7不思議その7 無限教室
時刻は4時00分00秒、制限時間は残り16分を切ったところ。
場所は中学校の3階校舎。
犬の少年は考え込みます。
もともと、考えるのは苦手なのです。
今までも、解けたのは『ウサギかカメ』という、冷静にしていれば誰だって解ける、気づき一発の問題だけでした。
「問題文が短いから、もっと隠された意味があンのか?
100に意味があるのか?
それとも、前の問題みたいにWhoで2番目の部屋とかかァ?」
少年はなぞなぞを考えながら廊下を歩きまわり、無限教室のマッピングも並行して行っています。
まるでめちゃくちゃで法則など存在しないような廊下と教室ですが、歩いているといろいろなことに気が付きました。
①教室は、『1年1組』から『10年10組』までの100クラス。
②1本の廊下には、同じ学年が『○年1組』から『○年10組』まで順番に揃っている。
③1本の廊下には、同じ学級が『1年□組』から『10年□組』まで順番に揃っている。
④廊下は②、③のいずれかを満たす。
つまり、10×10の碁盤の目が、グニャグニャになったような構造をしているのです。
「マッピングは終わっていないけど、まあ、大体構造は解ったなァ。
しかし……くそ……なぞなぞの方は、全然解らん……」
なんだかんだで、残り時間は14分を切っています。
「大体、問題が短すぎて、解りようにも……」
そこまで独り言ちた後、犬の少年は気づきます。
問題文が短い?
なんだかそれ、前にもありました。
確か、美術室の、色の問題で……。
犬の少年は『第7問目』のなぞなぞが書かれたメールを下にスクロールします。
「……ないっ!」
そう、今回もなかったのです、いつもの文章が!!
『ただし、間違った答えをすると、死にます』
の、1行が!!
「……ウソ……だろ……?」
今日何度目かの青い顔をして犬の少年は呟きます。
つまり、このなぞなぞの答えは。
『片っ端から教室を調べて誰かさんを探し出す』
というものだったのです!
……この、100クラスを、虱潰しに?
「絶対間に合わねェ!
……でも……畜生、やるしかねェかァ!!」
犬の少年は手始めにすぐ近くにある教室、『8年1組』から調べ始めるのでした。
ドアを開けると、そこは何処にでもある普通の教室です。
「確か、誰かさんが『隠れている』っつってたな……」
隠れられそうなロッカーを開けて、教壇をひっくり返します。
「……誰もいないか、次だな」
犬の少年は舌打ちをすると、次の教室へと向かいました。
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『8年生』のクラスを調べ終わるのに、3分が経過していました。
残りは11分を切っています。
犬の少年は歯軋りします。
4匹揃っていれば、すぐに解ける問題なのに……と考えながら。
このままでは、全ての教室を開ける前に制限時間が来てしまいます。
やはり、驢馬の少女に助力を求めるべきか……。
そんなことを考えていると、9年7組の階段から、驢馬の少女が現れました。
「ろ、驢馬塚ァ!
どうだ、そっちの首尾は?」
「うん、上々かな!
小犬丸くんは?」
「ああ、答えが解った。
『間違った答えをすると、死にます』
この1文が問題文にねェ。
要は、100クラスを“総当たり”で片っ端から探すってコトだ」
「他に、解ったことは?」
「ん?
……まず、教室は『1年1組』から『10年10組』までの100クラスで……」
犬の少年は今すぐ部屋探しをしたい気持ちを抑えて、先ほど解った教室と廊下の法則を驢馬の少女に説明します。
「なるほど」
「なァ、もう良いだろ。
とりあえず手分けして教室を探そうぜ。
俺は8年のクラスは全部調べたから……」
「うん。
じゃあ、行こうか!
4年3組へ!!」
「……はァ?」
驢馬の少女が自信満々に手を引きます。
犬の少年は訝しがりながらも、4年3組の教室へと少女を案内しました。
「よし、開けよう!」
驢馬の少女が、何の説明も無く4年3組の教室の扉を開けると。
……そこは、放送室でした。
「え? は? お?」
今までの……少なくとも8年のクラスは全て、普通の教室でしたが。
他の部屋と4年3組とのあまりの違いに犬の少年は驚きの声を上げながら、周囲を観察します。
右側には放送用と思われる、良く分からないメカメカしい機械があって。
左側には開けっ放しの窓があり、うっすらと夜明け前の明るさを部屋の中に提供しています。
そして、部屋の奥には、放送室に似つかわしくない、『学校の校門』がありました。
まるで、ここが出口だとでも言うように!
「ほら、小犬丸くん、見て」
驢馬の少女が携帯電話を犬の少年にかざします。
『4時00分00秒 “第49日目” ※※※正解!!※※※
残り 08:32』
「……おい、なんで解ったんだ?
4年3組なんて、問題文には全然……」
「小犬丸くん、はい、これ」
驢馬の少女が、図書館のなぞなぞノートを渡します。
「おいおい、今さらかよ」
時間は、残り8分。
犬の少年にはそんな時間で鶏の少年の思惑を読める気はしませんし。
第一、放送室の奥がゴールなのは解りきったことです。
「大丈夫、今ならもう、解けるはずだよ。
今から、私は野暮用があるから、絶対、絶対、解いてね」
「お、おう……」
驢馬の少女の有無を言わせぬ物言いに、犬の少年は圧倒されて頷きます。
「あ、そういえばこの部屋には誰かさんが……」 !?
犬の少年が声を掛けると、驢馬の少女は笑いながら頷く。
「そうそう。
私の野暮用って言うのは、それ。
いるんでしょう?
……『ニッケルさん』」
驢馬の少女は薄暗闇の放送室に向かって、声を掛けました。
なるほど、驢馬の少女はそこまで解っているんですね。
ならば、仕方ありません。
「いますよ、ここに」
放送室のメカメカしい機械に繋がれた、1本のマイク。
そのマイクの前の椅子に現れる人影。
ああ。
ここからは、犬の少年と、驢馬の少女の驚く顔が良く見えます。
「初めまして、私が、『ニッケルさん』です」
笑顔を浮かべながら、私は、答えました。