東郷の余興(20XX年〇月30日)
東郷の余興(20XX年〇月30日)
~愛とは慈しみ会う恋とは媚びるが語源~
一
さわやかな風が吹いていた。夜中に雨が降ったのか地面は濡れていた。張は南区の海岸を散歩していた。一緒に秘書が歩いている。昨日からSPもつくようになった。但し本人達は知らなかった。この国では散歩するのが当たり前で、ほとんどの幹部は忙しくても散歩していた。日中は暑い、夕方から夜は時間が取れなかった。眠くても朝の散歩は、頭をすっきりさせるのに効果的であった。歩きながら、昨日の仕事を整理すると、朝の食事はおいしかった。朝の散歩は、国民と一緒に居る事が実感できた。住居から南区の海岸までは結構ある。だから車できて一時間程体を動かすのである。
散歩は妻と歩く時があるが、ほとんど別々である。取り分け首相の職務についてからは別である。大規模な戦略会議は初めてだった。国の根幹である、今後の方向を示す会議が、今日で終わろうとしている。色々な提案があった。張は国の運営について提案していた。いかに国民参加を促せるか、各組織を活性化する中央の役割について提案していた。
朴副主席から警備状況を聞いていた。共和国の警備がこれだけ整備されているとは思わなかった。この3年間は、本当に何もなかった。平和で警備など気にしなかった。だから武力攻撃があると聞いて、信じられなかった。武力を持っていない事を宣言し、公開しているのに武力攻撃するとは、許せない事である。かつて中国で紅衛兵運動の先頭に立ち、弾圧した事が思い出された。他国からの侵略については、この国を造った時から想定していた。
机上でのシュミレーションは、内務省メンバとやった。張は、攻撃が会った後の対応が、一番必要となるだろうと思っていた。
二
影山は、防衛省に赴いていた。防衛省の情報部門は、米軍の動きに特に目立った事はないとしていた。但し、沖縄から哨戒艦と護衛艦がハワイに向けて出発していた。当然のことだが、日本には通知されるはずはなかった。
影山は、中国やロシアなどの動きについても聞いていた。すると中国海軍の哨戒艦と護衛艦などが南方へ向かっている。ロシアも艦船が動いていると教えてくれた。偶然の一致だろうか、同じころに米、中、露の軍艦が南の海に向かっていた。
影山は、官房長官に報告した。アメリカCIAの知人から聞いた話しを伝えた。正式な情報でない。始めは中々話さなかった。本人も聞いた話しとし、本当かどうか確かでないとの注釈付きであった。
米、中、露、韓、EUが外人部隊を集めているとの情報であった。近近、共和国に異変が起きる可能性あると教えてくれた。
「日本を除いてそのような行動をとることはあり得ない。他にその話しをしたか」
「していません。確実でないから、しかし各政府はしらないで動いていると思われます」
「基地を使うのだよ。当然政府や軍部が知らないで動く事などありえないだろ」
「防衛省に確認したところ、米、中、露の艦船が南に向かっているとの報告をうけています。何か匂うのですけどね」
「偶然でないか。仮にそうだとしてもあの国は、軍隊を持たなくても防衛できると言っている国だよ。問題ないだろう」官房長官は言った。
「判りました。この話はなかった事にします」
「私も首相には報告しない」影山は出て行った。しかし、胸騒ぎを抑えることは出来なかった。
影山は、伊藤と寺門に至急会いたいと連絡した。そして、影山は、共和国に出向している筧に電話した。
「何かそちらで変った事が無いか」
「来たばかりでやっと慣れてきた所ですが、変ったことはないですね。そういえば、昨日突然サイレンが鳴って避難訓練が行われました。何事かと思ったのですが、通常の事のようです。それ以外はありません。近日中に事務所の候補を連絡します」と報告してきた。
現地は、緊迫した様子が見られないとのことで安心したが、避難訓練が気になった。
三
日本に残った伊藤は、忙しい毎日の連続だった。共和国から増員したメンバを各事務所に配置し、募集した、日本人の要員を面接していた。夢来人会の森岡東京代表が支援してくれた。長老会の森岡の息子である。貿易会社を経営していた。あまり大きくないが結構繁盛していた。
寺門が根回しして、夢来人会が推薦する人間を面接していた。応募者は10か所で100名越えており、そこから選ぶのである。
日本の就職難を反映して年齢は、若い人から中高年含めて幅広い人材が応募していた。
伊藤の所には、日本企業から交流と称して渡航の申請が多数きていた。商品の売り込みの申し入れも多かった。さらに観光したいとの申し込みも同様であった。
伊藤は近近に、共和国の商品説明会のようなイベントを催す必要があると思っていた。
日本政府とは貿易に関しては、国内と同様に消費税をかけるだけで非関税とすることで同意していた。消費税が関税に代わるものであった。
四
伊藤は、影山の至急会いたいとの連絡を受け、忙しい合間を縫って、都合を付け新宿の喫茶店に行った。影山の話しは、知らなかった。そんな乱暴なことをやるとは信じられなかった。しかし、日本の諜報部門の責任者が仕入れた情報である。早急に本国に連絡すると伊藤は言った。
「共和国は、この様な攻撃があった場合、対応できるのかね。武力をもっていないのだろ」と影山は聞いた。
「正面からの戦いでないから、厳しいと思います。正面ならば世論を通して不法行為をアッピールして戦えますが、内乱を目的としたゲリラ的な戦いは、難しいと思います」と伊藤は答えた。影山はそれを聞いて、何もなければよいがと言った。
寺門に聞いても同じく知らないだろうと思った。もし、これが本当ならば、先に送ったメンバの安全を確保しないといけない。筧に注意を告げる必要性を感じて別れた。
五
中国の統合参謀本部の警務局は、韓国で起きた哨戒艦事件を気にした。万国博をひと月後に控え、周辺でおかしな動きは神経をいら立たせた。その一つは、共和国の出現であった。急激な経済成長を遂げて来ている中でオリンピックも開催した。そして万国博を開催する、これは一流国として、世界が中国を認めるイベントであった。世界は中国を無視しての経済の発展は、最早不可能であった。
GDPは日本を追い越し、アメリカに続く2番目の位置を確保していた。
統合本部では、共和国の幹部として登場した張、孫、朴3名の出身国は調べ上げていた。但し中国を脱出した後の足取りは判らなかった。
今後、何らかの形で彼らと接触する事になる事は、避けること出来ないと思っていた。
アメリカから共和国への武力干渉の提案については、一部の機関が独自に動いたとして黙認することにした。メンバは香港で集めていた。上層部には報告しないことで、国として関知していない様に取り繕った。
集まったメンバは、香港マフィアを中心として元軍人だった。銃とか扱いに慣れている事、泳げること、飛行機から降下出来る事を条件として集められた。10人グループに分けられ指揮系統を束ねるのは、南方海軍局情報部の要員が配置された。
彼らは東区を担当する。対象物については、調査されたDVDを見せ、確認させた。さらに逃走経路についても確認させた。
六
ロシア内務省の警務局は、共和国侵入チームを元軍人や北朝鮮出身の軍人を集めていた。ハバロフスクで共和国の北区地域の地図で対象物を確認させ、逃走経路も確認させた。
グループ編成を終えると、サハリンに移送した。そこの基地から飛行機に乗って行くのである。緊張した顔が寒さで引き締まっていた。
七
韓国は、釜山にメンバが集結した。韓国の裏社会のメンバが集められていた。韓国は徴兵制が敷かれているので、軍隊の経験は当たり前であった。中央情報部は、一部の機関が独自にやっている事を、握っていたが黙認していた。
韓国内務省調査局の金は、上司に不穏な動きがある事を報告していたが、黙っていろと言われ見守っていた。メンバは、釜山の米軍基地に移送された。逃走に当たっては、米軍の艦船に拾ってもらうことになっている。共和国は北朝鮮と国交を結び、韓国に害する国だと、集まった時に調査局は言った。集まったメンバは、そんなことは関係無かった。お金とスリル、殺害などを欲したメンバである。格好付けて国のためなど言うのであれば、裏社会の人間を集めて混乱、破壊をさせなくて自分達でやればよいと思うメンバばかりだ。狙う相手は、武器が警察力程度であり、破壊、殺害する事はかまわないと最初から言われていた。簡単な事だと思っていた。
出発は21時である。韓国チームは東区を担当する事になっていた。
八
共和国侵入チームは、沖縄からはアメリカ、グアムからはイギリス、香港からは中国、釜山から韓国、サハリンからロシアのチームである。準備は完了していた。共和国へは、共和国時間24時が開始である。
アメリカは、監視衛星も回して上空から偵察する事にしていた。
九
共和国は、今日が戦略会議のまとめの日である。昨日までの結果から、絞られ全体の基本となる戦略が、張から報告された。
基本的には各省、庁、各行政、各組織での基本計画は認められていた。しかし、国として打ち出すものを発表した。
国の人口を100万人拡大計画。
宇宙計画の5カ年計画。
医療、エイズ、肝炎、ガン撲滅。
中高年対策。
農業、漁業の5カ年計画。
教育、文化、スポーツ5カ年計画
観光5カ年計画
貿易5カ年計画
外交5カ年計画
防衛対策などが発表された。
これに、インフラの維持メンテである。これだけの計画が本当にできるのだろうか。皆燃えていた。
孫副主席は、財務を担当する立場で、税金だけでは、厳しい計画であると思っていた。それでも目指す目標が示された。資源が無い国である。だから、観光と貿易で不足分を補わねば生きていけない。今の人数だけであるならば、自給自足が出来る。しかし、維持だけでは後退し、すたれるだけである。常に前進する必要があるとまとめた。
全員があらためて、理想を実現する困難さと現状を認識したのである。しかし、最初に東郷が目標とした、あの国の様にしたい、あの国に住みたいとする国を、造ろうという思いが、この戦略会議では出たのでないかと思った。
十
午後3時に会議は終了した。会場を移して打ち上げパーテイが4時から開催された。
これだけ大勢のメンバが、集まってのパーテイは、初めてである。独立宣言してもまだ全員でのパーテイらしき物は、していなかった。
使用する迎賓館も初めてだ。日本から来た調査団の時に使用したが、一部のメンバしか使用した事がなかった。迎賓館を初めて見る者も当然いた。
乾杯の音頭は、孫副主席が行った。各閣僚や組織の代表の人物を知る機会にもなった。
共和国の長老会のメンバと日本の長老会のメンバが、久しぶりに会い飲んだ。
世界各地の代表は、東郷の所にきて今度家族を連れて来たいと言った。計画を許可してほしいと言った。東郷は苦労した人達が、目指した国の姿、その現状を見ることは必要だろうと思った。
「外務省の本山さんに相談してみる。それと独立記念日を国会に諮り、集まれる日をつくろう。全員については調整しよう」東郷は話した。伊藤が丁度その場にきて
「東郷さん。独立記念日か良いね。やりましょう。それと東郷さんや張さんが各地を回ってもらうのもいいね。その時は私も呼んでください」笑いながら言った。会は、立食パーテイである。初めて会う人、顔は知っているが話した事が無かった人などいたが、皆昔から知った人の様に語り合った。
司会者が、各地の代表に余興を薦めた。各地の代表は、挨拶して余興を始めた。挨拶では一番苦労したのは、日本語だったと言った代表もいた。一通り各地の代表の余興が、終わると、日本の夢来会代表の山本が、笑いながら東郷に余興をやらないかと振った。伊藤も鈴木もやれやれと囃子立てた。東郷は昔長老会のメンバだけに見せた、東郷にSPがいらないと言われている余興をやる事になった。東郷は苦笑いしながら書記の石立てに例の物を持ってきてくれと頼んだ。
「東郷主席とは、昔からの付き合いです。彼がこの様な特技を持っているとは誰も知らないと思います。神業ですよ」その時朴副主席が入ってきた。朴も伊藤が面白おかしく東郷の余興を説明しているので笑って聞いていた。石立てが指示された例の物を持って入ってきた。
東郷は朴が入ってきたのは知っていた。しかし笑っているので余興をやることにした。
石立が持ってきた、日本刀を受け取ると、中央に隙間を造らせた。蝋燭が燭台に建てられ、中央に設けられた。火がともされると辺りはシーンとなった。
東郷は静かに近付き、気合と供に踊るかの様に燭台の周りを駆け抜け、いつの間にか刀の収まる音がした。皆何が起きたのか判らなかった。東郷が燭台に向かって、お辞儀をした。
「石立君。燭台を触ってごらん」と伊藤が言うと、石立が燭台に近寄り、燭台に触った。皆吃驚した、蝋燭が半分に切り落とされた。誰も目に止まらなかった居合抜きである。
通常は刀を抜く、刀を振る、刀を納める、この動作が見えるのだが、その動作そのものが見えなかった。マジックだった。
「マジックですか?」地方代表が聞くと、東郷はそうだよと言って、笑っていた。
「皆さん、マジックだと思うでしょう。これは居合抜きという日本の武術のひとつです。しかし、これほど早い居合抜きは、多分世界広しと云えど、東郷主席だけです。でもマジックにしたほうが良いかもしれません」
東郷は、笑いながら、マジックにしておいてくれませんかと言った
「テーブルにある果物を何個か並べて斬ってもらうのはどうですか」朴が笑って言った。
「やってもらいましょう」と山本、森岡、伊藤が囃子立てた。東郷は、笑いながら、最初で最後になるだろうと思いながら、果物を並べさせた。会場は、シーンとし、東郷の動作に注目した。東郷は、果物に近づき、気合を発した。そして刀のしまう音がした。石立が近付き取り上げた。蝋燭と同じ様に果物が、切れていた。拍手がなった。
東郷は、共和国建設のきっかけとなった出雲との再会の時に、共和国建設を進めるために厳しい訓練を受けた。影の部隊から殺人技を徹底的に教えこまられた。その時身につけた技の一つである。人に見せたのは2度目である。今まで危険な事も経験することなく、今日まで来ていた。また、影部隊を使うことなく来ていた。東郷自信は、時間を見つけて密かに訓練はしていたのである。伊藤は、前に見た時とスピードが違っていた事に吃驚していた。伊藤も武術等を教えていたから技のすごさが判るのである。
「皆さん。あまり他言無用にお願いしたい。初めての戦略会議が予定通り行えたことで嬉しくなり、歳がいのないことをしました。そろそろ終わりにしましょう。張首相の挨拶でお開きにしましょう」東郷は、おだてられて余興として見せてしまったが、後悔していた。この場を鎮めるために、マイクを持ち終わりにする事を宣言した。
十一
朴副主席が、東郷に近づいてきた。張、孫も寄ってきた。
「本日の夜が決行日のようです、白神さんから連絡ありました」東郷、張、孫は頷いた。
「気を付けるように、朝起きたら解決しているかな。ハハハ・・」東郷は、朴に笑いかけていた。
共和国の夜は曇り空に覆われていた。昨日も夜に雨が降ったが、今日も降るかもしれなかった。いつもは星が煌めき、きれいな夜空が、これから起こる事を予測するかのように雲で覆われていた。
十二
サハリンの基地から大型の輸送機が飛び立っていった。釜山の基地からも輸送機が飛び立った。同じころ中国側からも輸送機が飛び立った。沖縄、グアムからも飛行機が飛び立っていった。総勢250名近くの人員を乗せて一路共和国に向けて各基地から飛行機が飛び立った。
天候は曇り、侵入するのに都合のよい天候であった。既に艦船は共和国の近くに到着していた。監視衛星から、共和国は変わりない様子が写し出されていた。
しかし、煌々と照らされた漁船が、最近島の周りで操業をやっていた。これが邪魔であった。
十三
グアムから飛び立った米軍機から、人が次々と降り立った。共和国時間、夜の12時近くであった。南区周辺の空である。西区では中国軍機から人が降り立っていた。北区はロシア軍機から、東地区は韓国、中央地区はアメリカの各部隊が米軍機から降り立っていた。暗闇の中の危険なパラシュート降下である。完全武装した人々が、小さな島に空から降ってきた。共和国の行方はどうなるか?
第一部序の章 理想の国独立です。
登場人物及び各組織や各国の機関などは勝手に作ったものです。
この小説を書き始めた時、自民党政権から民主党政権に変わっていた。そして沖縄問題で民主党政権が混迷していた。日本をどうしたいのか、どうしようとしているか彼らもわからなくなっているのでないだろうかと思った。本来は、沖縄を独立させたらどうなるかを考えた。特別行政区として運営できるかと思った時に、新しい島からみた、国からみた日本を考えることに思い立った。そのために超自然的な力を必要だろうと考えた。そしてその中でいろいろな人物像を書いてみたらどうかと思った。新しい革命である。理想を柱として、現在の矛盾を取り除く、そんな世界を書いてみたかった。経済が人間を苦しめる。戦争が人間を破壊する。いつの間にか高齢者の姥捨て山が始まった。若者の夢が金儲けに走り始めた。なぜ解決できないのか、そんなことに対して夢の世界を作ってみたいと思っている。10年ぐらい続くストーリを考えようとしたが、続編で終息させていきたい。番外編でフォローして拙い文章などは、是正して書き続けることにしようと思っている。みなさんの感想を求む