×月十二日
×月十二日
放課後の教室、私は座ったままこれから部活動へと行く友達に向って手軽な挨拶の言葉をかける。少しだけ微笑みを作って、手をひらひら。「また明日ね」なんて言う定型も守って別れを告げた。うん、いつも通り。
友達が去り、教室の中にいる人間も次第に数を減らして言っている様だった、ただボーっと見つめた視界から、人間が一人、また一人と消えていった。代わりに窓辺から差し込んだ煩わしいほどに眩しい夕陽が差してくる。
私はそれから逃げるように、机に突っ伏してみた。鬱陶しい橙委は詩型を消し視界はただ黒に染まる。そんな黒の中で私は彼の声を聴いた。
「ユイちゃんの事は、残念だったな……」
一体、今日何回目になるかもわからないようなセリフを、最愛の彼の声で聴いたこの瞬間は他の人間から言われたときより少しだけ意味合いが違ったような気がした。
私の妹、と言っても双子なのだけど。その妹のユイが二日前に亡き人になった。
机の冷たさに心地よさを感じていた額を机から剝がし、私はゆっくりと身を起こす。するといつの間にか彼は私の前の席に座りこちらを眺めていた。
顔には悲哀と容易に見て取れるような表情が顔にこびりついて、私より元気がなさそうだった。
「ほら、そんな顔するな!」
と私が彼の顔へと手を伸ばし彼の頬皮つまみんでのばして、少しにへらっと笑顔を浮かべてみた。彼はそんな私を見て少し複雑な表情を浮かべ、何を思ったのだろうか立ち上がってこちらに近づいて来た。
「ん?」
疑問を口に出すと、彼は私を抱きしめ私の脳内ではさらに疑問が募った。恋人と言えどもやっぱり急にこういうことをされるのはちょっとだけ戸惑ってしまうもので、でもそんな戸惑いなんてすぐに吹っ飛ぶような安心感を彼は与えてくれて。
「なぁ、ユア。俺がユアを全力で支えるから、俺の前では無理してそんな笑顔作らなくたっていいんだよ……」
本屋に腐るほど並んだ少女漫画のうちのどれかからそのまま引っ張り出してきたような、そんな彼の優しさに私は頬を朱に染めて、小さく噴き出し思わず微笑んでしまった。まぁ、抱きしめてくれた彼の顔が横にあって彼には見られてないから良しとしようじゃないか。
「うん、ありがとう」
最愛の彼に対して抱きしめ返すという行為に感謝の言葉を添えて返してみた。触れ合っていた頬がだんだんと熱くなっていくのを感じたりなんかして。
ここで家族が死んじゃったことに対する悲しみに涙して、彼に上手に甘えることができたなら彼女として百点満点花丸、最良の朱印が押してもらえるんだろうなー、なんて思いつつ。
でもやっぱり笑みは隠せなかった。
だってほら、あまりにも計画道理に事が運んでしまうものだから。