7不思議その3 真夜中の音楽会
ブックマーク頂きました、ありがとうございます。
時刻は24時ちょうど、制限時間は残り3分を切ったところ。
場所は中学校の音楽室。
『真夜中の音楽会』は激しさを更に増し始めていました。
まるでスーパーマ○オの時間制限前のように。
音楽のスピードが速くなってきたのです。
3匹が恐慌状態に陥る姿を見ながら。
唯一冷静な犬の少年はなるべく落ち着いて、静かに考えます。
大丈夫。
最悪分からなくても、1/2なので、どちらかの檻にタマゴを放り込めばいいのです。
「【世界のうちでも歩みの速い生き物のタマゴの化石】かァ……。
でもこれ、ただ博物館の館長がフカしてるだけだろうしなァ」
それでもこの問題にはこれくらいしかヒントはありません。
普通に考えると、足が速いのはもちろんウサギです。
ただ、この問題でも分かる通り、このウサギはカメに徒競走で負けています。
いよいよ分からなくなってきました。
一体ウサギとカメ、どっちのタマゴなんでしょうか?
「ん? ちょっと待てよ」
犬の少年は、なにかに気が付いたようです。
「ウサギって……“ 哺 乳 類 ”、だよなァ?」
犬の少年は理解しました。
そう、問題の最初の部分は全くの無意味だったのです。
ウサギは哺乳類で、カメは爬虫類。
カモノハシなどの例外はありますが。
ウサギは、タマゴを産みません!
「おお、なるほどォ。
……“気づき一発”、ってやつかァ!」
犬の少年は素早くタマゴを掴むと、カメの檻の中にそれを放り込みます。
次の瞬間。
まるでイヤフォンを耳から引き抜いたかのように。
あれほどうるさかった音楽が止みました。
「え、え、あれ……」
空中に浮いていた指揮棒がカランと地面に落ちて、メトロノームだけがカチッカチッと音を立てています。
楽器たちはいつのまにか元の場所へ。
音楽家たちは素知らぬ顔をして、いつものように佇んでいます。
携帯の画面を確認すると、止まっていた時刻は動き始めていました。
『00時01分17秒 “第21日目”
3問目 クリア』
4匹が、ホーッとため息をつきました。
そして、つかの間の休息も許さないように校内放送が流れます。
♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪
『全校生徒のみなさん。
夜中の12時です。
校舎の中に残っている人たちは。
急いで3年3組横の女子トイレへ
集合してください。
繰り返します……』
♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪
次は、女子トイレのようでした。
「……小犬丸さん、申し訳ありません。
本当にありがとうございました」
唇を噛みしめながら鶏の少年が謝ります。
心をかき乱されて状況を把握しきれなかった自分を恥じているのでしょう。
「あァ……良いって、良いって。
これからも頼りにしてますよ、小鳥遊“センセイ”」
犬の少年は少し疲れながらも、心の底から思った言葉をかけます。
正直、鶏の少年の頭脳は、今までの、そしてこれからの問題を解く上で欠かせないものです。
自分を天才と本気で思っている所は鼻につきますが、実際に頭も良いので笑って許せる程度でしょう。
“センセイ”呼びには、皮肉と、ちょっとだけ尊敬の気持ちが入っているようです。
「え? ……ちょっと待ってよ、ガリベン君。
さっき、言ったよね。
『なぞなぞの答えが解ったら皆に相談するようにしてください』……って」
猫の少女が、2人の会話に割り込みます。
「……確かに言いましたが、状況が違うでしょう。
今回は、音もうるさくて相談が難しい状態だったわけですし……」
「別に、筆記でもなんでもいいじゃん。
時間も少なかったけど、無かったわけじゃないし、これは野良犬の落ち度だよね。
なんであたしだけ怒られるわけ?
納得いかないんですけど」
「おィ、クソ猫ォ……。
今度は、“猫踏んじゃった”でも演奏してもらうかァ」 !?
完全に仲間割れのムードに。
……悲鳴のような、声がかかります。
「……も、もう、やめようよ。
私たち、『似た者同士』、な、『仲間』じゃない……」
驢馬の少女が、間に入って取り成したのでした。
「はぁ!? 『似た者同士』? 『仲間』??」
「“驢馬塚”サン……俺とクソ猫とは、“似た者同士”でも、“仲間”でもないヨ……」 !?
驢馬の少女は少し考え、そして話すことを決意しました。
彼女が気付いてしまったことを。
出来れば話したくなかったことを。
……それが、この4匹の関係の改善になることを信じて。
「さっき……う、浦島太郎の話をしたよね。
今は7月中旬なのに、こ、このままだとこの世界を、だ、脱出する頃には1ヵ月半が過ぎてしまう……って」
3匹は無言で驢馬の少女の話を聞きます。
「その事に対する、みんなの答えに、い、違和感を感じなかった?
中学生が。
7月中旬から。
1ヵ月半を削られる話をされたんだよ。」
まだ、3匹は何のことか解っていないようです。
「なんでだれも、『夏 休 み』に言及しなかったの?」
この言葉に、皆がハッとしました。
そう。
誰も夏休みに気づかなかった。
すっかり忘れていたんです。
「うん、わ、私も忘れてた。
……皆も、忘れてたんでしょう、夏休みを。
……だって」
驢馬の少女は続けます。
夏休みの存在を忘れる中学生なんて、ほとんどいません。
……自分たちの様な、例外を除いて。
「皆さん…… 『ひ き こ も り』 ……だったから」
彼女の発した単語に、3匹は思わず、体を強張らせました。