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再会する魂

貯めて書こうとしたが、どうにも性に合わないので随時書いて行こうと思い今に至る。

 ようやく会える――――。



 ()()()死に別れてから幾星霜、ようやく再び相まみえる。



 夢から醒めるように、眠りから覚めるように瞼を開く。



 神竜たる我にとってはそれは眠りでも無く夢を見ていた訳でもなく、ただ魂の鼓動にじっと耳を傾けていただけだった。



 死した人の魂は冥界へと昇り、そこで新たなる命として生まれ変わるためにゆっくりと時間をかけ浄化されていく。



 我はそれを()()()見守り続けた結果、瞳を閉じ耳を澄ませることによって狙った魂の鼓動を感じることができるように至った。



 起き上がるために体に力を入れる、神気の消耗を抑えるために著しく低下させた体力を全身に神気を流し込む事によって回復させる。



 糸のように細々となった血管が大河のように広がり全身に血流を行き渡らせ、石のように硬くなった筋肉が本来の柔軟性を取り戻していく。



 錆びついた汚い鱗を神気を全身から放出し一気に剥がせばその下には黄金や白銀を併せ持った良く言えば煌びやか、悪く言えばギラギラした鱗が露出する。



 この鱗などを目当てに攻撃してくるものは少なくはないようで周囲には錆びついた剣や折れた矢などが散乱しており、また無意識のうちに反撃を加えたようで、白骨化した人間がゴロゴロ転がっている。


 《これでは我が人食を嗜んでいるようではないか! 全く……誤解されても敵わんからさっさと移動するか。》


 行き先はもちろん愛しき者の生まれ変わりのところ。

 ここより遥か東、我と彼女で興した国の内にある小さな集落だ。

 ()()は良いところに生まれ変わった、あの国であれば接触は容易い。


 これが国外であったら先ほどの死骸どもではないが竜は武具の材料か、はたまた金の種ぐらいにしか思わん連中も多くいる。

 しかしこの国だけは違う、神竜国ドラニアン……かつて神竜と一人の竜使いが生み出したこの国家の絶対法律の最初の一文にはこうある。


「竜は友達、敵じゃない」


 故に多くの竜がここに住み着き、人もまた竜と共存する。

 人の子が十歳になれば森に入り、子竜と契約を交わし竜使いとなる、それがこの国だ。

 ま、そもそも愛しき彼女が生まれ変わった時のことを生前より考えて、我が助言したことにより出来た法ではあるが。


 《ぐふふふ、今から楽しみだな。まだ彼女は母親の腹の中だ。今より生まれるまでに環境を整えあの村に加護でも与えておくか》


 最も加護は彼女が大人になって村を出るまでとする。

 我は彼女には寛大だが、しかし彼女以外にはあまり興味はないのだ、せいぜい彼女の為になる人間とコンタクトを取る程度か。


 今のところそれもこの国の王族、我らの子孫か、信頼できる血筋の光爵家あたりだけだが。

 しかしそいつらに話すにしても彼女が大きくなり王都やら国の中心に行くようなことがあれば、という未確定な事だ。


 《森の中には火級竜達ばかりか、ならば問題はないな……害獣の類も居ないようだしては加えんでもいいだろう》


 こうなってくると後は生まれてくるのを寝て待つだけだった。竜にとって、いや神竜にとってしてみれば数年の経過など一瞬のまどろみのうちに過ぎていく。


 オギャー、オギャー。


 《はっ。》


 まどろみのうちにとか言って本当にレム睡眠――――数ヶ月過ぎており、愛しき彼女の産声に起こされる始末。


 今は彼女の父母が揃って名前は何がいいなどと言っている最中だ……そのようなこと生まれる前から決めておけと思うのだが、いくつか候補があって結局生まれてみてから決めるということだったらしい。


 その候補がというと女の子なら『アリュウレー』『シラフィ』『ハスカ』男なら――――は、()()は女の子確定なので省略する。

 なお三つとも過去の英雄と呼ばれる女性たちでそれぞれを竜王妃アリュウレー、竜女騎士シラフィ、竜学者ハスカ――――三人ともこの生まれてきた子の前世に当たる人物たちである。


「んーアリュウレーがいいんじゃない? とても綺麗な子になると思うの」

 母親はアリュウレー派らしい。

「いやいや、この村の出身であるシラフィがいいよ、女の子でも今時は結構強い子多いしね!」

 《父親はシラフィか、そういえばどことなく見覚えが有る村だと思ったがあの時の村であったか》

 あーでもないこーでもないと永遠と続く議論、このままでは朝になるのではないかと思ったのでここで少し仮眠を取ることにした。下手をすれば数年の時が流れるがそれまでには名前も決まって我も再び出会う時になるであろう。



 ――――。


 ――――。


「いってきまーす!」


 《はっ!?》


 いかんいかん、ついつい寝過ごした……ちょっと今回は寝過ぎたかもしれん、何せ幼さが残るあの子の声が聞こえたのだから。

 どれどれ、一体どの程度育ったのか。


 どうやらあの子は10歳ぐらいになったようだ、誰か彼女の名を呼べば名前がどうなったか分かるが……一緒に何人かいるな、どうやら彼女の兄とその友達男女二人か。

 どうやら森に子竜と契約するために行くらしい……。


 《ん? では我も急ぎ支度をせねば!》


 神気を膜のように全身に纏わせればそのまま締め上げるかのようにギュッギュッと体を無理やり縮めていく。

 所謂圧縮、真空ぱっくというやつだ。そして神気を炎の属性魔力に変換し炎属性と偽れば、どこからどう見ても子火竜(こか・りゅう)の出来上がりである。子竜と言ってもちょっとした大狼や子馬ぐらいの大きさで子供ならば背に乗せて運ぶことも可能だ。


 《うむ、実に鮮やかな紅、それとやはり隠しきれぬ神気が波打つように白き模様となって浮き出ているか、しかし並みの竜や人では気づくまい》


 ()()()()()子竜モードに満足した我はあの子の気配のする方へと向かった。


 我がそこへたどり着いた時にはもう既に数匹の子竜達が群がっていた、皆この森で生まれ育った子竜達であろう。

 どうやらこの契約の日より前から交流はあったようで彼女の兄の友である少年と少女は既に契約を完了していた。


「ハーシア、早く決めろよな!」


 彼女の兄が彼女に呼びかけた、……ハーシアというのか? 候補の原型などはないが……うむ、どうやら候補の頭文字を繋げたようであるな。それもまたよかろう、彼女の新しい呼び名が増えただけだ。

 一方ハーシアはどうやらどの子竜と契約するか決めかねているようだ。何せその場にいる契約していない子竜全てが彼女に群がっている。


 それも当然、我すらも引き付けるあの才気、どんな竜でアレあれに従えられることを望むのは目に見える光景だ、むしろその前に兄の友二人が契約できているのが奇跡のようだった。

 そして兄はといえば妹に少し劣るが才気はあるようだが、やはり妹の契約が決まらねばどれも寄り付く気配はない。


「えーっとおにいちゃん、ごめんね。なんかちがうの」


「何が違うんだよ?」


「いないの」


「居ない?」


 そう、ハーシアは我を待っている、我にとって彼女しかないように、彼女にとっても契約すのであれば我しかいないのだ、それはとても長い年月、百を越える転生回数による一種の刷り込みによる賜物。

 生まれる前から既にちょうきょ……せんの……いや何といえば良いのか――――そう、愛の力だ。

 ともあれ早く選びたい兄が少し申し訳なくなってきたので我は早々にその場に出る事にした。


「こらぁぁぁぁ!」


 自己アピールにおける一番彼女に可愛いと思わせる火竜式の第一声だ。


「ん!? なんだあいつ、見たことないのがこっちにくるぞ!」


 兄の声で皆が警戒する中、ハーシアだけがその曇った表情から一気に快晴となるように明るい笑顔となる。


「コウカーラ!」


 紅火荒(コウカアラ)か、また懐かしい名を……かつて我が彼女に、シラフィに付けられた名であった。

 名をつけること、それが子竜と人の子の契約である。この時を持って今生における契約は成された。

 我は嬉しさのあまり、ハーシアのスカートの中に飛び込んだ、ああ、胸とかに飛び込むとそのまま押し倒して怪我をさせてしまうからな。


 それからどうするかといえば無論下から突き上げてハーシアを浮かすと方向を調整し背中に乗せると、翼……と言ってもまだ飛ぶのには使わないので手綱代わりに掴ませそのまま村まで一直線に走った。

 この喜びを村の連中にも分けてやらんとなぁ、何せ、この紅火荒(コウカーラ)の再臨なのだ!


 ん? 兄とその他二名? 知らん。どうせ契約すれば戻ってくるだろ。


 村までたどり着いたがハーシアは未だに興奮しきっている様子で中々背から降りようとしないので仕方ないのでそのまま村に入ることにした。

 基本村では契約していない竜は見張りが止めるようになっているが今の俺はハーシアと契約済みだし、それはこの状態を見れば一目瞭然なのでなんとかなるだろう。


「おっ、ハーシア契約できたのかい? っと、アラン達はどうした?」


「あっおとうさん……おにいちゃん……おいてきちゃった」


 見張りはハーシアの父だったか、声をかけられて我に返ったようで我の背を叩きながら「もー……こーかーらがはしりだすからだよー」なんて責任転嫁……ではないな、事実だ。


「その子はコーカーラっていうのかい? ……初めまして、ハーシアの父、ゼランだ。よろしく」


 ふむ、竜に対する礼儀を正しく知っているようだな。とりあえず笑顔を返してやるか。


「ごらぁ」


 口を薄く開き顔の筋肉を引きつらせる――――昔何度も練習した極力可愛く見えるドラゴンスマイルだ。


「ヒッ」


 ゼランは小さな悲鳴を出し少し後ずさった……不評か、どうせ愛しの彼女にしか通じないしな。


「こーかーら、かわいい!」


 ドラゴンスマイルを見たハーシアは我が首に抱きつき頬ずりをしてくる。うむ、愛の力(調教か洗脳)だ。


 それからしばらくしてアラン、ハーシア兄がその他二人……確かとハイゼルとフレーデルだったかなんでも双子らしいが男女であんまり似てないとも。

 そんな彼らが連れてきた子竜達は火級子竜に属するアランが青火竜(セイカリュウ)、ハイゼルが黒火竜(コッカリュウ)、フレーデルが白火竜(ハッカリュウ)それぞれ体表と同じ色の火を吹く、現段階では翼も生えていないのでトカゲも同然だ。ちなみに火級(かきゅう)水級(すいきゅう)風級(ふうきゅう)土級(どきゅう)雷級(らいきゅう)闇級(あんきゅう)氷級(ひょうきゅう)木級(もっきゅう)鋼級(こうきゅう)銀級(ぎんきゅう)金級(きんきゅう)光級(こうきゅう)の十二段階による分類をされるところの一番下っ端にあたるドラゴンたちだ。ん? 我? 我はその分類の更に上位の神級(しんきゅう)である。


 そろそろ日も暮れるということになったのでその日はすぐに家路に着くことになった。

 なんかアランが仕切りに我に話しかけてくるのだが、興味がないので無視、ハーシアはご機嫌で我の背に揺られているのでそれだけで良い。


 家に着くとハーシアの母が出迎えてくれた。


「あらあら可愛らしいドラゴンさんね、初めまして、私はハーシアの母のリモーネよ。よろしくね」


 中腰になって目線を合わせてくる辺り竜への礼儀が正しい、夫婦揃ってとは良い家族だ。


「母さんっそいつ喋れないからそんなこと言っても無駄だよ!」


 息子はそうでもないようだな、言語の有無など些細なことだ。竜に対する敬意それがなければならないというのに、全く嘆かわしい……これも竜と身近にあるということの弊害か。


「おにいちゃん、たぶんこーかーらはおにいちゃんがうるさいから、むししてるだけだとおもう」


 正解である。流石ハーシア、我が契約者。言葉にせずとも伝わるか。そして兄に対してだというのに中々辛辣な言葉だ。


「うるさ……むし……」


 なんか急に落ち込んだ、ハーシアの言葉が余程ショックだったか。

 ちなみにウルサ虫という鳥の時期にだけ地上に這い出て来てけたたましく叫び騒ぐ虫が居る。

 今は獣の時期、後三ヶ月もすれば鳥、そして三ヶ月後に亀、そして竜と続く。



 今年はまだ始まったばかりであった――――――。

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