調査団編成(20X×年○月4日)
調査団編成(20X×年○月4日)
~未地への旅そこは天国か地獄か~
一
大和共和国対策室は、忙しさをましていた。共和国調査団の人選は、ほぼ終了しており、マスコミ各社からの 参加要請名簿を検討していた。今後は、共和国側との調整によるのだが、共和国側からはまだ、何も返事が来ていなかった。対策室は、官邸の近くのビル2階にあり、一階に記者クラブが設けられていた。共和国建設に携わっていた日本人メンバについては、出身県の洗い出しは終わっていた。但し、ホームページに乗ったメンバだけである。
主席の東郷は、鳥取県出身である。他に熊本県出身の細川、高知県出身の橋本、三重県出身の伊勢、長野県出身の仲野、富山県出身の富田、栃木県出身の石田、宮城県出身の宮坂、北海道出身の北川、沖縄県出身の平敷が該当する地域に居たことがわかった。現在、彼らの所在を確認中である。張と孫、朴は、中国、韓国の出身と思われる。中国。韓国に問い合わせていた。
二
世界各国は、承認の動きをはじめた。まず中近東からイラン、UAE、パキスタン、トルコ、パレスチナなどは、独立に対して承認する方向であると表明した。フランス、スペイン、スイス、オランダも承認するとした。アフリカにおいても承認する国が、出ていた。ケニア、ナイジェリア、リビア、モロッコなどが表明していた。中南米諸国もブラジル、アルゼンチン、キューバ、コスタリカなども承認を表明した。アジア諸国においては、真っ先に北朝鮮が承認を表明した。ベトナム、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ヤンマー、台湾などである。今後、承認する国の広がりは予想される。各国は、日本が分裂したと報道し、日本政府の出方を注目していることがわかった.また、日本政府に謎の多い部分の解明を期待していた。承認の広がりは、昨日の会見で、日本政府が映し出した写真とビデオの影響があった。軍事基地を持たない、平和的手段で独立を宣言した姿が、好感を受けていた。
アメリカの艦船は、島の南側の領海外に停船して、様子を伺う体制を取り続けていた。インタネットから放映される映像から、中国海軍も、艦船を派遣していたことが判った。中国海軍は、西側に待機していた。ロシア艦船も北側に来ていた。共和国は、大国に監視された状況にあった。それでも島は、上空から見る限り、人々は平常通りの生活をしているように見えた。
インタネットでの放映が、武力行使を牽制しているのかもしれない。また、アメリカ、中国、ロシアは、連携行動していないので、お互いが牽制する形となっていた。
三
記者クラブに倉持係長が入ってきた。
「共和国側から、返事がきました。調査団を歓迎するとのことです。マスコミ関係者の同行も許可がでました。全体で50名規模の調査団を派遣したいと調整しています。マスコミ関係者は、10名前後を割り当てますので、参加メンバの人選を記者クラブの中で調整してください。メンバが、決まりましたら名簿を提出してください」
「滞在期間は、どのくらいですか」
「1週間です。宿泊施設は用意するとのことです」
「食事や飲み物などは、大丈夫ですか、持ち込む必要はないですか」
「打ち合わせ時の食事・飲み物は、用意してくれます。その他の調査費用は、自己負担です。基本的に高級食材以外は、日本にあるものはあるとのことです」
「通貨は、どうですか」
「通貨は現地通貨で同じ円です。レートは、日本円に対して1円が1円です。しかし、日本円はそのまま使えるようです。皆さんの調整が出来次第、午後1時までに連絡ください。向こうに名簿を提出します。出発メンバは、明日10時に外務省の大会議室にきてください。事前打ち合わせをしたいと思います」
「出発はいつですか」
「明後日です。専用機でいきます」
記者達は、一斉に各社の上司に連絡を取り始めた。同行取材を申請しているところは、20数社に挙がっていた。
四
記者クラブ幹事会社の通信時報佐藤次長が
「皆さん。メンバの人選について、理事会に一任していただけませんか。11時にメンバを提案します。その時に、再度各社の意向を検討したいと思います。以上よろしく」今は10時になったばかりである。各社はなかなか決まらないだろうと思い、佐藤次長の提案に賛同して、理事会に一任した。
記者クラブの理事会メンバは、別室に集まった。
「佐藤さん。良い案はありますか。今回初めての国ということで、指名推薦にしませんか。
我々は、どのような国かを国民の皆さんに知らせる事と、全世界に情報を提供するとの立場で選ぶべきでないでしょうか。だから今回は、大手の会社で、調整したらどうですか」毎日テレビの内田がいった。彼は、古参の政治記者である。NHKの佐々木が「佐藤さん。テレビカメラは、私どもに任せていただけませんか。カメラマンは、どこかの若手で、フットワークのよい人間にしましょう」
「佐々木さん。済みませんね。しかし同行人数を何とかしたいですね。あまりにも少ない、最低の基本ラインをだして、政府と交渉しましょう」前幹事長の風馬が言った。
「皆さん。今回は、大手6社とNHKから各1名、テレビスタッフ2名、カメラマン5名、政治・経済・外交などに強い評論家3名、その他として地方紙から、3名にしたらどうでしょうか。
地方紙は、今回のきっかけ作った静岡新聞、そして沖縄と北海道から、各1名の20名規模を、提案する案はどうですか」突然の具体的な提案で、各理事は一斉に風馬をみた。
「風馬さん。いつから考えていたのですか。評論家などについては、誰か具体案あるのですか」佐藤がいった。
風馬は、評論家については皆がよく知っている3名を挙げた。カメラマンについては、通信時報から、推薦してもらうのが良いのでないかと提案した。他の理事はそこまで考えていなかったので、皆その提案に賛同した。
「各社に、手分けして連絡しましょう。評論家の先生については、風馬さん打診してくれませんか。地方紙については、斎藤副幹事からお願いします。私は、政府と増員について調整します。11時までに確認お願いします」佐藤の発言で各理事は、一斉に立ち上がった。佐藤は、増員を絶対認めてもらうのだと決意して、2階に駆け上がっていった。しばらくして、興奮した面持ちで記者クラブに佐藤が帰ってきた。
「風馬さん、政府に認めてもらいました。共和国側もOKのようです」
五
11時になった。ざわついていたのが、静かになったところで、佐藤が話し始めた。
「済みません。各社には、事前に連絡が言ったと思います。時間が無かったので事前調整させていただきました。人数枠は、20名に拡大することを政府と共和国側に了解してもらいました。要員としては、次のようになりますのでご了解ください。今回は第一次です。今後何回も行くことになると思います。今回外れた皆さんも、チャンスがあると思いますのでよろしくお願いします」
「了解。わかっているよ。皆そのつもりだよ 。心配するな」などの声が上がった。理事会で風馬が提案した案に沿って、メンバが発表された。佐藤は、マスコミ関係を取りまとめる形で参加することとなった。風馬は、政治評論家の都合が折り合わなくて、その代わりとして参加となった。
「では、以上のメンバで提案します、メンバは、明日10時に集まっていただきますので遅れないようにしてください」
六
静岡駅の近くの居酒屋に、カメラマンの福西と黒田と上司の大石室長が居た。
「大石室長。ありがとうございます。大石さんが通信時報へ推薦してくれたのですね」
「推薦したのだからいい写真を頼むよ。プレッシャを感じることはないが、君の感性のままでいいからね」
「分りました。頑張ります。彼らのホームページを見たのですが、日本に類似した憲法を掲げて、理想に燃えている感じを受けますね。彼らは、どんな人達なのか、非常に興味があります。黒田さんが書かれた、漁船の人達の話しを読むと、本当なのかと感じます。今日本に欠けている物が何かが、見つかるかもしれないなと思っています。ワクワクしますね」
「福西君は若いけど、人を撮るのがうまいからね。私も漁船の人達の話を聞いた時から、夢の世界の国かなと思っていた。それを現実的に感じることが出来るとは、うれしいね」飲みながら、漁船の船員達が言っていた話で盛り上がった。
「しかし、アメリカ、中国、ロシアの艦船が、監視している中での調査だから、気をつけるようにね。彼らが武力攻撃に移ることは、多分ないと思うけどね。それと今回のメンバの人選については、記者クラブの風馬前幹事長の案のようだね。礼を言っておくことだね。ところで明日の準備はできたのかね。多分次ぎの日に出発だから、それらも用意しないといけないだろう。お金は大丈夫かね」
「私は、独身だから簡単です。いつも寝袋一つで旅したりしています。商売道具のカメラが中心ですから、その他は二の次ですね。でも今回は、政府の公式の場所に行ったりしますので、身奇麗するように気をつけます。準備は、電話いただいた時にしました。何故か行けるようなきがしていたので、準備OKです」と笑いながら言った。
「私は、妻がやってくれていますので大丈夫です」
「ならば、こんな時間になったからもう終わりにしよう。明日は送らないからね」大石室長の言葉でお開きになった。
外は、寒さが厳しかった。向こうでは夏のような暑さとなる。体調管理をしなければと思いながら黒田は、帰宅を急いだ。今夜は満月だ、月が黒田を追いかけていた。