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転生の始まり(2)

 森林の上を白い竜が空を飛ぶ、その瞳には涙を浮かばせていた。


「この子だけでも、……あなたが残した最後の希望を守って見せる」


 白い竜のお腹は大きく膨らみ、そのお腹を大事そうに擦った。


 そして眼前に広がる森の中より木々の隙間を縫ってなにかが蠢いて見えた。


 白い竜はそれを目にし、牙を強くくいしめた。


 牙を噛むおとが漏れる。お腹を抱き締めるように抱くと。白い竜は大きく翼をはためかせ、先へ先へと飛行を続けた。


「……レイシアスの死神め」


 竜の口より言葉が漏れる、直後森のなかを動く影から空へ向けて矢が放たれる。一本や二本ではない、複数の数が止めることなく矢を空へと放つ。空を進むその矢は赤い色のオーラを纏い威力が落ちることなく突き進む。



 一本、二本とその矢が白い肌に突き刺さっていく、鱗を貫き肉へ食い込むと血が止めどなく滴り落ちていく。


「……このこだけは……ぜったいに……この……こだけは」


 白い竜の半身が血に染まる、翼をはたかめす度、体中から血が噴出する。


 竜の体は徐々に大地へと近付いていく、よろめく体からは生気が抜け落ちていた。



 森の中より赤い閃光が弾ける、光の元より一本の槍が空を切り裂き白い竜目掛けて投擲された。


 白い竜はそれを瞳に焼き付けるも、その空を進む槍を避けることは叶わず槍は竜の方翼を貫いた。


「グゥオオオオ!!!!!!」


 けたたましい雄叫びが響き、白い竜は力なく森の大地へと落ちていく。


 木々をなぎ倒しながら大地へと落ちた竜は、血だらけの体を起こす。半開きとなった瞳の先には馬にまたがった全身鎧をきた者達が待ち構えていた。


「白竜にして竜王の妻、ユリアよ。夫婦ともども、この俺が死へと誘おう」


 ユリアの瞳に写るのは白く輝く剣先である。


「……ハァハァ……この子は……私が守る!ブレスオブマジックーータイムブレイクーー」


 その言葉を竜が紡ぐと、世界のすべてが静止した。


 吹く風も、落ちる滴も、そして全身鎧もなにもかも世界は止まった。その世界で動くのはユリアと呼ばれる竜だけだ。


「これを……使えば……私は死ぬ。でも貴方は生き残れるはずよ……。私とバハムートの子アースラよ、貴方にはこの世界を変える力があるのよ……、ドラゴンの命運を我が子へ託すわ」


 ユリアの体が白く包まれる。


 それは光のようなものであり、まばゆいばかりの光に包まれるとユリアはその瞳を静かに閉ざし、光に抱かれ世界より姿を消した。



 残光が世界に残され、ユリアの血が大地を濡らした。

 そこに白い竜はいなくなっていた。そして世界が暗転していく、全てが黒く塗りつぶされる。ーーそして橘は瞳を開けた。



 座敷の上で横たわる橘は重たい意識を引きずったまま半身を起こす、目を擦ると瞳には涙が浮かんでいた。


「ドラゴン……の夢?」


 ボツりと呟き、橘は大きく息を吐き出した。

 夢にしては鮮明に刻まれ、その生々しい情景は脳裏へと焼き付いていた。


「変な夢……だけど次のネタには使えそうかも」


 欠伸と共に橘は立ち上がる、回りをみると未だ仲間は寝息を経てて横になっている。ふと主役の後輩がいないことに気がつくが、若い男女が夜中にいなくなったのを気に止めても仕方がないと橘は割りきる。


「単純に羨ましいな。俺もエロゲーみたいなことしてみたいもんだ」


 本心からの言葉を残し、橘は浴衣姿で部屋を出た。


 目的先は露天風呂である。


 せっかくの旅行なのだ、夜中の風呂も堪能したい。いざそう思い更衣所へ赴き服を脱ぐ、人の影は橘以外におらず、一人の世界を堪能できることへの幸せを予感しながら橘は風呂場への扉を開けた。


 湯けむり立ち込める露天のお風呂が目の前に広がる、上を見上げれば満点の星空が湯けむりの合間から透けて見える。


 そして橘は湯船めがけて歩みを進める、目に写る湯船は幸せを象徴しているかのごとく、橘の心を踊らせた。


 そして一歩、二歩と踏み出す。


 体を洗わないまま湯船に浸かろう、最高の贅沢と我が儘だが今日ぐらい許してくれ。その気持ちで橘は湯船に近づいた。


「「せ、先輩!?」」


 不意に言葉が橘の背中へ向けて発せられた。


 それは紛れもない結婚を誓いあった後輩の言葉である。

 しかも男女セット、女はまずいと不意を突かれた橘は持ち合わせのタオルで股間を隠すのに必死になり、その体はよろめき足元を滑らせた。


 次の瞬間、橘を襲ったのは信じがたい痛みと。そして暗くなる意識であった。



「きゃっあ!!!!先輩!!ち、血がぁ!!」

「橘さん!!しっかりしてください!!っくそ!唯旅館の人に連絡して!!」


 後輩達の叫び声が暗い意識に重なる。



 ーーえ、おれ転んだのか?もしかして頭を打ったのか?ーー


 安直にそんな事をぼんやりと思い浮かべている。


 ーーいや、流石にそれは間抜けすぎだろ。はは、死にはしないけどせっかくの旅行が……おれのせいで台無しかよ。ほんと俺は抜けてやがる……ーー


 遠くなる意識は最後まで後輩の懸命な呼び掛けを耳に残し、そして橘の意識は暗闇へと落ちていった。




 ーーーー


 酷く重たい瞼を開ける。その視界の先は暗黒へ包まれ、橘を困惑させた。



 ーーーー


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