電話
とにかく眠りに就いた僕。しかし、安眠はいとも簡単に奪われる。突如として鳴り響いた電話の音によって。
「うるさいなあ」
そう言いつつ不機嫌になりながらも受話器を手に取る。
「もしもし、なんですか、こんな夜中に」
しかし、受話器は何も語らない。聞こえるのは自分の息遣い。それだけだ。
僕は相手に聞こえるように大きな声で言う。
「ちっ。イタズラかよ、暇人め」
受話器を叩き付けるように置き、布団に潜る。そのとき、何の脈絡も無く、ふっとある考えが下りて来た。
これ、あの脅迫状と同一人物なのでは無いか?
夜中に電話する……執念に似た感情が感じられ、僕は電話のコードを引っこ抜いた。
翌朝。カーテンを通り抜けてなおその輝きを完全には失わない朝の陽ざしは、しかし僕の目を覚ます事は無く、結局昼10時になるまでずっと眠っていた。目が覚めてからも、春眠暁を覚えずで、布団の中でしばらくぼんやりする。
あれ、小説書かないと……
そう気付き、慌てて布団から抜け出すと、電話のコードが抜けている事に気が付いた。
なんでだ? しばらく悩んだが、単純すぎて、悩んだ事に恥を覚えた。コードを差し込む。
とにもかくにもまずは朝食を作る。冷蔵庫にあったキャベツとタマゴを炒め、トーストしたパンに乗せただけの物。でもとりあえず、三大栄養素はとれている。人間必要最低限の栄養があれば生活はできる。それ以上を望みはしない。今は仕事もあるが、それでも人気作家という訳でも無いので、贅沢は出来ない。まあ、セッペーと会う時はそこそこ、いや、かなり旨い飯が食えるんだけど。
昼過ぎからようやく仕事に取り掛かる。
トリックを元にストーリーを考える。どういう動機なのか、犯人は普段はどんなキャラか。探偵は……やっぱあいつを使おう。シリーズはキャラ設定が楽だ。まあその分行動は縛られるけど。
電話が鳴った。プロットがかなり乗って来た所だった僕には、殺意すら覚えるようなタイミングだった。
「もしもし」
しかし受話器は一言も話さない。
受話器を下ろし、プロット作りを再開する。
「できた」
プロット完成である。後は肉付けをしていくだけ……あ、Yには話さないと。
「いいんじゃないでしょうか」
打てば響くような返事。返答が早すぎて、こちらが戸惑うほど。もうむしろ嫌われてるのでは、とすら思わせる。
「じゃ、じゃあこのまま進めて行きますね」
「わかりました」
仕事を終わらせた彼女はそのまま帰って行く。結局仕事は進んだんだけど、なんだかなあ。
外を見るともう夜だった。今日はここまでにしておこう。
そろそろ話が動き始めます。