第伍話『軽乗夜狩』
どうも皆様ブラストです。
春休み最後のこの日に公開しますのは、夜狩りの第5話!
何とか最終日に執筆で来てよかったです。ぜひ見ていただけたら幸いです。
どうぞご覧ください!
「ふぁ~~っ!」
空に浮かぶ雲のようにゆっくりとした声、上半身を起こし、眠い目を擦り視界をはっきりさせて辺りを見回す一人の少女、聖奈。今彼女は「夜狩」の事務所を住み込みで働いている。壮也によれば、仕事を慣れるために住み込みで働いた方がいいと言われ、彼女もそれを承諾した。理由としては、最近彼氏が出来て、よくその家に行ってるなどと誰が発端になったかは知らないが、私が元住んでいたアパートで噂になっている。要するにあのアポートに居辛いのだ。まぁこの事務所を住み込みで働く上で、余計ルカの嫉妬心を煽る事となっているのだが……。
彼女は適当に着替えを済ませると、呑気に鼻歌を歌いながら階段を降りる。
時計はまだ6時、普段の彼女ならあまり早起きはしない。アパートに住んでいたころは、10時ごろまで寝ている。それなのに彼女が早起きしている理由は、この事務所に住み込むうえで、楽しみが出来たからだという事。
「よぉ、随分早起きだな」
「まぁ一応」
一階に降りると、黒い前掛けを付けて料理をしている壮也の姿が。彼女がこの事務所に住む上で楽しみにしている事こそ、壮也が作る手料理。夜狩の仕事で忙しい時はできないが、時間があるときはこうして料理をふるまってくれるらしい。ルカや聖奈曰く、三ツ星シェフにすぐ並ぶ程の腕だとか。
「おはようダーリン!早速朝ごはん出来てるみたいね」
そこへルカも起床したらしく、ひょっこり顔を出すと壮也は適当におはようと返事を返し、自分の分の食事を食べる。朝食のメニューはフレンチトーストにサラダ、ヨーグルトなど、料理は普通だが、自家製で作ったヨーグルトやパンなど、とても聖奈達には好評。料理を食べながら、夜狩なんて訳分からない仕事より料理人になった方がよいのではと思うが、さすがにそれは本人に言えなかった。朝食を済ませた後、壮也は時計に目をやり、どうも時間が気になっている様子で突然席を立つと、そのまま玄関に移動する。
「お前ら、そろそろ来るぜ」
「?」
ルカは分かっている様子だが、まだ入って間もない聖奈が分かるはずもない。
聖奈も時計に目をやり、その時計が7時を指した瞬間、まるで狙ったかのようなタイミングで壮也が扉をあけると、そこには前にアブソディアノーグの報酬を渡してきたクランと言う男性が。
「時間ぴったり。相変わらず律儀な野郎だ」
「はは、よく言われます。とにかく無駄話はともかく早速報酬をお渡しします。ウルフディアノーグの討伐ですので、150万円お支払いいたします」
二人の会話は聖奈とルカに持聞こえており、前のアブソディアノーグを超える額に聖奈は動揺を隠し切れていない。しかしルカの方ではこの程度かと言いながら、呆れた様子で、壮也も同じく不服と言わんばかりに顔を歪めていた。
「もう少し何とかならねぇのか?」
「何度もおっしゃる通り報酬を決めるのは私ではありません。それに報酬に関して私がとやかく言えることではないので。ともかくこれで失礼いたします」
一礼の後にクランはその場を立ち去り、その後姿を見送った後、舌打ちをしながら報酬を見、ため息を零しながら椅子に座るのだった。
「ダーリン残念だったね。でもまぁすぐにもっと稼げるよ」
「だといいがな?」
「きっとランのせいで盗られたんだよ。大丈夫、今度は獲物を横取りされる前に討伐すればいいだけだからね」
「ふん、まぁ確かにランが狩ったあの2体を狩っていれば少しはましだったかもな」
ちなみに、ランが狩った二体の報酬金額は180万で今頃壮也と同じく、彼女もウルフディアノーグを狩っていれば少しはましだと呟いているのだった。だが、そんなことは考えるはずもなく報酬の内、35万をルカに投げ渡し、聖奈にも15万度投げ渡す。
「これがお前等の取り分だ」
「サンキュー、ダーリン」
「ありがとうございます!」
ルカはこの程度と少し残念そうにしているが、聖奈は勿論、高額とも言える報酬に喜びを隠し切れていなかった。まだ3日もしてないうちに既に25万程稼げ、この仕事に就職できて良かったという思いはより一層強さを増した。
「じゃぁ報酬も貰ったことだし、早速ダーリン私と買い物でも行かない?」
「寝言にしては目が開き過ぎだぞ」
「そんなこと言わないでさ、行こうよ?二人きりでさ」
「俺は情報収集だ。行くなら聖奈と行ってろ」
「「はぁっ!?」」
二人がそれに驚きを見せたのはほぼ同時だった。ルカは聖奈を目の敵にしており、聖奈もそれに困っているにも関わらず、二人で出掛けろだなんて。どう考えても二人が道中で楽しくできず、喧嘩するのは目に見えていた。
「冗談でしょ?」
「同じ仕事する仲間なんだ、そろそろコミュニケーション深めとけ」
「ちょっと壮也待っ────」
「それじゃあな」
案の定、ルカの言葉に聞く耳を持つ筈がなく、ドアを閉まる音が響き、その後なぜか私の姓のように一瞥され、背筋に冷たい物を感じるのであった。
何はともあれ、どういう訳か結局二人揃って買い物に出かける事となり、街中を歩くルカと聖奈。とは言え、二人の仲は相変わらずで聖奈にとってこの空気はあまりにも耐えきれないものだった。
「(はぁ~~、何でこういう目に。というか私一体ルカさんに何したんだろう?)」
「ねぇ、ちょっと」
「?」
「ずっと聞きたかったんだけど、あんたがこの仕事選んだ理由って?」
「えっ!それは……」
理由は単純に欲に目が眩んだという事だが、勿論そんな事を簡単に言える訳がない。目線を外し、まぁ色々ですよと適当に返すとふ~ん、と言いながら聖奈を見る。
「てっきり私は金目当てでこの仕事してるのかと思ってたよ。アンタ報酬にすごい喜んでる風だったし」
「!」
思っていた以上にルカの勘は鋭く、核心に触れる一言にビクッと背筋を震わせた。
「ル、ルカさんは何でこの仕事を?」
「私?勿論ダーリンがいるからだよ、報酬なんて二の次」
「何でそこまで壮也さんに?」
ずっと壮也に底根気味のルカ。聖奈にとってルカの今までの言動に疑問を抱いており、いつ聞こうかとずっと思っていたので、今日思いきってそれを聞いてみた。するとルカは表情を柔らかくし、笑いながら答えた。
「命の恩人だから。ずっと暗闇を見ていた私に光を見せてくれたのが彼だったからね」
ルカにどういう過去があったのか、彼女が歩んだ過去をまだ彼女が知る術はなかった。だが、ルカの口調から自分が想像もできないような過去があるのは簡単に察しがついた。
「それってどういう?」
「まだあんたにそこまで話すつもりはないよ。まぁあんたを気に入る事と機会があればね」
「何でそこまで私を目の敵にしてるんですか~?」
「さぁね」
「……はぁ~、まぁとにかくそこまで壮也さんに一途なルカさん、何だか羨ましいですね」
「羨ましい?」
「だってそこまで真剣に誰かに恋するだなんて、私も見習いたいですよ」
そんなふとした発言にルカは、なぜか驚いたような表情を浮かべている。、
「見習いたいって事は壮也の事、何とも思ってないって事?」
「えっ!?何とも思ってない事はさすがにないですよ、命の恩人ですから取っても感謝してます」
「嫌、私が言ってるのはそういう事じゃなくて……って、まぁいいや。お陰で私の勘違いだって事がようやく分かった」
「ルカさん?」
「別に何でもない。とにかくこれであんたとは少し仲良くやっていけそうな気がする」
「はい?」
ルカの言っている意味がどういう事なのか、今の彼女が分かる筈もない。
しかし理由がどうあれ、ようやくルカと距離が近づき、ルカの目の敵にされる事がなくなったと思うと、彼女は今までため込んでいたものを吐き出すように深くため息をついた。
二人の行き着いた先はとある服屋。そこら中にある服屋と違い、どこか一流の不陰気を感じる服屋、こういう店はあまりに出費が激しいので、聖奈はあまり着た事はないが、ルカに関しては何度もこの店に来ているらしく、店員と馴染みのように話している。
「ルカさんこの店何度も来てるんですか?」
「うん。私の一押しの店ね。後今まで勘違いしてたみたいだから、そのお詫びも込めてあんたの分も色々服選んであげるよ」
「えっ!?ちょっとそれは」
「いいから早く早く!」
「きゃっ!!」
強引に腕を掴んで聖奈を連れると、ショッピングを楽しむ二人。
端から見ればまるで女子高生のようにいろんな服を試着してみたりなど、オシャレを存分に楽しみ、数時間後に店を後にした二人は買い物袋に詰めた荷物を2袋ずつ持ち歩いていた。
「随分たくさん買いましたね」
「いいのいいの♪女の最重要は見た目だから服にはちゃんと気を使ってないとね」
「その発言はどうかと……」
『ル~カ~ちゃんっ!』
狙ったようなタイミングで聞こえてくる一つの声、ルカは呆れるようにため息をつき、聖奈は声の聞こえた先に視界を向けると、そこには茶髪で頭にゴーグルを取り付けた一人の男性が。
「ルカさんの知り合いですか?」
「まったく。初対面ですけど、あの人誰?」
「相変わらず酷いねルカちゃん。折角君のためにこうして花束持ってきたのにさ」
赤いバラの花束を片手に持ち陽気な様子で言う男性。聖奈は心の中で二人の関係はどうやらルカと壮也の関係を真逆にしたようなものだと感じていた。
「ルカさん、良かったら紹介してもらってもいいですか?」
「おぉ!」
聖奈が口を開くと、男性は聖奈をまじまじと見つめ驚いたように声を上げる。
「随分ときれいな美女!うわぁ~~眩しい、誰かサングラスを!」
聖奈を見つめ突然口を開いたかと思うと、大袈裟なリアクションを取り、わざとらしく片手で視界を覆う男性の素振りに聖奈は唖然としていた。
「こういう奴よ。相手にしない方が身のためだから」
「だからそういう言い方ないんじゃない?まぁともかく俺、佐久間シュウ。可愛い子ちゃん口説くためなら命も惜しまないのが俺のポリシー。まぁそんな話はどうでもいいとして、ルカちゃんだけでなく君みたいな可愛い子に出会えるなんてね、君名前なんて言うの?」
「え、えっと……私千里聖奈って言います」
「聖奈ちゃんか、うわぁ~~君みたいな美女に会えるなんて俺ほんと感激。これご挨拶代わりにどうぞ!」
聖奈にもルカと同じくバラの花束を渡すシュウ。ここまで見る限り、ノリはかなり軽く、ナンパも激しそうで、いわゆるチャラ男的な存在だなと思う彼女であった。
「ねぇねぇ、聖奈ちゃん良かったらメアド交換してよ、俺君みたいな可愛い子なら絶対返信返すしさ」
「やめといた方がいいよ。こいつ何股かけてると思う?」
「だからルカちゃんやめてよ、聖奈ちゃんにまで黒い噂教えるのは、俺はただ人生っていうもんを存分に楽しんでるだけだよ?」
「五月蠅い女の敵」
「相変わらず酷いね。もしかして僻み?」
「冗談。あんたに僻みを持つなんて事があったら、自殺してる。ともかく私ら帰りますから、じゃあね」
「あらら、ちょっと待っ──“プルルルル”」
聖奈の腕を引っ張って逃げるように走り去る二人、勿論それを追いかけようとするもそれを遮断するように携帯が鳴り、立ち止まって携帯を開く。
「はいもしもし、あっ何?ヒカリちゃん?今から会えないかって?断然おK。俺も久々に君に会いたいと思ってたんだよ。は~い、それじゃあね」
携帯を切り、苦笑いをしながら残念そうな表情を浮かべると、仕方なくシュウもその場から立ち去り、一方のルカ達は逃げ帰るように真っ直ぐ事務所へと向かい、事務所へと戻るとルカは疲れたように深く息を吐き、そのままソファーへとダイブして寝転ぶのだった。
「よりによって面倒くさい奴にあった。随分疲れた~」
ソファーに寝転んでいるルカ。不機嫌な感情を露骨に表わす彼女を見て、聖奈はただ苦笑いをするしかなかったが、先程からシュウと言う男性に付いてとても気になっていた様子で、それに付いてふとルカに質問してみる。
「あの人と随分知り合いみたいですね」
「うん、私が出会いたくなかった第1位に堂々とランクインしてる」
「そんなに悪い人なんですか?」
「えぇ、チャラ男だし、ナンパばっかりしてるし、気に入った相手には花束渡してるけど、その気に入った相手っていうのはもう3桁以上いってるとおもう」
「そんなに!?」
「そうそう。だからあぁいう男には気をつけた方がいいよ?」
「は、はぁ……」
「私疲れたからもう寝るね。どうせ夜になったら仕事の時間だろうし、あんたも今の内に仮眠でも取ってたら?」
夜狩りの仕事をする上だと、夜は仕事で朝は睡眠と言うのが基本的生活らしい。スゥースゥーという声が聞こえたかと思うといつの間にかルカはもうソファーで寝ているらしく、彼女もルカに言われた通り適当に仮眠をとている方がよいと考え、そのまま2階にある自分の部屋のベッドで眠りにつくのだった。
「よぉ戻ったぜ?」
夕暮れになり、夕日も既に沈みつつあるこの時間。
ドアが開いたかと思うとディアノーグの情報を掴んできた様子の壮也が顔を見せる。
「むにゃ?あっ、ダーリンお帰り」
「おぉ、戻ったぜ。それより聖奈の方は?」
「あの子なら二階で寝てるよ。できるだけ優しく起こしてあげたら?」
「!?、お、お前何かあった?」
朝までは聖奈に対しツンケンしていたルカ、聖奈の事を口に出せば、又騒がしくなると予想していた壮也だが、朝までの様子が嘘のように優しい口調、挙句優しく起こせと気を使っており、それは壮也を愕然とさせた。
「私が優しい口調だとおかしい?私があの子に抱いてた感情は全部気のせいだって感じたし」
「悪魔で予想だが、その抱いてた感情ってのは碌でもないことじゃねぇだろうな?」
「秘密よ。例えダーリンでもね」
「ふん、まぁともかくお前はさっさと準備してろ」
何があったのかは定かではないが、ともかくルカと聖奈を一緒に出かけさせたのは壮也の予想以上に効果があった様子。何はともあれ、壮也が掴んだらしきディアノーグを消去すべく聖奈を起こすと、すぐさまバイクに乗ってディアノーグの場所に向かうのだった。
「ふぁ~、でっ?今度はどっから仕入れてきた情報なんですか?」
道中、まだ起きて間もない聖奈は随分と眠そうな様子で欠伸をし、それに対し壮也はある個所に赤いマークを付けた地図を後ろの聖奈に投げると、危なっ!と動揺し、もたつきながらも何とかキャッチする。
「そこがディアノーグの出現したらしき場所だ。精々今度のディアノーグは雑魚じゃなきゃいいんだがな」
「それは報酬が期待できるからですよね。前から思ってたんですけど、何でそんなにお金が必要なんですか?」
アブソディアノーグの時といい、ウルフディアノーグの時といい、十分高額とも呼べる報酬だが、彼は決してそれに満足しておらず、もっともっと多額の報酬を取ろうとしている。だが、なぜ彼がそんなに報酬にこだわっているのかがいまだ謎だ。それに彼女には、壮也が単なる欲で金を稼いでいるとは到底思えなかった。
「俺が稼いだ金をどう使おうが自由だろ?自分の欲望のままに使おうが、お前が知る必要はない」
「少しぐらい教えてくれても────」
「無駄口叩くな。ほら、もうすぐ目的地だ」
「!」
今度の舞台は海岸の様子で、灯りも人気も無いその場に小波と風の音がよく目立つ。壮也達は適当な場所にバイクを止め、ルカを起こすと三人は辺りを見回す。
「それにしてもディアノーグっていろんな場所に出現するんですね」
「奴等は一言にディアノーグと言ってもそれぞれ生態が色々だ。例えば人間を喰らうために人が来そうな場所に移動したりするもの。これはよく下級ディアノーグに見られる。そしてもう一つは決まった場所を住処に、ノコノコと現れた餌を喰らう。これは前者よりレベルの高いディアノーグに見られる」
「へぇ~~、って、ちょっとそれって!?」
壮也の話を冷静に考えると人があまり来そうもない今回の場所は後者に当たる。だとすればディアノーグの住処にノコノコと現れた餌というのは、私達三人に当てはまる。それ以上の事を考えるのも怖く、彼女は明らかに恐怖と不安を隠しきれなかった。
「さぁ、夜ショータイムだぜ?」
ニヤニヤと笑う壮也。ルカも同じく平気な顔をしているが、聖奈の方は震えが止まらず、平常心を保つのもギリギリの状態。そしてそんな聖奈の恐怖心に拍車を駆けるように、突如として砂を巻き上げながら一体のディアノーグが地面から飛び出し、咆哮を上げながら、地面へと降り立つ。
「で、出たああーーっ!」
「ふっ……やっぱり噂通りだったか。ルカと聖奈は下がって邪魔者が来ないか見張れ。俺はこいつの相手をしてやる」
返事を返す事無く、二人はすぐさま後ろに下がり、壮也は担いでいた暗牙四斬を片手で持つと、目の前に出現したディアノーグを睨む。そのディアノーグは、全体的に青黒い身体を持ち、両腕は若干丸みがあるものの岩のようにゴツゴツとしており、背中には幾つもの赤い棘を有した姿を持つそのディアノーグの名は、ロックディアノーグ。
「さて、今宵の夜も静粛させてもらうぜ」
「グルアッ!!」
ロックディアノーグには人間的知能はなく、獣のような本能を剥き出しにしながら壮也に飛びかかり、壮也は後ろに飛んでそれを避けるが、ロックディアノーグはそのまま突き進むと両腕を振い下ろし、それに対し壮也は暗牙四斬を振い上げて迎え撃つ。
“ガキィンッ!”
「堅って」
岩のような両腕は決して見せ掛けなどではなく、岩そのものとも言える強度の前に暗牙四斬とそれを持つ壮也自身も後ろに弾かれ、再度ロックディアノーグは腕を振り上げ、今度はジャンプでそれを避ける。
「グルアアアアァァァッ!」
ロックディアノーグの攻撃は止まらず、四つん這いの状態になると、背中の棘は風になびくように倒れ、その先を変えたかと思うと、瞬座に地面に着地したばかりの壮也に棘をっ飛ばし、それを横に転んで避ける。
「中々やるじゃねぇか。こりゃ報酬が期待できる」
接近すれば両腕を、後退すれば背中の棘。攻守ともに優れたディアノーグである程度戦闘にも慣れているらしい。だが、その強さを持つディアノーグに期待を持つかのように、彼は笑みを浮かべている。壮也にとって、敗北はさらさら考えてなどいない。彼が見てるのは、ディアノーグを倒した額の報酬を受け取るという先だけだ。
「とっとと逝け」
暗牙四斬を両手で握りしめると、そのままディアノーグに向かう。ディアノーグの体は腕と比べ、あまり岩のように堅そうではなく、狙いの的をそれに絞っているのだろう。だが、安々と攻撃されるロックディアノーグではなく、両腕を盾のように突き出しそれを受けきる。
“ガキィンッ!”
「しゃらくせぇ!」
岩のように堅い腕で多少の傷を付け、暗牙四斬は地面へ突き刺さる。だが、攻撃の手を止めることなく、地面に突き刺さった暗牙四斬を振り上げ、再度腕を傷つける斬撃音が響く。しかし、攻撃の手を休めることなく暗牙四斬を何度も振り上げたは振り下ろし、斬撃音を響かせる。
「そらよッ!」
傷だらけの腕を見て、暗牙四斬を今までより大きく振りかぶり、勢いのついた暗牙四斬を振り下ろし、“バキッ!”と今までの違う音が響いたと思うと、紙吹雪のように破片をその場に散らしながら拳は砕かれる。
「グルアアアアアアアアアアッ!!!!!」
一瞬だが、腕を砕かれる大きな衝撃、激痛が全身を回り、苦痛のあまり声が割れる程叫びを上げ、なおもジンジンと感じる疼痛に顔を歪める。
「さっすがダーリン。これなら獲物を消去できるわね」
「壮也さんあと一息です!」
ルカと聖奈の目にも勝負は既に付いたように感じる。まだ力を温存しているロックディアノーグであるが、完全に壮也はぺースを掴んでおり、押し切れば勝負は簡単に付く筈。
『あれぇ?ルカちゃんに聖奈ちゃん、こんなところでも会えるなんて、随分俺は運の神様に目を付けられてるみたいだね』
人気がない筈の海岸から聞こえる突然の声。普通の一般人がここに来る訳がないのだが、その声にルカも聖奈も聞き覚えがあった。振り返った先にいた男性は紛れもなく今朝会った佐久間シュウだった。
「アンタまさか獲物を奪いに来たって事?」
夜に彼がこの場所に来た理由、そしてルカの言う獲物を奪うという事を考えれば、結論は一つ。彼も壮也やランと同じく3人目の夜狩である事はもはや明白。出会った直後は彼も夜狩であるなど夢にも思ってなかった聖奈は思わず「う、嘘……」と絶句した。
「奪うなんて人聞き悪い事言わないでよ。俺だってちゃーんと仕事はします。ってな訳で俺も早速お仕事開始させてもらうから♪」
「アンタちょっと待ちないさいよ」
最後まで聞きいれる事もないまま、付近にあった岩場を踏み台に高く飛び上がる。
「る、ルカさん。あの人も夜狩何ですか?」
「えぇ見ての通り。ランクBだけど実力は本物よ」
ランと同じく彼もランクBのようだが、ルカの話しぶりを聞くとランクを覆しかねないほどの実力者らしい。聖奈にとって軽乗とも言える彼から、とてもそんな事は想像がつかなかった。
「おらぁぁぁっ!」
高く飛び上がるシュウは、意気込むように叫び、どこからか大鎚を取り出して構えると、その大鎚の重量に落下のスピードはより早まり、一気にディアノーグに向かって大鎚を振り下ろす。
「グルアッ!?」
真上を向いてそれに動揺しつつも、間一髪後ろに飛び、先程までディアノーグがいた地面は振り下ろされた大鎚によって、大きく抉れ、砂浜にはまるでクレーターのように大規模な凹みが出来た。
「シュウ、テメェどういうつもりだ?」
シュウが戦闘に顔を出すなり、それが気に入らないかのように壮也はイラつく感情を露骨に表情で表わしているが、シュウは相変わらずケタケタと笑いながら、壮也に対しても軽いノリを続行する。
「ごめんね壮ちゃん。俺も金稼ぎたいんだわ、だから横取りするみたいで悪いけど了承してね?」
「了承するかボケ、さっさと帰るか、この砂浜にテメェの首置くか二つに一つだ」
「うわぁ~~、悪役丸出しの台詞。相変わらず壮ちゃんの毒舌全快だね。正義に戦う夜狩の台詞とは思えないよ?」
「けっ、正義とか綺麗事ほざける仕事じゃねぇだろ?とっとどけ、この変態が」
「変態侵害、俺はただ女の子口説くためなら命を捨てるナイスガイさ」
「訂正してやろう、変態ナルシスト」
「どっかで聞いたよ?そのワード。まっ、いつか壮ちゃんも俺の良さ分かってくれるって」
会話から二人もある程度面識があるらしいが、壮也に対しても相変わらず軽い口調は止めていない。そんなお調子者のシュウが夜狩だという事が、今だ信じ切れていない聖奈だった。
「グルルルルッ」
「おっと、おっと。すっかり君のこと忘れてたよ。ディアノーグちゃん。まぁサクッと狩っちゃうからそれで勘弁してね♪」
武器である大鎚、暗爆撃砕を地面に下ろし、立ち上がるディアノーグを笑いながら見つめる。彼が所持する大鎚は全体的に黒色で所々に黄緑色の線のようなものが刻まれており、その大鎚は地面に下ろしただけで“ズンッ!”という音を鳴らし、その音からかなりの重量を誇っているのはすぐに分かる。
「まっ、俺が面倒見てやるよ。最後までね♪」
決め台詞とも言える言葉の後、大鎚を片手で振りかぶって一気に振り下ろし、それを両腕で受け止めるも、重量級のそれを完全に受け止められず、身体に纏う鎧のような装甲は簡単に破壊され、その破片を撒き散らしながら弾き飛ばされる。
「はいはい、見かけ倒しの装甲じゃすぐやられちゃうよ?ほら頑張って頑張って」
まるで子供をあやすかのような口調。そんな挑発とも受け取れるシュウの態度にイラついたように咆哮を上げる。
「五月蠅いねー、とりあえず君黙ろうか?」
面倒臭そうに片耳を塞ぎながら大鎚を構え、それを振り下ろしディアノーグはそれを後ろに下がって避け、シュウは大鎚を持ち上げてディアノーグを見るが、この時大鎚が振り下ろされた箇所には黄緑色の粘液のようなものが付着していた。
「グオオオオォォォォッ!!!」
再びディアノーグは再び両腕を地面に付ける体制となり、背中の棘をシュウに向け、一気にそれを飛ばしていく。
「おぉー怖い怖い。俺見た目よりか弱いんだから勘弁してよね」
わざとらしく怯えるようなリアクションを取りながらも後ろに下がって棘を避け、シュウが下がった途端、地面に付着してある黄緑色の粘液はまるで温度が上昇したように赤く変化し、それを遠目で確認するとかすかに口元を緩める。
「グルアアアアッ!」
一方のディアノーグは好機と見たのか、一気に接近しようとシュウに向かうが、一方のシュウはディアノーグに対して背中を見せたかと思うと、親指を下に付きだす。
「足元注意だ」
ロックディアノーグが赤く変色した粘液に足を踏み入れた瞬間、突如として爆発が起こり何が起こったかも理解できないまま、宙に舞い上がるロックディアノーグはそのまま地面へと砂煙をあげ、力なく倒れる。
「お前に人間的理解力があるかどうかは知らないけど、一応教えてやる。最初で最後の御勉強だからよーく聞いときな。こいつは振った際に特殊な粘液が飛び出る。その粘液はこの暗爆撃砕から一定距離離れた瞬間、赤く変色して爆発する」
もはや痛みを感じないほど意識はもうろうとしており、さっきの爆発で足も逝かれ、打つ手などない状態のロックディアノーグ。そんなディアノーグに大鎚を引き摺りながらゆっくりと近づき、彼が一歩踏み出す度にロックディアノーグが感じる死の恐怖をより増大にさせた。
「はい面倒見るのはこれでお終い。来世で会えたら恨みは忘れて、これがお前に送る最後の言葉。ってな訳でバイバーイ♪」
頭部に向けて振り下ろされる大鎚、“バキィッ!”と頭蓋骨の砕ける鈍い音が響き、叩きつけられた衝撃でディアノーグの手が一瞬浮かぶが、すぐにそれは倒れ、最早息のない残骸と化す。
「いやぁ~~、疲れた疲れた。報酬に胸躍らして帰りましょうかね」
「待て」
消去開始しようとしたシュウを快く思わない壮也、恨めしそうな表情のままシュウを止める。
「そいつは俺の獲物だ。急に横入りして来やがったと思ったらこんな事に」
「壮ちゃん。んな事言ったって獲物は早い者勝ちでしょ?それに俺だってちゃんと情報掴んでここに足を進めたんだ。文句言われる筋合いはないけど?」
「あるだろうが、戦況見計らってテメェは来た。違うか?」
「壮ちゃんそれは誤解だよ。俺が来た時には偶然、君が弱らしてた時だった」
「知るか、テメェに壮ちゃんって呼ばれると虫唾が走る。とっとと俺の気を許すうちに獲物置いて消えな」
「あははは、相変わらずつれないね~。壮ちゃんAランクなんだから、こんな獲物ぐらいBランクの俺に譲ってくれたっていいじゃない?」
「俺が欲しいのは報酬なんでな。それに生憎獲物を譲ってやれるのはランとか他の同業者、つまりテメェ以外だ」
「もう何でわかってくれないのかな?まぁ獲物欲しけりゃどうぞ、力尽くで」
「面白ぇ、お前とはそっちの方が話しやすい」
暗牙四斬と暗爆撃砕が再び構えられ、二人はだんだんと重々しい空気になりつつある。聖奈はすぐにでも止めなければと思うが、突然その二人にルカが割って入る。
「はいはい、二人ともストップ。話なら私が付ける」
二人を宥めた後、ルカは「はぁ~」と深いため息をついた後、シュウの両手を掴む。
「ねぇシュウお願い。この獲物譲ってくれたら嬉しいな?」
こんな事で獲物を手放す訳がない。心の中で呟く聖奈だが、シュウの眼は物すごくキラキラと輝いており、ルカの両手を握りしめる。
「断然ルカちゃんの頼みなら譲るに決まってるじゃん。俺ぐらいになるとどうせまたすぐに稼げるしね、どう?俺が稼ぐ報酬は9割ルカちゃんにあげてもいいから俺と来ない?」
「残念。報酬9割は魅力的だけど、やっぱ私のダーリンは壮也だけだから。もっと壮也みたいに格好良くなってから出直すといいわね」
シュウの言葉に口元を緩ませた後、さっきまでの態度を一変、掌を返したように豹変すると壮也に抱きつき、ショックを受けたようにシュウは肩を落としている。
「何だ嘘かよ。折角信用したのにルカちゃんってほんと悪女なんだから」
「悪女で悪かったわね」
「でもまぁ、ルカちゃん可愛いから断然OKだけどね、いつか君の夫には壮ちゃんじゃなくて俺がなってあげるから。その日を楽しみにしててね」
「うん、一生その日が来ないのを楽しみにしてるわ」
「うわぁ~、ものすごい酷い言われ様。何で壮ちゃんと俺にこんなに差が出るかねぇ?おまけに壮ちゃん、聖奈ちゃんっていう新しい彼女も作ってるみたいだし」
ルカだけでなく、聖奈の方も向き、肩を落となおもガッカリした様している様子。そんなシュウの発言に壮也は呆れながら片手で頭を押さえている。
「馬鹿言え、彼女なんか一生作るか。それにこいつは俺のサポーターってだけだ」
「なるほど今は恋人じゃないって訳。だとしたらいつでも奪えるってこと?」
「五月蠅いとっとと消えろ。早くこの虫唾を止めたくて仕方がねぇ」
「今は消えるけど、また来るよ?だってルカちゃんや聖奈ちゃんにまた会いたいからね。まぁとりあえず今日はこの辺で、君達に会えるの心待ちにしてるよ~♪」
軽く手を振ってその場を立ち去る。壮也の方ではとても不機嫌な様子でシュウの後姿に舌打ちを鳴らし、そのままシュウから視界を外すと暗牙四斬の中央にある髑髏を残骸の額に当て、その場から消滅させる。
「消去完了。用は済んだしさっさと帰るぞ、今日は気分悪い」
消去してもなおシュウに対して感じたストレスは残っており、声を荒げながらバイクに乗ると、逃げ帰るように立ち去るのだった。
いかがでしたでしょうか?第5話!
早速今回登場したキャラのプロフィールをまとめます。
・佐久間シュウ
21歳の男性で、壮也やランと同じく3人目となる夜狩。
性格はお調子者で、かわいい女の子を見かけるとナンパしたりなどノリは軽く、壮也に対しても軽いノリ全快のトークでストレスを溜めさせた。だが仕事となれば重量のある暗爆撃砕という名の大槌を木の棒のように扱い、軽いノリとは裏腹に重い武器で敵を圧倒。ランクはBだが、それを覆しかねない力を持つ実力者。そして彼の決めゼリフが「俺が面倒みてやるよ、最後までね♪」という言葉である。
そして以上が彼の実力です。
ちなみに彼が扱う武器の能力の一つである特殊粘液、これはあのゲームをやってる方なら簡単に分かるはず。Gで出てくるモンスターの能力をモチーフにしてます。ランに続いて登場した新しいキャラであるシュウ。ぜひ今後の夜狩も見てくだされば嬉しいです。
今日で春休み最後ですが、夜狩はまだまだ続く!
今後も宜しくお願いします。