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一章 転生の始まり

「唯!おれと結婚してくれ!」


「はい!よろこんで!」


 宴会室の真ん中で、浴衣を羽織った若い男と、それまた浴衣姿の若い女性は互いに見つめあい、愛を交わした。男は光輝く指輪を手にもつと、彼女の細い手を手に取り小さな薬指に指輪をはめていく。


 そして、その二人の幸せに喝采が送られ二人を祝福する。


 その祝福を送る一人、(たちばな) 武幸(たかゆき)は中心の二人へ満面の笑みを向けた。



 それは、小さな旅館で行われた社員旅行での出来事であった。


 幸せ者の二人は橘と共に働くゲーム会社の社員であり後輩だ。後輩二人は公にしつつも社内恋愛をしており、そして旅行をきに公開プロポーズをしたのだ。二人は真面目に働き、恋愛にうつつを抜かすようなことはしない。社内恋愛ながらも五年の月日を会社で過ごし、そしてこの度社員旅行のタイミングを使い結婚へと至ったのだ。


 そこに妬みや嫉妬、公開プロポーズを馬鹿にするものはいない。なぜなら二人の頑張りを全員が知っており、今まで私情を仕事へと持ち込んだことなどないからだ。ただ付き合っているのは公であるため、そしてこの五年目にして一つの大きなプロジェクトを成功させたタイミングで今回のプロポーズへと至ったのだ。



「唯を幸せにしろよ、(しょう)


 幸せに浸る二人へ橘は声をかける。


「先輩!俺絶対に唯の事を守ります!絶対に幸せにしてみせます!」


 眩いまでの笑顔をもって翔と唯は橘へ微笑みを返した。


 二人が新人の頃、その教育係は橘であった。


 だれよりも二人と言葉を交わし、誰よりも二人を応援した。


 だからこそ、いまこの瞬間は橘にとってもとても喜び深いことである。


 橘も笑みを返し、それから祝いの酒が始まった。


 深夜までドンチャン騒ぎの飲みは続く、酒に弱い橘は一人酒を飲まず、回りが睡魔と酒にのみこまれ座敷で横たわるなか、橘は眠れず外の空気を吸いにいく。



「後輩の結婚だ、喜ばしいことだ」


 誰に言うわけでなく、橘は座敷の外庭を眺めながら言葉を漏らした。

 

 身近な幸せを祝いながらも、その言葉の奥には寂しさが込み上げる。


「俺ももう32歳、そろそろ恋をしてみたいもんだ」


 寂しさが込み上げると、小さな本音が漏れ出した。


 橘はいままで女性と付き合ったことがない、二十代の頃はお洒落や遊びよりも、一人の時間と仕事を優先していた。決して人として魅力がないわけではなかったが橘はどこか「俺はもてない」というレッテルを自身へ張り付けていた。


 だからこそ、他人が幸せになると祝う一方で悲しさを感じてしまうのだ。今回に至っては一番身近な後輩の幸せだ、その寂しさはやはりぬぐえず心にすきま風を吹かせた。



 夜風を浴びて戻ると騒ぎ疲れた面子は酒に後押しされ眠りについていた。


 主役の二人もまた幸せそうな寝顔を見せながら互いに寄り添い座敷に寝そべっている。後輩の幸せを今は素直に祝おう、夜風に当てられ心に吹いた風を忘れるため、橘もまた寝そべり瞼を閉じた。



 ーーーー


 それは悲鳴である。

 それは怒号である。


 世界中に響き渡るかのような雄叫びが空気を震わせる。


 空に浮かぶ赤い巨体がひとつ、それは竜だ。その瞳に憎悪を宿らせ、見下ろす先の大地に立つ者達を睨み付けた。


 草木のない荒れた大地に立つのは、白い鎌の紋章を携えた全身鎧を纏う者達である。鎧の色や形は違えど全員が同じく紋章を掲げ、全員の視線は空の竜へと向けられていた。


「追い詰めたぞバハムート、その命ここでもらおう」


 鎧を纏う集団の真ん中より、全身に白銀の鎧を纏う者が鋼の剣を竜へと向けた。


「くだらん毒でドラゴンが滅亡すると思うな!貴様らはいまここで灰とする!ブレスオブマジックーーメテオノヴァーー!!」



 バハムートと呼ばれた竜は大口を開けると、喉の奥より熱が沸き起こる。赤く煮えたぎるそれは光輝くと竜の口より暴れ出て、隕石の形を成して白銀の鎧へと放たれた。


 白銀は決して避けることはせず、その隕石へ剣を振りかざした。


 次の瞬間目映い限りの閃光が辺り一面を包み込み、視界全てが白く遮られる。


 そして光が徐々に薄れると、人影が浮き彫りとなっていく。

 白銀は顕在し、手に持った鋼の剣には刃こぼれも汚れもなかった。



「最後の竜王バハムートよ、お前の首はこの私ドラゴンスレイヤーが貰う」


 白銀の鎧は大地を蹴り飛ばすと、その体は鳥のように空へと舞い上がった。竜と視線を交差させたのは一瞬、瞳を見開く竜の首が胴体より切り離された。


 噴水のように血を吹き出す体は大地へと落ちていき、その首は白銀の片手へと捕まれた。



「今日をもって竜は壊滅とする。残党の数頭は森へにげた。これより追撃を行う」


 白銀の言葉をもって、同じく鎧を纏う集団は血を吹き出す巨体の亡骸を後にし、前方へと広がる巨大な森へと突き進んだ。





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