7不思議その2 異世界の人体模型
時刻は23時00分00秒、制限時間は残り8分を切ったところ。
場所は中学校の理科室。
猫の少女は、なぜか動き出した人体模型に口をパクパクさせるほかありません。
人体模型は猫の少女の手を掴むと、そのまま理科室の右側の扉から外へ飛び出しました。
「え、あ、ちょ、なに、これ!?」
なぞなぞも解いたし、これで終わりなはずです。
ワケが分からないまま、3匹は人体模型と猫の少女の行方を追います。
犬の少年は自分の携帯を開いて確認しました。
『11時00分00秒 “第14日目” ※※※正解!!※※※
残り 07:32』
やはり、なぞなぞ自体は正解しているようです。
……ということは、これが『制限時間内に起こる異常』なのでしょうか。
「どう思う、小鳥遊“センセイ”」
「えっと、小犬丸さんは結構状況に順応しているようですが、私はまだ順応しきれていません」
鶏の少年にとって、さっきまでも『異常な状態』ではありましたが、まだ説明可能な範囲でした。
夜中にたまたまきていたバスケット部員。
ちょうど同時に落ちてきた体育館の照明。
無理矢理ですが、まだ解説可能です。
しかし、今度は、どう考えても理解の範囲外です。
だって、人体模型が、動いたんですから!!
「あー……もういいです、私も柔軟になりましょう。
なんか猫屋敷さん、人体模型に連れ去られていますが、多分大丈夫でしょう」
人体模型が連れて行く先、これが『嘘吐き村』であったなら、危険な状態であるといえるでしょう。
しかし、連れて行く先は『正直村』に類するところであるはずです。
善人の村に連れて行かれるのであれば、まあ命が取られることはないでしょう。
「だ、駄目!
あの、じ、人体模型を止めて、お願い!!
あれはとても危険だよ!!」
2匹の会話を遮るように驢馬の少女が声を上げます。
「あれの進む先は、黒く濁って淀んでいる!
お願い、と、止めて!!」
驢馬の少女がまた霊の話をしているようです。
しかし、先ほど説明したように、彼が連れて行く先は『正直村』です。
「善人の村であれば、危険なことはないでしょう」
「そ、それはそうなんだけど、でも、えーっと、ほら、き、危険なの!!」
驢馬の少女は自身の感じる危険を2匹に伝える事が出来ずに歯軋りします。
既に少年2匹は、人体模型と猫の少女を追いかけつつも、追いついて少女を取り返すほどの気は無いようです。
しかし驢馬の少女は感じ取っています。
このままだと、猫の少女は死ぬと。
驢馬の少女は何とか2匹を説得する言葉を捻りだそうとして。
「……ッあ!!
皆、勘違いしてるよ!
『正直村』が!
『善人の村』とは!
限らない!!」
「「「……あっ」」」
そして、それに、成功しました。
そうです。
なんとなく、『正直村』が『善い村』で『嘘吐き村』が『悪い村』だと思っていましたが、実はそれは大きな勘違いだったのです!
優しい嘘吐きや、人の心が理解できる嘘吐きだっています。
そして、正直な殺人鬼や、正直な食人鬼だって!
「小犬丸さん、人体模型を破壊して、猫屋敷さんを救出してください!!」
「了解。
“転ば”してやンよォ……」 ビキビキ!?
鶏の少年が指示を出し、犬の少年は信じられないスピードで人体模型を追いかけていきます。
人体模型が向かう先は、巨大な1枚鏡でした。
そして、鏡の向こうには……たくさんの、人体模型が手を振っています。
「ギャ―!! ギャー!!」
猫の少女は大声を上げて、なんとか人体模型の手を振り払おうとしますが、とても人間の力とは思えない万力のパワーで右腕が握られていてそれも困難です。
「 “殺して”やンよォ、“木偶人形”ゥ」 ビキビキ!?
突然の乱入者は猫の少女を捕まえると、人体模型のボディーに男女平等パンチをぶちかましました。
いえ、さっきまでのパンチは、彼なりにセーブしていたのでしょう。
たぶん、5%くらいに。
そう思えるほどの威力の殴打を受けた人体模型はひとたまりもありません。
出来上がったパズルを空中に放り投げるかのように、人体模型の中の臓器はベコベコに凹みながらバラバラに散らばって吹き飛んでいきました。
1枚鏡の中の人体模型たちが一瞬「えっ」という表情をしたのが何となく分かります。
「猫屋敷さん、小犬丸さん!
退散です、逃げましょう!!」
鶏の少年のその言葉に、2匹は我に返って逃げ出します。
結局それ以降人体模型は追ってこず、時間は過ぎて。
そして4匹は、無事14日目を終える事ができたのでした。