学び舎での出来事
不定期更新です。
気が向いたらというわけでもないのでしばらくはリハビリのような感じで。
獣の時期、獣達がせわしなく繁殖し子持ちの獣なんかが凶暴化する頃合である。しかしそれは獣に限らず鳥や魚、竜にも同じことである。
それなのに獣の時期というのは単純に生まれた順番によるところだろう。
世界は初め一人の神から生まれた、やがて神はその身を四つに分けた一つ目が我、神竜。何もない極寒に生まれ、二つ目に神獣、我の生まれたエネルギーにより豊かになった時期に生まれ、三つ目、神鳥、神獣のやつのエネルギーにより暑さを増した時期に生まれ、そして最後に神亀、神鳥と我の時期を繋ぐ為に終息する時期となった。
今ではもはやお互いに会うこともない我ら兄妹、しかし世界にはこうして季節として奴らの形跡が残っている。
何故今このような話をしているかといえばハーシアの通う学び舎で丁度神竜神話の話をしていたからだ。
神竜神話などと呼ばれているが、その中身は我に限らず、神獣、神鳥、神亀についても語られており、この世界の創世より語り継がれる歴史そのものであった。
何故このようなものが今も語り継がれているのかといえば、過去に居た神竜研究家、パスパフィアによって研究解明されたものが今も残っているという訳だ、ちなみにパスパフィアの妻は竜学者ハスカでありつまるところパスパフィアとは我である……研究などというのも烏滸がましくただ我が記憶している範囲の物を紙に書き留めていたのを、偶然ハスカに見られ、残されている文献などと照らし合わせると確固たる事実であると裏付けが取れてしまったために世界へと大々的に発表されたのが事の始まりだったな。
ハスカにはしてやられて、最終的には我が神竜だとバレた上に自信が歴代の偉人の生まれ変わりという真実にまでたどり着かれてしまった。しかしそれを知ってもなお我を愛し続けた女、その面影は今、真面目に授業を受けるハーシアの横顔にも見て取れる。
「では、ハーシアこの問題を解いてみろ」
教壇に立つ教師がハーシアを指名し石板に書いた問題を解かせるつもりらしい。
なになに、竜世紀407年に竜学者ハスカが発表した研究は何か? ……だと? こんなの子供に答えさせる問題ではないだろう。我ならば分からなくはないが、というか知っているがハーシアがいくら生まれ変わりとは言えそれに答えられるわけが――――。
「はい、竜世紀400年代には竜学者ハスカは三つの研究をしていました、竜の生態、竜の魔法と技、それと竜の繁殖について、そのうち407年に発表できたのは竜の魔法と技についてです」
ちょっと途中ハスカしか知らんような情報が漏れてたが、正解だな。ちなみに竜の繁殖については公表してないので言って欲しくはなかったが、まあ教師も聞き流すだろう?
「はい、正解です……ハーシアさんどこでそれだけの勉強したのでしょう? 確かに竜の繁殖については彼女が研究していたと言われますがその研究は生涯明かされることはなく終わったと聞きます。それをどこで知ったのですか?」
そこまで知っているとはこの教師も中々学があるじゃないか、こんな片田舎に珍しく。
しかしそれを問うたところでハーシアに答えられるはずはない。
「えーと……わかりません?」
そう、ハーシアには前世の知識がたまに出たとしても記憶があるわけじゃない、どこで知ったかとかわかるわけないのだ。
「そうですか」
教師はチラっとこちらを見てくる。我を疑うか、あながち間違えでもないが……。
『キィィィィン、コォォォォン、カァァァァン、コォォォォォン』
時見の三つ首竜が左、中、右、中の順で吠える、一定時間が経つと吠え始める変わった竜で竜世界においてもあまり知り合いになろうとは思えない竜である。
「では次の授業は先ほど出た竜の魔法と技についてやるので屋外に出ておいてください」
わーっと蜘蛛の子を散らすように教室から出て行く子供らとその契約子竜達、その中にはハーシアの兄やらその友達なんかもいたりする。
何がどうなったのか分からないが我と契約して以来ハーシアは周りの子らとは違って少し大人びたというか、子供らしさというものがなくなった。
「コウ、行こうか?」
「こぁ」
ハーシアは我の事を愛称で呼ぶようになった、まだ数日程度しか経ってない……というか契約した翌日には愛称だった。
いきなりだったもんで最初は自分のことだと気付かなかったほどだ。歴代の彼女はどちらかといえば愛称で呼んだりはしなかったが、兄アランが『竜にとって本名は大事だから普段は別の名前で呼ぶんだ』みたいな、我からしたらいつの時代の話だと思うようなことを言っていたが現在のこの村では割と普通のことらしいのでそのままにしている。
学び舎に隣接する広場にはすでに子供らと子竜達が揃っていた。
当然か教室を最後に出たのが我らだ、とくに排泄等をしない限りは遅れることはない。
『キィィィィン、コォォォォン、カァァァァン、コォォォォォゴホッゴホッ……』
「むせた」
むせたな……真ん中の竜は二度鳴くからたまにああやってむせることがある。
「……ゴホン、では授業を始めようと思う。」
教師が咳払いをして授業に取り掛かった、竜の魔法や技というが単純な攻撃的な本能で行うものを契約した人間が竜に指向性を持たせることによってそれらを魔法だとか技って括りにしているだけのことだ。
とはいえ基本的に我を研究材料として調べられた分野なのでどの竜種でも再現できないモノがいくつかあったりする。
「よーし、セイバー! えたーなるふぁいあーだ!」
アランがセイバーとあだ名をつけた自分のドラゴンに神級竜魔法をするように命じる。無論無理なのでセイバーの口からは青い火の粉がボッと出てくくるだけだ。しかもあだ名のとおり角が剣のように鋭くよくリモーネに薪割りをやらされているセイバーはどちらかといえば格闘タイプ、竜技の方が得意なのでかなりしょぼい竜魔法が出た。
「アラン君! 真面目にやりなさい。君はあのハーシアのお兄さんなんだろう?」
ふざけていると受け取った教師がアランを叱る。しかもこの教師事あるごとにハーシアと比べるからアランの自尊心は傷つきっぱなしだ。
というかエターナルファイアー、我がもっとも得意とする、任意型持続性燃焼魔法だな。我がもう良いよ念じるまで燃え続ける敵からすれば厄介な炎だ。
「コウ、エターナルファイアー」
お、やれというのか? 本当にやっちゃうぞ?
という視線を送るとハーシアは未だアランを説教中の教師を指差した。見えればアランが泣きそうな顔をしている。
なんだかんだで兄思いだな。仕方ない、エターナルファイアーであの教師を焼き払ってやろう。
『我が魔力に触れ延々と燃え盛る大気をここに、延焼業火』
竜言語なので人間からすればこぁこぁ言ってるだけだが、周囲の子竜は我が何を言っているのか理解できてしまうがために全員震え上がっている。
出す炎の大きさは先ほどのセイバーと同じ火の粉程度、しかし効果はまごう事なきエターナルファイアーな感じでそれを教師の頭めがけて吹き付けた。
教師はアランを叱るのに気を取られているために気づかず髪に火が引火する。
アランはその様子を思いっきり見ていたようで教師の髪が燃えた瞬間腰を抜かしてしまった。
それには教師も何事かとあたりを見回すが、いかんせん頭上で起こることな上に、ハーシアは怪我をさせることを望んでいる訳でもないので髪だけを延々と焼き続けることだけに特化させているので中々気づかない。
「アラン……!」
アランにからかわれたと思った教師はまたアランに詰め寄るが、流石にアランも「せんせー髪の毛燃えてる!」と叫んだ。
それにより髪の発火が発覚。
「ああづっばばばばっあつい! 消えない! なんでだよ!?」
髪は燃やしても頭部は焼かないとは言え、手で消そうとして触れればそりゃ熱いし、我が消えろと念じないことにはな?
「コウ」
はいよ、消えろ~。
シュウゥゥ―――――。
消火したものの、無理に消そうとして教師は手に酷い火傷を負い、髪も全て焼き尽くした感じだな。
「コウ……」
我を責めるか、まあちとやりすぎたな、これなら火級のプチフレアでも良かったか。すぐに消えるし熱いだけで火傷も何もしないけど。
直せなくもないが、教師は自習と言って村で唯一の医者のもとへと足早に立ち去ってしまったため、今日の学び舎はこれまでになった。
教師がいなくては自習も何もない。こんな小さな村に医者が一人なら教師も一人だ。
もしかしたら明日から休校になるかもしれないな。
「コウ、直せない?」
「こぁぁあ」
すまんが無理だ、あんな教師でもと思うがあんな教師だからこそ我は燃やしたのだ。
何よりただでさえウルサ虫の件からハーシアとアランの仲は悪化しているというのに周りがその溝を広げようというのはハーシアの成長を妨げることになるしな。
悪い芽は早いうちに摘んでおかないとな。
こうして教師は学び舎をやめ、田舎に帰り代理の教師が来るまで学び舎はお休みとなった。