表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/31

出発前(20X×年○月5日)

出発前(20X×年○月5日)


    ~修学旅行行き先を思いドキドキワクワク~


                        一


 外務省の大会議室は、すでに派遣に選抜されたメンバで、熱気がムンムンしていた。暖房だけでない興奮した熱気が、暑さを増していた。政府は、事前調査と云うことで、閣僚クラスの派遣はやめて、実務にたけた官僚中心の調査団を編成した。但し、政府使節団としての形式をとるために、総務省副大臣である田中門真(48歳)を団長とした。副団長は、外務省の事務次官と防衛省の事務次官をアサインした。さらに外務省は、アジア太平洋管轄局から課長・主任、総務省は、通信局の課長と主任技師、国土・交通省は、国土管理局から係長、交通局から課長・主任が、調査団のメンバとして参加した。

防衛省は、武官を中心に警備を兼ねて10名を派遣した。東京都は、小笠原諸島や南鳥島を管轄している立場で、渉外局の課長・主任を参加メンバとした。オブザーバとして与党から3名、野党から2名の議員が加わり、大型の調査団が編成された。

 政府交渉団としては、閣僚が参加しない、ある意味ではものたりない、頼りないと感じる編成である。しかし、各省から選ばれたメンバは、実務レベルの精鋭メンバであった。

オブザーバ参加の議員は、50歳以下の条件をクリアした議員である。外務大臣の挨拶が始まった。

「今回の交渉・調査は、わが国として情報不足を補うための調査が主であります。共和国を支持表明している国は、すでに50カ国以上となっています。我々は、この共和国が、独立を承認するに値する国であるかをつかむことを目的としたい。出来ることならば、分裂したとの印象を払拭するためにも説得して、我が国に組み入れるようにしてほしいと思います。現在、アメリカ、中国、ロシアの艦船が、島の周辺に待機しています。各国には、慎重な対応を要望するとともに、我が国が、調査団を派遣することを連絡しています。無茶なことはしないと思います。また、共和国も調査団の安全を約束していますが、状況は状況ですから気をつけて調査・交渉をお願いします」外務大臣の挨拶が終わると、各省から調査の観点の発言があった。

「外務省としては、外交・交渉能力など、自立可能な実力が彼らにあるかどうか確認したい。後に承認することを想定した場合、大使館を設置するときの調査もする予定です」

「総務省は、通信の状況及び郵便物などの扱いについて、調査したいと思います。また、日本国籍を有している日本人の取り扱いを、どう考えているかを確認したいと思っています。彼らの行政能力も調査の一環です」

「国土・交通省は、島がどのようにしてできているか、建物の状況、空港、漁港などの状況、交通手段の状況などを調査したいと思います。また貿易についても調査したいと思います」

「防衛省は、防災、警備状況を確認したいと思います。また、軍隊をもたないで、国の防衛をどのように考えているかも、確認したいと思います」各省からの代表者は、調査の観点をそれぞれ発言した。

野党の国会議員から、各国の艦船引き上げを要請すべきでないかの発言があった。

「各国からは、一応慎重に対応するとの返事をもらっています。また、各艦船については、通常の公海演習の一環であると言ってきています。共和国側は、日本が問題なければ、共和国としては、気にしないと言っています。飛行機の安全も保障すると言っています。どこにそれだけの自信があるのか疑問ですが、彼らは平静です。不気味なほどです」外務省から報告があった。与党の議員から財務関係の調査は、どうするかの質問もあった。

「独立国となれば、国としての財務なので、我が国が関与すること出来ないと思います。今後は、必要になるかもしれませんが、今回は対象から外しました。宇宙局など気になる部門がありますが、何をするところか聞けたら聞く程度にしたいと思います」調査団長が回答した。その後、マスコミ関係者も同行するにあたっての抱負を、決意表明の如く、一通りマスコミ関係者が発言していった。

「オブザーバとして与党・野党の国会議員が参加されていますが、何をされるのですか」佐藤幹事から質問があがった。

「議員の皆さんは、それぞれの打ち合わせに参加してもらいます。出来るだけ平和的な解決をしていくためにも、共和国側の代表者や議会関係者との交流を諮ってもらえればと思います。また、何故独立するのか、日本への帰属の交渉をしていただければと思います。承認、友好の善し悪しのサポートをしていただければとおもいますが、どうでしょうか」団長からの発言に、各党の議員も参加にあたっての抱負などを語った。その後、対策室の広報担当となっている倉持から、現地での注意事項の説明がはじまった。

「皆さんに配布しました注意事項を見てください。基本的に生活環境は、日本とかわらないと記述されています。タバコは、喫煙場所以外では禁止です。武器の携帯は、警護目的でも持ち込み禁止です。各施設への独自の訪問は、予約して許可が得られれば可能です。公共施設は、施設のルールに従えば、問題なく見る事ができるようです。飲食店はあるようです。居酒屋もあります。現地の人との交流を妨げるものは、特にないようですが、トラブルは起こさないでください。日本語は通用します。入国時に渡される入国カードは、常時携帯してください。監視・管理するようです。主な訪問先と打ち合わせ日程につては、資料に記載しています。独自取材したいところがあるならば、言ってください。そうは言っても情報が不足しているので、現地で調整したほうがいいですね。

 飛行機は、皆さんを届けたら一旦引き揚げます。帰国する時に迎えにいきます。1週間も現地に待機させるわけにはいかないためです。もし不測の事態が発生した場合、安全面や帰国の手段などは、その時点での判断で調整となります。そうならない事を願っています。以上です。何か質問がありますか」

「不測の事態が発生した時は、自分達の身は、自分達で守れということですね」

「冷たいかもしれませんが、その通りにならないことを願うだけです。但し、政府としては、帰国と安全のための最善は、努力します」外務大臣が補足した。全員シーンとした。あらためて、安全が保障されていない地域へ行くことの実感が湧きあがった。しかし、いまさら辞退すると言えない雰囲気もあった。そんな雰囲気を和ませるかのように。

「本当に、こんなに、オープンで色々な施設を見せてくれるのですね。彼らも独立を認めさせたい一心の表れですかね」

「行きはよいよい、帰りは怖いとなるのでは?」 “ワアー”と笑いが起こり、先ほどの不安と緊張が和んだ。

「いずれにしても、見ることが出来る物、聞くことが出来る事は、貪欲に調査しましょう」

「彼らは、調査に来ることを、重々わかって準備していることだから、良いところばかり見せて、悪いところは見せないだろうね」など雑談が弾んだ。

「ところで、写真を見る限り、近代的な建物が観られるのですが。

資金援助や技術援助している組織、建設に関わった建設労働者等の、調査はどうなっているのですか。その後、新しい情報はないのですか」突然、日日新報の轟記者から質問があがった。

「残念ながら、それらの情報は、まだつかまれていません。いずれにしても、現地にいけば、少し見えてくるのでないかと思います。今は、憶測や不正確な情報に、惑わされないようにしましょう」

「電話は、どうなりますか」

「国としてまだ認識されていないので、国際電話はできません。国番号は割り当てられていないのです。現在、日本が許可するならば一番近い南鳥島の一部として、日本の国番号を仮措置として、どうですかと言ってきています。即座に通話開設できる、通信技術を持っているようです。総務省と話したところ、暫定的に許可しようとの話なので、日本国内と同様な通信として、通話できるように交渉しています。現地で携帯やパソコン登録することで、通信が可能になるようです。彼らは、衛星通信網を持っているようです」総務省の通信局課長が、報告した。

「そりゃすごいね。そこまでの通信設備をもっているのですね」

「その他質問などありますか。なければ、本日の打ち合わせは、終わりとします。明日は10時羽田出発ですから、9時集合でお願いします。遅れた場合は、待ちません。欠席として定刻に出発しますので、注意してください。以上解散です」


                      二


 ホテルの1室に通信時報の佐藤幹事、日日新報の轟、毎朝新聞の白井、静岡新聞の黒田がいた。

「佐藤さん。朝の打ち合わせで共和国は、各国の武力を恐れていないような話がありましたけど、どう思いますか」黒田が聞いた。

「通常は、もっと緊張が高まってもおかしくないが、テレビで見る限り、現地の人達の動きに緊張感が感じられない。アメリカ軍に警備艇で対応している行為や、現地の人達が、臨戦態勢を執らないで、通常の生活をしている。まるで武力行使はしないだろうと、読んでいるのか、武力行使をしてきても、対応できるとの自信の表れなのか、通常では考えられないね」

「予想外と云う事ですかね」

「予想外だろうね。ネットで、アメリカ軍の行為を、全世界に中継するなど、出来たばかりの国がやることでないからね」

「確かにそうですね、アメリカ軍の動きが、これで強引に攻めることが出来なくなったのですからね」白井が言った。

「武力行為を、世論に訴えることで、認めさせないやり方ですね。意図してやっているならば、相当な知恵者が、居ることになりますね」轟が言った。

「ネット戦術だけでないね。中国やロシアが来て、お互い牽制しあうことも予測している感じもある。制空権を確保していないように見えているが、調査団の訪問の安全を、保証することを宣言している。防衛に自信があるとしか見えない。恐ろしいね」佐藤が言った。皆うなずいていた。

「話が変わりますが・・」と言って、黒田が救助された漁船の乗組員から聞いた話をした。

「これは、記事にしなかったのですが、今日の発言で、資金や技術援助の話が、でたので話すのですが、乗組員との雑談のなかで、あの島には、UFOが来る話があったのです。漁船の人たちが見たのでなく、現地の人と飲んだときに話しが出たようです。よくあるUFO話として聞き逃したのですが、短期間にビルを建設したことや、建設に携わった人は、現地のひとだけでは賄えない、また埋め立てたりして作ったのであれば、その資材など船で大量に運ぶ必要があるが、誰も目にしていない。また、あの島に10万人の人達がいる事などを考えると“ふっと”先日の船員のUFO話が、浮かんだのですがどうですか」

「面白い話だね。でも信じられないね。しかし、共和国の存在自体が信じられない出来事だから、馬鹿にできないかもしれないね」轟が言った。

「そう言えば、沖縄新聞の平賀が、推薦したカメラマンの平良の話で、以前アフリカ各地を取材した時、不思議な話があったな」佐藤が言った。

「今回と関係があるのですか」

「関係があるとは思えないけど、もしアフリカの人たちが、この国の建設に参加していた場合、関係するかもと思う話だよ」と言いながら平賀記者から聞いた話をした。

「アフリカで日本語学校をやっている話だが、何のためにやっているのと聞いたら、笑って、ここの人達が、日本語を教えてほしいと言うから、始めていると言う人と会った。子供達は、皆日本語がうまかったと言っていた。費用はどうしたのかなと思って聞いたら、JAICA時代の給与を元手に、今はここの人達と、農業しながら日本語を教えていると言っていた。それが一箇所でなく5つの地域で見たから、その他でもやっている地域が、あるのでないかなと言っていた。宗教色の気配はなく、純粋に日本語教育をしていて、日本の低学年用教科書などを使用していたようだ。単純にボランテイアでないと思う、彼らを支援して、別の目的を持った組織がいるのでないかと言っていたな」

「関係がありますかね」

「わからない。もしアフリカ人が居たら、この話が繋がるかもしれないなと思っただけだよ。そうなれば、彼らは、世界中に組織を持っていることになるからね」

「もしそうならば、すごいですね。主席の東郷という人物は、どんな人ですかね」黒田がいった。

「東郷は、民主会の寺門会長と懇意だとの話がある。民主会は、1960年代に発足している会だが、現在中心拠点は鳥取にある。民主会は、全国10ヵ所の活動拠点があり、共和国メンバの出身地と、民主会の活動拠点が一致している様なのだ。政府筋の情報なのだけどね」佐藤が話した。

「民主会とは何ですか」轟が聞くと

「私もよくわからない。創立当初は、宗教法人として立ち上がった様だ。インタネットには載っていない。現在、会長は寺門と言う人物で3代目になる。記者や出版関係をやっていた人物の様だ。古い人に聞いてみると知っている人がいるかもしれないね。2代目の会長が東郷でないかとの話で、初代は伊藤のようだ。伊藤と東郷の実態はよく判らない。寺門は、現会長なので直接話しを聞けるが、他の人達の調査は、手古摺るね。会には、どうも色々な分野のスペシャリストがいて、過疎化となった村や、財政破綻して廃墟となった地域を買って、色々な事業を目立たないようにやっているようだ。民主会が、共和国に関与しているのでないかとの噂だ。夢来むらと言う地域があり、鳥取県の夢来にある寺の住職に、伊藤初代会長がいるとの事。民主会は、親睦会のような形で、現在も活動しているようだ。だからあまり知られないでいるのかもしれない」

「何故今頃判ったのですか」白井が聞くと

「今回の出来ごとで、今までの、うわさの辻褄を総合してみたら、関係している疑いが高くなったことのようだ。犯罪を行っているのでなく、街の活性化などに貢献していて、目立たない、普通の行動を行っている。民主会がやっているとは、思えない程地味な組織だ」

「オウム組織と違うようですね」轟が言うと

「今度帰国したら、上司に取材申請してみます」白井が言った。

「共和国の理想理念が、民主会の理念に近いとの話もあるようだから、面白いかもしれないね」佐藤が言った

「共産主義者でないのですか」黒田が言うと

「分からない。どうも違うと、内調は言っている。結びつくところがあるかもしれない」

「この話は、どこまでしられているのですか」轟が言うと

「そのうち、知れるだろうが、今はオフレコだ。そのつもりでいてくれ」

「反乱分子の国として敵対関係になれば、国内の支持勢力を洗い出しする等、色々と圧力が懸るかもしれないですね。混乱を招くかもしれないですね」

「そんな事にならないようにしないとね。調査結果しだいだが、共和国と協力関係を結びたいね。出来たら独立でなく、日本の一部となってくれることを期待したいね」佐藤が言った。

「今の日本が、大きく変わりそうですね」

「彼らが作る理想国家は、人を惹きつけるものを持っているけど、かつて色々な革命が挫折しているからね。一時的には可能としても継続していくのは人間の欲で腐敗、堕落の面が出てきたりするし、専制国家になり失敗したりしているからね」

「佐藤さんは、期待しているのでしょ。かつての60年、70年の安保闘争時代の血が騒ぐのでないですか」白井がからかうと、皆笑った。

「ところでアメリカの動きはどうですか」

「駆逐艦を派遣して一応、この地域はアメリカの管轄範囲だと示したと思うけどね。

中国とロシアが出てきたのは予想外だろうね。面子は保ったと思うが、今後、色々と政府に注文だすと思うね。調査を一緒にやりかったようだけど、共和国が拒否したようだからね」佐藤が言った

「北朝鮮が、独立支持を表明しましたね。もう一つ気になるのが、宇宙局なる部門がありますね。軍事部門がないけれど、ミサイル技術を備えていますね。通信衛星を持っていますからね」白井が話すと轟が

「エネルギ分野も、気になりますね。鉄道が走っている、電力などはどうしていますかね。原子力エネルギを、使っているならば問題ですね」話は尽きなかった。

「もう遅いから、寝る時に寝ておこう」

時間は、2時をまわっていた。皆興奮していて眠れそうになかったが、自室に戻り寝床に入って行った。



 春近し、雨はやんでいた。外は、寒さを厳しくする風が吹き荒れていた。これからの厳しさを教えているのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ