記者会見(20XX年〇月3日)
記者会見(20XX年〇月3日)
~地球は広い寒い所暑い所日本は冬だ~
一
マスコミ各社が、大和民主主義共和国独立緊急対策室の前に集まっていた。各社も民間の調査飛行を要望していたが、民間機の飛行は禁止された。ホームページに載ってから1週間経過していた。地方新聞に共和国の存在記事が載ってから3日である。日本政府からのコメントは、まだ正式に何もない。大和共和国緊急対策室が設けられたとの報告があっただけである。マスコミ各社はいらだっていた。
-アメリカ、中国、韓国も注目している
-テロリストが、国家を作って隠れ蓑としているのでないか
-日本国憲法に類似している。日本に喧嘩を売っているのでないか、日本を馬鹿にした話でないか
-本当に国家を形成しているのか、冗談だったで終わるのでないか
-ここまで騒がしているから許される話でない。アメリカは、駆逐艦を出している、日米同盟に影響がでるのでないか
-沖縄問題に影響がでるのでないか
-戦争が起きるのでないか、アメリカは攻撃するかもしれない。中国も乗り出している。 等
これらの話で日本国内は、騒然としていた。さらに昨日から放映されている、アメリカ艦船との緊迫した対応状況が、話題となっていた。アメリカの駆逐艦は、冷静に対応して一旦共和国の領海外に撤退し、一触即発の危機は脱していたが、緊張は続いていた。
二
大和共和国緊急対策室の扉がひらいた。
「皆さん、静かにしてください。日本政府としての状況報告と対策については、本日13時に政府の方針を説明します。以上です」
対策室の広報担当として総務省出身の倉持係長が、騒然としていた記者やレポータなど、マスコミを前にして言った。今は、10時だった。
「もう少し情報がほしい」とクレームを言っている社もあるが、皆引き下がった。
三
13時前だが、会場は多くの記者やカメラマン等でざわついていた。正面のテーブルには多くのマイクが設置され、テレビカメラも正面の中央に配置されていた。中央の壁には巨大なスクリーンも用意されていた。外国の記者も来ていた。入りきれない人たちのために別室が用意された。
倉持係長が入ってきた。
「まもなく官房長官から報告があります。尚、質問は、各社一つでお願いしたい」と話すと、官房長官を始めとして、関係者が入ってきた。カメラは一斉にまわり始め、シャッタの音がガシャガシャと鳴った。テーブルの正面に官房長官を中心として、両隣は防衛大臣、外務大臣が着席した。シャッタの音は鳴りやまなかった。官房長官を始めとして防衛、外務の大臣が一緒に出席するのは異例であった。
「日本政府として、大和民主主義共和国に対する対応状況について報告させていただきます。はっきり申し上げて、まだ調査中と言うのが本音です。あまりにも情報が少なく、この国がどのような国か判らない状況では、独立を承認するべきか否か判断出来ない状況です。しかし、後ほどお見せしますが、この国と言うか島は、確かに存在しており人々が住んでいます。そしてホームページに載っている日本人らしき人物が、我が国に居たところまで調査ができています。
共和国からは、この国の承認要請及び平和条約、ならびに貿易に関する打ち合わせの要請が来ています。政府としては、平和的な手段で慎重に対応していきたいと思っています。アメリカにも慎重に対応してほしい旨を要請しています。
何故慎重に進めたいとするか、それは大和共和国と称するこの国の実態が把握できていない事、今まで過去前例のない独立国である事、共和国の建設に日本人が関与している事、何故日本国で一緒にやれないのか、独立を掲げるその理由がわからない事等からです。
政府としては、関係部門に調査を第一にすることを指示しました。テロリスト集団の存在の可能性があるならば、わが国にとって脅威になります。近日中に、彼らの呼びかけでもある打ち合わせをするために、調査団を派遣します。その結果で承認するか否かを判断したいと思います。派遣にあたっては、危険は十分考慮しますが、話合いを拒否する理由はありません。
皆さん。しばらくは平静に対応して状況を見守って下さい。正確な情報に基づいての報道を心がけていただけることを願っています。政府としても出来るだけ情報の提供をしていきたいと思っています。またアメリカ政府からも協力するとの連絡をうけました。周辺の国々とも協力しながら、平和的な方法で対応していきたいと思っています」
「質問!・・」と挙げたところもあるが、倉持係長から
「質問時間は、後でとってありますからその時にお願いします。防衛省が、調査した写真及びビデオを皆さんにお見せしたいと思います」
正面のスクリーンに、衛星写真が映しだされた。広い海のなかに正方形のものが現れた。ズームアップされると中央に建物が見え、右(西側)に空港らしきものがあった。点々と見えるが、中央の周辺は緑があり美しい島だった。軍事基地らしきものは見えない。今度は、偵察機が撮った画面に切り替わって、島の状況が写し出された。島の道路は、整備されていた。鉄道もある。漁港らしきものもあった。ビルも結構建っている。中央の建物は、白く高さもあり、そして大きい。運動場も公園も見える。映し出された映像を見る限り普通の島である。ハワイやグアム、また沖縄などで見かける島と、何らかわりないように見えた。領空内で撮ったものだろう。許可ない飛行機の侵入をよく許したものだ。
防衛対策については、対応ができていないのかもしれない。海上の警備は、アメリカの艦船とやりあった姿が、テレビに映し出されており、空より海の警備が厳しいのかもしれない。しかし、アメリカの艦船とやりあっている映像からは、普通の警備艇で対応しているので戦力差は話にならない。
軍隊に対して、警察力で対応している事から、軍備は、整っていないように感じられた。
20分くらいビデオだったが、大和共和国という島を見た。防衛省の海原大尉が、調査した島を説明した。
「今一通り見ていただきました。この謎めいた島と言うか、この国の様子です。私たちが近づいても、緊急なスクランブルなどで反応してきませんでした。軍事基地はないものと思われます。但し、西側に空港施設が存在していますが、南側にも同じような空港施設が存在しています。小さな島に2つの空港は、多い気がします。また、結構ビルが建っています。これだけのビル建設は、かかわった人間、資金、資材は相当なものです。これを誰にも知られずに、建設している力が、この国にはあります。
だから一概に軍事基地が見えないから、軍事力がないとの判断は、拙速だと思います。
中央の建物は、優に200メートルを超すものと思われます。
この島は、どのようにして出来たのか不明です。考えられるのは埋め立てられて、造られたものでないかと思われます。他の島と比べて整然としており、形が正方形だから人工的に造られたと思っているところです。島の周辺地域にも小さな島があります。この様な島を人工的に造ったとするならば、この国の底力は侮れないと思います」
「外務省としては、総理の指示もあり、また防衛省の調査した結果を踏まえて、彼らの要請に応えた第一次調査団と言うか交渉団を編成して、この国を訪問することにします。彼らとのコンタクトは、現在メールで進めています」
「それでは、質問を受け付けます」
質問が始まった。各社とも一番は、この国を承認するかどうかが、関心ごとであった。
「この国を承認するにあたっては、独立の目的、国を構成する国民の総意で国を作ろうとしているかである。このことが、確認とれるならば承認を拒むことはない。しかし、反社会的集団で成り立っている国、宗教団体によるマインドコントロールされた国、強権的な圧力による専制国家の要素があるならば、認めることは出来ないと思っています」
「人口10万人を擁しているのですよ。そのことは、どのようにして確認されるのですか。憲法を読む限り、そのような兆候もみられない。たとえ彼らと会って、聞いて、調査しても、短期間で確認できるのですか」毎朝新聞の白井記者から、発言があった。
「日本人が、建設に関与していることが問題でないですか。日本は、分裂したとの印象を受けますので避けるべきでないですか」
「国連加盟申請されているとおもいますが、国連に加盟が認められると、承認するのですか」
「アメリカ政府が、認めなかったら、どうするのですか」等、痛烈な発言もあった。
「いずれにしても、調査団の結果で対応したい。彼らからは、日本と最初に話がしたいとの意向もあり、結果しだいで判断したい」
「その調査には、我々マスコミも参加させてもらえますか。交渉の場はともかく、取材をさせてもらえますか」毎朝新聞の朝比奈記者から発言があった。
「本来は控えてもらいたいが、戦争しているのでないから、彼らと交渉をしてみます。仮にOKとなった場合、皆さん全員を連れて行く事にはならないと思います。そのことを了解してください」
その他やり取りがあったが、共和国独立問題についての記者会見は終わった。
四
この会見模様は、テレビで放送された。あらためて国民は、大和民主主義共和国の存在を知り、話題となった。さらに、アメリカ艦船は領海外といえど、近くに待機していて、緊張は解除されていない。日本は、色々な国内問題を抱えている。しかしテレビ報道は、この共和国対応の問題を中心に報道していた。昨年、政権交代したばかりの政府にとって、厄介な問題であった。
沖縄の基地問題が騒がれていて、今後の動向にも影響が出てくることは避けられない。
北朝鮮と韓国においても、緊張する事件が起きている。アメリカ、中国、韓国の動向も気になる出来ごとになった。取り分けアメリカは、世界戦略の一環の中で日本の役割、在日米軍の在り方に、影響がでることは確実であった。何分、アメリカでさえ、今日まで把握出来ていなかったからである。日米同盟に楔を打ち込むかのようであった。
世界は、新たな緊張をする出来ごとが、極東地域に発生した事に注目した。日本政府が会見で報じた映像は、全世界に配信された。
日本に新たな問題を発生させた事を、哀しむように、雨は昨日から降り続けていた。冷たい雨だった。冬はまだ終わっていない。