第漆話『早撃夜狩』
どうも皆様ブラストです!だいぶ久々の更新ができてとっても嬉しい限りです。
約2カ月ぶりの更新で、見てくれる方が居たらとても幸いです。
そして今回は新キャラ登場!
ぜひ今回も見ていただけたら嬉しいです!
午前7時、朝早くベッドから起き上がる少女、聖奈。パッチリと視界で、適当に着替えを済ませると呑気に鼻歌を歌いながら階段を降りていき、その表情はまるで今日プレゼントを買ってもらう子供の様な笑顔。
「壮也さん、おはようございます」
「相変わらず早起きだな。飯ならとっくにテーブルに出てんぞ」
彼女の朝の楽しみ。それは勿論壮也の手料理。テーブルに置かれてあるクロワッサンやコーヒー。プロが作ったような料理の見栄えに目をキラキラ、と輝かせながら彼女はテーブルに座るが、隣の席には一人の人物の姿が……。
「ラ、ランさん!?どうして、というか何でここに!!?」
「朝からデカいリアクションね。アタシがここに居たら変?」
自身の料理を平らげながら適当に返事を返す少女、美島ラン。読者の皆様は覚えているだろうか?以前群れで現れたウルフディアノーグ達との戦闘中に乱入し、その際パンサーとチーターを簡単に蹴散らす実力を見せつけた壮也と同じ夜狩。その彼女がなぜ突然この事務所に足を運んでいるのかが、当然の事ながら聖奈にとって疑問で仕方なかった。
「こいつは勝手に上がり込んできて人の手料理を食してる。まぁ来た用件は俺の手料理の盗み食いだな」
そんな彼女の疑問ついて、横から割って入った壮也が少し苛立ち気味に説明し、その説明に腹を立てたのか、ランは眉間に皺をよせながら壮也に突っかかる。
「人をそこまで立ち悪い様に言わないでくれる?アタシはただディアノーグの情報をこっちが掴んでないか聞きに来ただけ。上級ディアノーグの内の一体ドラゴンディアノーグの情報をね」
「ドラゴンディアノーグ?」
「確か聖奈だったわね?アンタは知らないと思うけど、ドラゴンディアノーグはね、上級ディアノーグだけに強力な力を誇り、倒せばランク昇格もできるって話で持ちきり。アタシが狩るべきディアノーグでもあるのよ」
「そ、そうなんですか?」
「勝手に話進めんな。後ドラゴンディアノーグの情報なんて誰も掴んでねぇよ。ドラゴンだけでなく他の上級の情報もこの事務所に中々入ってきやしねぇ」
「ははは、だと思った。まぁ上級ディアノーグの情報を聞きに来たのはここに来た用件の一つで、料理はついでよ」
「ついでなら食うな」
「いいじゃない、お腹空いてたし、アンタの料理はおいしいし。それに料理の二つや一つ食ったっていいでしょ。また作ればいいし」
「俺は自分の分を食べたからいいが、あいつの方は納得できないみたいだぞ?」
「はい?」
壮也が指差す先にはまるで欲しい物を奪われた子供のような顔をしながら唖然としているルカの姿が……。
「テメェが食べた分、それルカのだから」
「あぁ、そうなんだー。でも別にいいでしょ。また作ってもらえば」
ランの言葉にプチンッ、とルカの中で何かが切れた。事務所全体に感じられる歪なオーラに聖奈と壮也はすぐさま身を引き、間もなく壮絶な大喧嘩が始まったのは言うまでもない。
「ランさんって相変わらずですよね」
「そうだな。俺やルカともよくこういった喧嘩をするが、舞の場合だとこれの比じゃねぇな」
「舞?そう言えば、前にも言ってましたよね?その舞って人も夜狩なんですか?」
「あぁ、名前は櫻舞。ランと同じくランクBだ」
名前を聞く限り恐らく女性だろう。彼女もまたランや壮也の様な実力を持つのか、またどのような人物なのか、様々な疑問が脳裏に浮かぶ。
“ピンポーン”
動揺の彼女を我に戻すように響くインターホン。鳴り響く音を聞くなり「こいつ(ラン)だけでなくまた来客かよ」などと愚痴をこぼす壮也に対して聖奈は苦笑いしつつも玄関に出向き、扉を開けるとそこには黒いハットが印象的な男性の姿が……。
「あれ?初めて見る顔だな?お前、ここの新人?」
聖奈を見るなり、不思議そうに首をかしげる人物。彼の口調を聞く限り、どうやらある程度壮也と面識がある様子で、彼について感じる疑問を一通り聞いてみる事に。
「あの、私ここに最近就職してる千里聖奈って言います。もしかして、あなたも夜狩の人ですか?」
「あぁ、一応俺も夜狩な。それより、壮也は今ここに居るか?」
「誰か俺を呼んだか?」
狙ったようなタイミングで顔を出す壮也。顔を見るなり、「はぁ~」と大きくため息を零しながら顔を苦々しくさせている。
「誰かと思ったら、舞……てめぇか」
「舞?えっ!?もしかしてこの人が!!」
「あぁ、こいつがさっき話した通り俺達と同じく夜狩の桜舞だ」
「嘘!!?」
「その対応見る限りお前も舞の事、女だと思い込んでたみたいだな。まぁ名前で大抵の奴は勘違いするんだがな」
「ふん。俺の名前でどうこう言いたいのなら名付け親に言え。俺だってこんな女みたいに名前望んで何かねぇよ!」
「はは、まぁともかくテメェが来た用件は?」
「ん?適当に情報収集ってとこだな。雑魚ディアノーグの情報ならまだしも、中級以上の情報がかなり入ってこないもんで」
「何だお前もランと一緒か」
「はっ!?今あいつここに来てんの?」
「自分の目で確認したらどうだ?」
直後、事務所に上がって行く舞の後姿に壮也は小さな声で「荒れるぜ」と面倒くさそうに肩を落としながら呟き、首を傾げる聖奈であったが後に彼女は壮也と同じ感情を得ることに。
「で?何でお前がここに居るんだ?」
「それはアタシの台詞だから。アンタこそ何でここに来たのよ?」
「ディアノーグの情報収集。悪いか?」
「アタシも同じ用件なんだけど真似しないでくれる?」
「真似とかそういう事じゃねぇだろう!!」
「相変わらず五月蠅いわね、一寸黙ってくれない?」
「こっちもお願いしたいわ。これ以上俺のストレスをためるなってな!」
壮也の予知通り、先程のルカとの喧嘩が生易しい物に感じられる程。二人の口論が生み出す騒音は壮也、聖奈、ルカの三名を悩ませた。
「だから言ったろ?こいつ等の喧嘩は俺やルカの比じゃねぇってな」
「朝食抜きの挙句、この二人の喧嘩を黙ってみてなきゃならないなんて生き地獄同然」
苛立ち気味に愚痴を零すルカと壮也。聖奈が仲裁に入るも、ヒートアップしている彼ら二人の口論は止まらない。だが次第にエスカレートする喧嘩に痺れを切らしたのか二人に少し強めにチョップを浴びせて壮也が黙らせる。
「「痛ぁっ!?」」
「テメェら五月蠅い。人の事務所でガタガタ叫ぶな」
「わ、悪ぃ」
「ふん、アタシのせいじゃないからね」
「あぁ!?10対0でテメェのせいだろうが!」
「喧嘩の続行するつもりならもう二、三発くれてやっても構わんが?」
強引ともいえる仲裁にようやく喧嘩をやめ、舞とランは互いにそっぽを向くも、ヒートアップしていく喧嘩を一先ず止めた事にルカや聖奈はほっと、一息。
「さてここにディアノーグの情報はない。それ以降の用事がなければお帰りはあちらだ」
「まぁまぁ落ちつけよ壮也、ランは知らねぇけど俺は下級ディアノーグの情報ぐらいなら持ってる。よければ手伝ってくれよ?」
「何でそれを俺に?」
「数が多くて手こずりそうなんだよ。早めに退治したいからお前に応援頼んでるんだが?」
「俺に頼らないと処理しきれないのか?」
「んな憎まれ口叩くことねぇだろう。それに俺が夜狩になった理由知ってるだろう?お前らみたいに報酬なんてどうでもいい性質だから」
「そうだな。まぁ丁度情報収集に行くのも面倒と思っていた所だ。今回はお前のその情報とやらに甘えさせてもらう」
「ちょっと!ちょっと!アタシを放っておいて何勝手に話進めてんのよ!!」
「冗談だよ。テメェだけ除け者なんて事はしねぇ」
「冗談に聞こえないんだけどね?」
「るせぇ、ともかくこれが俺の掴んだ情報源の場所だ。準備整い次第ここに集合。って訳で俺は一旦準備に戻る」
「ちょっと待ちなさいよね!アタシも準備しなきゃならないし!」
依然ゴダゴダとしたやり取りを続けながらも二人は付近に止めてあるバイクに跨ってその場を立ち去り、早朝早々の騒ぎに疲れたのか壮也はソファーに腰掛けながら、「はぁ~」とため息。
*
「朝からかなり疲れた。唯一の朗報があいつのくれた情報だ」
「ははは、にしても珍しいですよね?わざわざ情報くれるなんて」
「まぁよほど数が多いから手こずるんだろう?」
「まっ!相手がどんなに居てもダーリンなら平気だよね?」
「ルカ、いきなり現れては俺に抱きつくな」
相変わらずのやり取りにうんざりしながらも、強引にルカを引き離し「さっさと準備するぞ」と、彼ら三人情報にあるディアノーグを狩るべく準備を始め、日も沈みかけた頃、ようやく準備を完了した彼等はいつもの様にバイクに跨り、ディアノーグの出現場所へと足を運ぶのであった。
*
暗い夜空の元を疾走する一台のバイク。前方の視界に森林地帯が広がると共にそのスピードを緩め、森林付近にバイクを止まらせると、タイミングを見計らったようにもう二台のバイクが後ろから到着する。
「何だ、一番乗りは俺達だったという訳か」
「ふん、一番に付いたからっていい気にならないでよね?問題はディアノーグを多く狩るかどうかな訳なんだし」
「まっ、ランの言う通りだな。ディアノーグ狩りは少なくとも遅れはとらねぇよ」
「誰もアンタの意見なんか聞いてないから」
「あぁ!?情報提供の恩を仇で返したいのか?全くそんなんだから、いつまでたっても子供なんだよ!」
「えぇ、そうよ!アタシは子供よ!!悪い!?」
「悪いな、Sランクなりたきゃ、とっとと大人に成長してろ!」
「アンタに言われる筋合いないから!」
いつの間にか始まったバチバチ、と火花を散らす両者の口論。目の前の森林もおびえる様にざわざわと揺らめく。だがその木々の揺れに紛れ、不自然に動く影が一点。
『グルルアアアアアッ!』
刹那、獣の様な叫びと共に影から勢いよく飛び出し、その身を現す一体のディアノーグ。視界に移る獲物驀地に飛びかかって行く。
「そ、壮也さん!」
「わぁってるよ」
聖奈がディアノーグに気付くよりも早く暗牙四斬を取り出し、獲物を睨む壮也だが、彼が暗牙四斬を振り下ろそうとした瞬間、“パンッ!”と乾いた音が響く。壮也達が音に気付いた頃、飛びかかるディアノーグはまるで放り投げられた物のように地面に落ち、その額には血が流れ、後ろにはランと口論して居た筈の舞、その手には銃が握られ、銃口からは煙が噴き上げている。
「ったく、まずは一体消去完了」
「さっすが早撃ちガンマン。喧嘩はしていてもちゃんと注意力、瞬発力はずば抜けてるようだな」
「ふん、こんなの慣れだ慣れ。喚き散らすディアノーグ一体、撃ち抜くぐらい喧嘩中でも余裕だ」
当り前の様に壮也に話す舞。だが、当然の事ながら先程までディアノーグの出現場所に見向きもしていなかった彼が即座に獲物の額を撃ち抜くなど、常人にはまず不可能と断言してよい。舞もまた夜狩りとして壮也達に劣らぬ力を持ち、先程の光景は舞の実力を裏付ける証明ともなる。
「ま、舞さんってやっぱりすごい人なんですね」
「まっ、壮也に比べたら全然だけどね」
ルカと聖奈のやり取りを尻目に舞は死体と化したディアノーグを消去をすぐに終え、獲物を先取されなかった事に不服を持っているのか、ランは少々苛立ち気味で腕を組み、ランの様子を察したのか、口元を緩ませ……。
「何だラン?獲物先取されて僻んでんのか?」
「ふ、ふん!その程度一匹倒したぐらいでいい気にならないでよね。そんな下級ディアノーグ、私も簡単に狩れるんだから」
「はっ、強がるとこみるとますます子供だな。まっ、とにかく安心しろ。この地域のディアノーグは一匹や二匹程度じゃねぇんだからな」
「じゃぁ何体いるって訳?」
「今回の獲物はアントディアノーグ。蟻の様な外見と牙の様な手足が特徴。群れで動き、今この辺に居る総勢はざっと50体!この森林一体にアントディアノーグ共がウジャウジャ居るって訳さ」
舞の発言に合わせて一斉に揺らめく影、50という数字に驚く聖奈をスルーしながら壮也も揺らめく影を見下すように見回す。
「なるほどな。そんだけ数が多いから俺とランに情報提供をした訳か」
「そういう事。流石に全部を俺一人で相手するとなると面倒なんでな」
「ふん、アタシなら50体ぐらい一人でできるけどね」
「じゃぁ何体倒すか競争と行くか?負けたらもう生意気な口叩くなよ?」
「上等。それ多分アタシの台詞になるから」
「はぁ~、お前等喧嘩するのはあれを狩ってからにしろ」
壮也の示す先には死体と化したアントディアノーグの周りに揺らめく複数の影。それが何であるかを察すると同時に一斉に飛び出すアントディアノーグの団体。表情一つ変えることなく彼ら三人は武器を構え、銃声と斬撃音が森林一体に木霊し、夜空を照らす月光が飛び散る鮮血を輝かせ、音が鳴りやむ頃には数十体の死体が辺り一面に散らばっていた。
「今の所数えて15体ほどか」
「残り35体、ここは三人散らばって各自ディアノーグを狩っていた方がいいんじゃねぇの?」
「確かにそうした方がいいな。なら各自散らばってディアノーグ狩りだ。互いの安全は、確認するまでもないな」
「ふん、当り前じゃないの!舞ならいざ知らずアタシが雑魚如きに負けるはずないし!」
「テメェは横入りすんじゃねぇ!まっ、分かれてディアノーグ狩りすんなら俺は一足先に行かせてもらうぜ」
舞の提案の元、ランと舞はそれぞれ別方向へと向かいその後姿を見送ると壮也も武器を構え、自らもディアノーグを捜索する。
「そ、壮也さん。数は多いのにバラバラに散らばるのは危険じゃ?」
「本気でそう思ってんのか?下級ディアノーグぐらい何体でも狩れる」
「そうそう、ダーリンなら絶対狩れるんだから心配するまでもないんだって」
「それに心配するなら俺より自分の方を優先するんだな。殺し損ねたディアノーグがお前ら襲っても責任は負わない」
「だ、大丈夫です。自分の身ぐらい守りますから。だから壮也さんも自分の身を大事にしてくださいよね!」
いつもと違う聖奈の反応に少しだけ壮也の表情が揺らぐ。仕事にようやく慣れてきたらしいのか少しずつ聖奈の中で恐怖心も和らぎつつあり、変わりつつある聖奈の様子に少しだけ口元を緩ませる。
「まっ!何かあったら私が聖奈を安全な場所に連れて行くし、ダーリンは心配しなくても大丈夫だよ」
「端から心配なんかしてねぇよ。獲物をすべて狩るそれだけだ」
言い終えた瞬間を見計らうように再び揺らめく影、唸りを上げながら飛び出す数体のディアノーグ。予測できていたのか暗牙四斬を持ち、迫りくるディアノーグ達を軽くいなし、一番近くにいたディアノーグの背後を深く切りつけ、残りのディアノーグが振り向くよりも早く、ブーメランのように暗牙四斬を投げつけ、棒きれのように腹部から切り落とされていくディアノーグ。戻ってきた暗牙四斬を掴む頃には、周りを血で染めていた。
「す、すごい」
「ぼんやりしてる場合か、まだまだ来るぜ」
「えっ!?」
壮也の言う通り休む暇なく出現するディアノーグ。それに対しても慌てるようなそぶりを一切見せず、暗牙四斬をくるくると回しながら獲物を睨み、そして笑う。
「何体でも来やがれ。テメェら全部狩って、今宵の夜も静粛させてやるからよ」
*
「さ~て、この辺でディアノーグ共は出るかどうか」
舞の方では後ろで腕を組み、ぶらぶらと歩きながらのディアノーグ捜索。面倒くさそうに周囲を伺っているが、ディアノーグが出現する気配は今の所ない。
“コロッ”
「!」
瞬座に振り替えれば、視界に会ったのはただの石ころ。「気のせいかよ」と、落ち込む子供のように肩を落としながらまた前方の視界を戻した次の瞬間、何処からともなく姿を現す三体のディアノーグ。三体全て舞の背後を取り、殺意を剥き出しにその爪を舞へと突き出す。
「予測済み」
だが、その爪が舞へ突き出されるよりも早く口を開いたかと思うと、後ろ向きのままリボルバーを向け、躊躇う事無く引かれた引き金と共に響く銃声。放たれた銃弾は銃声が鳴りやむよりも早く一体のディアノーグの額を貫き、その命を終わらした。
『!?』
「背後を見せた瞬間の隙を取っても無駄だ。俺の命取る前にその感じやすい殺意を抑えとくんだな」
愛用のリボルバー、暗銃早殺を片手に獲物を睨む。先程の面倒くさそうな様子とは打って変わり、まるで獲物に憤怒の感情を込めているかのように獲物を強く睨む。
「テメェらみたいな屑、絶対狩らせてもらうぜ!それが俺の使命なんだからよ」
後ろに後ずさる獲物に容赦する素振りも見せず、今にでも殺さんばかりの殺意を込めながら暗銃早殺を向ける。
「テメェの美、その血で飾ってやる!!」
『夜狩が……どこまで我らの邪魔をする気だ!』
「テメェらが居なくなるまでだ!」
接近する二体のディアノーグ、それに対して銃弾で撃ち抜いていくが二体共々鋭い爪で体を覆い防御。一気に距離を詰めていくが彼等の前方に舞の姿はなく、いつの間にか彼等の背後を取っており、ディアノーグがその気配を感じる前に銃弾が放たれ、それは一体のディアノーグの足を撃ち抜き、体制を崩した瞬間次に放たれた銃弾に頭部を撃ち抜かれ、意識を失ったディアノーグは地に伏した。
「残るは一体!」
残る一体を攻撃対象に絞り、銃を構え引き金を引く。しかし銃弾は放たれず“カチカチッ“と不自然な音を鳴らすのみ。勿論その音が何を示すのか、理解することは容易なことだった。
『弾切れか!脅かしやがって、とっとと死ねや!!』
好機と捉え、爪を構えながら向かうディアノーグ。しかし舞はそれに動じることなくストックから一発の弾を取り出し、拳銃を宙に投げ捨てると突き出される爪をジャンプで避けつつ、そのままディアノーグの顔面を蹴り飛ばし、空中に投げ捨てた拳銃をキャッチ。キャッチした銃のグリップで蹴り上げられた顔面を殴りつけると同時に、取りだした弾を弾倉につめ、両手で銃を握り、握りしめられた銃口の先にあるのはディアノーグの頭部のみ。
『うぐぉっ!』
「最後の美を飾りな!」
“ドンッ!”
銃声と共に地に伏せるディアノーグ。「消去完了」と、倒れたディアノーグを見ながら満足げに呟く舞。この戦闘は舞の実力を見せつけるパフォーマンスには十分すぎた。次なる獲物を狩るべくその場を後に、別の場へと足を進めた。
*
「ったく、数だけ多いからうっとおしいのよ!」
ランの方では、舞や壮也と同じく複数のディアノーグの相手をしており、向かうディアノーグ達を軽くあしらいながら次から次へと斬伏せ、残る最後の一体が爪を突き出す瞬間、即座に態勢を低くその爪を交わすと同時に鋼鉄暗斬をディアノーグの腹部突き刺し、『ガァッ!』と衝撃に呻きを上げ、双剣を引きぬくとディアノーグはそのまま倒れる。
「まったく認めたくないけど、やっぱりあいつ(舞)の言う通り、大量の数相手は面倒だね」
背後から再び出現するディアノーグに気付いて放つ言葉なのか、少々面倒そうに溜息をつく。
「まっ、いいわ。精々光栄に思いなさい。アタシの踏み台になれる事を!」
振り返り獲物を双剣越しに睨み、そして一気に駆け抜けていく。
*
一方の壮也達はアントディアノーグを難なく狩り、地面に横たわった死体は数え切れず、目の前のディアノーグ二体を狩れば仕事は大体終わりと言ってよかった。長らく続く仕事に片をつけようと、残り二体の獲物に向けて暗牙四斬を構える。
『おのれ……夜狩が』
「決着つけるぞ」
どちらが優勢などもはや言うまでもない。圧倒的不利な状況からの打開は不可能と考えたのか、二体のディアノーグは二、三歩後ずさると、そのまま振り返り一目散に逃走。勿論逃げる獲物を指を咥えて眺める筈がなく、追い掛けようとするが逃走する二体の傍で“ビュッ”と風を切る黒い影が……。
『えっ?』
“ザシュ”
斬撃と共に二体のディアノーグは一瞬にして視界が暗闇となり、二体のディアノーグは身体に大きな風穴を開け地面へと倒れ、目の前に居る壮也の視界に捉えたそれは、舞でもランでもなく、アントディアノーグと同じ種族である筈の一体のディアノーグであり、黒い鱗と龍のような外見を持つドラゴンディアノーグ。
「テメェ、ドラゴンディアノーグ……どうしてこの場に?いや、それ以前に何で同じディアノーグ同士で?仲間割れか?」
先程の光景は何年も夜狩を務めた壮也でさえ見ない光景。聖奈やルカだけでなく壮也自身もまた異様な光景に驚きを隠せてはいなかった。
『夜狩、貴様の知るべきことではない。命残したくば俺の前から消えろ』
「そいつは無理だ。俺は命を残したいんじゃなく、命を奪いたいんだからな」
『ならば奪ってみろ。貴様の発言が実現可能かどうか見極めてやる』
「ふっ、後悔するなよ。ルカと聖奈は後ろで引っ込んでな」
「ちょ、壮也……待って!あいつはヤバいんじゃ──」
「構わねぇよ!稀に見ないレアディアノーグ、ドラゴンの相手ができるんだからな」
ルカの言葉に耳を傾ける訳もなく、ディアノーグを狩ろうと暗牙四斬を構え一気にディアノーグに振り下ろし、無抵抗なディアノーグの身体を一気に切りつける。
“ガキイィィィィィンッ!”
「!」
はずだった。斬り付けられた筈のドラゴンディアノーグの身体には多少の引っ掻き傷程度のみで、ディアノーグ自身は何ともないかのように表情一つ変えず、そのまま腕を振い上げる。
「まずい!」
『ムンッ!』
振り下ろされた腕はまるで鈍器の様に地面を深く抉り、砂煙と瓦礫の破片は宙を舞い、間一髪攻撃を避けたものの直撃すればどうなるかは、誰でも分かる。
「(高い攻撃に防御、こいつは上級クラスか)」
稀に見ない上級クラスだけにその実力は本物。死にも繋がる相手ではあるが、壮也に恐怖心などない。暗牙四斬を両手に持ち替え、再びドラゴンに接近しては、重量のある暗牙四斬を振い、ドラゴンはそれを片腕で防御。
“ガキイィン!”と金属の重なるような音が響く。互いに腕と武器に力を込め、競り合うがパワーで勝るドラゴンに軍配が上がり、壮也を後ろに弾く。
「ちぃっ!上級だけに随分手間がかかっちまう」
『手間がかかる?この俺が貴様如きの始末に手間をかかるなど、片腹痛いわ!』
鈍器の様に腕を振り下ろし、暗牙四斬で喰い止めるも相当な威力にまたしても後ろに弾き飛ばされる。
「くそっ、随分面倒な野郎だ」
『施しだ!』
弾き飛ばされた壮也に追い打ちを駆ける様に後方の尻尾を振り回すが、地面に着地すると同時に暗牙四斬でその尻尾を弾き返す。
「そ、壮也さん!」
「心配ねぇ。それよりテメェ等は絶対こっちに来るなよ。一人で十分。むしろテメェ等が来れば邪魔にしかならん」
『俺にとっては貴様もまた邪魔者にしかすぎん!』
壮也の会話を断ち切る様に接近し、腕を振り下ろす。勿論それを直撃する寸前に避け、そのまま隙の出来たディアノーグに暗牙四斬を横に振るうが、片腕で“ガキィンッ!”と、いかにもあっさりと受け止め、空いた左腕をまだ身動きの取れていない壮也に振う。
「ちぃッ!」
一瞬の判断。すぐさま暗牙四斬を持つ手を離すと同時にドラゴンの腕を右にいなすも、完全とまではいかず、壮也の肩を霞め、傷口から溢れる鮮血と痛みに表情を歪ませる。しかし瞬時に突き出されたドラゴンの左腕をガッシリと掴むと同時に飛び上がり、ドラゴンの顔面に強烈な横蹴りを叩き込み、効果があったのかドラゴンは後ろに後退つつ、右手に持っていた暗牙四斬を地面に落とし、すぐさま壮也はそれを回収。
『ぐぅっ!』
「けっ、外傷なくともダメージぐらいはあるだろ?」
『この俺に舐めた真似を!下等種如きが……とっとと死んで俺に詫びろ』
「テメェを殺した後なら詫びの一つくれてやる!」
怒りが積もり積もったドラゴンに対して怯む事なく暗牙四斬を握りしめ、互いに片を付けようと一気に駆け出すが、突如として二人の間に一本の槍が地面に深く突き刺さる。
『そこまで。両者共々、ここは一つ私に免じて戦いを止めていただきましょうか?』
「『!?』」
真上から響く声。両者同時に頭上を見上げるとそこには半壊した仮面とマントを持ち、木の上に腰掛ける一体のディアノーグの姿があり、そのディアノーグが地面へと降り立ち、地面に突き刺さる槍を回収しながら両者をにこやかに微笑みながら見る。
「テメェ一体?」
突如として乱入するディアノーグ。その光景を眺めているルカや聖奈達は勿論、ドラゴンも目の前のディアノーグの出現に驚きを隠せてはいない。
『初めまして夜狩様、私こちらのドラゴンの知り合いであるエルディアノーグと申します。以後お見知りおきを』
「挨拶なんかどうでもいい、テメェを見るのはこれが最後だ」
紳士的なディアノーグの態度に、多少の不信感を覚えているのか武器を握る手をそのままに警戒態勢を全く解いていないが、エルディアノーグと名乗る怪物はそれに構わず笑いながら言葉を続ける。
『まぁまぁ一先ず落ち着いてください。私はとりあえずこちらのドラゴンを呼び戻しに来ただけなんですよ。この方に何かあっては私のスケジュールに支障が』
『エルディアノーグ、止めに入らなくともよい!貴様の仲裁なくとも、こいつは俺が!』
横から口出すドラゴンを黙らすように引きぬいた槍をドラゴンの目の前で“ビュッ!“と振いそれに思わず言葉を詰まらせ、その後エルディアノーグは槍をくるくると回しながら手元に戻し、手元に戻る頃にはいつの間にか槍はステッキへと変化していた。
『「落ち着いてください」と、言った筈ですよ。前にも言いましたよね?あなたの為す事は夜狩の始末ではないと?』
『…………』
「お話し中で悪いがよ、テメェ等の事情がどうであれ俺の目的はお前等を狩ることだ。相手するならよし、しないなら大人しく俺に狩られろ」
『ご心配なく。今はできませんがその内お相手になってあげますよ』
「テメェの御託はもう聞き飽きたよ!」
『やれやれ、これでは会話になりませんね。お互い落ち着いてからまたゆっくりお話でもしましょうか?』
「話が通じないのはこっちの台詞だ。俺はテメェと会うのはこれで最後にしたいって言ってんだよ!」
暗牙四斬を一気に振り下ろすが、暗牙四斬がディアノーグを切り裂くまさに直前、二体のディアノーグは影へとその姿を晦まし、去り際に「アディオス」とだけ言い残すと、二体は闇に消え、行方を晦ました二体に舌打ちをしつつも戦闘態勢を解き、すぐさま聖奈やルカの元へと駆け寄る。
*
「そ、壮也さん……怪我……」
「聖奈、テメェが心配する事じゃねぇよ。それに今ぐらい軽傷だ」
「ね、ねぇ壮也。今のディアノーグ、一体?」
ルカの質問に一瞬眉間に皺を寄せつつもすぐさまその表情を和らげ、「さぁな」と流すもこの先の事を見捕らえているのかまだ不安の残る表情をそのままに、同じく聖奈もルカと同じく不安にその表情を苦くさせ、そんな二人の様子に溜息を零しつつ、口を開く。
「何があってもテメェ等が不安がる事じゃねぇ。それに俺は奴ら如きに命を落とす訳にはいかないしな」
「?」
少しだけ何かを見据えたような壮也の表情に何かを感じたのか、聖奈の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。それが何であるのか尋ねようとした矢先、突然真正面から聞こえる二つの声、視界を正面に移せば、そこに居たのは一通り仕事に片を付けた様子のランと舞の姿が……。
「よぉ壮也!こっちの仕事は終えたぜ。そっちの様子は?」
「こっちも完了。俺がヘマする訳ないだろ?」
「へぇ~まぁAランクのアンタがヘマしたらシャレになんないもんね」
「そういうこったぁ。お前の場合は餓鬼だからミスしても許されるし、いい御身分だぜ」
「はぁっ!?」
「壮也もランも一旦ストップ。お前等子供か?」
「ちょっと!他ならぬアンタに言われる筋合いないんだけど!?それに子供はアンタの方だしね!」
「あぁ!?」
「何よ!」
また口論を始める二人の様子に「また始まった」と頭を抱えつつも、先程の不安はどこへやら、二人の様子に元気づけられたのか、聖奈とルカの不安を隠せていなかった表情は少しずつ和らいでいった。
「壮也さん、あの二人結構仲が良いんですね」
「喧嘩するほど仲がいいってか?まぁ俺はこの面倒事に手を焼くのはごめんだ」
「私も同じくね」
聖奈の言葉に軽く返答しつつも、壮也とルカもその表情にはうっすらと笑みが含まれ、二人の口論は夜が更けるまで続けられた。
いかがでしたでしょうか?第7話目!
先ずは今回登場した新キャラ、桜舞。毎度恒例となっている新キャラプロフィールを早速公開したいと思います!
・桜舞
20歳の男性で、壮也達と同じく夜狩としての一人。
黒いハットが特徴的な人物で、女のような名前をコンプレックスとしているらしく、同じく夜狩のランとはとても仲が悪い。ランクはBだが、戦闘となれば武器であるリボルバーの暗銃早殺を使って敵を撃ち抜き、早撃ちのガンマンとして多くの同業者からその実力を認められている強者。決めゼリフは「テメェの美、その血で飾ってやる」
以上が彼のプロフィールです。
壮也やランにシュウ、そして舞。個性豊かな夜狩の彼等を今後ともぜひ見守っていただければ幸いです。ぜひ今後も宜しくお願いします!