かりになって?

恋愛は積極的に動くタイプ。そうでなければ悪役令嬢の座はそもそも張れない。つまり西海岸でも取り巻きを作り上げ、場の中心に実力で立った。結果的にその国際的なシーンでも立ち回れる実力を認められ、お祖父さまから後継者指名を受ける。彼女の兄は恋愛に現を抜かしたと脱落したらしい。

あら、婿養子であれば、三男でも問題ないじゃない。実家の権勢は十二分にあるわ、これで勝てる。でしゃばりじゃないことだって、そんなのわたくしが矢面に立つのだからなんでもないわ。少しお固いところくらい、わたくしがうまく転がしてさしあげるわ。それが女の甲斐性ってものよ。特等席で見ていなさい。わたくしに抗ったものすべてを今度こそ後悔させてあげる。わたくしがイニシアチブを取れないだなんて許さないんだから。だけどそんな驕りはサムライギャルソンが取りはらってくれた。多少の過ちは飲み込み大らかに赦す度量の大きさがあるかどうかを、大人がよく見ていることを知って一回り成長した。

だから、膝をついてプロムに誘われたときは、舞いあがって死んじゃうんじゃないかと思った。だって大好きなんだもの。周りが勝手に動き、婚約が成立していたのも根回しあってこそ。これからも大好きでいていいなんて幸せ。これが幸せの絶頂期なんて言わないわ、今度こそ大好きな婚約者を、心も身体も籠絡してみせるもの。一途には違いない。ちなみに日記は話題準備のためにも欠かせない。



●ヒロイン

――逆ハーレム狙いのヒロイン。小等部で外部へ転校のち編入。どうやら主人公は母親に捨てられ傷ついた副会長先輩の役割だったらしい。母親がベカスで大博打に負けなければ、その人生を送るはずだった。ただし、遅れて再会した主人公の驚異のレジスト力に、これは負けると思って主人公とその周りとは距離をおくことにした。念のために述べておくと主人公もヒロインも転生者や転移者などではなく、普通に現代世界を生きている。ちやほやされたかっただけ。どうやら幼等部からの妄想らしいが、その妄想力はちょいとたくましすぎやしないか。

その後、逆ハーメンバーに大人の階段を複数人で上ることを提案されて、ちょっと手痛い目に遭って泣いて赦してもらったことで、夢から醒める。うわあ、アヘ顔ピースなんてゼッタイダメ。以後、逆ハーレムは黒歴史と化す。ちやほやされるのは女の夢だけど、恋愛は一対一が鉄板です。紛らわしいのもダメでした、反省しました。ごめんなさい。

もう一生涯の恋愛成分は補ったと、せっかくのコネ入社を活かして、つちかった手管で顧客を持ち上げキャリアを積んで、ときおり上司をほんのり魅了しては社内でのし上がっていく。ゆえに相変わらず女子は敵にまわす。定年前でも社内一の色気ある美人の座を譲らず、ついには人生半分も生きていない若者を大人の魅力でとりこにしては侍らせて、ここに逆ハーの真髄を会得した。イエスノータッチ。



●血反吐

――悪役ご令嬢の婚約内定者。ヒロインに籠絡されて逆ハーレムの一員になった。ヒロインや悪役令嬢とは二学年差で、主人公とは同学年。学園では生徒会長を務めあげた卒業後も、生徒会OB補佐役として頻繁に学園を訪れるのは、将来の理事長候補の一人だからである。

嘘か真か乙女ゲーム上では、学園の生徒会運営の効率化という名目で学園のシステムをごっそりと入れ替えてしまった伝説の双璧として長きにわたり名が残るはずだったが、学園に主人公がいないためヒロインたちと一緒に未来への提案を残すのみに終わったようだ。

プライドは高く、己はヒロインの恋人で、他の男は彼女の取り巻きだと思っていた。実態もさほど変わらない。大学卒業後、社業に深く携わるようになってまもなく投資家の揺さぶりを受け、一族共々翻弄されているときに恋人が自分以外の男と肉体関係を持った痕を見てしまう。いや待てそれは違うと画面越しに言っても本人には聞こえないので悪しからず。

それでもグループの信用を失うまいと頭を下げ奔走する毎日に、悲嘆に暮れる暇もなく、忙しくしているうちに仕事の面白さにも気づきはじめた。この騒動が済んだあとはグループ全体の結束も深まった。以降ヒロインとは疎遠に。

時折パーティーで元婚約者あくやくごれいじょうを見かけるが、サムライギャルソンとやらはあの気の強い女をよく手のひらで転がせるなと感心すら覚えている。悪役ご令嬢とは充分な大人としてビジネスの大海を渡るころには和解して共闘路線を歩む。優秀な悪役ご令嬢のしゅじんこうの頭脳を使ううちに主人公とも密談をする仲になるが、同時に社交界の奥方たちから今までとは違う熱い悲鳴を受けるようになり、これはなんだろうと主人公ともども首を傾げている。



◎学園

――主人公がプレイした乙女ゲームのモデルとなった学園であり、つまり舞台そのもの。幼等部小等部に居たからにはいわゆる母校。それなのにゲームをプレイしていて全くなにも思わなかったのは、母校は元々昔から富豪系のドラマから漫画やゲームに至るまでモデルになりがちな学園だから。



   ◇



●主人公父

――女性の手管にコロリといく、仕事はできるが夢見がちな男。間違いなく主人公はその血を引いている。



●主人公母

――稀にみる美女。小悪魔的な流し目がチャームポイント。大人の男を手玉にとってからかったつもりだったが、主人公父に惚れられ逃れられない状態に。主人公出産時に気絶したことをきっかけに、予知夢っぽい明晰夢を見る。明晰夢だけにいろんなルートを誘導できるが、出産後も断片的に夢に見たことをやたらと思い出し、きっとこれは正夢に違いないと確信を持つ。

息子の家庭教師に夫をとられ息子を置いて家を追い出されることまで思い出してしまい、むしゃくしゃしてこんな未来など壊してしまえと大博打に打って出る。ベカスで博打には大敗したもののしっかり新たなパトロンを手に入れて、異国で悠々自適な暮らしを送っている猛者。

一応息子のことは気にかけており、はじめのうちは慣れないゲームでブチ切れもしたが、今や実況画面映えする美人プロゲーマーおよび解説者としても引っ張りだこ。その知名度はゲーマーのなかでは世界的。得意なのは格闘系。

明晰夢のなかでは唯一楽しめた生徒会長と副会長むすこの薔薇の香りを現実でも味わいたくてしょうがない。自分が壊してしまったはずの薔薇ルートが二十年後にはじまったらしいと聞いて、鑑賞のために拠点を日本に換えた。直観力のひと。生きたいように生きている。間違いなく主人公はその血を引いている。



●主人公義母

――若かったのです。憧れていたのです。振り返ればそれが過ちと分かったのです。自分を慕ってくれていた教え子に引きこもられて己の諸行に気づいたときにすでに天岩戸。そんな義理の息子にエスコートをされてキュンキュンしたのは夫にもないしょ。



●主人公長兄

――主人公母は彼らの母を追い落とした憎き存在。弟が不登校を起こした時にはざまぁと思わなかったとは言わない。引きこもられて少しは己を反省したものの、やっぱり弟は家には相応しくないという思いも消えずに複雑。

弟を利用して会社を繁栄させていく気満々だったがスルリと逃げられてしまった。時代に沿った逸材をみすみす逃すとは情けない。



●主人公次兄

――実母の記憶はあまりない。二番目の母親はよく庭で走り回って一緒に遊んでくれた。弟が生まれ、兄として振る舞えるという事実がただただ嬉しかった。不登校になって一緒に学校に行けないことが悲しかった。それをざまぁ見ろと言う兄に反発を覚えて袂を別ち、教育者を志すもヒロインの魅了に敗れ道を踏み外す。実習中だったこともあり教育者として不適格という烙印を押された。例の大人の階段事件はこの次兄や悪役令嬢の兄など年長組がレジストされたことによる強制離脱が引き金となって起こった。なお長兄が弟を使い潰す気なのが目に見えているため、婿入りさせるよう両親に畳み掛けたのはこのひとである。

そんな弟の薦めで留学し、そちらでも教育学を修め、島の学校で働けるようになった。弟がかけたレジストは一生モノなので、誘惑も多い島の学校でも変な女に騙されることはもうない。女子生徒のアイドル先生。最終的に、先生をあきらめきれずに金髪の男との政略結婚を振り切ってまで島に戻ってきた女神も逃げ出す美女(もとじょしせいと)と国際結婚する。



●主人公弟

――年が離れているためか、末っ子だからか、無垢に見えて腹黒なキャラ。世渡りは上手。高等部卒業までハーレム帝国を築きあげる傍らで、傷ついた婚約者をうっとり鑑賞し、長期休暇には婚約者が逃げ出さぬようデロ甘攻勢をかける。傷つけるのは自分だけでいい。だって自分だけを見てくれるひとが欲しいんだ、お願いだからもっと僕に依存して?

さあ、見てごらん。牌がきれいに並んだよ。あとは自然と家督のほうから転がり込んで来るから、そろそろ父様と母様を押し込める別邸でも作ろうかと思うんだけど、君も一緒に下見に来るよね?



●ねえや

――主人公付きのお手伝いさん。主人公が中学に進学したあと、お屋敷からねえやを見初めた御仁との縁組みを斡旋されて、憎からぬ相手だったので仕事を辞め嫁いでいった。しばらくは婚家での風当たりも強く、そんな日々のなかではサムライギャルソンとなった坊ちゃまより送られてくる異国の菓子が楽しみだった。やがて主人公が希代のサムライギャルソンとなり、サムライギャルソンに慕われる者を射止めた旦那様は実に慧眼だったと褒められ、ねえやは身分差婚でも生きやすくなった。



●じいや

――主人公の家を取り仕切る執事。元秘書。学生時代に(テーブルトーク)(ロール)(プレイング)(ゲーム)とやらを嗜みきったその視野の広さで家を差配するまさしくGM(ゲームマスター)。お助けキャラからお見合い爺まで幅広くこなせるプレイヤーでもある。主戦場がネットになってからは世界中の猛者たちとゲームに興じ、親交を深めた。瀬戸内海のとある島のリゾート開発に、仕える家が関わったときはまだ社員であり、その折にはじいやが個人的に築いた人脈もまた大変役立った。退職後に請われて執事となった。仕事とゲームを通じて築いた縁から、主人公を島の学校へ送り出すことになった。



   ◇



◎島の学校

――主人公が数多くこなしたギャルゲーの舞台のうちのひとつは、そのころできたばかりのリゾート島の学校にやってくる子供たちへのプロモーション用として作られた。言語も異なる孤島なら逃げられないと富豪の悪ガキを集めるにあたり、楽しいイベントが必要だったようだ。そのためのフレンチメイドのおねえさん方でもあったが、主人公に関して言えばその驚異のレジスト能力に阻まれて、なにも起こらなかった。なにも起こらなければものすごいインターナショナルスクール。単位制。主人公は歴代最高単位取得者。ふつうの学生は授業の間に異性と戯れたり、ダンジョンに潜ったりしていた。じじばばとて鍾乳洞ダンジョン攻略を楽しんでいた。そう、主人公は思い込みで、本物の剣と魔法とダンジョンを見逃したのであった。



●島の住人

――なんてセレブリティ揃い。だってギャルゲのモデルになれる住民たちだもの。世界有数の犯罪の少なさを表の理由に、その裏ではダンジョン化された洞窟の研究や攻略をしにやってきた。リゾートとして整っていたことも投資ついでに楽しめた理由のひとつ。彼らは大きな心でもって全力で遊ぶ度量を持っている。じいやの伝手から主人公と知り合っていった。ともかく彼らの全面バックアップは主人公の力となった。

強力な魔素へのレジスト能力を彼に付与されつつ、世界に通用する東洋耽美主義的(ギャルソン)イケメン(サムライ)を鍛えることが、マダムたちの楽しみ。また、サムライギャルソンの豪華ヨットはパワーレベリングの場としてもムッシュとマダムによく利用された。だからこそ主人公はお礼にたくさんの株をもらったのである。



●島の生徒

――世界一犯罪の少ない東洋の文化的リゾートに移住するという、親について行った子どもたち。あるいは七色に揺らぐ大理石で芸術作品を作りたいという芸術家肌の親について留学してきた生徒たち。しかし本当のところ大半を占める寮生は母国圏内の学校を追放された問題児。まれにいる代々の島民は学費免除。

ところがそんな彼らの日常は、スクールに現れた狂った野生動物集団によって変貌を遂げた。なんと生徒たちには隠されていたが、島の鍾乳洞洞窟がダンジョン化していたのだ。既に島には魔毒が充満し、それによって棲息する野生動物は狂いはじめていた。予断を許さない状況に、生徒たちは真実を知りみずから立ち上がった。島を守ろうと放課後、自発的に魔毒におかされた動物を駆除し、またダンジョンに潜るようになったのだ。

しかし、思春期の身体には強すぎる魔毒がやがて生徒たちの身体を蝕みはじめ、狂うことをおそれる彼らはやがて異性と触れ合うことで一時的な中和させることを覚えていく。

特筆すべきは、武芸でトップの成績を修める孤高のサムライギャルソンだろう。彼は一人で島から広がろうとする魔毒をモーターヨットに乗って海からレジストをかけて食い止める孤独な戦いに身を投じた。また島外の医師と連携し、魔毒の除去にすら挑もうとしていた。まさしくレベル違い、雲の上の存在だった。

いつしか高い魔毒耐性を得て、サムライギャルソンとダンスを一曲踊れば、溜めていた魔毒をレジストしてもらえるようになった。卒業してからも、サムライギャルソンは彼らの為に驚異のレジスト能力を付与された兄を島に派遣してくれた。この兄の引率によってダンジョン攻略が著しく進んだのだった。




◎スポーツボート

――じいやの知り合いからレンタルした。主人公が十六歳から十八歳になるまで乗っていた。元々は山波社のスーパーレアリティ250馬力スポーツボートというコンパクトモデル、5トン以下。作中の実在の各試験名と同じくもちろん仮名である。改造されて畳部分がある。平水・沿海限定だけど、釣りにももちろん使える。かなりヒャッハーできる。討伐経験値を稼ぎすぎて、のちに進化を果たしたもよう。この船を貸し出すとは、なんという慧眼の持ち主よ。



◎モーターヨット

――賓客をもてなすときに使う自家クルーズ船、すなわち見るからに高そうなヨット。十八歳からアメリカに渡るまで主人公が使った。外国製のハイモデル。宿泊対応。もちろん高速。揺れない制御機能付き、すべらかに海へと繰り出そう。華麗かつ優雅に経験値を稼いで、たくさんの航海を果たし、素敵な船ねとちやほやされたこの時代はヨット人生の誇り。



   ◇



●シスター制度の妹

――悪役令嬢が小等部にいたころ後輩から見初めた妹御。かわいらしくお姉さまごきげんようとあいさつしてくれた。

結局、閉じ込められたかごの鳥のかごは壊れ、この家の兄妹はヨーロッパに放逐された。結果的には妹御もその兄も、家に縛られて叶えられないはずだった夢を叶えられた。幼馴染でもある兄の彼女との百合百合しい様子は、これがジャパニーズリリィと一部の男性をざわめかせていることにはまったく気づいていない。

妹がこの乙女ゲームもどきの不祥事の後始末をすることになったのは別の話。実際のところ、血反吐が果たせなかったシステム構築するぜの残骸にもっとも苦しめられたのは、恨まれながら内部進学してきたこの妹御などの攻略対象それぞれの弟妹たちだった。

なお、ブラザー制度、及びシスター制度は学園に存在するシステムである。もちろんそれぞれ同性一人としか組めないが、同学年と組もうが違う学年と組もうが自由。異性にとっては百合と薔薇の妄想がはかどる温床らしい。



●悪役ご令嬢兄

――皆に立てられながら育ってきたが、心のなかでは見下されているのではないかと怯えながら生きてきたのは、辣腕家の妹こと悪役ご令嬢に得体の知れない怖さを感じるから。疑心暗鬼な小心者だが、体格がよいのでそうとは見られない。

悪役ご令嬢が悪役に仕立て上げられてしまったのは、彼の口からヒロインに零されたたくさんの愚痴のせい。そして、後継から降ろされたのは家庭内の問題を社交界の子雀どもに漏洩してしまうような、美人局に極めて弱い性格を一族に疑問視されてしまったせい。

追い詰められていくなかで、ヒロインの、あなたの妹さんにはちょっと外国にでも行ってもらいましょうよという言葉に乗り、妹である悪役ご令嬢を追い落とそうとした。なお、一気呵成に根回しでもされてはたまらないとダメージを与える戦略は、同じく悪役ご令嬢が邪魔だった血反吐が立てた。悪役ご令嬢を外国に蹴り出し(ヒロインを囲む仲間でもある主人公次兄が元引きこもりの弟についてあれこれ語っていたのを利用し)外国にいる主人公にこれ幸いと面倒を押しつけたのが運の尽き。

いろんなことがうまく回らなくなった。悪役ご令嬢たる妹がいなくなって止める者がいなかったため、ヒロインへの依存も深まった。結局は、悪事もはたらいていない妹を庇うことすらできない男が将来グループ会社全社員の信頼を得られるはずもないと、後継者レースをあっけなく滑り落ちた。なんのことない、妹がいつも兄の評判をあげて支えていてくれただけである。一族にはそのことがよく見えていた。

あんなことがあったのに、空港で妹が抱きついてきて心底びっくりした。これからはきっとお兄さまのお立場は楽になりますわよと囁かれ、身の毛がよだった。相変わらず妹が怖い。

だけどそんな妹が構ってきすぎて、ヒロインのもとへ行く機会も失った。やがて、どうでもよいおしゃべりに後継者教育の微細に入るまでを混ぜ込んで尋ねてきていることに気づき、曇った瞳も次第に晴れてきた。妹がすげえ怖え。

同時にこれまで家のためにとテニスやゴルフをしてきたが、元引きこもりとは思えない将来の義弟(しゅじんこう)に、助っ人として連れていかれた世界二位の競技人口を誇るクリケットの沼にうっかりハマる。孤独な戦いよりも、ティーインターバルを挟みながら何日もかけて誰かが立てた戦略のもとで働くチームプレイが最高に好きだと気づく。そしてそんな場所のほうが輝けるのだった。

妹の仲良しアピールにより己の風評は霧散していったことで、またはチームプレイの楽しみにのめり込むことで、どうしてあんなにヒロインに依存してしまったのか分からなくなった。昔よりも少しだけ花の持たせ方もうまくなってきた妹により評判も回復していたけれど、次第に家業を経営者ではなく誰かの指示のもと走り回って支えたいという思いが生まれてきていたから、今度は自ら支える側を選んだ。

クリケットを通じて養った国際感覚でもって、主人公である義弟ともども全世界に置かれた支社を足でまわる自称御用聞きとなった。この悪役ご令嬢兄の場合、表向きには経営一族による不正防止の睨み役。

主人公は現地の問題をパッと現れてパパッと何気なく片づけてしまうタイプで、反対にご令嬢兄は現地の法人で足りない手となって惜しみなく働いて体感した上で現場の問題を親会社のトップまで確実に届けてくれ解決まで力になってくれる存在である。ゆえに全世界で慕われる経営者一族の一員となった。



●攻略対象たち

――学園の秩序を崩壊させ権威を貶めたもうた攻略対象者たちは特に処罰を下されることはなかったものの、社交界ではとても苦しい立場に立たされた。キスだけを許されたヒロインだけを心の寄すとしていたが、逆ハーレムが櫛の歯を削るように壊れていくなかで、一部メンバーが蜂起して事件を起こしたことをきっかけに解散となった。

泣きぬれたヒロインの顔を吹っ切るためにそれぞれあがいた結果、時間をかけてそれぞれの人生を取り戻せた。ちょっとした悪事を働こうものなら、生涯ヒロインの泣き顔が浮かんでしまい楔となった。いろんな意味でやっぱりヒロインに足を向けては眠れないらしい。



   ◇



和田貫(わだぬき)玄亭(げんてい)

――作者。ポワソン・ダヴリル。舷梯げんていから忍び込めるこの嘘めいた話は、四月一日の限定公開のつもりでそもそも書いた。セリフに鍵括弧がないのは発語すると夢や魔法は解けたりするから、仕様なのだ。永遠の厨二患者だなんて上等である。なおこのユーザー名は本作限定であり、本来のユーザー名ではない。この話は何年も前に書かれたので、古めかしいなろうのお作法がそこかしこに漂っている。



◎作品キーワード

――小説本編も人物紹介のこちらも、読めるキーワード。



   ◇



■ あとがきに代えて


 お揃いあそばされましてご機嫌さんよう。

 ご覧いただきましてありがとう、悪役ご令嬢とはわたくしのことでしてよ。


 実はわたくし日本に戻ってきて、もう一度巻き髪にすることにいたしましたの。

 だってわたくしはわたくしでしかないのだもの。

 ダブル巻き髪がわたくしのトレードマークになっているって、今更ながら気づきましたの。どなたにでも覚えていただきやすいものを自ら捨てるなんてもったいないわ。ですから、もうモラトリアムはおしまいにしましたの。

 ですから、これからはわたくしがストレート髪を見せるのは彼にだけですわ。ギャップ萌えとやらをさせてみせますわよ。


 さあ、新しい年度が始まりましてよ。

 気が乗らないかたもおいでかしら?


 嘘と真が入り混じるこの日に、うちの和田貫が偽物の名前で、ふだんは書かないようなおはなしを書きましたの。

 長いはやりのハーレムも逆ハーレムもざまぁもございませんでしたけれど、厨房二つ(ちゅうに)とご都合主義とをこじらせながらも一途に歩み続ける名も無き主人公のおはなしを、ほんの少しでも嘘ばっかりと突っ込みつつ楽しめましたかしら?


 それでも元気が足りないかたには、わたくしがパワーをお分けしますわ。

 鏡に向かって「悪役令嬢になあれ」と唱えてごらんなさい。

 わたくしのロールプレイをしているうちに、つらい日のあなたがちょっぴり元気になれますように。


 

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タイトル字のみ:『人物紹介|エンドロール、それぞれのゲームルール』


▼ 本編 
トゲトゲ文字のタイトル字『ヒロインよりも悪役令嬢が一途で萌えるんだが』

   ◇

あとがき(活動報告) | twitter(本作検索)
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