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私がアフターファイブについて思うこと

作者: 猫凹

 私はアフターファイブというやつが苦手。


 まず、自分がアルコールが苦手。そしてそれ以上に、人が酔うのを見るのが嫌いなのだ。


 午後五時まではあんなに礼儀正しかった人たちが、顔を赤くして、なれなれしい態度で言い寄ってくる。かと思えば、人が傷つくようなことを、笑いながら平気で口にしたり。あげくには、酔っ払い同士で大声を上げて言い合ったり、ひどいときには殴り合いの喧嘩まで。


 お酒は人間関係の潤滑油。本音を言い合う場も必要。お酒が入れば、その人の本当の人間性が分かる。


 馬鹿じゃないかと思う。


 欲望を理性で抑えてこその人間じゃないか。本音を言いたいのを我慢して、相手が傷つかないように言葉を選ぶ思いやりこそが、潤滑油じゃないか。酔っぱらった異常状態が、しらふの時のその人よりも「本当」だなんて、どう考えたっておかしい。


 でも、内向的で臆病な性格の私が「飲みにケーションの効用」などというものがまかり通る社会を相手に、そんな主張を声高に叫ぶことができるはずもない。



 大学の時は、サークルの飲み会もひたすら避け続け、歓送迎会や忘年会など、どうしても断れない行事の時だけ出席していた。そういう席では、目立たないことだけを心がけ、ウーロン茶のグラスを握り締めながら、ひたすら下を向いて縮こまっていた。


 でも、そういうのを許さない、正義感にあふれた奴が必ずいる。いわく「空気読め」いわく「一度、馬鹿になってみろ」


 お前こそ空気を読め。馬鹿は生まれつき、今なる必要もない。ぼそぼそとそんなことを言ってみても、騒がしい飲み会の場で、それが相手に聞こえるはずもない。

 やがて私は追い出されるようにサークルをやめた。飲み会の誘いはかからなくなったが、友人もいなくなった。授業だけに明け暮れた、灰色の四年間。



 今の会社は気に入っている。

 大学で得た資格を活かせる仕事内容。通勤は一時間以内で、残業は少ない。上司や先輩、同僚にはいろいろな性格の人がいるけど、どうしても合わせられない、というほどの人はいない。要領が悪く電話の受け答え一つにもなかなか慣れないグズな私を、邪険にせず受け入れてくれている。指導の先輩は、噂では彼女がいるらしいけれど、とても素敵な人。

 説明会の時までは聞いたこともなかったような小さな会社だけれど、大当たりを引けたと思っている。


 この職場では、大学の時の失敗は繰り返したくない。仕事中は自分なりに精一杯明るくふるまいつつ、アフターファイブのお誘いは、やんわりと断り続けてきた。今日までは。


 課長のお声がかり。


 とても断れる雰囲気ではなかった。終業後、同僚たちに巻き込まれるように、駅前の居酒屋へ。入社以来初めての飲み会に、とうとう連れて来られてしまった。


   *


 か、かんぱー、い!


 ええ。初めてです。そんな、私なんていてもいなくても……。ありがとうございます。


 そ、そうなんです。ウーロン茶いただいてます。お酒はちょっと。体質で……。


 え、好きなものを注文?……ごめんなさい、私、こういうところの料理あんまり分からなくて……。


 て、店員さーん! だめだ、聞こえてないや……。


 課長に注ぎに行った方がいいのかな……でも他の子と話してるし……。返杯とか受けられないし……。


 え、あ、はい。食べてます。た、たのしいです。


 お腹冷えてきた……ちょ、ちょっとお化粧直してきます!


 ええっ!? まだ三十分しか経ってないの?


 はあ……戻りたくないな……。


 ……うう、私の席に他の人が座ってる……。空いてる席は……うっ。


 せ、先輩、お隣失礼します……。


 か、からかわないでくださいっ! わ、わたしべつに……。


(もう、これだから酔っぱらいは……。)


 これ、私のウーロン茶だよね……?



 ……うっぷ!




 て~~~め~~~え~~~ら~~~っ!!!!




   *


 電車がレールのつなぎ目を通るときの振動がきつい。


 今朝、いつもの時刻に鳴り出したラジオに目を覚ますと、私は自室のベッドで、着替えもせずに寝ていた。

 眠る前に何があったのか、まるで思い出せない。服が乱れていたりはしなかったのが、せめてもの救いだ。


 なにはともあれ出社。いつも通り、午後五時までの、愛想を振りまく日常を開始する。



 おはよー。……え? なんで敬語なの?


 先輩、おはようございます。……あれ? メガネ変えたんですか。素敵ですね!……な、何か怒ってませんか?


 おはようございます係長。ひっ!……その目の周りの青あざ、どうしたんですか? なんで逃げるんですか?


 課長、お茶を……あれ? 課長ってカツラだったんですか? なんか頭に真っ赤な手形が……。痛くないですか?


 あれ? あれ? 私の机、なんでこんな隅っこに……ううっ……。


   *


 昨日まであんなに和気藹々としていた職場が、なんということだろう。今日は殺気すら感じられそうなほどの殺伐とした空気に包まれている。

 私は、倉庫脇の辺境地帯で小さくなって、一人寂しくキーボードをたたく。


 アフターファイブの人柄なんて本当じゃない。ビフォーファイブの姿でこそ、人は判断されるべき。



 そう思いませんか?



 ……ぐすっ。



 ……私はアフターファイブが大っ嫌いだ!


 ほんと苦手でorz

 (11月29日、ちょっと書き直しました。)


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― 新着の感想 ―
[良い点] -衝撃的なオチ―-!!-大変笑えました―-。 -猫凹さんは、いけるくちなんでしょうかね―-??。
[一言] 過去に絡み酒の子居たなー 困るんだよなー 女の子だとよけいに 主人公の女性も気を付けてね 眼鏡は、まだしも カツラは、いじっちゃ駄目だよ まして上役だと地雷10個まとめて踏抜いた位の威力有る…
[一言] こ、これは深刻な問題ですね。 主人公がお酒に酔って、どれほどの仕打ちを仕事仲間にしてしまったのか?想像するだけで痛いです(^_^;) ツダヨシ、お酒は好きです。でも、飲み会はあまり好きじゃあ…
2011/11/28 23:04 退会済み
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