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侵入前夜(20XX年〇月29日)

侵入前夜(20XX年〇月29日)


      ~南の島に暗雲漂う嵐の前の静けさ漂う~


                         一


 桜の花は美しい。日本人は桜の花が大好きだった。南から桜の花が咲き始め北上していく。東北や北海道はあと一月懸って桜の花を観ることになる。

 4月1日に入社式が開催されるのが一般的であるが、近年では早く入社式を行っているところも出てきた。

 不況が中々克服されない中で、鳥取県にある医療機器製造会社はすでに入社式を行っていた。近くに鳥取夢来むらがあった。医療機器製造会社は夢来人会の有志が小さな精密機器の製造会社を購入し、医療機器を中心に製造販売していた。この会社は、小さくとも研究所を持っていた。この会社に100名の新入社員が入社した。300名の会社に大量の新入社員を迎えたのである。同様に全国10か所にある民主会に関連しているのでないかとされるゴミ焼却場に近接している会社が大量に新入社員を採用していた。不況で就職難のなかでの採用だが、注目はあまりされなかった。それ程日本全体では、就職氷河期が到来していた。

共和国は、日本との友好促進を掲げる一つとして、日本の基盤を強化する連携会社の増員を図っていた。

共和国は、医療、電力、流通、情報事業に対して日本の拠点を強化する事を既に実行していた。


                         二


 日本政府は、共和国との民間経済交流を認めながら、各国からの圧力を受け躊躇していた。政権交代で国民から政治主導の経済復興や社会福祉など期待されていたが、有効な手立ては出せないでいた。その中で共和国との交流は特効薬の側面をもっていたが、消極的な対応に国民は、批判的な目を向け始めた。与党のトップが政治と金で批判を受け、沖縄問題も中途半端な対応で、国民からの支持は、急速に落下していた。

 アメリカ政府はいら立っていたが、じっと我慢し、日本政府の対応を注視していた。

こうした日本の状況を打開するために、政府与党の大沢幹事長は、国政選挙の準備しながら共和国に秘密のトップ会談を申し入れていた。

 いち早く動きを察知した、アメリカ側に会談をつぶされた。本人の政治資金の不透明さをアップさせ、マスコミを通じて動きを牽制させた。

アメリカ政府は、G8など先進国と協議し、共和国との個別の取引については、自制するように働き掛け、共和国の様子をみることを申し入れ、受け入れられていた。

利害が一致していたのである。当然日本政府にも申し入れていたが、民間ベースの交流協定が結ばれていたので、暗黙での圧力になって消極的な対応となっていた。


                         三


 共和国に侵入する部隊は、密かに集結していた。軍の一部と結びついた集団であるが、軍籍は持たなかった。それが軍事基地を使用出来るのだから、何らかの関係を持っている事は確かである。

イギリス部隊はグアムの軍事基地を使用する事になっていた。

 韓国、中国、ロシアはそれぞれ自国の基地を使用することになっていた。

既に潜水艦と哨戒艦は、訓練を名目に出港していた。各グループ50名、総勢250名を擁する編成となる、大規模な侵入部隊である。前代未聞の侵入部隊となった。

 グアムに集まった集団は、これだけの人数が必要なのか皆疑問を持ったほどである。彼らは、自分の力に自信があり実績もあった。

 軍隊を持たない国へ、総勢250名近い人数が、入る程の国かと疑問を呈していた。

「疑問は確かにある。否定しない。しかし、我々が調査した限り、彼の国はあまりにも無防備すぎる、それで国防に自信をもっている。それは、正面からの戦いだからできるのか裏での戦いでも出来るか判らない。先日共和国の代表団が、日本の防衛省部隊と話し合いを持った時、日米同盟を破棄するように間接的に言っている。そこで彼らは、各国の軍事力は、分析して弱点を把握している、それらを日本に提供しても良いと話したと聞く。

軍事専門家でない官僚が、この様に話すぐらいだ、侮らないほうが無難だ。もし我々の危惧だったとしても、彼らの技術力などは脅威である。このまま放置しておくことは、国益に影響する。今のうちに敲き、内乱が始まったなどの、イメージダウンを作り出す事が目的だ。短時間で速やかにやってもらいたい」イギリス情報機関のジェームスが言った。

この認識は、各国共有したものであると思われた。共和国の姿は、日を追う如く先進国には脅威となってきていた。


                         四


 北朝鮮に残った川口は、まずは連絡事務所を開設することにして場所を平壌の外国人大使館がある地区に事務所を確保した。北朝鮮はデノミ政策を行って、国内は混乱していた。不満を力で抑えているが、いつ爆発するか判らない状況になっていた。平壌は見た目には、平静であるように見えるが、軍服をきている軍人は、厳しい顔をしていた。軍隊には比較的物資の供給はされていたようだが、不足が取りざたされるようになってきた。この様な情報があまり漏れる事はないが、漏れ伝わる事から、金正日体制に緩みがでているのかもしれない。後継者問題は明確な決着がついていない。韓国の哨戒艦の爆発事故は、北朝鮮の魚雷攻撃だと韓国の報道は報じていた。韓国政府は、慎重に第三国を含めて調査を実施すると発表した。

 川口は、事務所の確保しながら地方での農業指導を申し入れた。北朝鮮は、歓迎しながらも物資の受け入れのほうが良いとして、技術指導などについては、良い返事をしなかった。川口は、低下層の人達を優先的に回す事が出来るならば支援すると表明した。とにかく市場に食料品などが不足していた。デノミ政策で中朝貿易が、停滞したのが響いていた。

 この国は、かつて地上の楽園、社会主義の優等生として南朝鮮、今の韓国より豊かな時代があった。日本政府は在日朝鮮人を中心に、北朝鮮への移転を奨励していた時代があった。一時は、与党野党問わず超党派で支援した国である。それがこの様な状態である。当時の韓国は、軍事政権で日本に対して敵対政策をとっていたから余計に、今日の韓国と北朝鮮の差は何なのかと思われた。

 川口は、一旦帰国する事にした。経済支援と事務所要員等を共和国政府に報告するためである。それと戦略会議の結果を受けての次なる対北朝鮮政策の確認をするためもあった。北朝鮮に申し入れ、飛行機の要請を共和国に行った。その時、北朝鮮政府から共和国へ事務所開設のために要員の派遣申請があった。川口は、本国へ連絡執るとして入国の条件等を提示し、時期については再度北朝鮮にきてから詰める事にした。北朝鮮の本音は、共和国の飛行機に搭乗して、飛行機の性能等を観る事が本音だった。


                        五


 共和国では、中期戦略が活発に審議されていた。各提案した組織は、予算を獲得するために質問に対して答えていた。財務省を抱えている孫は、収入は、国民の数が少ないこと、貿易と観光収入が基本となることから、提案に対してその観点から質問したりしていた。但し、出来たばかりの国で即効果が伴うとは思っていない、将来性について計画が建てられているかが鍵としていた。

孫は、今までの蓄積した隠し財産を投資することはしょうが無いだろなと思っていた。

 昨日、民主会の長老会メンバとの懇親会に孫と張が呼ばれた。そこで近日中に武力侵入を含めた攻撃があり得るとの情報が、東郷からあった。突然なので吃驚もしたが、この国を造った時から想定していたことである。

 第一陣の侵入の時は、アメリカや中国、ロシアの艦船に対しては漁船やインターネットによる生中継を行い、撤退させていた。内部に侵入したグループも泳がせながら撤退させた。

 今回は、最初から武力を前提との事だから、お互い無事で済まない事が予想された。

「既に警戒態勢をとらせました。また今回は夢組織の戦闘グループの協力を受ける。出来るだけ穏便に対処出来るようにしたいと思います。また被害が無いようにしたいと思います」東郷が夢の組織に協力を依頼するとは、敵は脅かしで無く、本格的な攻撃であることが判った。東郷の話し方は、落ち着き払った言い回しで、顔は笑っていた。

「東郷さん。頼むぞ。未だ出来たばかりで、頭でっかちなところがあるからな。被害を最小にしてほしいね」伊藤がいった。

「東郷さんが、落ち着いているからね。大丈夫でしょう」川地がいった。

「主席。会議は続行でいいのですか」張が言うと

「張首相や孫副主席に、今まで言わないでいたのだから、皆に知らせないで事に当たりたい。朴副主席が動いているので状況だけは、今後確認するようにしてほしい。本部は内務省に造らせた」張と孫はうなずいた。

「判った。今日の食事会を、延期しないで行うのだから任せよう。久しぶりだから飲もう」石田がいった。長老会のメンバは70歳を超えていたが元気だった。張と孫は、伊藤、川地、鈴木にはお世話になっていた。彼らに育てられ、徹底的に鍛えられた。理想と言う宗教的な題目で踊らされたのかもしれない。

「張さんと孫さんは、よく耐えたね。しかもこの国のTOPまで登りつめるのだから」川地が言うと、皆大声で笑った。

「早く故郷に、行き来出来るようにしたいね。中国も開けた感じになったから、国交が結ばれれば、入国出来るようになるかね」山本が言うと

「私達は、逃げ出した人間ですからね。でも公式な会議などならば、出来るでしょうね。私達の過去が判ったとしても公にしないでしょう」皆そうだろうなと思った。

「今ASEANに参加申請しているが、認められれば、張首相と孫財務大臣に出席してもらおうと思っている。軍縮会議については私が出席する。アメリカもビザを発行した」

「国賓待遇でなく、一私人としてのようですね」張が言うと

「東郷さんならば、SPはいらないだろう」と伊藤が言った。東郷がおどけると笑いとなった。

「東郷さんが、民主会も世代交代を心配していると聞いているが本当ですか。我々は、まだ若いと思っている。このところ日本の地で終わりにしたいと思ったりしているのだが」鈴木が言った。皆東郷を見た。

「分かりました。私は、民主会への圧力や嫌がらせがきつくなると思っていました。早く脱出させなくてはと思ったのですけどね。それは間違いでした。この国と連携強化をすることがお互いを守ることだと、この会議で判りました。それだけ夢来むらがしっかりと定着している、うれしいことです」話はつづいた。

「今度、医療戦略を全面に出そうと思っている。明日の結果になるが、そこで川地さんにその推進役をやってもらいたい。今まで育てられた人脈を使い、是非やってもらいたい。そのためにこの国に来てもらいたいと思っている」東郷が続けて話した。川地は海外を駆け回る中で医療技術者を育てていた。その力を使う事を東郷が言った。川地は頷いていた。この事は、誰もしらないと思っていたのだ。川地は、最後の仕事として考えていた。

「ところで孫さん。財政は大丈夫か」突然鈴木が聞いた。孫はびっくりしていると

「大丈夫のはずが無いよ。今回の提案は、皆莫大なお金が必要なことばかりでないか」山本が言った。

「確かに厳しいと思いますよ。孫さんは頭を悩ましていますよ。世界に散らばっている支持者に、寄付依頼をだす必要があるかな」川地が言った。東郷は黙って聞くだけであった。

「明日にその話をつめましょう」張が言った。昔話や戦略会議の話しに、花が咲きながら時間は過ぎて行った。伊藤がそろそろ終わりにしようとの一言で、久しぶりに楽しかったひと時が過ごせたなと孫は思った。孫は、昨日のやりとりを思い出していた。


                         六


 日本から来た5名の内調メンバは、突然鳴ったサイレンに吃驚した。何があったのだと驚きながら身構えると、住民たちは静かにぞろぞろと歩き始めた。年よりは、周りの人たちに守られながら、子供達は大人の人達に手をひかれながら歩いて行く。

「どうしたのですか? 何かあったのですか」と本谷が聞くと

「災害避難訓練です。いつもの訓練です。皆さんも協力してください」と言われ、ついて行くことになった。避難場所に行くと責任者と思われる人物が報告を取りまとめていた。

高橋の顔が見えた。

「海原さん。久しぶりです。いつ来られたのですか?」高橋が声をかけてきた。

「2日前にきたよ。ところでこの訓練は良くやるの」

「やりますね。突然が多いのですが、お互いの確認といつでも何か会った時の準備ができるように、それと健康維持、休憩を強制的に採らせることなどの目的を兼ねていますけどね」筧を始め5名は、感心するやら驚きのほうが強かった。

「観光客等外国人の場合は、どうするのですか」武藤が聞くと

「そうですね。あまり想定していないのですが、やはり同じになるのでないでしょうか。これがこの国の習慣だと、思っていただくしかないですね」多くの観光客が居た場合パニックみたいになるのでないかと思われた。

 避難が確認されると、皆元の所に引き揚げて行った。高橋は、案内人がついていないようなので

「案内なしで、まわっているのですか」と聞くと

「最初の日だけついてもらったけど、後は断っている」と海原が応えた。海原は、筧や他のメンバを紹介した。

「これから日本の方が多く来られるでしょうね。大歓迎ですよ。何かあれば連絡ください。夕食が決まっていなかったら、連絡ください。おいしい所に案内しますよ」高橋は、名刺を渡した。北区の区役所の渉外係に勤めていた。海原は筧に話し、帰ろうとしていた高橋を呼びとめ伝えると、高橋は頷いていた。

「六時にホテルに迎えにいきますよ」と言って別れた。


 今日も色々な事があった。大規模な避難訓練に出くわした。この国の人達は、良く動く、整然として動く。暑い日中でも訓練が行われた。南国特有のヤシの木の葉が揺れていた。もみの木もある。風は生暖かかった。


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