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西の行政区(20X×年○月8日)

西の行政区(20X×年○月8日)


     ~青い木々今か今かと雨を待つ~


                         一


 西区の調査チームは、西区の行政の中心地、区役所にいた。日本の城を思わせるような建物である。

この地区には、空港がある。昨日は、西区の主要なところを駆け足で回った。このチームは、外務省の課長を中心にしたチームである。

 日本の区役所や市役所などと同じである。区役所の職員数は、住民の1%以内で職務を行っているようだ。職員の数は、各地区で異なる。税収は、個人が、30%、企業は、50%を基本と高い税率である。これでは、不満がでてくるのでないかと心配である。区役所では、電気・ガス・水道・通信(電話)を第三セクタ方式で経営・運営している。公共の建物は、国が建て、貸し出されている。

全て建物は、国が建てたものばかりと思われる。個人が建て、民間が建てたものはあるのだろうか。建物からの借料が国の収入となる。病院・診療所の建物も、国が建て各行政区に貸し出す方式をとっている。学校も同じである。民間の医療施設は、存在しない。

 国は、経営・運営については関与しない。学校は、国立・公営である。中央区は、ほとんど国立で、各行政区は公立のようだ。但し、大学だけは全て国立だ。高校までは、義務教育で、学費は無料である。大学においては、学費の5割が個人負担、残りは国が補うことになっている。留学生は、全額個人負担だ。各行政区の生涯学習大学の学費は、各行政区で決める事になっていた。今は区の負担である。

生涯大学については、建物は、既存の学校の建物を、空いている時に使用し、公共施設や企業の施設を借りて行われる。

「財政運営は、うまくいっているのですか」日本の各自冶体が、赤字になっている現状を踏まえると老婆心ながら心配だと聞くと。西区行政区長の宮坂は、笑いながら

「今のところ問題ありません。行政としても事業展開を行い、予算の確保を行っています。建物などほとんどのインフラ設備が、国により造られているので、設備投資の費用はない。つまり各行政区は、借金なしで始めているのです」と説明した。

「住民登録は、どうしているのですか」

「基本的には、身元を証明するものを基本にしています」

「資格審査があるときいていますが?」

「あります。資格審査会の承認が必要です。審査内容は、秘密ですが」

「日本人が、この国の建設に参加しています。このままでは、わが国と貴国の国籍を持ちます。貴国と本人しかしらない二重国籍所有者です。犯罪の温床になりかねません。こうした危惧を我々は持っています。名簿を渡していただけませんか」怒ったように外務省課長の大谷が言った。

「名簿は、渡すことはできません。わが国の住民が、罪を犯すとの危惧は、心外です。しかし、正常でないことは、理解できます。わが国が承認され、貴国と友好関係が結ばれて、彼らの移籍や身分が、保障されるならば、手続きも容易となり自然と移籍した人達が、あきらかになります。日本国内の友人・知人に、お別れを言っていない人が沢山います。日本とは、早く行き来できるようにしたい」

「かってな言い分のように、見受けられます。独立しないで、日本所属すれば、こうした問題はないと思いますが」

「ハハハ。国籍、渡航の問題だけみれば、解決するかもしれませんね。しかし、それならば他の国が、日本に所属したいとの要望があったら受け入れますか。今回のように調査して判断されるでしょ」

この問題は、独立を許す、許さないに、発展することから、お互い並行線であった。

しかし、調査すればするほど、この国の底知れぬ不気味な力を感じる。あまりにも整備され、採用されているインフラは、日本だけでなく、世界でも実現していない設備であった。

 昨日の夜に行われた、調査団の合同打ち合わせでも、話題となった。この国の力を取り込めば、日本の活性化がはかり知れなくなると、誰しも感じた。経済封鎖などで孤立させ、音をあげさせる。米軍や自衛隊送り込んで、力にて取り込むなど。無茶苦茶な案が、でたほどである。


                         二


 農業をやっている、地区にきた。農作業は、暑い日中を避けて行われている。朝方と夕方が作業時間だ。農業従事者は、結構歳を召した人たちが作業している。朝の10時だった。午前の作業は、終わっていた。国会議員の佐々木が、声をかけた。

「暑いところ、お疲れ様です。何を作っておられますか」

“ムツ”とした顔をして、声をかけられた住民が振り向いた。

「調査は、順調ですか。我が国を承認できる 目処がつきましたか。その顔では、まだまだ調査できていないようですね。夕方、ここに働きに来なさい。頭だけで調査してもだめですよ。土をいじってみなさい。この国では、働かない人は、住めないよ。調査も一緒で、働くと判ることがでてきますよ」声をかけられた住民が話した。すると他の住民も

「貴方方は、日本では、何しているのですか。日本で机に座って、えらそうにしているだけだろ」

「そこでカメラをいじっている兄ちゃん! そんなんでは、いい写真がとれないぞ!」

笑いながら、日焼けした顔で、調査団に声をかけてきた。調査団は、たじたじだった。福西カメラマンが

「じゃ! 夕方来ていいですか。時間は何時ですか」

「オツ! その気になったね! いいのか怒られないか! ところで農作業やったことがあるのか」

「ありません」

「夕方は、ジムがリーダだったな! 中川さん、ジムに言っておいてよ!」

「16時に、あそこにある事務所まで来な」中川が指をさしながら言った。

「大谷さん、私も参加していいかね」最初に声かけた、自由党の佐々木が、リーダの大谷に話すと

「中川さん、よろしいでしょうか?」

「わかりました。その時間に来てください。手ぶらでも大丈夫ですよ」

突然、おかしなことになったと、調査チームのリーダである大谷は思った。議員の佐々木が参加するとは思わなかったので驚いた。

        三

 その頃、警備隊の青木は、西区を車で回っていた。“あすなろ”寮に進入した2名は、南区の海上から撤退したとの、報告を朝受けた。アメリカの特殊チームであろうと、思われた。南区の海上には、アメリカ軍の艦船がいた。住民に見つかったことで、調査を打ち切ったものと思える。この事件は、調査団が帰るまで、外部に漏れないようにした。“あすなろ”の金は、怒っていた。彼女は、以前警備隊の特殊チームの一員だった。子供を亡くしたことで、青木と破局した。特殊チームからも外れた。

 あすなろ寮で、人質を許すなど警備チームも、どこか緩みが出ていたのかもしれない。そう思いながら、現在西区を車でパトロールしていた。西区には10名の不法入国者がいる。こちらは、中国の特殊チームと思われる。不法侵入チームは、北区、南区、東区にもいたが、中央区までは入り込んでいなかった。彼らは、多分見つかっているとは、思っていない。無防備な島だと思っていることだろうが、何故か、違和感を持っているようだった。

 青木は、西区の警察署に寄った。警官は、進行中の不法入国者の動きを知らないまま、日常業務をこなしている。西区の刑事部で、第一捜査課の堀内主任に会った。

「どうですか、この国での警察の仕事は、おもしろいですか?」

「青木君。この国に、第一捜査課が必要ないのではと思うよ。このままならば、私の仕事は無くなり、転職願いを出すかもしれないね。ハハハ・・」と笑いながら堀内が言うと

「これからですね。この国が承認され、観光客などが増えてくると、前の国と同じ事件が発生しますよ。堀内さん。それまで準備期間みたいなものですよ。この国は、理想・夢の国として登場したけど、これからは、色々な人達がきますからね」青木は、現在、30名の不法入国者がいることは黙っていた。彼らが、事件を起こさないで、何事もなく静かに帰ってくれれば、想定通りである。

 今は警備を緩やかにしているが、調査団が帰国した後は、通常の警備態勢に戻すことになっていた。

侵入者が、想定通りに引き揚げてくれればと願うばかりである。

「青木君。調査団の人たちは、先ほど区役所に来ていたようだ。農業地域に周ったようだけどね。どうも、別の国との感覚がまだわかないね。彼らを外国人として扱うのだからね」

「そうですね。でも彼らは、私達をすでに外国人として見始めていますよ」

日本の調査団は、5つに分散して調査している。共和国側は、比較的自由に調査させていた。


                         四


 日本では、東郷主席の家族、兄弟の所在が洗い出されていた。当然マスコミは殺到した。東郷の子供達は、結婚していた。しかし自分達の父親が、共和国建設をしているとは知らなかった事にした、事実あまり知らなかった。10年前から父親は、単身赴任で働いていた。仕事は、小さな情報処理会社を経営しているものとした。子供達が結婚したことで、母親は、父親の所に移ったのだと言った。家族内での会話は少なかった。取り分け父親との話しは、あまりしなかった。母親を通しての会話で済んでいた。父親が共和国建設の事業をやっている事は、最近知ったが、知らなかった事にした。

 兄弟達も同じく知らなかった。東郷の兄弟は7人兄弟である。兄弟達も東郷が、小さな会社で頑張っているものと思っていた。だから突然の共和国のTOPが、自分達の身内だった事をマスコミの報道で初めて知った。質問しても判らなかった。本人達は、吃驚するだけであった。

 マスコミは、子供達に父親が、何をしているのか判らなかったのかと、しつこく聞いていた。あまりにも、しつこいマスコミの対応に息子が言った。

「貴方がたは、何が聞きたいのだ! 親子の関係を聞いてどうしたいのだ。失礼だと思わないのか。知らないものはしらない。判らないものは判らないと言って何が悪いのだ! 私達を脅したり、怒らせたりすることが、目的なのですか! これ以上、私達の生活環境を妨害しないでほしい」怒りをにじませて、お願いをした。笑っているマスコミもいたが、ベテランのレポータが、謝罪し、引き揚げていった。不満を述べるマスコミがいたが、圧倒的に礼儀を失した、対応である。

 家族や兄弟達へのインタビューは止んだ。東郷が、家族等含めて、共和国建設を進めていた事を話さないでいた事を、あらためて理解した。


                        五


 雨が少ない島である。スコールが、時々降る。恵みの雨である。農業従事者の顔が、生き生きとしている顔が、この国を物語っていた。働くことの喜びが表れていた。

 暑い日差しが照りつける中でも、南国特有の木々の青い葉っぱが、風に揺れていた。


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