×月八日(後半)
「ユア、ごはんよー」っと甲高く大きな母の声で私は目覚めた。
いつも朝に不快に感じる母の声。そんな声に頭が搔きむしられるように痛みだす。私が返事を返さないためおおよそ聞こえていないと思っているのだろう、再度不快な目覚まし時計は音も増していきながらなり続けた。
私は寝起きの状態で机の上の計画用紙を確認した、後半意識があやふやな中で書いたことを私は憶えていなかったからだった。記憶としては意気揚々に書きなぐって言った覚えがあるのだけど。それ自体の概要についてはよく頭に定着させるまでには至ってないようだった。
だから、妹を殺す夢を見るということは。私の願望、それこそかなわなかった夢として処理されるのだろう。
紙にはミミズ交じりの私の字で、こう書いてあった。
“夕陽丘へユイと行く→仲直りなどで注意をそらす→突き落とす→少しの時間待つ(三十分くらい)→ケーサツに電話→ユイが強風に吹かれて落ちたと証言する”
一度寝てしまったためか計画の後半の記憶はないけど……。まぁ、私が作ったのだからいい作戦だと言えるだろう。いや客観的に見ても言えると思う。落ちてしまえば上がってくることなんて不可能な潮の流れの場所だ。形だけの海上捜査は行われるだろうけど、もし死体が見つかったって突き落とした証拠なんて一切洗い流されているだろう。そもそも死体が見つかる事が現実的に考えればほぼ無いに等しいくらいの確立である。
「ユアー! ご飯って言ってるでしょ! 早く来なさい!」
目覚まし時計に怒気機能が追加され、そろそろ行かないと雷機能までついてしまうだろうと私は予想し、それはめんどくさい、私は慌ててリビングへと足を急かし移動した。
リビングにはとっくに家族が集結していて、各々の席に座り私を待っていた。勿論、ユイも。ユイは私を見るなりわかりやすくため息をつき、そっほを向いた。朝夕、可能な限りの食事は家族が揃って食べる、私の家ではこういうハウスルールが幾つか存在する。ごくごく一般家庭だ、そんな大したとこではないのだけどこのみんなで集まって食事をするのだけはユイと顔合わせないといけないから、本音を言えば変えてほしかった。
「あら? ユイ寝てたの? 髪がぼさぼさよ?」
母親が配膳をしつつ、私に尋ねる。いつもはユイとごっちゃになるのにユイはもう既に着席していたから私がユアであることを知っている様だった。
母親に指摘され、頭に手をやる。少し、指に紙が絡まってブチブチっと小さな痛みを伴った小さな音が鳴った。
「あー、うん。寝てた」
かといって大した興味を引くことでもなければ話に発展性のある物でもなかったので、私はどうでもいいと気怠に返す。
「その睡眠時間をユイに分けれたらいいのにねぇ……この世ってどうしてこんなにうまくいかないようにできてるのかしらね、双子なんだからそのくらい共有できてもいいのに」
荒唐無稽な母の空論に健康状態まで共有させられてたまるかと内心毒づきつつ。
「おいおい、カーさん。それは無理を言い過ぎだろう」と父親が軽快に笑い飛ばして「それもそうね」と母も笑った。
「それにしても、ユイ昨日は眠れたの?」
一笑いした後に母親が尋ねる、ユイは「うん……昨日はいつもよりよく眠れたよ」って不健康そうに笑いを作って返していた。