一撃
時刻は昼の4時過ぎ。
場所は遊園地の大広場。
池のアヒルボートへ向かう犬の少年を、猫の少女が呼び止めます。
「野良犬くん」
「……?
おおォ~、どうしたクソ猫、改まって」
「本当は、こんな事言ったらいけないんだけど。
根暗ちゃんは、1つ、ガリベン君を出し抜く案があるみたい」
驢馬の少女の案は、確かに2匹の少年を出し抜く事が出来るかもしれない物でした。
しかしその案で、犬の少年は深く傷つくかもしれない。
そう考えた猫の少女は、独断で少年に話しかけたのです。
「……良いのか、ンな事言って。
小鳥遊“センセイ”に、言うぞ、俺は」
「出来れば言わないで欲しいんだけど。
ただ、その案が、野良犬くんを傷つける事になるかも知れないから。
先に謝っておくね、ごめんなさい!」
猫の少女は、犬の少年に向かって頭を下げました。
犬の少年は溜息を付きます。
この事を鶏の少年に話すべきでしょうか。
……いえ、話すべきではないでしょう。
本当は言わなくても良いことを、猫の少女は口にしてくれたのです。
そして、犬の少年が傷つくことを見越して謝ってくれたのです。
ならば、やることは1つでしょう。
「そっか、ま、良いさ。
あんまり、手酷くしないでくれよォ」
そう言って、犬の少年は笑います。
誠意には誠意を。
……犬の少年の敗因は、そこでした。
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時刻は夕方の5時過ぎ。
場所は観覧車の前。
そろそろ頃合いでしょうか。
遊園地のアナウンスが鳴り響きます。
♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪
『遊園地にいる中学生の皆さん。
夕方の5時です。
遊園地内に残っている人たちは。
そろそろ帰宅しましょう。
帰るときは、寄り道をしないで。
車に気を付けて帰りましょう。
繰り返します……』
♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪
園内放送に、4匹が舌打ちをします。
おや?
誰が放送したのか、ばれたのでしょうか。
茜色に染まる夕焼けを見ながら、鶏の少年が声を上げました。
「それじゃあ、最後に観覧車に乗りましょうか。
どうやらこの観覧車、一緒に乗った人たちがカップルになるとかならないとか……まあ、関係ありませんがね!」
驢馬の少女は苦笑いをします。
何しろ今のところパーフェクトゲームです。
驢馬の少女は悔しさが半分。
そこまで鶏の少年が頑張ってくれていることに嬉しさも半分あるようです。
今回もし負けたのなら、もう、鶏の少年と付き合っても良いかなとすら思えてきています。
……まあ。
もし負けたのなら、ですが。
「……さて、最後の組み分けは、どうしましょうか。
エクセルでも出してきますか?
筍一本でも良いですよ?
最初に戻って、グーとパーなんてのもアリですかね?」
「どの組み分け方法でも、良いんだね」
「ええ、勿論」
「あみだくじでも、良いのかな?」
「はい、良いですよ」
「『組み分けアプリ』を使ったとしても?」
「構いません」
「ガリベン君!」
「はい?」
振り返ると、夕日を背にして立つ猫の少女がいました。
何故か恥ずかしそうに背を丸めながら、上目使いです。
唐突なシチュエーションの変化に、鶏の少年は頭が回りません。
「え? え? な? な?」
顔を真っ赤にして、猫の少女が声を上げました。
「あ、あたし、最後の! この、観覧車だけは!
た、小鳥遊くんと、乗りたい!!」
「え? え?」
テンパった鶏の少年は。
「え、あ、はい」
辛うじて、そんな言葉を吐き出すことが精一杯でした。
驢馬の少女はその言葉を確認すると。
傷付いた顔をして苦笑いする犬の少年に向かって話しかけました。
「わ、私も!
この観覧車には、小犬丸くんと一緒に乗りたいな!」
「え、え」
驢馬の少女からの唐突な発言。
「お、おうゥ」
まさか横からそんな話が出てくるとは思わなかった犬の少年も、動揺しながら思わず同意してしまいました。
『---以上で 録音を 終了します---』
驢馬の少女の胸ポケットから、無機質な音が聞こえました。
「「……へ……?」」
2匹の少年は、ワケが分からずポカンとしています。
驢馬の少女は、懐からスマホを取り出しながら、笑顔を浮かべました。
「……あー、良かった。
みんな、同じ意見で。
全会一致なら。
そもそも、組み分けをしなくても、良いよね!」
鶏の少年は、目を丸くして呟きます。
やられた、と。
驢馬の少女は考えました。
組み分けのゲームでは絶対に勝利を奪えないのなら。
そもそも組み分けする前に決着を着ければいい、と。
そして、たった1回しか使えないその方法を、最後の最後。
まさに一撃で勝負が決する場に持って来たのです。
鶏の少年は回想します。
猫の少女が自分に声を掛ける前、やたら答えがイエスの質問を繰り返していたことや。
少女達が夕日を背負って上目使いで話しかけてきて自分を困惑させたこと。
呆然とする犬の少年に畳み掛ける様に話をしたタイミング。
……恐らく、その全てが少年たちに『イエス』と言わせる、布石であったのでしょう。
そして、しっかりと録音機能で言質を取られている現在。
もはや少年たちに、猫の少女を論破する方法など残されていませんでした。
「ああ、くそ、最後の最後でやられてしまいましたか……!
2人の演技に、すっかり騙されてしまいましたよ」
「流石は驢馬塚にクソ猫、やるじゃねェかァ。
2人とも、なかなかの”役者”だったぜェ。
思わず騙されちまった……」
そこで鶏の少年と犬の少年は悔しそうに苦笑いしながら2匹の少女を見て。
……自分たちの間違いに気づきました。
……猫の少女と驢馬の少女が、涙を流して喜んでいたのです。
「良がっだ、良がっだよー根暗ぢゃーん」
「うん、うん!」
「小鳥遊ぐんど、観覧車に、乗れるー」
「うん、うん!
私も、小犬丸ぐんど乗れるよー、うえええん!」
……最後の最後で勝負に勝ったから嬉し泣きをしている、という訳ではなさそうです。
もちろん、そのせいでかなりテンションが上がっていると言うことはあるでしょうが。
純粋に、猫の少女は鶏の少年と、驢馬の少女は犬の少年と一緒に観覧車に乗れることに涙を流して喜んでいたのです。
2匹の少年は思わず顔を真っ赤にしました。
……いえ。
照らし出される夕焼けの光と相まって、2匹の少年の顔は、真っ茶色に見えます。
犬の少年が、小声で恥ずかしさを噛み殺すように鶏の少年に話しかけます。
「……おィ、小鳥遊”センセイ”……お前、凄い顔色だぜェ……。
まるで、焼き鳥だなァ」 !?
「そっちこそ、凄い顔色していますよ、小犬丸さん。
鏡でも、お貸ししましょうか?」
「いや、良いわ。
どんな顔色をしているかは、だいたい分かるしなァ」
「奇遇ですね、僕も自分自身の顔色は、だいたい分ります」
鶏の少年と犬の少年は、両者がそれぞれを真似し合うかのように、右手で目頭を押さえて下を向き。
そして、同じ言葉を呟きました。
「「錆色」」
2匹の少年のハモった声は、2匹の少女の泣き声と共に、夕暮れの遊園地にいつまでも木霊するのでした。
(`Д) 甘すぎる死ね なんだこのオチは殺すぞ
J( 'ー`)し ごめんね。NiOさんはじめてのらぶこめだから、ごめんね




