調査
唐突の鬱展開です。
「じゃあ私が調べに行くよ。あんたが行っても相手の怒りを逆撫でするだけだし」
そう言ってくれるセッペーの言葉に甘えさせていただく事にした。確かに動機というか目的が僕なら、わざわざ行って怒らせる事も無い。
「ありがと……」
「別にあんたのためじゃないから」
「はいはい」
言葉に温かみは無いが、ツンデレに入るのだろう。入るかね?
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ここまでまとめてそのまま小説を書く。書けない。書けない。なんでだ。なんでだよ……
電話が鳴る。受話器を取る。無言。受話器を置く。小説を書こうとする。悩む。やけを起こす。電話が鳴る。受話器を取る。無言……
「があああ、もおお!」
などと意味不明な事を叫んでいた。
「僕になんの恨みがあるんだ! お前のせいで、俺は全く書けなくなってる! お前の勝ちだ! だから、もうやめてくれ!」
それでも受話器は何も語らない。電話が切られた。
ツー、ツー、ツー
「くそっ」
受話器を叩き付けた。そしてそのままコードを抜く。
なんでこんな事にならなきゃいけないんだ。
布団に潜りこむ。今の僕には何もできない。
セッペーが調べて来るのを待つだけだ。
ただ、できる事なら、小説を書きたい。どうにかしてこの状況を脱してまた小説を書きたい。
そんな事を考えながら、唯一電話に悩まされずにすむ夜を貪っていた。
それでも朝は快くやって来る。いや、もう快いなんて思えなかった。電話のコードを差し込む。
何も考えていなかった。ただただ、セッペーからの連絡を待っていた。
電話が鳴った。受話器を手に取る。半ば祈るように。はたして受話器は
「もしもし」
と告げた。
「……もしもし」
「ちょっと、大丈夫?」
「うん……」
「絶対嘘でしょ。とにかく今日の仕事が終わったらそっち行くから」
「いや待ってくれ、そっちの家に……」
受話器は非情にも会話が打ち切られた事を告げる。迷惑電話がうるさいからもう、この家からでてしまおう、そう思った。
そうだ。なんならもうセッペーが来るまで外にいよう。
久々の外の空気に、ふと寒風が混ざっている事に気が付いた。もう秋も終わりか。街路樹の赤や黄色を見ながら、ぼんやりしていた。
まわりから不審な目で見られているような気がするが、そんな事気にもならなかった。
どうでもいいさ。今の僕はただの一人のニートだ。小説を書けない小説家なんて飛べない鳥だ。いや、ペンギンに失礼か。
……
太陽の赤が眩しく目を射る。もう夕方だった。そろそろセッペーが来る。帰らないといけない。
セッペーは調べられただろうか。
「残念。山名裕貴は外れよ」
「……まじか」
「だって、今も元気に作家活動してたもの」
まあ冷静に考えると、賞に落ちて粘着質に絡んで来るような奴そうはいない。
「普通に次の賞に向けて書いてたわ」
「一応確認するけど、嘘ついてないか?」
「大丈夫よ」
まあそこの所はセッペーを信用するしかない。
「うーん、で、小説書けてる?」
「……全然」
「ふーん。じゃ、気晴らしに料理作ったげる」
「サンキュ」
彼女の料理は最高だった。舌の上で転がすと肉の旨みが溢れ出し、それを包み込むキャベツが主張し過ぎる事も無くとろけてゆく。
「うまい!」
「当たり前でしょ」
美味しい料理と言うのはどんなすさんだ心にも染み入るもので、ずっと苦しみに耐えて疲れ切った僕を優しく癒してくれた。
「ま、美味しく食べてくれるならいいんだけど」
そこで言葉を切った。そしてセッペーはしばらく押し黙る。
「ありがとうな、ホントに」
「別に。頑張って」
「ああ」
「じゃあね」
ここまで書いて、思う。なんでこっちだけは書けるんだ、と。まあ事実を描写しているだけだから書けないと相当重症なんだが。
もっとも、今でも充分重症なんだよなあ。
なんて軽口を叩けるぐらいには回復していた。それでも小説は書けなかった。
どうしてなんだろう。
電話が鳴る。手に取る。やはり無言だった。
いらいらを通り越して、もはや何も感じないままに受話器を置く。
どうする事もできず、ただ小説に執着していた。机に向かっても、言葉はいっこうに出てこなかった。
ただただ目の前の原稿が苦痛だった。
鬱の理由が弱いですかね?