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乙女ゲームで明後日の方向に頑張るモブキャラ

 目が覚めると、知らない天井だった。

 起き上がろうとしたが身体を上手く動かせない。

 不意に、トラックに轢かれる光景がフラッシュバックした。

 ああ、なるほど、異世界転生か。あるある。……えぇ。


 何処にでもいる普通の男子高校生だった僕は、下校中にトラックに轢かれて乙女ゲームの世界に転生していた。ん?何でゲームの世界と気がついたかって?戦闘パートが異様に難しい乙女ゲームをプレイしていた姉の手伝いに、駆り出されたことがあったからだ。

 このゲームは、学園編と魔王討伐編の二部構成。学園編がいわゆる恋愛モノ、魔王討伐編は学園の仲間たちと共に戦うアクションRPGになっている。魔王討伐編をクリアしないとヒーローとのエンディングが見れないので、戦闘パートだけ手伝っていた。恋愛パートはあまり興味は無かったが、世界観が良くて設定資料集を読み込んでいたおかげで特定できた。


 この世界での僕はバラデュール伯爵家の三男マクシムとして生まれた。もしかして攻略キャラ? 残念、名前も登場しないモブだ。一応、王子と同年代だから学園に行けばラブコメを観賞できると思われる。でも、恋愛要素よりも戦闘要素の方がわくわくしない? せっかく魔法が存在する世界なんだ。鍛えなきゃ損でしょ。せっせと魔力を練り気絶しながら寝る乳幼児期を過ごした。




「嘘だと言ってよ、マーミィ」


 思わず独り言ちる。

 とある男爵家のお茶会から帰宅した母上が、チョコレートなるものを食べたそうだ。今までに無いお菓子だけど、美味しかったらしい。


 ちょっと待て。


 設定資料集にも載っていなかったし、母上も新しいお菓子と言っていた。

 転生者いるの!? というかオードラン男爵家って主人公だよね。あれ? でも、この段階で男爵家にいるのか? 確か主人公のアリスは、オードラン男爵が外で産ませた子で認知はしていなかったはずだ。病で子どもを失った男爵がアリスを家に迎え入れ、学園には三年生のときに編入する。何それ怖い。


 その後も石鹸、蒸留酒、化粧水とポンポン出してくる主人公。

 やめてくれよ……家督を継げない三男だから、金策の手段は取っておきたいんだよ。手加減してよ。学園入学前からアグレッシブに動く主人公は気になるけど、今は自分を鍛えることに集中する。戦闘パートに参加したい。いや、むしろ僕が魔王を討伐したい。




 十歳になり、同年代が社交界デビューをしている頃、僕は冒険者デビューした。いや、社交界にもデビューしたけれども。

 乳児の頃から鍛え続けたおかげで魔力総量だけは多くなった。でも、火力が足りない。避けて攻撃を当て続ければ、そのうち削り切れるかな。はじめてのゴブリン討伐はファイヤーボール数十発撃ってようやく倒せた。




 あれから三年経って、十三歳になった。幼い頃から魔力を鍛え過ぎたのが原因なのか、十歳あたりで身体の成長が止まっている。低身長で童顔か。社交界ではコソコソしている。自分より身長の高い女性はちょっと……。

 そういえば、社交界でアリスを見たことが無い。何をしているのだろうか。

 冒険者としては、格上を好んで狩っていたらAランクまで上がった。Sランクは国家レベルの貢献が必要になるから難しそうだ。

 来年になれば学園に入学する。今年いっぱいで冒険者活動はお休みかぁ。


 そして、年末にドラゴンを討伐した。


 冒険者を休止するから、記念にダンジョンに潜ったら倒せた。

 大量のマジックポーションを持ち込み、最下層に降りるまでの戦闘は避けられないボス部屋だけにした。ドラゴンとの戦闘では、短剣に毒とエンチャントだけして数日ぐらい斬り続けたら削り切れた。自動回復が体力に依存していて良かった。毒耐性低かったから毒と流血だけで何とかなったけど、スリップダメージの手段増やしておかないと。

 強さ的には魔王軍の四天王と同等ぐらいの設定があったはず。あれ? これひょっとして、ソロで魔王討伐に乗り出しても行けるのでは?


「父上! もうしばらく学園に入学せずに冒険者していたいです!」


「ドラゴンスレイヤーと呼ばれるほどの実力を持っているのは知っているが……婚約者探しするのではなかったのか?」


 呆れる父上を説得? した。




 王子たちが学園に入学した頃、僕は魔王討伐の旅に出た。




 王子たちが二年生になった頃、僕は一体目と二体目の四天王を倒していた。




 王子たちは来年で三年生か。僕もそろそろ婚約者が欲しい。来年は編入して学園に行こうかな。ラブコメも見てみたいし。そのためにも、今年中に残りの四天王は倒す!


 無事に四天王を倒した僕は、編入の準備を始めた。

 魔王の復活はまだ知られていないが、既に復活しているのは確認している。在学中に魔王を倒せそうだ。負けイベントで無理やり勝つ感覚に似ている。イベントすら発生させないのが玄人なのかもしれない。

 そういえば、アリスは学園でどんな動きをするのかな。ハーレムとか目指したら国として不味いことにならないのかな…。


 編入試験を受けるために学園にはじめて訪れた。ちょっと緊張する。

 試験は学園の一室で行われる。他にも編入希望者いるのかな。


「あ、アリス……?」


「?」


 アリスに怪訝な顔をされる。

 どうしてここにいるの。君、もっと早く入学できたよね?まさか、原作通りに編入することにしたのか?


 困惑しながら試験を受ける。大丈夫なのかな、これ。特に苦も無く解答を記入する。満点取れそうだ。おそらく、アリスも満点だろう。どうなるのかな。




 この学園の編入枠、一つしかないのに。




「やっぱり、こうなったかぁ」


 春、満開の桜の花びらが舞い落ちる学園の門を僕はくぐった。


 合格したのは僕だけだった。同じ点数なら、家柄とか他の要素が関わってくる。

家格は僕が伯爵家、彼女は男爵家。僕は四天王の討伐は隠しているけど、ダンジョン踏破とドラゴンスレイヤーの称号を持っているSランク冒険者だ。負ける要素がなかった。せめて聖女として覚醒していれば何とかなった可能性もあるけど、学園編の終盤だったよね。


 これから新生活が始まる。でも主人公がいない。なんだろう、良かったのかなこれ。


 冒険者としては有名だけど、貴族としては変人扱いな僕に近づいて来るのは王子を始めとした攻略対象者の面々だけだった。寂しい。目ぼしいイベントもなく普通に初日が終わった。

 帰宅しようと校門を出たところで、何者かに頭を鷲掴みにされた。


「ちょっと……そこのショタぁぁぁあああ!!」


「ひぇぇぇ!?」


「あんた絶対に転生者でしょ! どうしてくれるの!?」


「もっと早く入学していれば良かったじゃん!」


「原作通り進めたかったのよっ!」


「チョコレートとかで儲けていたくせに……」


 ミシミシミシィ


 ぎゃあああああ痛い痛い痛い!!


「へ、編入枠、後期にもあるよ?」


「半年でどうしろって言うのよ!」


「魔王は前期のうちに僕が倒しておくから、恋愛の方を専念すれば……」


 ようやく離してもらえた。頭ズキズキする。

 アリスは片手で顔を覆い、溜息をついた。


「魔王いなくなるなら聖女必要なくない?」


「あはは……」


「もういいわ。ちょっと付き合いなさい」


「え?」


「情報共有よ」


 アリスにジト目で見られた。


「あ、うん」


 王都にあるカフェでお茶しながら、転生してからのことを語り合った。





マクシム:ゲームはマゾプレイが好き。原作では背景にいるようなモブキャラだった。戦闘では多種多様なDOTを駆使し体力を奪うスタイル。相手の耐性を下げるデバフ魔法を覚えてからは捗った。聖剣とか超火力魔法は甘え。宣言通り、三年生前期の間に魔王を人知れず討伐。王国の平和は守られ、学園編どころか魔王討伐編も無くなった。学園で婚約者を見つけることはできなかったが、アリスとの交流は続けており、オードラン男爵家に婿入りする形でアリスと結婚した。


アリス:原作の主人公。学園編で王子、騎士団長の息子、宰相の息子、王子の従者、学園の先生のうち誰か、もしくは全員と恋仲になる。魔王討伐編は聖女に覚醒した主人公と攻略キャラが魔王を討伐する旅に出て、魔王討伐後に結婚するエピローグになる。知識チートでせっせと地盤を固め、オードラン男爵家にも迎え入れられた。腹違いの姉の病も治している。内政チートも活用して異世界生活を満喫していた。乙女ゲームの開始も楽しみにしていたが、マクシムに編入枠を奪われた。マクシムのことはダンジョン踏破の噂で認識していたが、転生者とは思っていなかった。後期に編入試験を受けず、入学はしなかった。領主としての手腕を認められており、マクシムを婿として引っ張り込んでオードラン女男爵になる。実は、前世の姉。マクシムが弟であることは薄々気がついているが、知らないことにした。

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