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すべてがYになる  作者: 雪平 真琴
劇中劇の殺人
7/12

調査

唐突の鬱展開です。

「じゃあ私が調べに行くよ。あんたが行っても相手の怒りを逆撫でするだけだし」

 そう言ってくれるセッペーの言葉に甘えさせていただく事にした。確かに動機というか目的が僕なら、わざわざ行って怒らせる事も無い。

「ありがと……」

「別にあんたのためじゃないから」

「はいはい」

 言葉に温かみは無いが、ツンデレに入るのだろう。入るかね?

-------------------------------------------------------------------------------------

 ここまでまとめてそのまま小説を書く。書けない。書けない。なんでだ。なんでだよ……


 電話が鳴る。受話器を取る。無言。受話器を置く。小説を書こうとする。悩む。やけを起こす。電話が鳴る。受話器を取る。無言……


「があああ、もおお!」

などと意味不明な事を叫んでいた。

「僕になんの恨みがあるんだ! お前のせいで、俺は全く書けなくなってる! お前の勝ちだ! だから、もうやめてくれ!」

 それでも受話器は何も語らない。電話が切られた。

 ツー、ツー、ツー

「くそっ」

 受話器を叩き付けた。そしてそのままコードを抜く。

 なんでこんな事にならなきゃいけないんだ。


 布団に潜りこむ。今の僕には何もできない。

 セッペーが調べて来るのを待つだけだ。

 ただ、できる事なら、小説を書きたい。どうにかしてこの状況を脱してまた小説を書きたい。

 そんな事を考えながら、唯一電話に悩まされずにすむ夜を貪っていた。


 それでも朝は快くやって来る。いや、もう快いなんて思えなかった。電話のコードを差し込む。

 何も考えていなかった。ただただ、セッペーからの連絡を待っていた。


 電話が鳴った。受話器を手に取る。半ば祈るように。はたして受話器は

「もしもし」

と告げた。

「……もしもし」

「ちょっと、大丈夫?」

「うん……」

「絶対嘘でしょ。とにかく今日の仕事が終わったらそっち行くから」

「いや待ってくれ、そっちの家に……」

 受話器は非情にも会話が打ち切られた事を告げる。迷惑電話がうるさいからもう、この家からでてしまおう、そう思った。

 そうだ。なんならもうセッペーが来るまで外にいよう。


 久々の外の空気に、ふと寒風が混ざっている事に気が付いた。もう秋も終わりか。街路樹の赤や黄色を見ながら、ぼんやりしていた。

 まわりから不審な目で見られているような気がするが、そんな事気にもならなかった。

 どうでもいいさ。今の僕はただの一人のニートだ。小説を書けない小説家なんて飛べない鳥だ。いや、ペンギンに失礼か。

 ……


 太陽の赤が眩しく目を射る。もう夕方だった。そろそろセッペーが来る。帰らないといけない。

 セッペーは調べられただろうか。


「残念。山名裕貴は外れよ」

「……まじか」

「だって、今も元気に作家活動してたもの」

 まあ冷静に考えると、賞に落ちて粘着質に絡んで来るような奴そうはいない。

「普通に次の賞に向けて書いてたわ」

「一応確認するけど、嘘ついてないか?」

「大丈夫よ」

 まあそこの所はセッペーを信用するしかない。

「うーん、で、小説書けてる?」

「……全然」

「ふーん。じゃ、気晴らしに料理作ったげる」

「サンキュ」


 彼女の料理は最高だった。舌の上で転がすと肉の旨みが溢れ出し、それを包み込むキャベツが主張し過ぎる事も無くとろけてゆく。

「うまい!」

「当たり前でしょ」

 美味しい料理と言うのはどんなすさんだ心にも染み入るもので、ずっと苦しみに耐えて疲れ切った僕を優しく癒してくれた。

「ま、美味しく食べてくれるならいいんだけど」

 そこで言葉を切った。そしてセッペーはしばらく押し黙る。

「ありがとうな、ホントに」

「別に。頑張って」

「ああ」

「じゃあね」



 ここまで書いて、思う。なんでこっちだけは書けるんだ、と。まあ事実を描写しているだけだから書けないと相当重症なんだが。

 もっとも、今でも充分重症なんだよなあ。

 なんて軽口を叩けるぐらいには回復していた。それでも小説は書けなかった。

 どうしてなんだろう。

 電話が鳴る。手に取る。やはり無言だった。

 いらいらを通り越して、もはや何も感じないままに受話器を置く。

 どうする事もできず、ただ小説に執着していた。机に向かっても、言葉はいっこうに出てこなかった。

 ただただ目の前の原稿が苦痛だった。

鬱の理由が弱いですかね?

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