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視察始まる(20X×年○月7日)

視察始まる(20X×年○月7日)


         ~暗闇は人を惑わせる光は人を導く~


                        一


 この国の住民の朝は早い。太陽が、東の海からこの島に光をさし始める頃、住民は起き始める。朝の5時である。ホテルでは、フロントの周りや庭の掃除をはじめた人達がいた。

 黒田は、緊張のせいかすぐ目が覚めた。昨日は、食事のあと有志で飲んだ。眠れなかった。空がしらむころ起きて、1階におり散歩にでた。気持ちのよい朝である。

「おはようございます」声がかかった。ホテルを清掃している人達である。

「散歩されるのならば、近くの公園にいかれたら良いですよ。皆さん体操しています」

ここの人達は、もう起きて働いている。言われた公園に行ってみると、この国の住民が、体操していた。散歩している人達、清掃している人達もいた。皆まちまちの服装である。こんなに、朝早くから起きているのか。

「おはようございます」すれちがう人達は、声をかけあう。顔は、日本人のような顔したアジア系の人や、アフリカ系、ポリネシア、白人などである。年齢も年をとった人が多いが、子供達もいた。

「日本の調査団の人ですか?」

「そうですが、何故わかるのですか」

「ハハハ・・。何もしないで驚いた顔で、歩いているからですよ」

「エッ。皆さんと同じように、散歩しているのですけど」

「確かに私達は、散歩しています。体操したり、清掃したりしています。でも生活していると言うか、周りに自然と溶け込んでいるところが違いますよ」

「それは、散歩のしかたに、違いがあるのですか」

「違いはないです。散歩は散歩です。そのうち判るでしょう」歳をとった住民は言った。

「お父さん、判らないわよ。まだこの人は若いし、この国で働いていないから」娘と思われる若い女性が、横から声をかけた。

「もうすぐ、朝市が行われるから、この公園と反対のところにいってみたらどうですか」

「何か珍しいものが、あるのですか」

「何もないわよ。朝市だから野菜や果物を中心に売っているだけね。そこに行けば、少しこの国の住民の気持ちがわかるかもね」

「ありがとう」黒田は、お礼を言い先ほどの“そのうち判る”“働いていないから判らない”と、親子が話した言葉を気にしながら、朝市が行われている場所に向かった。

朝市は、朝市通りと名称がついている通りにあった。上野のアメ横に似た感じである。新しい町のためか、建物事態はきれいな平屋建てである。朝の6時から8時のあいだ、店が開き採りたての野菜や果物が売られる。売る人は、周辺で作っている人達が持ち込み、その場で、値段を設定して売るようだ。

8時から10時の間は、店が閉まる。10時から15時まで別な商品が売られ、17時から20時は夕方市が開かれる。時間帯で商品が変わるのである。面白いシステムである。食事するところは、6時から夜まで開かれている。お酒は夜しか売らないとのことである。調査団のメンバは、結構来ていた。テレビカメラも回っていた。

「黒田さん、ここだったのですか」カメラマンの福西が声をかけてきた。

「公園まで散歩に行っていて、今来たばかりさ。しかし、色々な人達が売っているのだね。皆生産者なのかね」

「さっき、あそこで売っている黒人の人と、話したのですが、自分で作っていると言っていました。このキュウリとトマトは、そこで買ってきました。食堂に持っていけば料理してくれるとの事です」

「朝は、ホテルで朝食するのだろ」

「団長が、好きにしても良いとの事です。調査するのだから、現地の人とコミュニケーション出来るので最適だろと言っていました。食事しに行きましょう」

「9時45分集合だから、十分時間があるね」

「そういえば、車を手配して海岸の方へ、向かった人達もいました。こちらの人達は、朝が早いですね。6時ですよ、車を動かしてくれるのだから」

「今、6時半か。昨日は、あまり寝られなくてね。そこで食事しよう」

食堂は、結構広かった。人はあまり居なかった。朝のメニューは、種類は少なかった。日本円での支払いが可能か、聞いてみると可能との事。但し、お釣りは大和円になるとの事であった。現地の人達の近くにすわり、この国と日本の違いを聞いてみた。

「朝早くから働くのが、好きな人達が、集まった国だよ。働かないと罪になるからね」

一緒に居る人達が、ニヤニヤしながら、私達をみていた。福西君が吃驚した顔をした。

「冗談ですよね」ドッと笑い声が広がった。

「日本では、どこに住まわれていたのですか」

「九州に住んでいたよ」

「俺は、北海道だよ。これ以上詳しいことは話さないようにと言われているから、ごめんね」

「仕事は、何をされているのですか」

「私は、公務員です」

「俺は、近くの工場で電気製品をつくっているよ」

「私は、湾岸鉄道に勤めています」

「色々な人種の人達が、国民におられますね」

「そうだね、世界中から集まっているね。その中で、日本から来た人達が一番多いね」

「子供達もいて、お年寄りもいる。ここには、何に乗ってこられたのですか」

「何だと思う? 政府の人に聞いてください。多分、笑ってその回答は、ないだろうけどね」

「どうしてですか?」

「皆さんは、UFOを信じますか? 多分信じないでしょ。私たちは、UFOで来たのですよ」そこで皆一斉に笑った。


                         二


 ホテルのフロント前に、全員集合していた。首相官邸への訪問である。官邸は、南国特有の白い建物である。アメリカのホワイトハウス並みであるが、形は、日本のお城に似ていた。張首相がにこやかに迎え、朴大臣、本山大臣、ジョージ大臣、ケビン大臣が一緒に出迎えへた。型どおりの挨拶や写真撮影が終わると、調査団は会議室に入り打ち合わせに入った。マスコミは、オブサーバとして打ち合わせに参加することが許された。

「日本の皆さん、よくいらっしゃいました。私は、大和民主主義共和国を代表して、お礼を申し上げます。わが国は、まだ公式には認められていない状況ですが、日本国に承認され友好が築ければと思っています。わが国は、日本国と類似した憲法を理念として建設しました。従って皆さんとある意味では、考え方や目指すものが共有出来るものと思います。

 私達は、自主独立を前提に、平和を願うあらゆる国と友好関係を築き、対等・平等を基に貿易や人材交流などを、図って行きたいと思っています。是非、わが国の状況をみていただき、その結果を踏まえて、わが国と交流を深め、友好関係が、速やかに構築出来ることを願っています」張首相の挨拶から、打ち合わせが始まった。

「私達は、今回訪問するに当たって、いくつかの疑問を持ちました。その疑問の解決が、友好関係を結ぶ早道となると思っています。国を承認することは簡単です。しかし、承認することは、張首相が言われたように、友好を進めることが前提となります、そのためには皆さんの事を知り、わが国日本が、協力出来るものがあるのか、わが国の安全を脅かす国でないのか、等の率直な疑問を解決する必要があります。その疑問は、次のことで大概集約されます。


 一つは、大和民主主義共和国が何故、どのようにして作られたのか。日本国憲法と同じでありなが      ら、共和国として独立が必要なのかです。

 一つは、本当に独立して経済的にもやっていけるのか。

 一つは、色々な国から集まった人達を責任持って国民の安全や社会保障などやれるのか。

 一つは、この国が本当に民主主義と平和を尊重した国か、国民は納得しているかが、疑問としてあり     ます。


 日本に隣接した国として、建設されているところに、わが国としては、脅威に感じているところです」団長の田中が、まず挨拶かねて率直に疑問点を述べた。

「率直なる疑問を提言していただき、ありがとうございます。私達も皆さんの立場ならば、当然の疑問であり確認したいと思います。今後の打ち合わせや調査を通じて、皆さんの疑問が、解決される事を願います。そのための援助は、惜しみません」それぞれが、まずは、簡単なジャブの応酬で始まった。

「我が国は、5つの行政区を持っています。従って、5つのグループに分かれて調査されると良いと思いますが、どうでしょうか。異存がなければ、皆さんが見て、聞いて、感じて分析された結果が、疑問の解決に役立つと思います。最終日の前日に、調査結果を踏まえたところで、合同会議をする事で、どうでしょうか」朴の発言で、最初の合同打ち合わせは終わった。


                      三


 テレビ放映は、日本にも朝一番のニュースとして報じられた。訪問団が張首相と握手を交わすところや、会議室の様子、首相官邸の映像が、日本全国に電波にのって映し出された。きれいな島で、住民・国民の明るい顔が印象的だとのコメントと、一緒に報じられた。夕方のニュースでは、もっと色々なところが映し出されることになるであろう。

 この国は、5つの行政区に区切られている。島の中心にある高い建物は、国会を兼ねた行政の中心地である。近くに、首相官邸、迎賓館、中央図書館、中央病院、中央研究所、博物館、美術館などが置かれている。ここを中央区と称している。そして東西南北に分かれた行政区がある。西区に空港が配置され、北区の漁港、南区にも空港らしきものがあった。東区には大学が集中している。店は各区に均等して配置されているようだ。大型点は、北と西にある。30キロ四方の島だから、結構大きい。これを埋め立てる資源は、どうしたのか疑問である。周囲を鉄道が、回っている。産業は農業・漁業が中心といっているが、ハイテク機器が結構設置されている。電力は、太陽エネルギー、風力・海水で賄われている。車はすべて電気自動車であった。これらのことから、この国の科学技術のすごさが伺いしれる。石油は、蓄えられ、漁船などのバックアップエネルギーとして使われている。電線・電柱は一切みることはない。水はどうしたかといえば、海水を真水にしている。雨水も利用している。リサイクル化は、徹底していた。リサイクル工場エリアで、全てのゴミをリサイクルしている。これらの実態が、これからの調査であきらかになってくる。


 調査団は、5つの班に分かれた。団長を中心としたチームは中央区、外務省の課長を中心とした西区、総務省の課長が北区、国土・交通は、南区と東区を受け持った。各班にメンバが割り当てられた。

今日は、初日なのでグループ毎に、各地区を車で回り、見学することになった。車は共和国側が、運転手付きで案内人を付けてくれた。警備の要員はつかない。外務省の課長が、警備についてクレームをあげた。共和国側は、笑いながら

「心配ありません。わが国の治安は、折り紙つきの安全地帯です。案内人と運転手は、百人力の護衛技術を持ったメンバです。ご安心してください。」と言った。


                         四


 東区に回った調査団に、案内人は

「この地区は、学校を中心としています。各行政区に、小・中・高があります。日本と同じ6・3・3制です。大学は、東区に集中しています。各区にも大学がありますが、生涯大学と専門・技術大学です。この点は、日本と違います」

大学は、総合大学である。4年生で大学院を有している。短期大学や専門学校はなかった。

「専門学校は、ないのですか?」

「学校としては、ないですね。企業と行政が指導する、専門学校の様なものがあります」

大学には、多くの学生がいた、他民族国家らしく色々な国の若者がいた。

「彼らは、この国の学生ですか」

笑いながら“そうですよ”と案内人は言った。学校は、日本でも見られる光景と、同じであった。

文系、理系、医学、農業、漁業と別れている。広い敷地を抱えていた。

「こうしてみると、若林さん。ないのは防衛関係ですね。」防衛省出身の新巻が言うと。

「宗教は、どうなのですか?」

「どうだという意味は?」

「世界からあつまっていることから、宗教施設はありますか?」

「宗教施設は、あります。一番大きな施設は、お寺と神社です。後は小さな施設です。規制はしません」

「学生の就職先は、あるのですか?」

「あります。他の国への就職については、今後、承認国と友好関係が結ばれてからとなります」

「移民や留学生については、どう考えているのですか?」

「国の規模から見て、将来は100万人が適当と我々は、考えています。それにそった移民計画になると思います。留学生については、制限はないと思います。但し、日本語が基本です。それと憲法の理念を認めることが、前提となります」

「差別するということですか」

「・・・・・・」案内人は、ムッとした顔で黙っていた。

「食料は、大丈夫ですか?」

「独立宣言が打ち出される時、検討されました。現在、主食を基本として百万人が、生活できる食料の確保が出来ています」

「それは、確認したのですか?」笑ってうなずいた。この国は、すでに、あらゆるものが周到に準備されている。住む人達は、選別されて、この国に来て生活し、未来に向かって人を育てている。

 国土・交通の若林課長は、羨ましくもあり、また恐ろしさを感じえなかった。

「学生たちや、学校関係者と話しますか?」

「今日は、やめときます。広く・浅くみてから明日以降にします」若林が言った。他の参加者も、圧倒されていた。この国は、ただの小さな島でない。精錬された国、理想を目指している国との、第一印象を受けていた。世界が、この国の実態を知った時、どんな反応するのだろう。若林は、ふとアメリカ、中国がどんな反応するのだろうかと思った。沖縄問題を抱えている日本は、独立を許すだろうか、不安がよぎった。東区を調査する調査団は、いろいろと見て周った、そして歩いた。東の空は、赤くなり始めていた。


                         五


 事件は起きた。南区の子供たちが住む“あすなろ”で、食事が終わった子供たちが、部屋で宿題している頃、食事の後片付けをしてゴミを捨てに行った、調理当番のローズは、見知らぬ人物が、こちらを見ているのにきがついた。

「そこで何をしているの?」その人物は近付いてきた。そのとき横から出てきた人物に、ローズは口を塞がれた。

「静かにしろ、静かにしていれば何もしない」恐怖で喋るどころでなかった。叫び声も出なかった。この国で、このような出来事が、起こる事は信じられなかった。

「誰が居る。人数は何人だ」ローズは、ふるえを抑えながら喋ることが出来た。

「あなたたちは何者? お金はないわよ」

「そんなことは、関係ない。中に何人いるのだ。静かにしていれば、危害を加えない」

「寮母が3人、他は子供たちが10人よ」

「静かに、中に入れ」

「乱暴しないで。皆、女性だから」

寮の居間に、女性が3人テレビ見ながらくつろいだ格好で喋っていた。そこに、ローズと2人の男が現れた。

「静かにしてくれ、静かにしていれば何もしない」男達は、拳銃を突きつけて言った。

「貴方達は何物なの。何の用なの。この国では、拳銃は禁止よ。貴方達は、この国の人間ではないわね。よく入国できたわね」気が強そうなサリーが言った。

「君達は、アフリカ系のようだね。日本語がうまいね。他には誰がいる?」

「子供達だけよ。貴方たちは、調査団の人達でないわね。何が目的なの」スージが言った。

「気が強いお嬢さん達だ、静かにしてくれれば、何もしない。皆さんと話がしたいと思っている」男達も予定外の対応だった。本来は、街の様子や警備状況を探る目的だった。昼間歩いてみたが、街の人達の中に入る込むことが、出来なかった。違和感をもった。探索を夜にした、油断であった。発見されたのである。この国の探索は、簡単でない気がした。うまく切り抜けないといけない。監視されている気がしていた。

「おい!子供たちはどうしている」

一階の居間では、2人の侵入者と寮を管理し、子供たちを面倒みている女性との、静かで緊張したやり取りがつづいていた。ローズ、サりー、金、スージは、20代から30代の女性である。リーダは、スージである。

「子供たちは、まもなく寝るわ」

「そうかい。そうなれば俺たちとアバンチュールが出来るわけだ。夜は長いから楽しみだ。ハハハ」

「NO2、冗談言っている場合じゃない。俺達の存在が、知られたからには引き上げだ。作戦変更だ!」

彼らは、番号で呼び合っていた。何を入手しようとしているのか判らない。

「騒がないでいてくれて感謝する。このまま、朝まで静かにしていてくれるとありがたいが、どうですか」

「どうせ見つかって、脱出できないわよ。この国を甘くみないで」

「気の強い女性は好きだね。皆さんが、朝まで静かにしてくれれば、我々は、何もしないで出ていく。甘いですか」「・・・・・」

「NO2。丁重に、皆さんを縛ってくれ」

「残念だ。楽しみが出来なくなった」と言いながら手際よく、椅子にくくりつけていった。口はテープで塞いだ。女性達は、恐怖と屈辱に耐えていた。しかし、子供達が安全であることにホッとしていた。

 男達が出ていくと、しばらくしてドアが開き、新しいお客が入って来た。彼らが帰ってきたと思ったが違っていた。迷彩服姿で、顔を隠していたが、警備隊の人物だった。女性達は、解放された。各自でテープを剥がした。金が、入ってきた警備隊の人物に向かって

「彼らの行動が、判っていたのなら、何故取り締まらないの“二度とこのような事がないようにして!”」金は、かつて情報室の優秀な要員だった。韓国で仕事をしていたが、子供を事故により亡くした。痛手をいやすために佐古が、共和国に引き揚げさせた。金は手を出さなかった、手を出せなかった。まだ心の痛手から回復していなかった。


 外は、こんな事件が起きている事などは、関係無いかのようにさわやかな風が吹いていた。この島からは星はよく見える。降り注ぐように星は空を散りばめていた。


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