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すべてがYになる  作者: 雪平 真琴
劇中劇の殺人
8/12

すべてがYになる

遂に全てがYになります。

 受話器のコードは抜いた。ただただ目の前の原稿から逃げたくて、布団に潜りこむ。

 いらいらは最高潮に達していた。無理矢理に思考の片隅へ追いやるほどに、無言電話が頭の中を我が物顔で闊歩する。

 だからと言って何もできないのだ。


 気が付いたら朝だった。電話のコードを差し込む作業が、苦行にも思えた。

 それでも朝食は作る。人間どんなに苦しくても腹は減るのだ。

 ただ、無理矢理に押し込んでいる感じはどうしても拭えなかった。それでも口に運ぶ。

 自分で作ったただの飯に、セッペーの料理のような効果はいっさい無かった。


 電話が鳴る。うんざりしながら手に取る。

「もしもし」

「……セッペーか」

安堵の声を漏らした。

「そうよ」

「何か収穫は?」

 祈るような気持ちで訪ねた。

「収穫はないわ。平誠もシロよ」

「そうか……」

「まあ関係無い外堀を埋めるのも重要なのよ? この現実に、数少ない手掛かりから全ての情報を引き出す事ができる名探偵なんて存在しないの」

「わあってるよ」

「とにかく、最後の芳原晃よ。たぶん彼の周りに犯人がいる」

「だといいんだけど……」

 もしこれで決着がつかなかったら、それは容疑者が無限に広がる事を意味する。

 その時の事を考えて身震いしていた。



 ここまで書いた。どうしようも無かった。原稿に画面を変えると全く手が進まない。鳴る電話にうんざりしながら受話器を取り、そのまま受話器を置く。

 なんでこんな事になってしまったのか。この犯人のせいだ。

 許さない許さないユルサナイユルサナイ……


 ふっと我に返った。自分で自分に恐怖を覚えてそのまま布団にもぐった。まだ夕方だが、そんな事どうでもよかった。


 目が覚めた。時計を見ると3時だった。僕は布団を出る。そしてそのまま家を出た。深夜だろうと、気晴らしになればそれでいい。

 夜の散歩は少し肌寒いぐらいだった。ただあてもなくぶらぶらしてるだけだった。頭の中はからっぽだった。

 家に帰った。普段なら快いぐらいの気怠さがただただ不快なだけだった。まるで世の中全てが色を失ったようだった。

 布団にもぐっても眠れそうにも無い。


 そのまま朝を迎える。セッペーが正解を当ててくれる事を祈りながら布団から出た。

 まるでそのタイミングを見計らったように電話が鳴った。ここにきて昨日コードを抜いていなかった事を思い出した。

 受話器を手に取る。無言。そのまま受話器を下ろす。

 この作業は、もはやルーティンワークと化していた。

 今日は食欲すらわかず、そのまま原稿に向かった。もちろん書けるはずも無かった。

 それでもなお、原稿に向かい続けた。


 電話がなった。もうなかばどころでは無く、祈りながら受話器を手に取る。

「もしもし! あたりよ! 芳原晃、正確にはその妹の……」

 彼女が口にしたのは編集者、Yの名前だった。

「……」

 何も言えなかった。ついに犯人がわかったという気持ちとまさか彼女が犯人かという気持ちがせめぎ合い脳内をぐるぐる回る。

「どうしたの? 犯人がわか」

 受話器を下ろした。


「ははははは……」

 狂ったように笑った。

 Y。

 Y。

 あいつのせいで、俺は。

 Y。

 Y。

 全く小説が書けない。許せない。許さない。YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY





 そこで原稿はプツリと途切れた。

最後の方、若干違和感あるかもしれません。

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