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@×月七日

×月七日


 “ユイを殺してしまおう”と、この日急に思いついたわけじゃない。そもそも私はそんなサイコパスじみた人間ではないし、でも前々からユイを殺したいと思う日が来ることはわかっていたような気がする。

 私とユイはが瓜二つの一卵性双生児だった。


 見た目で言えば誰も私たちを見分けることができないくらいによく似てしまって知る自信がある。先生、友達はもちろんのこと、親ですらちゃんと私とユイを区別できていない。ガラスを挟んで向かい合えばまるで鏡と向かい合っているような錯覚さえ覚えてしまうくらいに、私たちは外見の面では非常にいや、異常によく似ていた。


 世間一般の双子のイメージは一体どのような物だろうか、仲良くていつも一緒にいるイメージ? 例えるなら爾汝の交わり、その辺だろう。男女の双子で、互い同士を好き合うなんてそんな狂気じみた近親相姦なんてのも浮かべる人もいるのかもしれない。似ているから惹かれ合う、引っ付き合うみたいなものが私の持つ双子のイメージだった。


 しかし、私たちは内面で正反対だった。簡単に説明してしまえば私はイケイケ系でユイは隅で静かに小説を読んでるような、ぱっとしない陰キャラだった。クラスの小太りで何かのキャラクターの大きなストラップを制鞄につけているような典型的なザ・オタクな子といつもこそこそ喋って静かに笑う。時折こちらを眺めては羨ましそうに、もしくは恨めしそうな表情を形作るのだった。それはそれは嫉視反目たる様子で。あたかも、自分はそんなに群れに媚びなくったって生きていけますよとか、人と群れて一体何が楽しいの? とかそんなことを言わずとも語っているような。


 だから私とユイは見た目以外ではとことん相違なる姉妹だった。


 休日一つの使い方だって全く違う。私が友達とカラオケだったりボーリングだったり、デートだったり青春を全力で謳歌してるのに、対になるようなユイの休日は自室に引きこもって過ごすことなんてざらだった。ゲームだったり実況動画だったり、アニメだったりでも見て自堕落に過ごしてるんじゃないだろうか、知らないけど。時折ユイの部屋からはそう言った音が漏れていた。


 だから私は妹のユイの存在が恥ずかしかった。姉妹として、もしくは同じ顔を持った他人として。


 考えても見てほしい、自分と外見が同じ人間が自分の嫌う生き方ばかりをする。しかも同じ外見だから友人に隠すこともできなかった。小学校のころまで仲のいい、“アイ姉妹”(ユアのアとユイのイ)なんて呼ばれていた私は、年を重ねるにつれてユイの存在が煩わしくてしょうがなくなっていた。


 だからと言って、煩わしいだけではさすがの私も殺しはしない。そこまで鬼じゃないし許容の場がないわけでもない。そんなことは小さくはないけれど我慢できない範囲じゃなかった。私がユイに屍体になって貰おうと思い立ったのはもう一つの理由が大きかったのだと思う。


 先日、ユイが私と偽って幼馴染のシュンに近づいていたらしい。他人から間違われるのは致し方のない事だと、私は十七年生きてきてこのそっくりな顔の事を半ば割り切っていた。しかし、いくら相手が間違うかって自分から騙しに行くのは卑怯だろうと思う。たぶん私もユイになろうと思えば簡単に成れる、そしてその逆も然り。でもシュンは私の彼氏で、それをユイにいいように騙されている状況はどうしても割り切るなんてできないだろう。


 私は嫉妬深い人間でも、束縛の強い人間でもないと自負できる行いを日々勤めていると思う。二股でもしないなら、シュンがユイと話す分には全くどうこう言うつもりはないし、言う権利はないと思ってる。ユイにとってもシュンは幼馴染なわけだし。


 でも私と偽って彼に接近し、しかもキスまでしたとなれば話は別物だといっていいと思う。


 彼は「ユイちゃんといつもの悪戯だから」といってひどく怒ったりはしていないようだったけれど、この件について私はユイを許せなかった。


 腸が煮えくり返る、なんて可愛くない表現だけど、そんな激情を抱え早一か月。


 “ユイを殺してしまおう”


 こう思ったのは、当然だって。そう思わない?

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